第786話:降下部隊、作戦開始
《聴こえておるか、降下部隊。ラムダたちがアロガンティア帝国軍を引き付けておる。今が降下の時じゃ!》
――――ラムダ=エンシェント率いる空戦部隊がアロガンティア帝国軍とバル・リベルタス空域で激しい戦闘を行っている最中、戦艦ラストアーク格納庫では降下部隊が出撃しようとしていた。
「わたしたちドラグーン小隊が敵機を撃墜します。ゲドラ、ケスティスはテンペスト中隊を率い、二機の輸送艇を何としてでもバル・リベルタスへと降下させなさい」
「了解です、ツヴァイ隊長!」
「やるぞ野郎共! 戦闘だーーッ!!」
「私とディアス兄も二番隊を援護するわ! ほらディアス兄、ちゃんとツヴァイを守ってあげなきゃ駄目だからね!」
「分かってる。恋人の為ならやる気ぐらいでるさ」
二機の輸送艇を護るのはツヴァイ=エンシェント率いる二番隊だ。ワイバーンに跨がった総勢五十名の竜騎士たちが武器を手に空戦の準備を整える。
合わせて、アケディアス=ルージュ、リリエット=ルージュの兄妹も、ハーピィたち飛行型の魔族を従えて二番隊へと加勢する。
「僕たちの役目は地上を侵攻するアロガンティア帝国軍を蹴散らしつつ、冒険者ギルド本部へと到達する事だ。無駄な体力は使うなよ」
「了解ッス、セブンスコード隊長!」
「オリビアさんは七番隊が、ラナさんはわたしたち九番隊が護衛します。我々の目的は冒険者ギルド本部に避難した冒険者たちの救援。それを忘れるな」
「了解しました、メインクーン隊長!」
二機の輸送艇には治癒魔法のスペシャリストであるオリビアとラナが分かれて搭乗。それぞれをウィンター=セブンス、ノナ=メインクーン率いる部隊が護衛する手筈になっている。
七番隊、九番隊にはゴブリンやオークたち魔族が参戦し、輸送艇にはそれぞれ二十機の戦闘用機械兵が搭載され、地上での作戦行動に備える。
《ラムダ=エンシェント隊長、機械天使部隊、アロガンティア帝国軍との交戦激化! 敵戦闘機、ラムダ機目掛けて攻撃を開始しました!》
《今じゃ! 降下部隊、作戦を開始するのじゃ!》
《格納庫、降下用下部搭乗口、オープンですわ! 電磁障壁、部分解除。降下部隊は障壁解放時間三十秒以内に出撃してくださいませ!》
そして、いよいよ降下部隊の出撃の時間が訪れた。数キロメートル離れた位置でラムダ=エンシェントたちが敵機を引き付けたおかげで戦艦ラストアークの周辺の敵影は数を減らした。
そのタイミングでグラトニスは降下部隊の出撃を指示、格納庫の床の一部がゆっくりと開いてバル・リベルタス空域へと飛び出せるようになった。
「全騎、抜刀ッ!! 二番隊、出撃ッ!!」
搭乗口が開くと同時にツヴァイは腰に携えた剣を抜刀して降下部隊に出撃を指示、ワイバーン部隊と飛空艇は一気に戦艦ラストアークから飛び出し、燃え盛る“海洋自由都市”バル・リベルタスに向かい始めた。
「ラムダ、いま出撃したわ! なるべく敵機を引き付けてちょうだい。こっちに向かって来た連中はわたしたちで迎撃するわ!」
《了解。そっちは任せるよ、ツヴァイ姉さん》
「ドラグーン1、輸送艇に気が付いた帝国機が迫って来ているわ! すぐに交戦準備を!」
出撃してから僅か十秒後、戦艦ラストアークへと攻撃を仕掛けていたアロガンティア帝国軍の戦闘機の一部が輸送艇を標的にして進路を変更する。
その数は五機編成の編隊が三部隊、総数十五機、戦艦ラストアーク迎撃部隊の一部も一部だ。ラムダ=エンシェントへの増援とアロガンティア帝国軍は判断したのだろう、そうツヴァイは判断した。
「ドラグーン小隊、散開!」
ツヴァイの号令でツェーネルたち竜騎士たちとルージュ兄妹は四方に散開、迫りくる帝国軍の迎撃を開始し始めた。
ワイバーンたちの翼の付け根に装備した推進器を噴射させ、戦闘機並の速度で加速して敵戦闘機を包囲していく。一方、ルージュ兄妹は迫りくる敵機に対し、真っ正面から突撃していた。
「魔界では早々に倒れてツヴァイにカッコいいところをアピール出来なかったからな。今回は存分に暴れてやろう……!!」
先頭を行く敵編隊に狙いを定めてアケディアスは突撃、中央を陣取る戦闘機のコックピットに脚をつけて着地して中のパイロットに不敵に笑い掛けた。
コックピットでは黒い装甲に身を包んだ兵士が驚いた様子でキャノピーに張り付いたアケディアスを見ている。まさか生身で戦闘機に挑む者が居るとは思わなかったのだろう。
「纏めて串刺しにしてやろう……!」
キャノピーに張り付いたアケディアスは右手に真っ赤な血のような魔力を集束させていく。直接攻撃される、そう思ったパイロットは急いで小型ブラスターを懐から取り出したがもう遅かった。
「血肉喰らいて爆ぜろ――――“血ノ刺撃”!!」
キャノピーに右腕を突っ込み、アケディアスは内部のパイロットに向けて血の茨を伸ばして攻撃。鋭い血の針で胸部を貫かれてパイロットは一瞬で倒された。
それだけではない。パイロットを貫いた血の茨はパイロットの血肉を取り込んで増幅し、さらに強大な血の茨を発生させてコックピットから溢れ出した。
「さぁ、獲物を求めて走れ、血の茨よ」
コックピットから飛び出した血の茨はそのまま並行して飛んでいた戦闘機に向かって突撃、内部のパイロットを串刺しにし、さらに茨を生やしてさらに隣の戦闘機へと喰らいついた。
そうして、一機の戦闘機から発生した血の茨はまたたく間に五機の編隊を貫き、パイロットの絶命と同時に全機が爆発して散っていったのだった。
「やるわね、ディアス。わたしたちも……!!」
アケディアスが敵編隊を一瞬で迎撃したのを眺めながら、ツヴァイも別の敵編隊に狙いを定める。
輸送艇に狙いを定めた敵編隊の真横を取ったツヴァイは納刀すると同時に、ワイバーンの推進器をさらに噴射して加速する。
「固有スキル【抜刀術:一閃】――――発動!」
暴風雨に曝されながらもツヴァイは精神を研ぎ澄まし、鞘に収まった剣に意識を集中する。不可視、不可避の抜刀で眼前の敵機を斬り裂き、仲間たちを護る抜くために。
そして、ワイバーンと敵機の距離が僅十メートル、あわや激突する距離まで近付いた瞬間――――
「抜刀――――“鋼鉄ぶった斬りアターック”!!」
――――ツヴァイはワイバーンの上から跳躍すると同時に抜刀、横一列に並んだ敵編隊を瞬きよりも疾く斬り裂いた。
パイロットたちがいつの間にか反対側に斬り抜けたツヴァイを認識した時にはすでに手遅れ。彼等が乗っていた戦闘機は操縦席と後方のエンジン部分が真っ二つに切り分けられていた。
あとはそのまま墜落するのみ。パイロットたちは悲鳴を上げて荒れ狂う海へと落下していったのだった。
「ドラグーン2、こっちは片付いたわ!」
《流石ね、ドラグーン1。私たちも敵編隊をさっき片付けたわ。アケディアスが撃ち落とした分も合わせて、輸送艇を狙った敵機は全部落としたわ》
「これで輸送艇を安全に街に降ろせそうね……」
アケディアス、ツヴァイが敵編隊を落としている間に、ツェーネル率いるドラグーン小隊も残る敵編隊を撃破していた。これで輸送艇を狙った部隊は全滅した。
残る敵戦闘機はラムダ=エンシェントたちか戦艦ラストアークに群がっている。輸送艇は完全にノーマークだ、これで安全に街に着陸できる。そうツヴァイは考えていた。
《あら……まさか戦場に“安全”なんて甘っちょろい言葉があると思っているの、ツヴァイ? うふふ、なんて滑稽でおバカさんなのかしら?》
「――――ッ、誰!?」
《あんたたちの攻撃なんて私にはお見通し。どうせ回復術者……いいえ、オリビア=パルフェグラッセとシスター=ラナを冒険者ギルド本部に向かわせて、負傷者した冒険者を回復させようって腹づもりなんでしょ?》
「ドラグーン1、オープンチャンネルの通信です!」
《スペルビア様はラストアーク騎士団の考えなんて全てお見通し。待っていたわ……あんたたちがノコノコとラストアークから出撃する瞬間をねぇ!!》
だが、アロガンティア帝国軍はそんなツヴァイの考えを『甘っちょろい』とバッサリと否定した。敵編隊が撃墜されてから僅か二十秒後、街を攻撃していた筈のアロガンティア帝国戦艦の内の二隻が輸送艇を目掛けて攻撃を開始し始めたのだ。
それと同時に、ツヴァイたちや輸送艇通信機に対し、アロガンティア帝国軍からのオープンチャンネルでの通信がなされ、一人の女性将校の声が響き渡った。
《私の名はエージェント・ハート。アロガンティア帝国軍第六大隊を指揮する将校。偉大なる皇帝スペルビア様の命にて、貴方たちを殺しにきたわ♡》
「この声……加工されてるけど私に似てる……」
《我らアロガンティア帝国に、皇帝スペルビア様に逆らう愚かな羽虫ども。私の前にひれ伏し、海に墜ちるといいわ! 第六大隊、バル・リベルタスに向かう輸送艇を撃ち落としなさい!!》
ツヴァイたちに通信を行なった人物の名はエージェント・ハート。アロガンティア帝国艦隊を指揮する将校の一人だった。
エージェント・ハートの命令を受けた帝国艦隊が戦闘機を差し向け、輸送艇に向けて戦艦からも一斉に砲撃が放たれていくのだった。




