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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第三章:来たれ、汝甘き死の時よ

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第81話:あの言葉の続きを最後まで言い切って


『ご主人様、しっかりしてください……ご主人様!!』

「…………【シャルルマーニュ】…………」

『急いでアズラエルから離れて! 早くしないと……!』

「敗北…………承認――――不可! 最終兵器使用……可決。タイプ“θ(シータ)”【アズラエル】――――これより自爆段階デストラクト・シーケンスに入ります」

「…………なぁ……じ、自爆だと……!?」

「私に……無様な敗北は――――許されない!! ラムダ=エンシェント……あなたも……道連れ…………うふふ……きゃはははははははは!!」



 機能停止したかに思えたアズラエル――――しかし、動力炉を砕かれても尚“死を運ぶ天使”はその動きを止めること無く、狂乱の笑みを浮かべながら“死”をはためかせる。


 彼女が選んだ道は自爆――――俺もろとも爆散して、相討ちを狙うらしい。そこまでしてでも人間を殺したいのか……それとも、“死”の危機に瀕して芽生えた『自我』がそうさせたのか。


 いずれにせよ、付き合う道理は無い。アーティファクト【第十一永久機関(λドライヴ)】の過剰駆動オーバードライヴの反動で身体には限界が来ているが、何としてでもアズラエルを振り切って帰還しなければ。



「ル……ルミナス……ウィング……!!」

「だぁ~め♡ あなたは……絶〜対に、逃さない……!」

「ぐ……ッ!? う、腕が……放せ、アズラエル……!!」

「放さない……一緒に死にましょう……! あなただけでも……私は殺す……!!」

『ご主人様……!! ご主人様ーーッ!!』



 だが、アズラエルはそれを許さない――――死を運ぶ天使の右腕が俺の左肩を握り潰すような腕力で締め付けてくる。どうあっても逃がす気は無いらしい。


 骨がきしみ“メキメキ”と悲鳴をあげる左肩――――俺の身体はもう禄に動かない。このままじゃ……本当にアズラエルの自爆に巻き込まれて死ぬ。



《ラムダさん……早く逃げて、ラムダさん!! いや……いやぁあああああ!!》

「嫌だ……俺は……まだ死ねない!! ノアと約束したんだ、一緒に女神アーカーシャを殴ろうって……! オリビアと約束したんだ、絶対に生きて帰るって……!! こんな所で……俺は…………死にたくないッ!!」

「うふふ……む~だ♡ さぁ……死にましょう……死にましょう……一緒に死にましょう……!! あはは……きゃっはははははははは!!」



 もう時間がない……こうなったら、腕を斬り落としてでも逃げてみせる。



 そう決心して、決死の覚悟で、思いっきり眼を瞑って、最後の死力を尽くそうとした時だった――――


「ラムダ……ラムダ……わたしの……かわいいラムダ……」

「――――――えっ……?」


 ――――聞き覚えのある……懐かしい声が聴こえてきたのは。



 目を開けば、そこに黒いバイザーから朱い“一つ目(モノ・アイ)”を覗かせていた“死を運ぶ天使”の姿は無く――――素顔をさらし、優しい表情で俺を見つめる……黒い髪と蒼い瞳の天使が……そこに居た。



「大きくなったね……ラムダ……」

「どうして……」

「大丈夫……もう、あの子は居ないから……あなたが、わたしを閉じ込めた宝石を砕いて……解放してくれたから……」

「あぁ……あぁああ…………!」



 覚えている、その優しい笑顔を。覚えている、その透き通った声を――――ずっと、ずっと……忘れられなかった。


 愛しき我が騎士――――あの日、失った筈の……大切な人。



「ごめんね……つらい思いをさせて……寂しかったよね?」

「会いたかった……ずっと……会いたかった……!!」

「わたしも、ずっと会いたかった……ねぇ、立派な“騎士”にはなれた?」



 左肩を掴んでいた筈の死の天使の右手が、俺の頬を優しく撫でる――――温かな感触、柔らかな感触、懐かしい感触がそこにある。


 懐かしくて……自然と涙が溢れてくる。嬉しくて……そして、悔しくて……我慢できない。



「どうしたの、ラムダ?」

「俺……【騎士】になれなかった……! 約束……守れなかった……!! 悔しい……悔しいんだ……!!」

「…………ふふっ、そんなこと無いよ。眼を視たら分かる――――大切な人、出来たんでしょ?」

「それは…………うん、護りたい人が出来た。危なかっしくて、いつも楽しそうで……でも、今にも壊れそうな……大切な……護りたいって思える人が……!」

「なら……あなたはもう立派な“騎士”よ……女神アーカーシャ様から与えられる『職業クラス』だけが全てじゃない。だから、自分に自信を持って……ね? わたしだって騎士の割には……【メイド】出来ていたでしょ?」

「いや……メイドが出来ていたかは……正直、微妙……」

「………………」

「いや、出来ていたよ……うん、立派だった」

「〜♪」



 彼女は笑う――――大切なのは女神から与えられた『職業クラス』じゃ無いと、髪の毛を撫でて俺をあやしながら。


 むかし、寝る前にねだった王立騎士団の武勇伝――――彼女は騎士たちの逸話……いいや、彼女が体験した全てを俺に語ってくれていた。今みたいに、俺の髪を手でくように撫でながら。


 でも、時の流れは残酷で……もう俺は『神授の儀』を受けた大人で……少しだけ、恥ずかしくなった。



「もう俺は子どもじゃない……ギルドの冒険者になったんだ! 大切な人を……ノアを護る騎士として旅をしてる……それに、オリビアも一緒だよ!」

「ふふっ……そっか、オリビアちゃんも元気にしているんだね……ねぇ、もうオリビアちゃんとはキスしたの? ヤることはヤッたの?」

「品のない……キ、キスは…………したけど///」

「あら……意外とおませさんね? わたしに似たのかしら……?」



 あぁ、懐かしい……こんな他愛のない時間が、どうしようもなく……恋しかった。


 いつしか俺は彼女の手を握っていた。さっきまで『放せ』とのたまっていたのに、今は彼女の手を放さず握っている。


 行かないで――――もう、俺の前から居なくならないで。



「残念……もう、行かなきゃ…………『この子』の自爆に……あなたを巻き込んでしまう」

「嫌だ……まだ、たくさん話したい事があるんだ! いろんな人に会って、いろんな敵と戦って、大切な仲間が……たくさん……出来たんだ……! もっと……もっと……話したい……!」

「…………ごめんね。わたしももっと一緒に居たかった……あなたが旅をしている姿……見たかった……!」

「なら……!」

「でも……わたしは、あなたを護りたい――――だから、この“死”を持って……わたしは行くね」

「うぅ……俺は……また……!」

「わたしがあなたを護るから……ラムダは…………ラムダの大切な人を護りなさい……!」



 時間は待ってくれない――――アズラエルが残した自爆の時が刻々と迫って来る。


 だから、彼女は俺の手を……放した。


 少しずつ離れていく距離。俺は地上へ……ノア達のいる所へと落ちて、彼女は白い翼を広げて空へと飛んでいく。


 死を運ぶ天使――――俺に纏わりついた“死”を引き取って、彼女は空へ空へと飛んでいく。



「待って……待って、シータさん!! 教えて欲しい……あなたと俺の……『本当の関係』を!!」

「ラムダ……それは…………言えない…………アハトさんとの、『約束』だから……!」

「教えて……ちゃんと言いたいんだ――――シータさんの、本当の呼び方を!」

「ラムダ……うぅ、うぅううう……!! ごめんね……ずっと、言えなくて…………ごめんね……!!」



 天使の蒼い瞳から零れた涙が、俺の頬に落ちてくる。もうすぐ声が聴こえなくなる……声が、届かなくなる。


 その前に、せめて……呼ばせて欲しい――――ただ一度で良いから、本当の呼び方で。



「シータさん、シータさん!!」

「ラムダ……さようなら…………オリビアちゃんを幸せにしてあげてね…………ノアって子にも優しくしてあげてね……!」

「シータ……さん…………お願い…………!」



 伸ばした手はもう届かない。彼女が空のたてに消えていく――――あぁ、お願いだ……愛しき我が騎士よ、俺の想いを伝えさせて。



「戦って、戦って、戦い抜いて…………きっと、生き抜いてね…………ラムダ…………わたしの……かわいい――――」



 微かに聴こえる彼女の優しい声。いつも、寝る前に言い掛けてた言葉……その言葉を――――


「――――息子……!」


 ――――最後まで、言い切って……シータ=カミングは空の彼方へと消えて行った。



「――――――母さん!!」



 俺はシータを本当の呼び名で叫ぶ――――どうか、願わくば……この言葉が、彼女の…………母さんの耳に届いていますように。


 さようなら……母さん。

 俺を産んでくれて――――ありがとう。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


ご覧いただきありがとうございます。


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