第785話:Dogfight
「ステラ、武器の照準は任せた!」
「そっちは操縦をお願い、イレヴン!」
――――激しい雷雨で荒れる“海洋自由都市”バル・リベルタス上空で、アロガンティア帝国軍とラストアーク騎士団の武力衝突は始まった。
アロガンティア帝国軍の戦闘機と機械天使による攻撃、ラストアーク騎士団の機械天使による攻撃が激突し、空域の彼方此方で閃光を伴う爆発が発生し始める。
「敵戦闘機“ドラゴンクロー”……来るわ!!」
「蹴散らしてやる……!」
それから数秒後には敵戦闘機とラストアーク騎士団は接敵、交戦を開始し始める。俺の操る飛空艇フラヴンアースにも、敵戦闘機が複数機迫ってきている。
迫ってくるのは、球状のコックピットを鋭く尖った“爪”のようなウィングで覆った異質なデザインをした戦闘機。アルバート=ファフニールが設計した『ドラゴンクロー』と呼ばれる兵器だ。俺は迫りくる敵機に対して機首を向け、後部座席のアリステラは迎撃の準備を整えていく。
全領域高速巡航艇フラヴンアース――――“鴉”を模した形状が特徴的な二人乗りの小型戦闘機であり、鳥類の脚部を模した推進器を操り『高速巡航形態』と『鳥獣飛翔形態』の二形態へと可変する事が可能になっている。
主な武装は、機首に備えられた荷電粒子砲『トール』、両翼に備えられたレーザー砲『ウィーザル』、光量子を纏わせて発生させるウィングブレード『ヴァーリ』、光量子を圧縮した弾数性の爆弾『バルドル』、両翼の根本に装備した自律型の僚機『フギン&ムニン』の五つだ。
アリステラは後部座席に備え付けられたモニターで前方を確認しつつ、操縦桿を操って迫りくる敵機に武装の照準を合わせていく。
「捉えた……落ちなさい!」
そして、アリステラが操縦桿のトリガーを引いた瞬間、飛空艇フラヴンアースの両翼のレーザー砲から赤い光弾が撃ち出され、前方から迫ってきた敵機は次々に被弾して墜落していった。
全弾、敵機のコックピットに命中し、パイロットを確実に仕留めていた。ほんの少しの訓練でアリステラは飛空艇フラヴンアースの機器操作を完璧に学習していたのだ。
「マスター、後ろに敵機あり。気を付けて」
「了解、アルマゲドン」
前方の敵機は撃ち落とされた。だが此処はすでに戦場、敵は四方八方から襲い掛かってくる。
どうやら飛空艇フラヴンアースの真後ろに敵が付いたらしい。アルマゲドンの報告を受けて後方を確認できるモニターを見れば、確かに敵戦闘機が三機ぴったりと俺たちを追尾しているのが確認できた。
「どうするの、イレヴン?」
「決まってるさ。めくり返してやる!」
後方の敵機は飛空艇フラヴンアースに向けて、四本の“爪”の先端から赤い光弾を放ってきている。被弾すれば撃墜は免れないだろう。
アリステラが俺の行動を待っている。当然だが、彼女は撃ち落とされる気なんてさらさら無い。もちろん俺もだ。
「スラスター最大! “鳥獣飛翔形態”に移行!」
足下のペダルを操作して飛空艇フラヴンアースの推進器を“脚”へと可変、前方斜め下へと推力を向けることで飛空艇は急停止するとともに僅かに上昇を開始した。
「ぐぅぅ……急停止したからGが凄ぇ……!」
「ちょっと、急停止するなら言いなさい!」
急激な停止によって身体に掛かるGに耐えつつ飛空艇フラヴンアースを減速させ、追ってきていた敵機を追い越させる形でやり過ごした。
そのまま推進器を再び機体後方に可変させて再加速、今度は俺たちが敵機の背後を取ることに成功させた。
「悪く思うなよ……じゃあな!」
そのまま飛空艇フラヴンアースは両翼からレーザーを発射。三機の敵戦闘機は為す術なく撃墜されて墜落していった。
周囲でも機械天使たちが次々と敵機を撃ち落としていっている。現状はラストアーク騎士団側が進撃を進めている。
《前方敵艦からさらに敵機出現!》
だが、相手は大艦隊を率いている。少数精鋭である俺たちが撃墜してもまだ敵機は空域中を飛行しており、制空権もいまだアロガンティア帝国軍側にある。
戦艦ラストアークを標的に定めた敵艦からはさらに艦載機が出撃している。どうやら相当数を艦載しているらしい。さらに空戦を確認したのか、街の爆撃を進めていた敵戦闘機も続々と集まってきている。さながらイナゴの大群のような光景だ。
《もっと攻めるのじゃ! 撃って撃って撃ちまくれ! さもなければ制空権を奪取できぬぞ!!》
敵機の大軍の隙間を縫うように、飛空艇フラヴンアースと機械天使は飛空する。アロガンティア帝国軍はラストアーク騎士団が制空権の奪取を狙っていると踏んだらしい。
このまま敵機を引きつければ、本来の作戦である降下部隊が上手く行動できる。
「ここからが本番だぞ、ステラ!」
「ええ、臨むところよ!」
苛烈極まる戦闘はまだ序の口。ここから俺たちはアロガンティア帝国が“世界一の軍事大国”と言われる所以を知っていくことになるのだった。




