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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第十五章:ラムダ=エンシェントの復讐

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帝国崩壊の日⑧:奮起の翼


「うっ……此処は……? 私……たしか……?」



 ――――目が覚めた時、アリステラは見知らぬ倉庫の中で倒れていた。

 見渡せば辺りにはアロガンティア帝国の紋章エンブレムであるグリフォンの意匠が刻印されたコンテナが山積みにされており、アリステラはその山のような積荷に隠れる場所に居た。



「此処が……脱出先……?」



 アリステラの足下には光を失ってしまった転移陣ポータルが残されている。魔法陣はなんの反応も示さない、転移元であるインペルティ宮殿の転移陣ポータルがフィリア=プロスタシアの自爆によって天体観測室もろとも消し飛んだ為である。



「兄様……姉様……パーノ……母上……フィリア……」



 アリステラは淡い期待を抱いていた。しばらく待てば、転移陣ポータルから兄弟たちが、親友であるフィリアが転移してくるのではないかと。

 しかし現実は非情で、待てども待てども誰かが転移してくる気配は無かった。夜が明け、窓から朝日が差し込むまで待ったアリステラは、誰も来ない現実を受け入れて静かに涙を流し始める。



「なぜ……私だけが生き残ったのです……?」



 平和を望んでいた親友と兄弟たちは全員が戦いの中で死んでいき、誰よりも戦い望んでいたアリステラは皆に守られて生き残った。それがアリステラを罪悪感で蝕んでいた。

 死ぬなら自分の筈だった、もっと相応しい誰かが生き残るべきだった。自分だけがのうのうと生き残った事がアリステラは許せなかった。



「――――ッ! ――――ッ!! 〜〜〜〜ッ!!」



 何度も何度も床を拳が血で滲むまで殴りつけ、アリステラは自分を罰し続けた。もっとちゃんと出来た筈だ、もっと()()()結果に出来た筈だと、彼女は痛みを以って自分を非難し続ける。

 それを止める者は居なかった。いつもなら暴走する自分をたしなめてくれたフィリアはもう居ない。その事に気が付き、急に虚しさを感じてしまったアリステラは動きを止めてしまった。



「………………」



 何もかも失った。親兄弟、親友、部下、住まい、愛した帝都の風景を。たった一晩、たった一人の侵略者によって、アリステラはそれまでの生活を奪われてしまった。

 何も出来なかった。たとえそれがアリステラの意志に関わらない不可抗力だったとしても、彼女は自分の無力を嘆かずにはいられなかった。



「私は……」



 帝都ゲヘナが侵略され、大勢の兵士が、兄弟たちが死んでいく中、アリステラは何も成せなかった。ただ大切な人たちを犠牲にして生き残っただけだ。

 それはアリステラにとって最も許されざる行為だった。それを彼女は嘆き、自分の無力さを痛感させられた。ただ過激な発言をするだけで、自分には大義を成すちからは無かったのだと。



「此処で嘆いて……また何もしないつもりなの?」



 アリステラは無力な自分を恥じた。そして、生き残った先でも無力であり続ける事を恐れた。兄弟たちの死を、親友の死を無駄にするつもりなのかと。

 血の滲んだ拳で自分の頬を全力で殴り、アリステラは弱い自分を叱責する。無力な自分を悔いるよりも、死んでいった者たちの犠牲を無駄にしない為に立ち上がるべきだと。



「生き延びる事こそが……私の戦い……」



 ゆっくりと立ち上がり、アリステラは積荷をかき分けて歩き始める。

 第一皇女ディクシアは言った、生き延びる事こそがアリステラの戦いだと。従者フィリアは言った、アリステラは“希望”なのだと。皆、たった一人の生き残りであるアリステラに未来を託していったのだ。



「私がみんなの……仇を討たねば……」



 ならば、アリステラが今するべき事は嘆く事ではない。“希望”託して死んでいった者たちの意志に応える事だ。その使命感、或いは呪縛のような義務感が憔悴したアリステラを突き動かす。

 弱音を吐ける親友はもう居ない、頼れる兄弟たちはもう居ない、たった一人でアロガンティア帝国を奪った敵に立ち向かう。嘆くのは全てが終わってからでいい。



「帝国皇女たるもの……常に威風堂々と……!」



 無様な敗北を喫したとしても、アリステラは誇り高きアロガンティア帝国の皇女である。誰かに弱みを見せてはならない。

 頬を伝う涙を軍服の袖で拭い、勇ましく凛々しい皇女たる表情かめんを被り、アリステラは自らの使命に殉じる為に巨大な鉄の扉を開けて屋外へと歩き出す。



「此処は……我が国の港町か……」



 外に出たアリステラの視界に映ったのは穏やかな海。其処はアロガンティア帝国領に属する小さな港町だった。

 まだ町は静かで、人影もまばら。住民はまだ大半が深い眠りに就いており、帝都ゲヘナ陥落の一報も届いてはいない。町にはまだアリステラが理想とする穏やかな風景が広がっていた。



「…………」



 だが、帝都ゲヘナ陥落の喧騒はいずれの小さな港町をも呑み込んでいくだろう。そんな避けられない未来に対して、アリステラは拳を震わせて静かに憤っていた。

 強力無比な侵略者スペルビア、彼の目的をアリステラは知らない。だが、良からぬ事を企んでいる事は容易に想像できる。故にアリステラには戦う以外に選択肢は無い。



(まずはフィリアの言っていたウィル=サジタリウスなる人物の捜索を。そして、戦力を集めて奴を討たないと……)



 アロガンティア帝国軍の総力を結集しただけではスペルビアを倒すことは不可能だ。それが出来るなら帝都ゲヘナでの敗北などなかった。もっと強い者たちが必要だと。

 まずはフィリアの遺言に従い、ウィル=サジタリウスなる元帝国兵を見つけ出す。そして、スペルビアに対抗しうるだけの実力を持った猛者を探し出すこと。それが自らのするべき使命だとアリステラは考える。



(いずれは帝国領が奴の監視下に置かれる……一旦は帝国領から離れるべきね。なら……行き先は“海洋自由都市”バル・リベルタス。冒険者ギルドの本部が在る彼処あそこなら、ウィル=サジタリウスや私が望む人材が見つかる筈……)



 帝国領には長く留まれない、そう悟ったアリステラは冒険者ギルドの本部が在る“海洋自由都市”バル・リベルタスへと逃れる事を決意した。

 ふと、背後の倉庫に目を向ければ、其処には船に積み込むであろう積荷が山積みにされている。中には目的地である“海洋自由都市”バル・リベルタスへと運ばれる積荷も。



「取り戻すわ……必ず……!!」



 こうして、アリステラは“海洋自由都市”バル・リベルタスに向かう船へと乗り込んでアロガンティア帝国を脱出した。祖国を奪還する誓いを立てて。

 そして、アリステラは辿り着いた冒険者たちの街で出会うのだった。自らの運命を切り開く戦士たちラストアーク騎士団に、探し求めていた狙撃手に、スペルビアと同等のちからを持つ騎士に。

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