第781話:祖国奪還の戦いへ
「いや〜、酷い目に遭ったものだな(笑)」
「まったくです〜、酷い目に遭いました〜」
「くそ……アケディアスもコレットもケロッとしやがって……。アタシ等は死にかけで入院してんのに……」
「ルリ、鍛錬が足りてないぞ(笑)」
「うるせーぞ、ヘラヘラすんなクソ吸血鬼!」
――――戦艦ラストアーク医療区画、“冥底幻界魔境”マルム・カイルム出立から数時間後。俺は入院している仲間たちの見舞いに来ていた。
大部屋にはベッドがずらりと並び、負傷したルリたちが包帯ぐるぐる巻きの状態で寝かされている。全員、魔界での戦いで重傷を負ったからだ。
「これからアロガンティア帝国と一戦交えるというのにこの体たらくとは……同じ【大罪】として恥ずかしい」
「テメェは早々に戦闘不能してたから余裕あるだけだろうが! 真っ先に脱落した雑魚が偉そうにすんなや! って……あつつ!?」
「お、おいルリ……騒ぐと傷に障るぞ……」
「ちょっとあんたら病室でぐらい静かに出来ないの!? あたしは身体に風穴あいてんの! あんたらの声が孔に響くんだよ!」
「うるせぇぞルチア! アタシだって全身ボロボロにされてんだ! 筋肉も骨もズタズタだぞ! 穴あいたぐらいで喚くな!」
「穴あいてる方が重傷でしょぉぉ!?」
「あなた達……お静かになさい……。わたくしは首の骨が折られて重傷なのですよ……叫ぶ気力もありませんわ。くっ……首のギプスのせいで寝れませんわ……」
(なんでこいつ等この傷で生きてんだ?)
「え~んラムダ卿〜、可哀想なアタシを慰めて〜。アタシぃ、ラムダ卿の為に一生懸命頑張ったんだよ〜。な、ぐ、さ、め、てぇ〜♡」
「胸の風穴に■■■突っ込んでもらいなよ……」
「あァ!? うっせぇぞアリア! 女帝ニヴルヘイムをまぐれで倒したからって調子のんなや! あんな生き遅れババア、アタシでも倒せたっつーの!」
「う、うるさいですわ……(泣)」
「だいたい、なんでラムダはピンピンしてんだよ!? テメェもアラヤ=ミコトにボコボコにされた筈だろ?」
「それはな、ルリ……俺は入院したくないから気合で立っているんだ。ほら、絶対にうるさくなるだろ、此処? だから、本当は骨折しまくり、内臓損傷しまくりだけど我慢してんだ……」
「こ……こいつ馬鹿じゃねーか……!?」
病室ではルリやルチアがぎゃあぎゃあと騒いでいる。重傷で動けなく、ベッドで寝たきりになって退屈しているようだ。
幸いな事に、ルリたちは重傷こそ負ったものの全員辛くも生存していた。グラトニスが記憶を取り戻して復活した際、アラヤ=ミコトから奪った魔力を負傷者に送って生命維持をしていたからである。
「ラ、ラナさん……鎮痛剤をくださいぃぃ……」
「はい、トリニティさん! すぐに持って行きます!」
「うっ……私は頭痛薬が欲しいわ……」
「おらー、ストルマリアさんにさっさと頭痛薬を持っていきなさい見習いー! 配信してる暇なんてないですよーーッ!!」
「ひぇ~、ラナさんスパルタすぎる〜(泣)」
「ちょ……なんでアタシまでアサガオPと一緒に看護の手伝いさせられてんの!? アタシただの魔法少女なんですけど!?」
「頑張るであります、アサガオ様!」
「ミリアリアさん〜、縫合した腕の具合はどうですか〜? 痛むなら本機にいつでも言ってくださいね〜」
「だ、大丈夫です……ラファエルさん……」
「まぁまぁ、そう言わずに。ちょっと麻酔の効きが悪くて、縫合手術が悶絶するぐらい痛かったからってそんなに嫌な顔しないでくださいよ……ふふふっ」
「い、いや大丈夫……もう引っ付いたから(泣)」
病室ではラファエルを筆頭にラナ、アサガオ、ついでにヴァレンタインがあくせくと負傷者の介護に走っている。
他にも新たにラストアーク騎士団に参加した元魔王軍の魔族たちも看護の手伝いをしている。かつての上官だった【大罪】たちが居るからだろう。
「まったく……病室は騒がしくてしょうがないわ。私はもう退院させていただきます」
「あれ……ステラ、もう回復したのか?」
「ええ、イレヴン。私ならとっくに全快しています。オリビアの治療魔法も必要ありません」
そんな折、治療室でオリビアの治癒を受けている筈だったアリステラが、不機嫌そうな表情をして病室に姿を現した。
身体のどこにも怪我は見受けられず、彼女は最初から負傷などしてなかったかのように綺麗な状態だ。
「ど、どうなっていますの……? 貴女、たしかアラヤ=ミコトに全身を切り刻まれた筈じゃ……?」
「ふん……私は貴女のような軟弱な身体はしていないという事よ、レティシア。せいぜい其処で折れた首を労ると良いわ」
「ぐぬぬ……なんですって〜って、痛たたた……」
「い、いくらなんでも傷の治りが早すぎる……!? オレたち獣人族ですらまだ完治には遠いというのに……」
アリステラはアラヤ=ミコトに全身を切り刻まれた筈だった。だが、彼女はすでに完治している。その事に俺たちは全身驚き、疑惑の視線をアリステラに向けていた。
そんな絡みつく視線を鬱陶しそうに振り解くと、アリステラはつかつかと足早に病室を後にしようとする。まるで何かを隠そうとしているかのように。
「おおっと……探したよ、皇女殿下」
「あら、サジタリウス。何か用かしら?」
「いやいや、おじさんはただの使い。グラトニス司令が皇女殿下をお呼びだよ。アロガンティア帝国軍に関する情報が欲しいらしい」
「分かったわ。何処に向かえば良いかしら?」
「作戦会議室に。おじさんも同行するよ〜」
アリステラが病室を出ようとした時、ウィルが部屋に入って来てアリステラを呼び止める。どうやらグラトニスが彼女を呼んでいるらしい。
アロガンティア帝国軍との戦いを前に、帝国皇女である彼女から情報を得たいのだろう。アリステラは二つ返事でウィルの誘いに応じていた。
「サジタリウス……いよいよ始まるわ、私たちの戦いが。スペルビアに奪われた祖国を取り戻す時が……」
「分かっていますとも。アロガンティア帝国は僕にとっても思い入れのある地だからね……」
「分かっているなら結構。さっ、早く作戦会議室に向かいましょう。時間が惜しいわ……」
「お、おい、ステラ……」
「それではイレヴン、私はこれで失礼します。貴方も身体を休めておきなさい。さっ、行くわよ、サジタリウス」
そして、アリステラはウィルを連れて足早に病室から立ち去って行ってしまうのだった。その表情に静かな怒りと、微かな恐怖を滲ませながら。




