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第777話:第七の大罪【傲慢】/ 帝国の影 -Shadow of the Empire-


「帝国軍将校が二人も魔界マカイに殴り込みとはのう……」

「やっとの思いで一人を倒したってのに……」



 ――――エージェント・ピースを倒した俺たちを待ち構えていたのは、“マザー”を殺害した帝国軍将校のエージェント・ブレイヴ。

 手にした刀身が折れた錆びたつるぎに血をそたたらせ、エージェント・ブレイヴは俺たちの前に佇んでいた。



「“マザー”から手を離せ、エージェント・ブレイヴ」

「なんで? もう死んでるよ、こいつ」


「そう言う話じゃねぇ……!」


「まさか……こいつに何かしらの情でも抱いているの? ラムダさんだって、どうせ『地神炉心テラ・ドライヴ』の回収の為に殺す羽目になるのに?」


「…………ッ!!」


「あはは! その苦虫を噛みつぶしたような表情かお……図星みたいだね。そう言う事さ……どっちにしろ“地”(プリティヴィー)は死ぬ運命さだめだったのさ」


「だから殺したと言うつもりかの?」


「まぁ、君たちの手に掛かれば、少なくとも尊厳のある死は迎えられたとは思うけどね。生憎と……こいつの死に方なんて僕にはどうでもいい事なんだよ」



 エージェント・ブレイヴは『地神炉心テラ・ドライヴ』の回収の為に、手負いの“マザー”を強襲して殺害した。それを彼女は悪びれようともしていない。

 髪を乱暴に引っ張って、エージェント・ブレイヴは俺たちに“マザー”の死に顔を晒す。さっきまで明るく振る舞っていた少女が、今は苦痛に満ちた表情で死んでいる。



「…………ッ!!」



 尊厳も何も無く、ただ粛々と“マザー”を殺された事に、俺は言いようのない怒りを感じてしまった。

 たしかに、エージェント・ブレイヴの言う通り、俺たちは最終的に“マザー”を倒さなければならなかっただろう。だけど、それでも俺は彼女の死に感情が沸き立ってしまっていた。



「もう一度言う……“マザー”から手を離せ……!」

「良いよ。炉心ドライヴは回収させて貰うけどね……」



 エージェント・ブレイヴは手にしたつるぎを“マザー”の胸元に刺し込んで金色こんじきに輝く発光体『地神炉心テラ・ドライヴ』を回収すると、抜け殻になった彼女の亡骸を乱暴に俺たちの方へと放り投げてきた。

 命も炉心ドライヴも奪われた“マザー”の無残な身体が俺とグラトニスの前に転がる。ピクリとも動かない、土塊つちくれの上でただ息絶えている。



「その炉心も返して貰うぞ……!」


「それはお断りだね。僕の目的は『地神炉心テラ・ドライヴ』の回収……スペルビア様にそう指令オーダーを受けているからね」


「じゃが……儂等を始末するのも指令なのでは?」


「それはあくまでも第二優先事項さ……最優先は『四大しだい』の炉心の回収さ。まっ、スペルビア様に気に入られたいからって、ピースは先走っちゃったみたいだけどね」



 エージェント・ブレイヴの目的は“マザー”から炉心ドライヴを奪うことだった。俺たちラストアーク騎士団の殲滅はあくまでもついで。

 そうエージェント・ブレイヴは語る。俺たちの背後で息絶えているエージェント・ピースを嘲笑いながら。



「馬鹿だよね、彼女。ラムダさんに勝てる訳ないって……ラムダさんを殺す意志なんて無いって自分で分かっていたくせに……」


「仲間を愚弄するのか、エージェント・ブレイヴ?」


「仲間? あはは、そんな訳ないじゃん。僕たちはスペルビア様の“駒”にすぎない……なんの感情も抱かないよ。むしろ、スペルビア様のお手を煩わせる事に苛立ちを覚えるくらいさ」


「仇討ちをする気もないか……」


「ないよ。ピースの死体ならラムダさんにあげるよ。解剖するなり晒し者にするなり好きにすれば良い。僕は回収した『地神炉心テラ・ドライヴ』をスペルビア様の元に届けなきゃならないしね」



 エージェント・ブレイヴは戦闘態勢に入った俺とグラトニスを他所に、撤退する準備を整える。

 彼女の背後には中型の輸送艇が着陸し、搭乗口からは武装した帝国兵たちが十数名現れて、俺たちをブラスターで威嚇してきた。



「このまま僕を見逃してくれるなら……この“暗黒都市ペッカートゥム”に居る全部隊を撤退させると約束しよう」


「断ったらどうなるんじゃ?」


「決まってるさ……上空に控える艦隊に一斉掃射を命じる。避難民や君たちの部下が避難している魔王城に向かってね……!」



 このままエージェント・ブレイヴを見逃せば、帝国軍を撤退させると彼女は俺たちに言う。もし挑みかかってくるような事があれば、魔王城に向かって艦隊からの掃射攻撃を行なうと脅迫して。

 既に上空の帝国艦隊は魔王城に向けて砲塔を向けている。あとはエージェント・ブレイヴの指示一つで、艦隊は魔王城に向けて一斉掃射を開始するだろう。



「ラムダさんとグラトニスが加勢すれば、少しは形勢が傾くだろう。だけど……このまま戦闘が長引けば、無駄な犠牲が増えるだけだよ?」


「…………ッ!」


「仲間の死と引き換えに僕から『地神炉心テラ・ドライヴ』を奪ってみるかい? ラムダさんが仲間の死を良しとする薄情者とは思わなかったなぁ……」


「そなた……ラムダの何を知っているのじゃ?」


「まぁ……色々と。性格、身体能力、剣技、属した組織、ラストアーク騎士団の構成員……果ては一物イチモツの長さまでね……」


「おい、此奴もしや貴様の()()()()か?」

「いや違う! なんでそこまで知ってんだ!?」


「貴方は『エージェント・ブレイヴ』を知らないけど、僕は『ラムダ=エンシェント』を知っている。それだけの話さ……だから、君が仲間の為に、僕への殺意を抑える事も知っているのさ」



 俺には仲間が危険に晒されてでも、目の前の敵を倒す選択肢は取れない。それをエージェント・ブレイヴは完璧に把握していて、俺に選択を迫ってきたのだ。



「さぁ、どうするラムダさん? 僕の合図一つで艦隊は魔王城に向けて砲撃を放つ。そうなったら中に居る仲間が死ぬかも知れないよ?」


「ラムダ……お主の判断に任せる」


「…………分かった。『地神炉心テラ・ドライヴ』は譲る……だから兵を引き連れて、さっさと魔界マカイから帰ってくれ……」


「まぁ……お主はそういう奴よな……」


「賢明な判断だ、流石はラムダさん。聴こえたな、トルーパー? 任務は達成した。このまま我々は魔界マカイより引き上げて帝都ゲヘナへと帰投する! 全軍、攻撃止め!!」



 これ以上の疲弊は出来ない。俺はエージェント・ブレイヴを見逃す事にした。

 俺が戦意を解いたのを確認したエージェント・ブレイヴは通信機を用いて帝国軍に撤退を指示。それまで激しい戦闘を繰り広げていた帝国軍は一斉に攻撃を中断し、撤退を開始し始めていた。



「じゃあね、ラムダさん。スペルビア様の為に『地神炉心テラ・ドライヴ』を献上してくれてありがとう。これでまた昇進できるよ」


「この借りは……いつか返してやる……!!」


「そう憤らなくても……すぐにまた逢えるさ、ラムダさん。間もなくスペルビア様による世界征服が始まる。次はちゃんと殺してあげるよ……この僕、エージェント・ブレイヴがね! あっははははは!!」



 そして、俺たちに挑発の言葉を残し、エージェント・ブレイヴも輸送艇に乗り込んで撤退していったのだった。

 彼女たちが“暗黒都市ペッカートゥム”から去っていく様子を、俺たちはただ拳を震わせて見つめる事しか出来なかったのだった。

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