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第79話:VS. 【死を運ぶ天使】アズラエル ~Advent of Angle~


「生体反応……6。殲滅開始――――対広域戦闘用光量子集束飛翔翼【ブラック・ウィング】展開。集束連射砲【ブラック・ルミナスキャノン】発射段階(シーケンス)へ以降」

「やめて、シータさん!! 目の前にいるのはラムダ様なのよ!!」

「無駄よ、オリビアさん! 言葉が通じる相手じゃない!」

「放してノアさん! いや、いや、いやぁあああ!!」

「黒い翼に集束しているあの魔力量……なのかしら? まずいわ、あんなのまともに受けたら消し炭にされる……!」



 黒い髪と朱い瞳の天使は展開した黒き翼に漆黒に染まった光量子フォトンを集束させていく。右眼カレイドスコープに映る真っ赤な【行動予測】による警告――――アレを喰らえば、俺はともかくノア達は全滅する。


 それだけは許さない。



「やめろ……やめろー---ッ!!」

「――――発射」



 撃ち出される黒き弾丸――――それを全て【光の翼(ルミナス・ウィング)】で受け止めつつ、俺はアズラエルに身体をぶつけて、死の天使を礼拝堂の天井へと打ち付ける。



「対象、【ルミナス・ウィング】の展開を確認。個人情報パーソナル検索――――ラムダ=エンシェント……ラム……ダ……? ぐう……あぁ、あぁああああ!!」

「何だ、様子が……!?」

「あぁあああ……ラム……ダ……逃げ……! うぅ……だめ…………軽微なエラーを排除。対象を最優先殲滅対象と認識――――破壊せよ、破壊せよ、破壊せよ」

「くそッ、気のせいか! それなら――――ッ、うぉおおおおお!!」



 一瞬だけ、声に感情が籠もりアズラエルの動きが鈍る――――チャンスは今しかない。俺は【光の翼(ルミナス・ウィング)】の出力を一気に最大まで引き上げて天井をぶち抜いて、アズラエルを神殿の外まで引き摺りだす。


 神殿の天井すら越えて到達するは鏡写しの【享楽の都(アモーレム)】の上空――――空中ここなら、ノア達が被害に遭う確率は減る筈だ。



《駄目です、ラムダさん! アズラエルは先ほどの【天使エンジェル】とは訳が違います! 独りで戦わないで……お願い……!!》

「ごめん……ノア……! コイツだけは、俺が一人で相手をする!」

《だめ、だめ!! ラムダさんが死んでしまいます……!》

「大丈夫……俺は死なない……必ず、生きてノアの所に帰るから……それじゃあ、また後で……」

《待って、ラムダさん! 待っ――――》



 ノアからの通信を遮断して、俺はアズラエルに視線を送る。さっきの衝撃で俺よりも遥か上空まで吹き飛んだアズラエルだったが、既に体勢を立て直して攻撃の準備に移っている。


 再び黒い翼に集束する黒い光量子フォトンの光弾――――上側の翼には小さな光弾が無数に、下側の翼には大きな光弾が一つずつ。恐らくは連射攻撃で動きを封じて高威力の本命を俺に撃ち込むつもりなのだろう。


 ――――上等だ。



「スゥー……ッ! 【第十一永久機関(λドライヴ)】出力120%!! 【光の翼(ルミナス・ウィング)】――――第3、第4ウィング展開!」

「対象、体内出力50%向上。自壊率30%上昇――――脅威レベルを“SS”と認識。【ルミナス・ウィング】、第3、第4ウィング展開を確認――――速やかなる殲滅を実行せよ」



 闘技場で戦った【天使】ですら俺が所有するアーティファクトと同性能のものを所持していた。なら、その【天使】よりの上位互換であるアズラエルは――――間違いなく、性能面で言えば俺よりも“格上”だろう……だから、こちらも全力で。


 少しだけ深呼吸して、俺は心臓(λドライヴ)を強く動かす――――新たに展開される光の翼、熱くなる手足、研ぎ澄まされる感覚、壊れていく身体。


 ここが正念場しょうねんば――――必ず生きて、みんなの元へと帰る。それだけを、心の支えにして。



「掛かって来い……“死を運ぶ天使”アズラエル!!」

「――――【ブラック・ルミナスキャノン】発射」



 撃ち出されるは無数の黒き光弾。一発当たるだけでも下方に広がる街並みが瞬く間に崩れて火の手をあげる程の“死”の弾丸。


 決して“牽制用”とは思えないような重い一撃が雨のように降り注ぐ。



「――――【光の翼(ルミナス・ウィング)】…………臨界突破!!」



 俺のアーティファクトでは撃ち返しは不可能――――機動力で撒いて隙を窺うしかない。アズラエルの射撃に追い付かれない速度で【アモーレム】を飛行して弾丸の雨を嗅い潜って行く。


 崩壊する民家、吹き飛ぶ宿屋、燃え落ちる教会、街が一瞬で崩壊していく――――鏡写しの【快楽園(メル・モル)】だったから良かったものの、実際の【アモーレム】なら目も当てられぬ大惨事を引き起こしていただろう。


 故に、メメントは最後の最後までアズラエルを起動できなかった――――余りにも強力過ぎるから。



「移動経路、算出――――完了。目標補足――――【ブラックホール・レーザー】発射」

「【行動予測】……えっ、移動経路が読まれている!? 急速旋回!!」



 そして、下部の翼から放たれた二発の光弾――――俺の軌道を読んで撃ち出された攻撃だったが、右眼カレイドスコープで攻撃範囲を予測して旋回する事で何とか直撃だけは躱せた。


 しかし、着弾した瞬間に広範囲を覆って噴き上がった黒い光の柱が、威力に対する俺の予測の()()をひしひしと痛感させる。



「嘘だろ……!? 外周部にあった巨大市場(マーケット)が一撃で……消えた……!?」

「対象、七式観測眼ルミナス・カレイドスコープの所持を確認。有効兵装を検索――――胸部疑似量子動力炉(ドライヴ)より固有ユニークスキル抽出…………【煌めきの魂剣ヴィータ・フルジェント】発動」



 そして、アズラエルの猛攻は終わらない――――胸部に収められた蒼い宝石から固有ユニークスキルを抽出したアズラエルが右腕を上げた瞬間、俺の四方八方を塞ぐように大量の蒼白い剣が出現し始める。


 間違いなく――――シータ=カミングの固有ユニークスキルである【煌めきの魂剣ヴィータ・フルジェント】だ。



「くそ……よくも、シータさんの“魂”を……!!」

「模倣剣技……【斬撃包囲刃オールレンジ・ソード】――――第十三剣技“乱気流タービュランス”」

「何……!? そこまで再現を――――くっ、光量子障壁ルミナス・シールド!!」



 さらに展開されるのはエンシェント流剣技【斬撃包囲刃オールレンジ・ソード】――――確かに、父さん直属の部下だったシータなら使えてもおかしくは無い剣技だ。


 それをアズラエルは当然の権利にように行使する。それが、腹立たしくて、悔しくてたまらない。


 俺の愛しき騎士を、大切な思い出を――――死してなお苦しめるあの天使が、たまらなく憎い。



「――――ッ!? 【煌めきの魂剣ヴィータ・フルジェント】による魔力剣の消滅を確認。ラムダ=エンシェントの内部出力、急激に上昇」

「【第十一永久機関(λドライヴ)】……出力150%……!! 待ってて……シータさん……必ず、貴女をアーティファクトの呪縛から解き放ってみせます!!」

「ラムダ=エンシェント……更に出力向上。危険、危険、危険――――対象、光量子フォトン過剰放出オーバードライヴを確認。当機体の出力を凌駕――――対艦斬撃兵装【ストームブリンガー】転送。迎撃体勢へと移行」

「あぁ……ぐぅううう!! はぁ……はぁ……我が命、喰らいて輝け、【第十一永久機関(λドライヴ)】――――高出力形態……【オーバードライヴ】発動ッ!!」



 身体がきしむ、心臓が締め付けられる、“魂”が侵される――――それでも、俺は生きたい。


 ノア、オリビア、コレット、ミリアリア、ルージュ――――俺は、君たちの元へと必ず帰る。だから、無茶を許して欲しい。


 身体から溢れる白い光量子フォトンの余剰エネルギー、それを纏い白く発光する身体、もはやどこまでが肉体でどこまでが光量子フォトンで構成された『器』なのかも分からない。



「それでも、俺は――――生きる!!」

「対象、高速移動――――消失ロスト。索敵を開――――始ッ!?」



 街の上空に鎮座していたアズラエルに向けての高速突貫。一瞬だけ『亜空間』に突入したような感覚に包まれて、またたきよりも疾く俺はアズラエルの目前へと移動しきってしまった。


 あまりのも疾すぎて剣を降るのが間に合わない。咄嗟に、左腕でアズラエルの顔面を殴り飛ばして判断の遅れを誤魔化す。


 だが、それだけでも威力は絶大――――俺に右の頬をぶたれたアズラエルはまるで隕石のような勢いで街の建物へと落下して、大きな衝撃と共に地面へと打ち付けられる。


 俺の心臓に埋め込まれた禁忌級遺物カラミティ・アーティファクト第十一永久機関(λドライヴ)】で精製される光量子フォトンのエナジーを過剰に放出させて自らの身体能力を限界以上に引き上げる戦闘技術――――【オーバードライヴ】。


 この【オーバードライヴ】があれば、俺はもっと強大な敵に立ち向かえる。



「――――うッ、ゲホッ、ゲホッ……クソッ、もう反動が……!!」

『ご主人様、あなた何て無茶を! 今すぐにそれを止めるんです! 死にたいのですか!?』

「ごめん……【破邪の聖剣(シャルルマーニュ)】…………はぁ……はぁ……まだ、大丈夫だから……!」

『〜〜〜〜ッ! クラヴィスの姐さんとおなじ台詞を……!! このわからず屋!!』



 だが、この【オーバードライヴ】も手軽に使えるものでも無い。圧倒的な出力と引き換えに、俺の身体は一秒毎に自壊していく。


 一度だけ試しに使ってみて、ノアに『二度と使わないで』と涙ながらに怒られた程に。それでも、この戦いに勝つには使わざるをえない。ノア、後でいくらでも殴っていいから、今だけは許して。


 口から垂れた血を腕で拭って、俺はアズラエルが消えた建物の残骸に眼を見張る。まだ機能停止していない筈だ――――必ず出てくる。



「対象、自壊率75%まで上昇。危険度増大――――最大警戒レベル“SSS”に認定。対象、出力過多による自死まで残り3分――――耐久・回避は不可能と判断。速やかに抹殺します。疑似量子動力炉(ドライヴ)、出力最大(マキシム)――――【オーバードライヴ】開始」



 そして、俺の予想通り、崩れた瓦礫を吹き飛ばして現れるアズラエル。胸元の蒼い宝石は今にも壊れそうな程に輝きを増し、黒い翼はもはや“翼”とは形容し難いほどの光量子フォトンの“羽”となりて溢れ出し、黒い髪の天使の周りにはこちらに向けて切っ先を据えた蒼白い剣が百を超える数で展開されている。


 その禍々しさはまさに“死を運ぶ天使”と表現するに相応しい。



『今すぐにやめて、ご主人様!! ノアさん達を悲しませる気ですか!?』

「あぁああ――――うぉおおおおおお!!」

「出力最大――――胸部疑似量子動力炉(ドライヴ)、損壊率70%。自壊まで――――3分30秒。対象の撃破――――可能と判断。殲滅、殲滅、殲滅…………ラムダ……やめて…………」



 俺の身体が朽ちるまであと3分…………充分だ。これで、終わらせる。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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