表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
909/1169

第776話:第七の大罪【傲慢】/ 理解からはほど遠く


「うっ……あっ……!?」



 ――――聖剣はエージェント・ピースの胸元を穿ち、彼女は振り上げていた魔杖から手を放してしまった。俺の反撃を想定できていなかったのだろう。

 聖剣で貫かれた胸の傷口からは血は流れず、エージェント・ピースはただ小さくうめき声を上げて呆然としていた。



「あの状況で……まだ闘志が折れないの……ですか?」

「ああ、そうだ。俺を理解できてなかったようだな」



 どんな絶望的な状況でも諦めない。そんな俺の性格をエージェント・ピースは理解できていなかった。

 ラムダ=エンシェントという男を測り間違えた。その事実を前に、エージェント・ピースは掠れるような声で愕然としていた。



「そう……ですか……。()()()()……まだ諦めるという選択を……していないの……ですね……」


「……なんの話だ?」


「ふっ……ふふふっ……なら、わたしが負けるのは……道理です……ね……。あなたという人物を……理解しきれていなかった……のですから…………」



 聖剣に貫かれたエージェント・ピースは今にも息絶えそうだ。彼女が有する“嫉妬の魔王”の因子が聖剣によって破壊されているからだろう。

 彼女は今にも力尽きそうな腕を必死に伸ばして、俺の顔に触れようとしていた。



「わたしは……今も……今でもあなたを……あ、愛しています……。この身が朽ちて……生きるしかばねになろうとも……あなたを……スペルビア様…………」


「俺はスペルビアじゃない。ラムダ=エンシェントだ」


「ずっと……ずっとお慕いしています……。あなたが闇に堕ちても……わたしは……あなたと同じ闇に付き添います……。だから……わたしを……見捨てないで……」



 エージェント・ピースは俺に皇帝スペルビアを重ね、必死に愛情を懇願していた。

 だけど、彼女の目の前に居る人物は皇帝スペルビアではない。俺には死に逝く彼女にはなんの慰めもできなかった。



 そして、伸ばした手は俺に触れることなく――――


「わたしは……あなたを……死んでも…………愛しています……。スペルビア様……ラ……様……――――」


 ――――エージェント・ピースはそのまま息絶えた。



 伸ばしていた腕がだらりとちからを失い、そのままエージェント・ピースは俺にもたれ掛かるように倒れ込む。

 エージェント・ピースの亡骸を抱えた俺は聖剣を引き抜くと、そのまま彼女を目の前に寝かせた。どうしてか、無碍には扱えなかったからだ。



「どうやらそっちも終わったようじゃの……」



 背後からグラトニスが喋りかけてくる。どうやら彼女の方も戦い終わったようだ。振り返ると、し二人の漆黒の兵士トルーパーが倒れていた。



「なんじゃ、そのなんとも言えぬ表情かおは?」

「ああ……ちょっとな……」


「そのエージェント・ピースとやらに何か思うところでもあったか? 其奴そやつはお主に対して並々ならぬ感情を抱いていたが……」


「いや、別に……なんかモヤモヤするだけだよ……」

「そうか……まぁそういう事もあろう……」



 エージェント・ピースと彼女が引き連れた兵士トルーパーは倒れ、俺たちを囲んでいた紫焔は消え去った。周囲にいた兵士トルーパーたちもアヤメによって倒されている。

 だが、頭上では未だにラストアーク騎士団と帝国軍の戦闘が続いている。



「目下の脅威は排除した。はよう儂等も上空の連中に加勢するのじゃ! 感傷に浸るのはその後じゃぞ」


「分かってるよ。けど先に“マザー”と合流しないと」



 急いで上空に加勢をしなければならない。その為に俺とグラトニスは“マザー”と合流する事を決めた。

 エージェント・ピースの足止めの為に助力してくれた彼女は大通りを塞いだ土壁の向こう側に居る。俺とグラトニスは大きく跳躍して、土壁を飛び越えて“マザー”と合流しようとした。



 その時だった――――


「――――ッ!? 壁が崩れた……!?」


 ――――土壁が音を立てて崩壊したのは。



 “マザー”が地面を隆起させて作った大地の壁が、いくつもの土の塊になって崩れていく。俺たちは最初、戦闘が終わった事を察した“マザー”が魔法を解除したのだと考えていた。

 そして、何も考えずに崩れた土塊つちくれを踏んで、砂塵さじんの向こう側に居るであろう“マザー”の元へと向かい出した。



「あれ……ピースったら負けちゃったのかな?」

「――――ッ!? “マザー”じゃない……誰だ!!」



 そこで俺たちを待っていたのは、“マザー”とはまた別の女性だった。

 漆黒のボディスーツを纏い、素顔を仮面で隠し、アロガンティア帝国の意匠が刻まれた外套マントを纏い、右手に錆びたつるぎを握り締めた人物。エージェント・ピースと似た容姿をしている以上、アロガンティア帝国の将校だろう。



「あやつが連れているのは……“マザー”じゃと!?」



 その人物は左手で“マザー”の髪を乱暴に掴み、彼女を引き摺っていた。“マザー”は口から血を流し、ちからなくされるがままにされている。

 一目みて理解できた、“マザー”は既に息絶えている。俺たちがエージェント・ピースと戦っている間に、彼女は突如現れた敵兵によって倒されたのだろう。



「『四大しだい』の“地”(プリティヴィー)と言っても大したことなかったね。僕でもあっさり殺せちゃったよ。きっと既に戦闘で疲弊しててボロボロだったんだろうね、あはは!」



 “マザー”の亡骸を乱暴に扱い、謎の女性は笑い声を上げる。“マザー”は既に俺との戦闘でボロボロだった故に敗北してしまったのだろう。



「テメェ……何者だ!」


「僕の名前はエージェント・ブレイヴ、アロガンティア帝国軍第一大隊を指揮する将校。偉大なる皇帝スペルビア様のめいで『地神炉心テラ・ドライヴ』を貰いに来た」


「エージェント……ブレイヴ……!」



 彼女の名はエージェント・ブレイヴ――――エージェント・ピースと同じく、皇帝スペルビアに忠誠を誓うアロガンティア帝国軍の将校。

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ