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第775話:第七の大罪【傲慢】/ 堕落する嫉妬の花弁


「スペルビア様に愛を……わたしたちの愛を!!」



 ――――“嫉妬”の焔を燃え上がらせ、エージェント・ピースは魔杖で俺へと再び襲い掛かってきた。自らの愛情を皇帝スペルビアに認知させるという目的の為に。

 彼女が振り下ろした魔杖を聖剣の刀身で受け止めた瞬間、魔杖に込められた紫焔が激しく溢れ出す。聖剣から俺を覆うように魔力を放出して力場りきばを形成していなければ、エージェント・ピースの激情の焔に灼かれていただろう。



「ハァァッ!!」



 魔杖による振り下ろしを受け止められたエージェント・ピースは、今度は魔杖の下側の先端部に紫焔による炎刃を形成。魔杖を素早く回転させて斬り上げ攻撃を仕掛けてきた。



「――――ッ!!」



 奇襲のような攻撃を俺は後方に1メートルほど跳ねて躱し、エージェント・ピースが杖を振り上げきった瞬間に再びダッシュで彼女の元へと距離を詰める。



「オオォッ!!」

「――――くッ!」



 俺は走った勢いのまま聖剣の切っ先をエージェント・ピースの胸元に向け、勢いよく聖剣を突き出した。

 だが、エージェント・ピースは僅かに上半身を真横に逸らして攻撃を回避、聖剣の刀身は彼女の纏っていた外套マントを虚しく貫いただけだった。



「どうやら……近接戦闘は素人らしいな」

「それがどうしたのです? 関係ありません」



 エージェント・ピースは外套マント脱ぎ捨てて後方に大きく跳躍。同時に魔杖の先端に紫焔を集束させ、火炎放射を俺に向かって撃ち出してきた。



「――――ハァッ!!」



 迫りくる火炎放射を聖剣による斬撃で薙ぎ払い、エージェント・ピースの次の攻撃に備える。

 さっきまでの戦闘で彼女が近接戦闘に秀でていないのは分かった。至近距離で戦い続ければいずれは俺が競り勝つだろう。



(エージェント・ピースは戦法を変える筈……)



 近接戦闘では勝てず、頼みの綱である帝国兵たちはグラトニスとアヤメによって動きを封じられている。そうなった以上、エージェント・ピースは攻撃手段を変えざるを得ない。



「これは……使いたくはありませんが……」



 エージェント・ピースは何かを躊躇いつつも、魔杖に魔力を込めていく。“嫉妬”に燃える紫色の焔ともまた違う、どこか物悲しさを孕んだ金色こんじきの魔力だ。



「嫉妬に咲き狂え……失墜の花弁よ……!」



 溢れた魔力が火の粉になって散らばり、エージェント・ピースの周囲へと舞う。地面に落ちた火の粉は一層に燃え上がった直後、その姿を金色こんじきの花へと姿を変えていく。



 そして、エージェント・ピースが地面に着地すると同時に、無数に咲いた金色こんじきの花弁は開き――――


魔王権能ネガ・ギフト堕落する嫉妬の花弁リインカーネーション・エンヴィー】――――発動」


 ――――彼女を囲むように咲いた麝香撫子カーネーションが一斉に花開いた。



 エージェント・ピースが花弁を展開した瞬間、俺や周囲に居る者たちの魔力が吸われていくような感覚を感じた。

 おそらくは周囲に居る人物の生命力を“魂喰い(ソウルイーター)”で花弁に吸い取り、集めた生命力をエージェント・ピースに還元しているのだろう。



「それがお前の“嫉妬の魔王”としての権能か……!」


「そうよ、これがわたしの持つ魔王権能ネガ・ギフト! かつて聖女まで登り詰めたわたしに残された結果! さぁ、わたしの醜い“嫉妬”に灼かれなさい、ラムダ=エンシェント!!」



 エンシェント・ピースが叫ぶと同時に、俺の胸元に金色こんじき麝香撫子カーネーションが一輪、燃え上がりながら咲き出した。



「これは……いつの間に!?」

「搾りかすにしてあげます……わたしのように!」



 そして、エージェント・ピースが魔杖で地面を強く突いて甲高い音を鳴らした瞬間、胸元に咲いた麝香撫子カーネーションは俺の生命力を焔に変えて花弁から放出し始めた。



「ぐうっ……!?」



 一気に体力と魔力が吸われていく。全身から一気に血の気が失せて、俺は思わずその場に片膝を突いてしまった。

 平時ならもう少し耐えれるが、散々に戦って全身ボロボロの状態の今の俺ではエージェント・ピースの苛烈な“魂喰い(ソウルイーター)”は堪えるらしい。



「もう終わりです、ラムダ=エンシェント。その花弁はあなたから生命いのちを吸い上げ、最後は“嫉妬”の焔と共にあなたを灼き尽くす」


「くっ……これしきの焔で……!!」


「あなたはわたしたちを殺した。これがその報いです。さぁ、スペルビア様と同じ絶望を味わいなさい、ラムダ=エンシェント!!」



 ゆっくりとエージェント・ピースが近付いてくる。手にした魔杖の先端に強烈な発光を伴うほどの“嫉妬”の焔を灯しながら。

 魔王権能ネガ・ギフトで生命力を吸われて動けなくなった俺をそのまま仕留めるつもりなのだろう。



「なにをしておる、ラムダ! そんなつまらん幕切れ、この儂が許さんぞ! さっさと立たんか、このたわけめ!!」


「主殿、まだ死んではなりません! 主殿!!」


「黙っていなさい、わたしの愛を邪魔する雌どもがッ!! 貴女たちにこの人は渡さない……わたしだけがラムダ=エンシェントの理解者なのよ」



 グラトニスたちの声を怒号でさえぎり、エージェント・ピースが俺の目の前に立った。

 周囲に金色こんじき麝香撫子カーネーションを咲かせてグラトニスたちを阻害しつつ、手にした魔杖の先端を俺の眼前へと向ける。



「ねぇ……わたしを愛してくださりますか?」



 エコーの掛かった声でエージェント・ピースは俺に問い掛ける、自分を愛してくれるかと。答えは決まっている、そんな要求は当然受け入れる事は出来ない。



「それは無理なお願いだな、エージェント・ピース」

「そうですか……なら死んでください」



 俺が要求を突っぱねた瞬間、エージェント・ピースは小さくため息をつき、まるで何かを諦めたような淡々としたような態度で魔杖を大きく振り上げた。



「だってお前は全然分かってないからな……俺がこんな絶望的な状況でも絶対に諦めない奴だって事を!!」



 エージェント・ピースが隙を晒す瞬間を、俺が待ち構えていたとも気付かずに。

 彼女が魔杖を振り上げた瞬間、心臓のアーティファクトを活性化させる。彼女の魔王権能ネガ・ギフトが“魂喰い(ソウルイーター)”のたぐいだと理解した瞬間にはこの戦法は想定していた。



「【オーバードライヴ】――――発動!」

「まさか……まだ余力を残して……!?」



 最後の死力を振り絞って立ち上がり、聖剣の切っ先をエージェント・ピースの胸元目掛けて突き出す。

 渾身の一撃を構えていて油断したのだろう。エージェント・ピースは咄嗟の反撃に反応が遅れ、ただ驚いた声を上げているだけだった。



 そして、聖剣は燃え上がる紫焔を斬り裂き――――


「うぉぉ!!」

「――――つあッ!?」


 ――――エージェント・ピースの胸を貫いたのだった。

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