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第774話:第七の大罪【傲慢】/ Incineration Jealousy


「――――ッ!?」

「陛下から預かった精鋭部隊が……!」



 ――――突如降り注いだ魔砲攻撃によって、俺の背後を取っていた漆黒の兵士トルーパーたちは一気に蹴散らされた。

 至近距離に居た三人は砲撃に弾かれて吹き飛び、そのまま紫焔の壁に激突。あっという間に焔に包まれて焼死してしまった。



「お前……どうして……!?」


「お主が挑発したんじゃぞ……手柄を独り占めされたくなかったら戻って来いとな。じゃからこうして戻って来たのじゃ。ベストタイミングじゃろ?」



 そして、漆黒の兵士トルーパーたちがさっきまで立っていた場所に一人の少女が降り立った。グラトニスだ。どうしても我慢できずに戻って来たらしい。



「どうやってわたしの焔をすり抜けて……」

「それは拙者の忍術にて、帝国将校殿」


「アヤメさん!」


「こんな事もあろうかと主殿に拙者の忍術で“マーキング”を付けて、忍術で主殿の側に転移できるようにしておいたであります。まぁ……それをグラトニス殿に使われるとは思ってなかったでありますが……」


幻想郷マホロバ女忍者くのいち……!」



 どうやらグラトニスはアヤメが俺に付けた特殊な“マーキング”を辿って転移し、エージェント・ピースの焔をすり抜けたらしい。

 焔の結界の外ではアヤメがクナイを片手に帝国兵たち相手に戦闘を繰り広げていた。



「雑兵は拙者が! 主殿は敵将を!!」

「ありがとう、アヤメさん」



 片手で印を結び、大量の“カラス”を召喚してアヤメは帝国兵たちの気を一手に引き寄せていた。これで外野からの射撃は無くなった。



「お主等の相手はこの儂じゃ、無愛想な兵士どもよ」

「…………!」



 俺の背後ではグラトニスが残り二人の漆黒の兵士トルーパーに睨みを利かせている。彼等もまさかグラトニスを無視して俺を攻撃する事は出来ないだろう。

 これで俺はエージェント・ピースとの戦闘に集中できるようになった。帝国兵の相手をグラトニスとアヤメさんに任せ、俺はエージェント・ピースを睨みつける。



「また女……どいつもこいつも、英雄にたかる意地汚いハエ共が……!! ああ、妬ましい、妬ましい、妬ましい……本当に妬ましい!! 見ていて苛々する!」


「な、なんじゃ……様子が変じゃぞ……!?」


「ラムダ=エンシェントはわたしのものよ、わたしが殺してスペルビア様に献上するのよ!! それを……ああ!! そうやってメス表情かおですり寄って……そうやって好意で誘惑して……穢らわしい、穢らわしい、穢らわしいぃぃ……!!」



 エージェント・ピースは突如現れたグラトニスとアヤメに苛立ちを隠しきれないのか、頭を両手で抱え、全身から嫉妬の焔を激しく放出させながら激昂していた。

 その取り乱した様子に俺やグラトニスが言葉を失ったのは言うまでもない。エージェント・ピースはグラトニスたちへの激しい嫉妬を口にしていた。まるで俺が彼女のものであるかのような口ぶりで。



「俺はお前の男になったつもりはないぞ!」


「分かってない、あなたは何も分かってない! あなたに真実の愛を与えれるのはわたしだけ! 他の女はあなたの“英雄”の側面しか見ていない!」


「違うぞ。儂が惚れたのはラムダの心意気じゃ」


「黙れ淫売が!! 穢らわしい低級魔族の分際で、色欲に駆られた魔女の分際で……ラムダ=エンシェントに近付くなァァァ!!」


「テメェ……それ以上グラトニスを愚弄するな」


「ラムダよ……どういう訳かは知らんが、あのエージェント・ピースとやらはお主に対する異常な執着、そしてお主に近付く女に対する過剰な嫉妬に狂っておる……用心せい」



 エージェント・ピースの目的は俺を殺してスペルビアへと死体を献上する事の筈だ。だが、今の取り乱した彼女からはそれ以外の感情も見え隠れしている。

 グラトニスたちが現れた瞬間、エージェント・ピースの精神が一気に不安定になった。まさしくに“嫉妬”に狂ったように。



「そうよ……だからあなたを殺します。他の誰もがあなたに触れないように……あなたを愛する女は世界にただ一人で良い……」


「まさか……あやつはお主の()()()()か何かか?」

「そんな……記憶に無いぞ……多分」


「あなたを殺して……わたしはスペルビア様の寵愛を受けるのよ。今度こそ、()()()()()は真実の愛を勝ち取るの!!」



 以前にも似たような光景を見た。今のエージェント・ピースの乱れ方はディアナ=インヴィーズが錯乱した時に似ている。自身の抱く感情こそが真実であり、それをないがしろにする者に激しい嫉妬心を抱く。

 だが、俺はエージェント・ピースとは面識が無い。仮面で覆った素顔が見知った顔でもない限りは。



「わたしの愛を阻む者は誰であれ排除します! そうすればスペルビア様はわたしを愛してくれる! ()()()()()()()()()()()なんかよりも……このわたしを!!」


「のうラムダ……儂、やっぱ帰っても良いか?」


「巻き添えが怖いのか? そりゃ俺もだよ。明らかにエージェント・ピースの様子がおかしい。多分だけど……俺たちか彼女のどっちかが死なない限り、エージェント・ピースは止まらないだろな……」



 手にした魔杖を振り回しながら、エージェント・ピースが俺に向かって歩いてくる。俺とグラトニスに対する明確な殺意を抱きながら。

 激昂する彼女の魔力出力は接敵時よりも向上している。エージェント・ピースが“嫉妬”の権能に適合している証拠だ。



「アヤメさん、周囲の敵兵は任せます!」

「――――承知!」



 アラヤ=ミコトが“嫉妬の魔王”に選定したのはディアナ=インヴィーズだ。だが、彼女は“幻影未来都市カル・テンポリス”での戦いで亡くなっている。

 そして、アラヤ=ミコトが奪った“嫉妬”の権能はついさっき俺たちが回収した。ならば、いま目の前で“嫉妬”の権能を振るうエージェント・ピースは何者だろうか。



「わたしの為に死んでください、ラムダ=エンシェント!」

「お断りだね、エージェント・ピース!」



 そんな言いしれぬ不安を抱えながら、俺はエージェント・ピースが振り下ろした魔杖を聖剣で受け止めて、一対一の戦闘へともつれ込むのだった。

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