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第768話:Eternal Foreshadowing


「ふむ、これが“原初の魔王”の権能か……まぁ想定通りのちからだな。別段、驚くべき内容でもなかったか……」



 ――――アラヤ=ミコトの精神体を喰らい、レメゲトンは手に入れた“原初の魔王”の権能を堪能していた。捕食者したアラヤ=ミコトが喉元を通過してしばらくすれば、権能を吸収したのかレメゲトンの魔力は格段に向上し始める。

 周囲の空気は張り詰め、レメゲトンの身体からは黒い稲妻となった魔力が漏れ出るように放出されている。肌に感じるレメゲトンの魔力は、今や魔王装甲アポカリプスを纏った時のアラヤシキをも遥かに凌駕していた。



「身体能力の向上、固有術式【呪層殺界“九宮”ナインドライブ・ソウルイーター】及び七人の魔王の“魔王権能ネガ・ギフト”の獲得、そして『終末装置アル・フィーネ』への昇華……手間の割りにはというのが正直な感想か……」


「…………っ!」


「まぁ、吾輩も複数のタスクをこなしつつミコトくんに助力していたから、時間が掛かるのは致し方なしか……。しかし、これで大きな案件は一つ片付いた」



 だが、当のレメゲトンは特に驚くような素振りも見せず、ただ淡々と手を動かして身体の調子を確認していた。アラヤ=ミコトから権能を奪い“原初の魔王”に成り代わったのに、それ自体もまだ“通過点”だと言うように。



「さて……君たちにも感謝するよ、ラムダ卿、グラトニス嬢、それにラストアーク嬢。おかげで吾輩は予定通り“原初の魔王”の権能を手にできた」


「儂等をたばかったか、“叡智の捕食者”よ……」


「まさか、とんでもない。吾輩はただ君たちを吾輩の計画に組み込んだだけさ。ミコトくんを全盛期を超えた状態で顕現させるのが吾輩の目的だったのでね」


「儂が初めて“禁断古塔フラウデム”を訪れた時から既に……」


「ご明察だ、グラトニス嬢。吾輩は君が“暴食”と“色欲”の継承者だと知っていて、君を我が図書館へと招き入れた。君の成長も、君が“暴食の魔王”として魔界マカイに君臨する事も、最初から吾輩の計画の内だったのだよ」



 一通り“原初の魔王”の顕現を確かめたレメゲトンは杖に両手を乗せ、リラックスした状態で俺たちへと感謝の言葉を伝え始めた。

 先程のアラヤ=ミコトとの時から感じていたが、今のレメゲトンからはふざけたような印象は感じられない。淡々とした、氷のように冷たい印象を放っている。今の彼が本来の性格なのだろう。



「それで……“原初の魔王”に成り代わって何をする気ですか、レメゲトンさん? まさか……今から俺たちと一戦交える気じゃないでしょうね?」


「そうなったら……満身創痍の君たちが不利だよ?」


「儂等を不利だから降伏を選ぶなんて軟弱者の集まりだと思うておるのか、レメゲトンよ? それに……儂等だけではないぞ。じきに都市部やラストアークに控えている騎士たちも集まってくる」



 “原初の魔王”の顕現を奪ったレメゲトンはそのまま俺たちと敵対するかも知れない。そう判断した俺たちは一斉に武装してレメゲトンを睨みつけた。

 レメゲトンは自身の計画を達成する為に俺たちを騙していた。そして、目的を果たした以上、もう俺たちの味方の演技をする必要も無いからだ。全員から武器を向けられた状態で、レメゲトンは静かにほくそ笑む。



「今にも死にそうな状態で尚、吾輩に挑もうとする気概、実に見事だ、ラストアーク騎士団の諸君。そう凄まれては……吾輩も大人気おとなげなく悪意を剥き出しにしたくなってしまう……」


「…………」


「だが……生憎と吾輩には貴殿たちと戦う気は全く無いのだよ。目的は達成した以上、もう貴殿たちに用は無い。それに……今は落ち着ける場所で、手に入れた“原初の魔王”の権能をじっくりと吟味したいのでね」



 レメゲトンには俺たちと敵対する意志は無かった。ほとばしる魔力も、張り詰めた空気も解いて、レメゲトンは優雅にパイプを吹かしているだけだった。

 どうやら“原初の魔王”の顕現を手に入れた時点で、彼には俺たちと関わる必要性は無くなったらしい。もう、彼は俺たちには興味を示していなかった。



「そもそも……吾輩は君に協力すると同盟を結んだ筈だよ、ラムダ卿。まぁ、そこの堅物である“マザー”は君を脱落させてしまったようだがね……」


「敵対はしないと?」


「君と交わした契約は守るさ。それに……“彼”とも契約を交わしているのでね。このまま吾輩はおいとまさせて貰うとするよ、ラムダ卿。構わないかな?」


「あんた……ふざけたこと言ってんじゃ……!」


「お望みとあらば……手に入れた“原初の魔王”の権能、早速試させて貰うよ、機械天使ティタノマキナアズラエル?」


「ちっ、この悪魔が……」


「賢明な判断だ。ここで争ってもお互い、時間と体力を無駄に浪費するだけ……素直に武器を収めてくれて感謝するよ、機械天使ティタノマキナアズラエル」



 レメゲトンに敵意は無い。どうやら俺と交わした同盟を律儀に守るつもりらしい。ここで無理に彼に挑み掛かれば、俺たちはアラヤ=ミコトと戦った時以上に被害を被るだろう。

 それが分かっているからこそアズラエルは手にした武器を収め、リリスやノアたちもそれに続いた。無論、俺もだ。



「だけど……その“原初の魔王”の権能で悪事を働くなら看過はできないよ、ジェイムズ=レメゲトン。君はその権能を手に入れてどうするつもりだ?」


「この権能を使って何をするかは……この後の吾輩の気まぐれ次第さ、メア=アマリリス。有意義に使う事もあれば、悪巧みに使う事もあるだろう」


「なら……見逃す訳には……」


「だが安心したまえ。吾輩はラストアーク騎士団の今後には干渉はしない、約束しよう。ラムダ卿たちが女神アーカーシャを倒すか、逆に全滅するまでは吾輩は大人しくしているよ」



 どうやら、レメゲトンは当分は行動を起こさないつもりらしい。少なくとも、俺たちが女神アーカーシャと決着を付けるまでは。



「どうして俺たちへの干渉をしないと?」


「簡単な話さ……吾輩は興味があるのだよ、女神アーカーシャが居ない世界にね。だから君たちの邪魔はしたくないのさ。まぁ……積極的に関わりもしないがね」


《好奇心の奴隷ですね、ミスタ・レメゲトン》


「吾輩は永遠の探求者だからね、ラストアーク嬢。今回の計画に必要だったから巻き込んだが……君たちが描く『新世界』には期待しているのだよ」



 理由はなんとなく付いていた。レメゲトンは見たいのだ、女神アーカーシャが居なくなった世界を。

 俺たちが目指す世界を『新世界』と称し、レメゲトンは期待の眼差しで俺たちを見つめる。どうにも俺とノアの旅は、彼の知的好奇心を刺激する内容のようだ。



「正直……吾輩は君がもっと多くの仲間を失うものと予想していた。だが、君は吾輩の予想を遥かに上回った活躍をした。賞賛に値する……“神殺しの騎士”ラムダ=エンシェントよ」


「…………」


「そう言う訳だ。吾輩は邪魔をしないので存分に旅を終わらせてきたまえ、ラムダ卿。その間……吾輩は極点に引き籠もって、並行して進めていた“十五番目ナンバー・フィフティーン”に関するタスクを進めるとしよう……」


「…………」


「ああ……“禁断古塔フラウデム”に納めた書物、塔そのものの管理は君に委ねよう、ラストアーク嬢。吾輩が蒐集しゅうしゅうした知識、君の性能向上アップグレードに存分に役立ててくれたまえ」


《分かりました……ありがたく権利を頂きます》


「それではこれにて失礼させてもらうよ。間もなく()()()()()()()()がやって来るからね」



 ノアに“禁断古塔フラウデム”の管理権を委ね、足下に転移陣ポータルを展開してレメゲトンは徐々にその姿を消していく。意味深な言葉を呟き、空中に浮かぶ戦艦ラストアークの()()()()()()一瞥いちべつして。



「ではラムダ卿、君たちの旅の健闘を祈る。そして願わくば……君たちの創る『新世界』で再び相見あいまみえよう」


「…………」


「その時……再び良好な関係を築ける事を願っているよ。そして……もし敵対する事があれば、その時は遠慮せずに君たちの全てを頂こう」


「臨むところだ、ジェイムズ=レメゲトン」


「『新世界』で君たちの帰還を待っているよ、ラムダ卿。それまでは新しい悪巧みを企むとしよう。では諸君……ごきげんよう」



 そして、最後に深々と頭を下げて一礼をして、“叡智の捕食者”ジェイムズ=レメゲトンは転移して俺たちの前からその姿を消したのだった。

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