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第78話:たとい肉体がこの世にて


「待って……メメントは何処に……!? 瓦礫の下に居ないわ……!!」

「どうしたんですか、トリニティ卿!?」

「メメントの姿が何処に見当たらないの……!」



 メメントを倒し、闘技場へと降り立った俺に告げられたのは瓦礫の下敷きにされた筈の死神が消えた事に狼狽するトリニティの声だった。



「そ……そんな……ここまで来て、逃したと言うの……!?」

「あぁ、駄目ですレティシアさん! 貴女は絶対安静です、動かないで!」

「放っておいて、ノア……! あの死神はここで討たなければ……!」

「いくらルージュちゃんの力でドーピングしようとも貴女は死に掛け、ジッとしてなさい!」

「レティシア様、お止めくださいませ!」



 すぐさま行動しようと担架たんかから身を乗り出すレティシアと、それを必死に抑えるノアとシャルロット。折角の凱旋気分に立ち込める暗雲――――メメントは何処に。



「もしかして……瓦礫の下、あの石像があった祭壇の地下に秘密の部屋があったりして……なんてね♪」

「そ、それですわ勇者ミリアリアさん! トリニティ卿、急ぎ瓦礫を撤去致しましょう!! お前たち、手伝いなさい!」

「承知しました、シャルロットお嬢様!!」



 そんな中でミリアリアが漏らした言葉、祭壇の下――――それを聴いた俺たちは藁にもすがる思いで瓦礫を取り除いていく。


 ここでメメントを取り逃せば今までの苦労が水の泡だ。いかに【死への戒め(メメント・モリ)】で致命傷を負わせたとは言え相手は死神、どんな手段で復活してくるか分かったものじゃ無い。



「――――あった……! 地下へと続く階段だ……!」

「ここに逃げ込んだのですね……メメント……!! ラムダ様、急いでメメントを追い掛けましょう!」



 そして、ミリアリアの【直感】通りに見つかったのは、地下へと続く階段、メメントが残した逃走経路。


 階段の残った黒い血痕けっこん――――間違いない、この階段の先に奴は居る。



「ラ、ラムダ様……コレットはゼクス様のご遺体を【快楽園メル・モル】の外まで運びます……うぅ……うぅうう……!」

わたくしがレティシア様の介護を致しますわ……って……ち、ちょっと、暴れないでくださいましレティシア様……!」

「第三師団の騎士たちよ、【ベルヴェルク】の皆さまとエシャロット伯爵令嬢、そして第二王女レティシア様を護衛しつつ脱出を! わたしは……メメントの最期を見届けます……!」

「ラムダ様……わたしは最後まであなたに寄り添います! シータさんの仇を……一緒に討ちましょう!」

「僕も行くよ、あいつだけは許せない! ルージュ、君も付いて来て!」

「勇者がうちに命令するな! 御主人様ダーリン……行きましょう!」

「ラムダさん、急ぎましょう! 相手は【死の商人】……まだ、アーティファクトを隠し持っているかも知れません!」



 ノア達の護衛を王立ダモクレス騎士団第三師団の騎士たちに任せて、俺、ノア、オリビア、ミリアリア、ルージュ、トリニティの6人は急ぎ階段を駆け下りていく。


 蒼い炎の燭台が妖しく通路を照らす不気味な階段。まるで地下墓所カタコンベへと潜って行くような寒気を催すような感覚。


 嫌な予感がする――――きっと、ただメメントの最期を見届けるだけでは済まない。そんな感覚が、俺の本能をくすぐっていた。



「あった……! あの扉が終点だ!」



 どれぐらい降りただろうか、長い長い階段を降り続けた俺たちの前に現れたのは古びた小さな扉――――半ば忘れ去られたようにひっそりとたたずんだ扉が、メメントを追う俺たちを待ち構えていた。



 そして――――


「はぁ……はぁ……お、お早い到着ですね…………ラムダ=エンシェントさん……!」

「追い詰めたぞ、メメント! 今度こそ覚悟してもらう!!」


 ――――扉の先、小さな小さな礼拝堂で、俺たちは再びメメントと相まみえる。



「な、何……この部屋……!? あたり一面に宝石が飾られている……? それに、メメントの前にあるのは……ひつぎ……?」

此処こここそがメメントの私室だよ、オリビア……! 各地で蒐集しゅうしゅうした魂の保管場所……メメントが殺した人々の無念が眠る地下墓所カタコンベ……!!」

「うっふふふ……ぐゥ、ゲホッ、ゲホッ……!! はぁ……はぁ……そう、此処こそが我が安寧の地…………死神メメントを祀った祭壇……忌々しい我が生誕の地……!!」



 左腕を失い、腹部に風穴を開けられ、口から大量の黒い血を吐き出しながら、それでもメメントは不敵な笑みを浮かべる。


 小さな死神の像の前に立て掛けられた棺に息も絶え絶えになってもたれ掛りながら、メメントは弱々しく俺たちに虚勢を張る。



「くっふふふ……まさか、わたくしがここまでやられるとは……ゆ、油断しました……流石はラムダ=エンシェント……あの麗しき“魂剣こっけん”の血を引く者…………おみそれしました……!」

「【死の商人】メメント……グランティアーゼ王国を蝕む“癌”……大人しく往生おうじょうなさい!」

「大人しく……? 否、否! わたくしはただでは死にません……あ、あなた達も道連れです……! さぁ……共に冥府に墜ちましょうや……!!」

「あいつの手にあるのは……蒼い宝石……!? 何をする気だ、メメント!!」



 共に地獄へと墜ちよう――――蒼い宝石を右手で大事そうに握りながら、メメントは狂気に満ちた笑みを俺たちへと向ける。自身の逃れえぬ“死”を悟り、自棄になって道連れを画策した。


 なんとも浅ましく、みっともなく、呆れ果てた死神の最後っ屁。だが、油断は出来ない――――あの手の宝石と、彼女の背後にある棺こそが、メメントの切り札になるのだから。



「これは……わたくしでも動けるようにするので精一杯だった脅威のアーティファクト……! あらゆるものに等しく“死”をもたらす殺戮の天使……!」

「アーティファクト……天使……まさか……!!」

「くっふふふ……! ご紹介致しましょう……我が最悪の兵器――――“死を運ぶ天使”を!!」



 メメントの叫びと共に棺は開かれ、そこから現れたのは一人の天使――――黒いボディースーツに身を包み、闘技場で戦った【天使】と同型の黒いバイザーを頭部に装着した、黒い髪の少女。



「――――【死を運ぶ天使(アズラエル)】……!!」

「知っているのですか、ノアさん!?」

「広域殲滅型人型戦闘兵器……古代文明に於ける最大の戦闘兵器【機械天使ティタノマキナ】の中でも特に強力な一機……! 都市を爆撃して殲滅する為に造られた大量破壊兵器……!!」

「なんだと!?」

「先ほどラムダさんが撃破した汎用機である【天使エンジェル】の……上位機体(モデル)です……!!」



 ノアによって明かされたアーティファクトの名は【死を運ぶ天使(アズラエル)】――――大都市を一夜にして火の海へと変える“死の天使”。ただただ、人間を大量に虐殺する事だけを考えて造られた殺戮兵器。


 それが今、棺の封印から解き放たれて俺たちの前に姿を現す。



「くっふふふ……【魂宝玉ソウル・ジュエル】装着……!! さぁ、起きなさい、えーっと……アズラエル?? わたくしに成り代わり、あらゆる人間に美しき“死”を与えるのです!!」

「メメント……!! どこまで往生際が悪いんだ、貴様ッ!! あとアズラエルの名称知らなかったな!!」

「なんとでも言いなさい……! くっふふふ……あーっはっはっはっは!!」



 胸に空いた窪みに蒼い宝石は嵌め込まれ、沈黙を守っていたアズラエルの駆体にエネルギーが満ち始める。ゼクス兄さんと共に俺を襲った【天使】ですら驚異の戦闘能力を誇っていた――――なら、目の前で起動せんとしている【アズラエル】の強さはいか程のものか。


 俺は閃光剣ライトニング・セイバーを構え、これから起きる惨劇へと覚悟を決める。死神は嗤う――――全ての生きとし生ける者を殺さんと、高らかに天使の降臨を言祝ことほぐ。



「ノア、オリビア……俺が護るから、隠れていて……! トリニティ卿、アリア、ルージュ、援護を……!」

「あの天使……なにやら穏やかではなさそうな雰囲気ですね……!」

「あっはははは! 無駄です、無意味です、無価値です!! あなた達の愚かな抗いなど……この天使の前には――――」

「――――【煌めきの魂剣ヴィータ・フルジェント】」

「――――意味をなさ……あぐぅ!?」

「なっ!?」



 だが、動き出した“死を運ぶ天使(アズラエル)”が最初に殺めたのは、他ならぬメメント自身であった。


 彼女の背後から突き刺されて胸元を貫通した蒼白い剣――――見覚えのある剣が、死神に無慈悲な引導を渡す。



「あ……っ、馬鹿な……!? わたくしは貴女のマスターですよ……!?」

「――――排除」

「ぐッ……きゃぁあああああ!?」

「あ、あれは……失踪したカミング卿の“魂剣こっけん”!? なぜ、あの天使がそのスキルを……!?」

「あぁ……あぁああ……なんて、なんて酷い……!」

「オリビアさん、どうしたの!? あの剣は一体!?」

「シ、シータさん……!」

「嘘だ……嘘だ、そんなの……嘘だ……!」

「ラムダさん……!」

「起動、起動、起動―――――広域殲滅型人型戦闘兵器【機械天使ティタノマキナ】……タイプ“θ(シータ)”【アズラエル】、起動開始。当区域に現存する全ての人間を――――抹殺します」



 蒼白い剣で突き刺したメメントを粗雑に斬り捨てて、その背に四枚の黒き光の翼をはためかせ、バイザーから覗く朱い“一つ目(モノ・アイ)”を光らせて、アズラエルは視線を俺たちへと向ける。目覚めたるは“死を運ぶ天使”――――我が愛しき騎士の“魂”を動力に動く殺戮兵器。


 【死の商人】メメントの織り成す“死”の演劇は第六幕……最終幕へと。これは、過去に囚われた騎士たちがその呪縛から解き放たれて未来へと羽ばたく為の決戦。


 我が愛しき騎士との――――決別の時。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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