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第73話:“アーティファクトの騎士”


駆動斬撃刃セイバービット……グゥ……!? クソが……頭が……割れそうだ……!Ⅰ」

「いい加減にしろ、ゼクス兄さん! あんたじゃ、アーティファクトは扱えない……自滅するだけだ!!」

「黙れ……黙れ……黙れ、黙れ、黙れ!! 弟の分際で、汚らしい【ゴミ漁り(スカベンジャー)】の分際で――――偉そうにご託を並べんてんじゃねぇよ!!」



 アーティファクト【光量子自在推進フォトニック・式駆動斬撃刃セイバービット】――――脳波を用いて複数基の僚機ビットを操る兵器。


 だが、この特異なアーティファクトの操作は常人にはほぼ不可能に等しい――――何故なら、一つの脳で『自分の分身』を複数操作する必要があるから。ノアの時代ですら、このアーティファクトの操作を行なった者は脳の改造をしていた程に。


 俺ですら【自動操縦オート・パイロット】のスキルで駆動斬撃刃セイバービットの操作を自動化しなければ頭の神経を焼き切られるのだ。


 そんな複雑な操作をゼクス兄さんは己の身一つで行っている――――自殺行為だ、このままだと間違いなくゼクス兄さんはアーティファクトのよって破滅を迎える。


 それだけは阻止しなければ。



「見せてやるよ……ラムダちゃん――――本物の“騎士”の戦い方をなあ!! 駆動斬撃刃セイバービット……斬撃包囲刃オールレンジ・ソード、第十一剣技“テンペスト”!!」

「スキル【自動操縦オート・パイロット】――――迎撃指令インターセプト!!」



 闘技場をところ狭しと乱れ飛ぶ黒い剣、それを迎え撃つ白い剣――――ふたりの『エンシェント』の剣が、誇り、意地、信念を賭けてつば()り合う。


 その剣戟の中央で斬り結ぶはふたりの騎士――――【黒騎士】ゼクス=エンシェントと、“アーティファクトの騎士”である俺。


 お互いの剣を受け、避けて、時折飛来する駆動斬撃刃セイバービットの奇襲をなしつつ、幾重にも斬撃を重ねていく。


 そして、言葉を重ねていく――――積年の想いを『言葉の剣』にして。



「く……ッ! 以前戦った時より手強い……!?」

「そりゃ、同じ【遺物アーティファクト】持ち同士だ――――条件が同じなら、より()()が強ぇ方が勝つに決まってんだろ! 結局テメェは……規格外の力を持った『アーティファクト』に頼っただけの雑魚なんだよ!!」

「違う……俺は……!!」

「その眼は何だ!? その腕は何だ!? その心臓は何なんだ!? そうやって“イカサマ”を使って強くなった奴の何が“騎士”だ! テメェはただの“詐欺師”なんだよ、ラムダちゃん!!」

「俺は……俺は……!!」



 以前よりも重くのしかかるゼクス兄さんの剣――――それを兄さんは『アーティファクトに頼りきった、俺自身の弱さ』だと指摘する。


 その通りだ――――俺は、アーティファクトの圧倒的な性能に頼っていただけ。


 ゼクス兄さんの言っている事は正しい。


 アーティファクトの力が無ければ――――俺は、魔狼ガルムにも、ゴブリンにも、オークにも、リリエット=ルージュにも、アンジュ=バーンライトにも、クラヴィス=ユーステフィアにも、魔王アワリティアにも、リティア=ヒュプノス……うん、グレイヴ=サーベラスにも……勝てはしなかっただろう。


 きっと、何処かでひっそりと野垂れ死んでいただろう。



「――――違う! ラムダさんはアーティファクトに頼っただけの甘えん坊じゃ無い!」

「人形……壊れかけた人形風情が偉そうに……!!」

「ラムダさんは……アーティファクトの力で、強大な敵に必死に立ち向かっている!! そのラムダさんの真剣な想いを……馬鹿に……しないで!!」

「…………ノア……」

「どれだけ強大な存在が立ち塞がっても……絶対に諦めないラムダさんを……馬鹿に……しないで…………」



 そんな俺の弱さを否定するように言葉を剣にする人物がもうひとり――――ノアだ。


 レティシアを介抱しながらも、ノアは懸命にゼクス兄さんへと食らいつく。


 俺は、アーティファクトの力で図に乗っただけの浅慮せんりょな人間じゃ無いと、眼に大粒の涙を溜めながら、必死に言葉を紡ぐ。



「ラムダさんが居なかったら、多くの命が犠牲になっていた――――アーティファクトの力で弱い者いじめをしたいだけの貴方と、()()ラムダさんを一緒にしないで!!」

「さっきからごちゃごちゃとうるせぇぞ――――テメェから死ねや、人形ッ!!」

「――――やめろ、ゼクス!!」



 軌道を外れ、吸い込まれる様にノアの胸元目指して飛んでいく黒い駆動斬撃刃セイバービット――――やめろ、やめろ、やめろ……俺のノアを、傷付けるな。



「ノアさん……わたくしに構わず……逃げなさい……!!」

「私は……もう逃げたくない……! 大切な人を……見殺しにしたくない……! たとえ死んだって、ラムダさんから手を放さない!」

「なら――――お望み通りに殺してやんよ、薄気味悪ぃ人形が!!」

「やめろッ!!」



 あの冬の日が脳裏によぎる――――大切な人を失ったあの日、俺の最大の屈辱。


 失いたくない、もう二度とあんな想いはしたくない。


 その為なら、たとえ禁忌の力だとしても、その先に待つのが破滅でも――――俺は諦めない。



「――――超電磁砲レール・ガンッ!!」

「なッ!? 俺様の駆動斬撃刃セイバービットが弾かれただと!?」

「…………許さない……許さない……!!」

「――――ッ!?」



 “イカサマ”だろうが“詐欺師”だろうが、何とでも言え――――俺は“ノアの騎士”だ。彼女が笑ってくれさえいれば、それでいい。


 今なら分かるよ、シータ…………貴女も、俺の事を同じように想ってくれていたんだって。



「よくも……よくも……俺のノアに手を出したな――――ゼクスッ!! 俺は、絶っ対にお前を許さないぞ……この、大バカ野郎がぁあああああッ!!」

「…………ラ、ラムダさん……激おこ……」



 悪を見て苛立つ事はあったが、大切な人を傷付けられそうになって、ここまで感情が昂ぶったのは生まれて始めての経験だった。


 それ程までに、ノアの存在は俺にとっては重く、尊い。だからこそ、護りたい。



「俺には――――たとえアーティファクトの力に縋ってでも、果たすべき約束が、護るべき少女が、倒すべきてきがいる! 邪魔をするなら、たとえ兄でも容赦はしない――――ゼクス=エンシェント!!」

「――――いい眼じゃねぇか! やっとテメェの“本気”を拝めそうだな……ラムダちゃん!!」

「覚悟しろ、ゼクス! 二度とノアに近付けれないようにしてやる……!!」

「――――ハッ! 笑わせんな、テメェも人形もまとめてあの世に送ってやんよ……!! 安心しな……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」



 迷うな、躊躇ためらうな、甘さを捨てろ――――ノア……君の為なら、俺は喜んでこの手を血に染めよう。


 それこそが……ラムダ=エンシェント――――いずれ女神システムを討つ、『アーティファクトの騎士』の役目。



「――――来い! 対艦砲撃光学兵装アンチ・マテリアル・ビームライフル!!」

「そうだ……! 非情になれ、冷酷になれ、無慈悲になれ――――立ち塞がる“敵”をことごく斬り殺せ! それこそが……テメェが“騎士”として生き抜く唯一の道だ!!」

「ラムダさん……だめ、狂気に呑み込まれないで!! ラムダさん、ラムダさんッ!!」



 その手にアーティファクトを――――あらゆる障害をなぎ倒す禁忌の厄災を。ノアの為なら、俺は実の兄だろうと殺してみせる。


 左腕に構えたライフルの引き金を躊躇わずに引く。撃ち出されるのは朱き光量子フォトンの弾丸、触れるもの全てを消し飛ばす朱き閃光。



「――――ヘッ! いいねぇ、その眼だ……それでこそ、殺しがいがあるってもんだぜ!! 【漆黒剣ブラック・セイバー】――――喰い斬れ!!」

「あれは……光量子フォトンを吸収する“黒角柱ブラック・プリズム”で造られた剣……!」

「――――ッ!? ビームライフルの弾丸を掻き消した……!?」

「クッククク……いい気になるなや、ラムダちゃんよぉ……! 言ったろ? アーティファクトに頼ってるようじゃ、テメェはまだまだ半人前だってな!!」



 だが、俺が撃った弾丸はゼクス兄さんに届くことなく、彼が振るった漆黒の剣の刀身へと吸い込まれて消えて無くなる。


 ゼクス兄さんが持つ漆黒の剣の水晶の様な刀身の中で輝く朱い光――――間違いない、俺が撃った弾丸はあの刀身に吸収されている。


 つまり、()()()()()()()



「後ろの人形もろとも吹っ飛びなッ!! 【漆黒剣ブラック・セイバー】――――“開放撃”!!」

「――――斬り裂け、【流星剣メテオザンバー】!!」



 ゼクス兄さんの持つ漆黒の剣から放たれた朱い光量子フォトンの弾丸。それを俺は流星剣メテオザンバーで斬り裂いて無効化する。


 やられた――――あと一歩間違えれば後ろのノアとレティシアを巻き添えにするところだった。



「ラムダさん……お願い……アーティファクトの力に魅せられないで……」

「クックック……無駄だ、人形……! 俺様も、ラムダちゃんも……力を欲している…………故に、アーティファクトの与える強さの“快楽”にゃあ抗えねぇ……」

「あなた……もう脳が焼き切れて……!? やめなさい、死にたいの!?」



 眼を血で充血させて、口から、眼から、血を流しながら――――それでもゼクス兄さんはわらっている。


 アーティファクトの使用による重篤な副作用――――急速に枯渇する魔力、過重負荷の影響で焼き切れていく脳細胞がゼクス兄さんの“限界”を警告する。



「あぁ!? 人形がいっちょ前に人様の心配か? うぜぇぞ、死ね!!」

「俺の目の前でノアを侮辱するな、ゼクス……!!」



 それでも、ゼクス=エンシェントは止まらない。なら、俺も止まる訳にはいかない。


 必ずここで、兄を倒す――――たとえ、どちらかが死んだとしても。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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