第72話:VS.【黒騎士】ゼクス=エンシェント 〜The Avenging Knight〜
「固有スキル発動ォ――――【衰弱死針】!!」
「――――悪いけど、同じ手は二度と通用させない! 【行動予測】……!」
開幕一番、ゼクス兄さんが射ち出すは極小の毒針――――刺さった相手のレベルを下げて衰弱させるスキル【衰弱死針】による攻撃。肉眼では捉えることも困難な不可視の猛毒。
だが、対策は打ってある。以前、オトゥールで兄さんと戦った際にこの針による弱体を許してしまった俺だったが、その後のノアによる【七式観測眼】の細やかな調整で『視認困難な攻撃を強調表示する』ようにしてもらっている。
つまり、今回のゼクス兄さんの射った毒針は視えている。
射ち出された毒針を全て見切り、流星剣で正確に斬り落として、まずは相手の出鼻を挫いていく。
「くくく……やはり対策済みか……! なら……駆動斬撃刃――――【斬撃包囲刃】展開!!」
「――――くっ! なら俺も……駆動斬撃刃、展開! 【自動操縦】――――敵の駆動斬撃刃を全て防げ!」
「ラムダさん、上です!」
「【アンチ・マテリアル・ビームライフル】――――発射!」
「――――ッ!! 光量子障壁!!」
だが、相手はゼクス兄さんだけでは無い――――アーティファクト【天使】、心無き殺戮の天使が俺に目掛けて朱き光量子の弾丸を撃ち放つ。
【対艦砲撃光学兵装】――――俺が一番最初に手にしたアーティファクト。それを天使はさも当たり前のように所持し、使って来た。
ノアが以前俺に教えてくれた『俺の持つアーティファクトの大半が当時は“一般兵装”だった』意味がようやく分かった。俺の有する火力が、ノアの時代の当たり前だったのか。
「――――うぉおおお!!」
「――――チッ! 防いだか! おい、人形天使、もっと兵器はねぇのか!?」
「ラムダ=エンシェントへの有効兵装――――検索。胸部疑似量子ドライヴ【ソウル・ジュエル】より固有スキル抽出…………【灰かぶりの熱刃】発動」
天使の一撃をなんとか防ぎ切り、次弾に備える。だが、そんな俺が目撃したのはあり得ざる光景――――天使の胸部に備え付けられた朱い宝石は眩く光を放ち、それと同時に俺の周囲に“灰”が舞い散り始めたのだ。
俺の身体を両断するように走る【行動予測】の朱い幻影――――間違いない、このスキルを俺は知っている。
「灰……? ま、まさか――――ッ!?」
「――――“灼光”」
それはつい先日【ラピーナ城】で対峙したグレイヴ=サーベラスの固有スキル【灰かぶりの熱刃】――――天使がライフルを大きく横に向けて薙いだ瞬間、俺の目の前で発火して輝く灰の一閃。
流星剣で辛うじて攻撃を防いだが、正直動揺は隠せない。
俺の固有スキル【ゴミ拾い】と同じように“特定の条件”を満たした場合、他者の固有スキルを修得する機能をあの【天使】は持っている事になる。
でなければ、本来はこの世に唯一無二である筈のグレイヴの固有スキルをあの【天使】が使うのはおかしな話である。
そして、あの【天使】が固有スキルを修得した条件は――――
「あの胸の宝玉か!」
「大当たりだ、ラムダちゃん! あの胸の宝玉こそ、メメントの固有スキル【来たれ、汝甘き死の時よ】で作った『人の魂の結晶』――――あの天使はその宝石から故人の固有スキルを奪ってんのさ!!」
――――胸に嵌められた宝玉。
「ラムダさん、あの宝玉は恐らく欠損した【天使】の動力炉の代用品――――あれを砕けば【天使】は機能停止する筈です!」
「分かった! 破壊してみる!」
「それを……俺様が許すと思うか!? 斬り刻め、駆動斬撃刃ども!!」
「スキル模倣――――灰燼灰去“灼閃”」
ゼクス兄さんが駆る十基の剣が、天使が放つ灼熱の光刃が――――俺を喰い殺さんと大挙して押し寄せる。
無数の斬撃、数多の凶刃――――逃げ道は無い。少しでも臆せば俺は死ぬ。
「ラムダさん!!」
「俺は……死なない! オリビアと約束したんだ――――絶対に、生きてみせるって!!」
逃げるな――――戦って、戦って、戦い抜いて、例えどんな地獄の果てであろうとも、俺は生き抜いてみせる。
それが、俺とオリビアの約束――――俺の生きる理由。
「【光の翼】――――最大加速!!」
「ラムダ=エンシェント、急速加速。迎撃、近接戦闘形態へ移行――――【ライトニング・セイバー】展開」
「――――俺様狙いか? 良いぜ……来な! 遊んでやんよ――――ラムダちゃん!!」
狙うはゼクス=エンシェント――――俺と黒騎士の繰り出した駆動斬撃刃が激しくぶつかり合い、天使が繰り出した灼熱の剣閃が乱舞する。
その激しい剣戟の中を潜り抜け、俺は実の兄に流星剣を振り抜く。
「起きやがれ、アーティファクト――――【漆黒剣】!! 渦巻く光の量子を根こそぎ喰い尽くせ!!」
「ゼクス=エンシェント――――覚悟!!」
相対するはゼクス兄さんが次元魔法で繰り出した黒い刀身のアーティファクト――――光を喰い尽くさんとブラックホールの様に黒く染まった漆黒の剣。
克ち合う剣と剣――――あの時、エンシェント邸で斬り結んだ以来の再戦。
今度は、戦いを諫めるツヴァイ姉さんは居ない――――正真正銘、命を掛けた決闘だ。
「なぜ……メメントなんかに……!!」
「クックックッ……ヒャーッハッハッハ!! てめぇなんぞに俺様の気持ちが分かるかよ!! 死ね、死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねや!!」
「この……大バカ兄貴が!!」
「――――ラムダさん、後ろ!!」
「――――ラムダ=エンシェント、排除します」
目の前には黒剣を振るゼクス兄さんが、背後には閃光剣を大きく振りかぶった【天使】が――――光と闇の挟撃が俺を仕留めんと刃を光らせる。
だが、ここでむざむざ殺される訳にもいかない――――俺は生きて、ノア達と旅を続けたいんだ。
「――――起きろ、破邪の聖剣【シャルルマーニュ】!!」
『ご主人様の命とあらば喜んで、我が名は【シャルルマーニュ】――――破邪撃滅の聖剣なり!』
「――――聖剣だと!? チッ、面倒くせぇ!! 引け、人形!!」
「命令拒否――――ラムダ=エンシェントの排除を優先します」
両手で構えていた流星剣を左手だけに添えて、俺は背負っていた【破邪の聖剣】に手を掛ける。
俺の動きを視た瞬間、後方へ飛び退くゼクス兄さん。ゼクス兄さんの命令を無視して俺へと突撃を仕掛ける【天使】――――ならば、優先して叩くは後方の敵。
「攻撃――――不発。対象、対光量子因子【星屑の因子】配合兵装を所持」
「――――チッ、バカが!」
「残念……そのアーティファクトの性能はよく知っているんだよ!! 斬り裂け、輝きの断光――――“不滅の刃”!!」
ゼクス兄さんが距離を取ったのを確認した俺は、くるりと身を翻して流星剣で【天使】の光量子の光刃を受け止めて――――そのまま回転の勢いを付け、【破邪の聖剣】で【天使】の左腕を躊躇うことなく斬り裂いた。
「どうだ!!」
「左腕部損傷、【ライトニング・セイバー】損壊――――【ルミナス・フェザー】発射」
「――――くッ!」
だが【天使】は止まらない――――左腕を斬り落とされたのにも関わらず、【天使】は怯む素振りすら見せずに【光の翼】からの光弾を至近距離から撃ち出してくる。
とっさの攻撃を俺が装備する【光の翼】を身体の前方へと回して防ぎ、【天使】の様子を伺う。
光弾を連射しながら少しずつ距離を取っていく【天使】――――恐らくは安全に距離を離して再び遠距離攻撃へと切り替えるのだろう。
なら――――
「【破邪の聖剣】……例の技、やるぞ!」
『―――え゛ッ!? い、いいえ……もちろん、お任せください!』
――――とっておきの隠し玉の出番だ。
「ラムダ……何か企んでいるな! 駆動斬撃刃――――ラムダを潰せ!!」
「兄さんには邪魔させない――――駆動斬撃刃、射撃形態!!」
「――――ぐッ!? クソが……このアーティファクト、射撃も出来んのかよ!!」
ゼクス兄さんの動きを牽制しつつ、【天使】が仕掛けるのをじっと待つ――――チャンスは一瞬、【天使】が光弾を撃ち終えた瞬間が勝負だ。
「固有スキル【灰かぶりの熱刃】模倣再現――――空間灼滅……」
「今だ――――これなるは破邪撃滅の聖剣…………彼岸より来る厄災を討つ神の剣……」
「なんだ……ラムダの持つ聖剣に光が……!? 天使、大技が来るぞ――――さっと迎撃に入れ!!」
俺の周りに漂い始める大量の“灰”、周囲の被害を鑑みない無差別攻撃、グレイヴすら使うことが無かった最大の大技の予兆。
その【天使】の一撃に応えるべく、俺は【破邪の聖剣】へと魔力を集束させていく。
お互いの切り札――――恐らく、これで【天使】との決着はつく。
「廻りて来たれ、集いて廻れ、星の息吹よ高らかに…………破邪、撃滅!!」
「ちぃ、俺様も巻き添えか? 駆動斬撃刃、俺様を守れ!!」
「――――“灼那”」
「――――【君臨せよ、偉大なる大帝よ】!!」
空を舞う【天使】が繰り出すのは闘技場一帯に広がった“灰”を一斉着火させた大規模破壊攻撃。幾重もの爆撃音が鳴り響き、“灰”に着火した灼熱の閃光が周囲を真っ白に染めあげる。
そして、俺が繰り出すのは聖剣より放たれる虹色の斬撃。【天使】が起こした爆撃を一気に掻き消し、光の壁となって相対する敵へと伸びる必殺の一撃。
「高エネルギー反応確認――――迎撃準備、【アンチ・マテリアル・ビームライフル】発射」
その聖剣の一撃を認識し、【天使】はビームライフルを残された右腕に構えて撃ち出す。
禍々しく光る朱い光量子の弾丸は聖剣の一撃にも気圧される事なく飛距離を伸ばし――――瞬きの間に虹色の斬撃とぶつかりあって、激しい閃光と共に諸共霧散して消え去る。
「迎撃完了――――」
「バカが!! その斬撃は“囮”だッ!!」
「――――ラムダ=エンシェントへの追げ――ッ!?」
その瞬間こそ、俺が狙ったチャンスだとも【天使】は気付かずに。
「必殺……【超電磁聖剣砲】……!!」
【天使】の胸部に突き刺さり貫通した【破邪の聖剣】――――以前、魔王アワリティアの魂を討つ際に左腕の【超電磁砲】で聖剣をぶっ放した即席技の完成版。
音速を超える勢いで射出された聖剣は、【精密射撃】のスキルで狙った通りに【天使】の胸に嵌められた朱い宝玉を完全に破壊してみせた。
「胸部……動力炉……損傷…………修復……不可……機能…………停……止――――」
「役立たずが……!!」
激しい放電を発し始め、俺が左腕の磁力の力で聖剣を回収した瞬間に【天使】は内部から爆発して瓦解。吹き飛んだ【天使】の残骸が闘技場に降り注ぐ中、俺は再びゼクス兄さんと視線を合わせる。
「ゼクス兄さん……」
「良いぜ……これでお望みの“一対一”だ――――さぁ……覚悟しな、ラムダちゃん!!」
攻撃の余波で傷付いた黒き兜を脱ぎ捨てて、曝されたのは狂気に満ちた兄の顔――――メメントと手を組み、悪しき道へと墜ちた我が兄に、相応しき末路を。
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