第71話:すでにすべて終わりぬ
「誰か……誰か……誰か、助けて……!!」
「――――レティシア姫……!!」
「さぁ、選ぶのです……ラムダ=エンシェント!! ノアか、レティシア姫か――――無論、両方欲張ろう等とは考えないこと…………私の合図一つで、天使はレティシア姫に攻撃を加えて……あの哀れな姫騎士は無惨な肉塊へと変わり果てるでしょう……!!」
「――――貴様……!!」
メメントは嘲笑う、俺に迫られた二者択一。ノアか、レティシア姫か――――救えるのはただひとり。
「ラムダさん……」
「俺は……俺は……ノアの手は、放せない……! 放したくない……!!」
「なら……名残惜しいですが、レティシア姫には死んでいただきましょう……! あぁ、亡骸を【アンデッド】に変えてもの好きな愛好家に売るのも良いですねぇ……」
「ラムダさん! 私は良いから、あの人を救ってあげて!」
「俺は……“ノアの騎士”だ! だから、ノアは絶対に死なせない……メメントにも、渡してなるもんか……!!」
そうだ――――俺はノアを護る騎士だ。だから、たとえレティシア姫の命が天秤にかけられたとしても、俺はノアを護らないと。
「ラムダ卿! レティシア姫をお救いくださいませ……あなただけですのよ、あの方を救えるのは!!」
「御主人様……!!」
「…………くそ!」
「――――迷っているな、ラムダちゃん? 何なら、俺様が手ぇ貸してやろうか?」
「その言い方…………まさか!?」
それでも、レティシア姫をみすみす見殺しには出来ない――――王女であろうとなかろうと、レティシア姫は囚われた人々を救わんと命を掛けた気高き理想の持ち主だ。
救えるのなら、救いたい。
だから、選べない――――そんな時に聴こえたのは、メメントの側に控えていた【黒騎士】の声、聞き覚えのあるあの声。
――――うんざりするほどに聴き慣れた、兄の声。
「――――その薄気味悪ぃ人形と一緒に吹き飛びな、ラムダちゃん!!」
「――――ッ!? 勝手な真似をするな、ゼクス=エンシェント!!」
「――――ノア!!」
メメントの側から急速に接近した【黒騎士】――――彼が手にした黒い剣は俺へと振り抜かれる。
不意の強襲、咄嗟の防御――――水平に振り抜かれた剣を左腕で受け止めた俺だったが、その勢いは殺しきれずに、ノアもろとも窓から弾き出されて闘技場へと落下してしまう。
落ちた先はレティシア姫のすぐ側――――不幸中の幸いか、これならふたりを十分に護れる箇所だ。
「やはり……防ぐか……! 相変わらずムカつく奴だな、ラムダちゃん……!!」
「――――ゼクス……兄さん……!!」
「何をしているのですか、貴方は!? 私の計画の足を引っ張るつもりですか!?」
「勘違いすんなや、メメント……!! 俺様の目的はあくまでも『復讐』だ――――てめぇの悪趣味なおままごとに付き合う義理なんざねぇよ!!」
「お……お止めください、ゼクス様! 兄弟同士でこんな事……!!」
「てめぇは黙ってろ、コレット! これは――――俺様とラムダちゃんの問題だ!!」
俺を追い闘技場へと降り立つ【黒騎士】――――ゼクス=エンシェント、俺の実の兄。
オトゥールでのルージュの襲撃事件で父さんにサートゥス騎士団の団長の座を追われた筈の兄が、メメントの手先として再び俺に立ちはだかる。
「なぜ…………ゼクス兄さんが【死の商人】になんか……!?」
「決ってんだろ……てめぇを殺すためさ、ラムダちゃん! 俺様の名誉に泥を塗った……まがい物の“騎士”であるてめぇになぁ!!」
「なんて愚かなの……!」
「人形は黙ってな! てめぇはそこで泣き喚いてる王女様の側でお得意のアーティファクトで結界でも張っていたらどうだ?」
「――――――まさか、あの人……?」
黒剣を振り回し俺を威圧するゼクス兄さん――――以前、オトゥールで俺に倒された事を覚えていないのか?
違う、覚えている。だからメメントと組んだんだ――――あの死神と“契約”して、俺を殺す力を得るために。
「ラムダさん、私……!」
「分かっている――――レティシア姫を頼む!」
「――――はい!」
「おのれ、余計な真似を……こうなったら、私自ら……!!」
「動くな、メメント!! お前の相手は……僕たちだ!!」
「ノア様もレティシア様も、貴女には渡しません!!」
「シータさんの仇……覚悟!!」
「御主人様をよくも傷付けたな……!」
「塵芥が……!! 良いでしょう……私が――――死ぬよりも深い恐怖を味あわせてあげます!!」
暗き部屋にて対峙するのは【死神】メメントとミリアリア、コレット、オリビア、ルージュの4名。それぞれ武器を手に、強い覚悟を持ってメメントと相対する。
そして、闘技場で対峙するのは俺と、【黒騎士】ゼクス=エンシェントと機械天使【ティタノマキナ】――――ノアとレティシア姫を護りながらの二対一。
「しっかりしてください、レティシアさん!」
「うぅ……貴女は……?」
「あなたを助けに来た勇者パーティー【ベルヴェルク】のノアです! さぁ、回復薬を……!!」
「……【ベルヴェルク】……あの、『勇者事変』の英雄の……? うぅ……うぅぅ…………お願い……助けて……!」
「もちろん! 私たちが必ず貴女を救います!」
レティシア姫の手当てを行うノアは動けない――――なら、俺が護らないと。
「――――シャルロットさん、ここは僕たちに任せて、貴女は早く避難を!!」
「――――ッ! 仕方ありませんわ……此処はあなた方に任せます……!! ですが、私も誇りあるエシャロット伯爵の娘、タダでは退きませんわ! 必ずやあなたに引導を渡しますわ――――【死の商人】メメント!」
メメントの相手はミリアリア達に託すしか無い。俺の相手はゼクス兄さんと天使だ。
右手首の量子変換装置に格納してあった普段着に着換え、俺は流星剣を構えて立ちはだかる敵に備える。
「対象、複数の兵装所持を確認――――最優先排除対象設定。排除、排除、排除」
「――――だ、そうだ? 悪ぃな、ラムダちゃん……遠慮なく殺させて貰うぜ!!」
「簡単に出来るかな? 俺にオトゥールでやられたのを忘れたのかい、兄さん……!!」
「覚えているさ……!! だから、今度は俺様も“玩具”を使わせて貰うぜ――――アーティファクト……【光量子自在推進式駆動斬撃刃】……起動ッ!!」
「――――なッ!?」
「うそ…………ラムダさん以外が、アーティファクトを使うなんて……自殺行為よ!!」
【黒騎士】は左腕を天に掲げて叫ぶ、古の兵器の名を。それは、空を自在に駆ける十基の剣――――俺が使うアーティファクトと同名の剣の名前。
ゼクス兄さんの周りに出現する十基の駆動斬撃刃が、オトゥールであった筈のゼクス兄さんの印象を容易く書き換えていく。
「くくく……ヒャッハハハハハ!! こんな便利な玩具を使ったんだ……そりゃ、俺様も不覚を取るよな……! だからよぉ……此処から先は対等だ!」
「やめろ、兄さんじゃアーティファクトは扱いきれない!」
「安心しな……俺様はメメントと“契約”して、新しい固有スキルを手に入れたんだ! アーティファクトなんざ、すぐにでも使いこなしてやんよッ!!」
「――――ッ!!」
「おい、可愛げのねぇ人形天使! てめぇも混ざれや」
「“アーティファクトの騎士”――――ラムダ=エンシェントを最優先撃破対象として認識。【アンチ・マテリアル・ビームライフル】……発射段階へと移行……」
「ラムダさん――――死なないで!」
【死の商人】メメントが織り成す“死”の演劇は第四幕へと――――アーティファクト同士のぶつかりあい、エンシェントの騎士たちの死闘の再演。
それは、“死”の螺旋に囚われた――――ある騎士の復讐譚。
「さぁ、無様に死ねや――――ゴミ漁りが大好きな……ラムダ=エンシェントッ!!」
「――――殲滅開始」
【この作品を読んでいただいた読者様へ】
ご覧いただきありがとうございます。
この話を「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、↓の☆☆☆☆☆を★★★★★にしたりブックマーク登録をして頂けると幸いです。




