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第65話:役者は出揃い、勇敢なる者は“死”の螺旋へと臨む


 ――――かつての強敵、何の因果か俺の下僕しもべとなった【吸血淫魔ヴァンパイア・サキュバス】リリエット=ルージュは語る。


 グランティアーゼ王国を蝕む真性邪悪――――【死の商人】メメントの秘密を。



「【死の商人】……名をメメント――――このグランティアーゼ王国はおろか、我が陛下……“暴食の魔王”グラトニス様とも取り引きを行う闇の商人……!」

「暴食の魔王……グラトニス……それが僕の命を狙った魔王の名前……」

「【死の商人】と取り引き――――いえ、“契約”した者は一時の望みを叶える力を得る代わりに、契約が終了した時に……対価として【死の商人】に魂を奪われる……」

「それじゃあ……【ケルベロス傭兵団】のグレイヴさんが急に亡くなったのは……!」

「【死の商人】の固有ユニークスキル――――【来たれ、(エテル)汝甘き死の時よ(ヌス・アニマ)】で魂を蒐集されたのでしょう……」



 明かされたのは身の毛もよだつ【死の商人】の本性。力を渇望する者に固有ユニークスキル【来たれ、(エテル)汝甘き死の時よ(ヌス・アニマ)】で契約して偽りの力を渡し、契約が終わった瞬間に魂を奪う邪悪な商いの正体。



「かく言う、うちも……【死の商人】と“契約”を交わしたひとり…………」

「ルージュが……!?」

「うちは元々……低級淫魔(サキュバス)吸血鬼ヴァンパイアの混血……レベルも高くない“雑魚”でした……! だから、強くなりたくて…………」

「【死の商人】と契約をしたのですね……」

「確かにうちは強くなりました――――それこそ、王立ダモクレス騎士団の第二師団のおさ……【竜騎士】ツヴァイ=エンシェントにも引けを取らない程に……!」



 そして、明かされた秘密はもう一つ――――ルージュもまた、【死の商人】の手のひらで踊らされた犠牲者だったと言うこと。



「魔王様に【勇者】の殺害を命じられた時……【死の商人】はうちに『勇者の亡骸を迷宮都市【エルロル】に運ぶ』ように命じてきました……」

「迷宮都市【エルロル】……!? まさか……アワリティアがアリアに固執してたのは……!!」

「はい……【死の商人】の差し金で相違ありません……そして、御主人様ダーリンに敗北し、ラジアータ村の教会に隠れ潜んでいたうちは……【死の商人】の前に引き摺り出されて……」

「そのまま『踊り子の酒場』に売られた……」

「うちは……うちは……うちを拾ってくれた魔王様とディアスにいの役に立ちたかっただけなのに…………うぅぅ……うぁああああああん!!」



 ルージュは涙を流しながら【死の商人】との取り引きを、俺に敗北した後の経緯を語る――――彼女の話が本当ならば、『神授の儀』を受けたその日から、【死の商人】の魔の手は俺の周りにうごめいていた事になる。


 鳥肌が立つ、目眩がする、吐き気がする――――どこまでも不気味な邪悪の化身。それが、【死の商人】と言われた者。



「うちは……うちは……このままだと【死の商人】に魂を取られてしまう……! やっと御主人様ダーリンと再会できたのに……碌な奉仕も出来ずにあいつに殺されるなんて……そんなの嫌……!!」

「ルージュ……」

御主人様ダーリン……助けて……! 今まで悪いことしてごめんなさい……!! 迷惑かけてごめんなさい……!! どんな罰も受けるから、どんな償いでもするから……うちを……助けて……!!」

「ラムダ様……これは…………あまりに…………」

「酷い……! ここまで追い詰めるなんて……!!」



 誰かの役に立ちたい――――そんな“ささやかな願い”につけ込んで、死の“契約”を迫る悪魔の所業。


 その願いにつけ入られ、ルージュはいま“死”の恐怖――――いや、それ以上の末路に怯えている。


 確かに、ルージュがこれまで行ってきた行動は魔王軍の益になるとは言え、俺たちから見れば殺人を愉しんだ“虐殺”と言うべき残虐な行為。


 いま彼女が置かれている危機的状況は、まさに『因果応報』、『自業自得』と言うべき結果だ。


 だが、もしルージュが今回の一件で自らいた因果の報いを受けるのなら――――彼女よりも先に因果の報いを受けなければならない“巨悪”が一人いる。



「ルージュ……約束する、お前の“魂”は【死の商人】になんか絶対に渡さない!」

「…………御主人様ダーリン……!!」

「お前の魂は……もう俺のものなんだろ? なら、【死の商人】になんて渡してたまるか!」

「うぅぅ……ダ……御主人様ダーリン……!!」

「わぁ~、堕ちましたね〜……これはリリエット=ルージュも“いちころ”ですね……流石はラムダ様〜!」

「また“恋敵ライバル”が……!」

「――――はい! 【死の商人】を倒す為なら、うちは御主人様ダーリンにどこまでも尽くします!!」



 役者は揃いつつある――――あとは、【快楽園メル・モル】への入口を見つけるだけ。



「ルージュ、【死の商人】が潜む【快楽園メル・モル】へはどうやったら行けるんだ?」

「それが……うちが【快楽園メル・モル】に送られたのは荷物の投函口からだったので……正規の侵入方法までは……」

「投函口って……手紙かよ……」

「やはりアリアさんの『奴隷として潜入』と言う駄策ださくで行くしかないのでしょうか? その場合はアリアさんに“奴隷”に扮して貰いましょうか……!」

「えぇ!? 嫌だよ、ここは普通じゃんけんでしょ!?」

「はいはい、奴隷潜入は無し! 誰か場所を知らないのか?」

「オーッホッホッホ! お困りのようですわね……【ベルヴェルク】の皆々様……!」



 八方塞がり――――案が無くなり全員が頭を抱えた瞬間、部屋の外から聴こえたのは聞き覚えのある高笑い。



「お”っ♡ なんとか立てたけど……ドアにもたれ掛かるのが精一杯……んひ♡ ドアの感触も気持ちいい♡ くっ……ルージュちゃん……よくもこの美少女ヒロインのノアちゃんにあんなはずかしめを……!!」

「とぉーーっ! ごめん遊ばせーーーーッ!!」

「んぎゃーーッ!? ドアが急にーーっ、あっ♡ 背中とお尻がぁーーーーっ♡♡♡」



 ノアがもたれ掛かったドアをノアごと蹴飛ばして現れたのは、【ラピーナ城】で救出した伯爵令嬢のシャルロット=エシャロット……普通に入ってこいよ。


 部屋の中央で快感に悶え苦しむノアに目もくれず、シャルロットは誇らしげな顔を俺たちを見せつける。



「エ……エシャロット伯爵令嬢…………な、何かご用で……?」

「『何かご用』ではありませんわ、ラムダ卿! 言ったでしょう、助けてもらった礼は必ず返すと……! それが、今ですわーーッ!!」

「声がでけぇ……」

「うっふふふふ……! 実はわたくし……【快楽園メル・モル】とは繋がりが有りまして……」

闇市場ブラックマーケットと……!? やはり“悪役令嬢”……! わたしのラムダ様に近寄るな、毒婦め!」

「ええい、人の話は最後までお聴きなさい! あなた達、わたくしの“従者メイド”に扮して【快楽園メル・モル】に潜入しますわよ!」

「…………それって!」



 シャルロットのお礼――――それは【快楽園メル・モル】への潜入の手助け。彼女は俺たちを自身の“従者メイド”にして案内するとかって出たのだ。



「【快楽園メル・モル】は会員制の裏市場ブラックマーケット……一介の冒険者ではまず間違いなく入れません――――ですが、実はわたくし……【死の商人】から【快楽園メル・モル】への“招待状”を頂いておりますの……高貴なる伯爵令嬢ですので……伯爵令嬢ですのでッ!!」

「うるせぇ……」

「でも、それなら……!」

「えぇ……本当は裏社会デビューついでに新しいメイドを買う予定でしたが……気が変わりましたわ。あなた達の正義に応え、わたくしも正義を成す覚悟を決めましょう……“災いを引き起こす者”【ベルヴェルク】――――共に【快楽園メル・モル】へ! そして、【死の商人】が繰り広げる“死”の螺旋に決着をお付けなさい!!」



 シャルロット伯爵令嬢の協力よって、遂に“役者”は出揃った。いざ、【快楽園メル・モル】へ――――【死の商人】メメントが座す快楽流転の『悪の都』へ。


 死をもてあそぶ悪しき商人に、相応しき報いを。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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