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第64話:【隷属紋章】と【服従の首輪】


「改めまして……うちの名前はリリエット=ルージュ――――我が角を折りし力強き御主人様ダーリン……ラムダ=エンシェント様に忠誠を誓う下僕にございます♡ なんなりとうちにご命令ください……御主人様ダーリン♡」

「…………どうしてこうなった?」

「もうだめ……オリビアは気絶します…………きゅう…………」

「オリビア様が気を失って倒れました〜」

「………………ぁ、ぅん……そうだね…………」



 ――――【享楽の都(アモーレム)】外周部、冒険者御用達宿『アスモデウス』。


 いくつか借りた内の一部屋で、リリエット=ルージュは俺の前にひざまずいて忠誠を誓う――――どうしてこうなった?



「あら〜……いつの間にか淫魔サキュバスまで籠絡ろうらくしていたんですね~ラムダさんったら」

「うぅぅ……リリエット=ルージュだなんて…………ツヴァイ様になんて言い訳すれば……!? コレットの尻尾が切り落とされてしまいます〜(泣)」



 結論から言えば――――俺たちはリリエット=ルージュを買った。それも、『踊り子の酒場』の店主マスターとの交渉で“半永久的”に。


 理由は単純明快――――リリエット=ルージュは、自らの“角“を折った俺にしか懐かないからである。


 仮に、他の男がルージュを買ったとしても、彼女はその男を拒絶して、身体も許さなかったであろう。


 男に身体も心も許さないのであれば『踊り子の酒場』の“商品”としての価値は無く、リリエット=ルージュは価値も何も無い“ゴミ”だと――――店主マスターはそう吐き捨ててルージュを手放した。


 どうやら、店主マスターもまた【死の商人】に踊らされて、ルージュの“角”が折られた原因を聞かされていなかったらしい。


 他の男たちもルージュの俺への反応を見て購入を諦め、【ベルヴェルク】は相場に多少()()()()()額で彼女の購入に成功したのだった。



「さぁ、御主人様ダーリン! うちは何をすれば良いでしょうか? 靴をお舐めしましょうか、性欲をうちの身体で発散させますか、邪魔する敵を皆殺しにしましょうか? 何でもご命令ください――――御主人様ダーリンに使役される事こそが、うちの最大の幸福であり、使命です♡」

「…………ルージュちゃん…………出来る!!」

「ノア様が眼を輝かせてリリエット=ルージュを見詰めています〜」

性格キャラがオトゥールで会った時と違い過ぎる……!?」

「うちは公私は混同しない派なので……仕事の際は“私”で威厳ある振る舞いをモットーにしています♡」



 参ったな、ルージュは完全に俺に忠誠を誓っている。【死の商人】と【快楽園メル・モル】について知りたい俺たちにとって彼女の存在は恐らく重要な手がかりになるだろうが――――残念なことに、解決しなければならない問題が一つある。



「ふざけるな!! 僕の故郷をめちゃくちゃにして……父さんと母さんを殺した悪魔が……どのつら下げて忠誠を誓っているんだ!!」

「お、落ち着いて下さいませミリアリア様……!」



 そう、ミリアリア――――ルージュに故郷を滅ぼされた勇者だ。


 ミリアリアは腰に掛けていた片手剣ショートソードを引き抜いて、その切っ先をルージュへと向ける。


 怒りは当然――――ミリアリアにとってルージュは、友人の仇であり、両親の仇なのだから。



「ミリアリア……! そう……貴女が【勇者】ミリアリア=リリーレッドだったのね……! まさか、私の愛しの御主人様ダーリンと一緒に居たなんて……うふふ……なんて運命なのかしら……!」

「ラムダ様に土下座したままミリアリア様に凄んでいる……!」

「その凄みのある顔で『御主人様ダーリン』って言うな……怖い」

「わたしも貴女にはラジアータで煮え湯を飲まされました……到底、許せるものではありません……!」

「オリビアさんもしれっと復活したね」



 起き上がったオリビアもルージュへ向けて杖を構えている。一触即発、と言う状況が正しいだろう。


 狭い室内でミリアリアとオリビアはルージュへと敵意と武器を向けて、ルージュはふたりに嘲笑うような表情かおをしている。



「殺されたラジアータ村の人たちの仇……例えラムダ様の従僕じゅうぼくであろうとも、ここで貴女に裁きを!!」

「あら、そう? なら、私の大切な部下の仇である貴方達には『裁き』はあるのでしょうか?」

「…………なんだと!?」

「そうでしょ? 私は魔王グラトニス様からお預かりした大切な配下を全員殺されたのよ? あなた達を許せないのは私も同じ――――罪に罰を、なら部下を殺したあなた達にも罰が必要ではなくて?」



 部下の仇――――あの時、【勇者】ミリアリア殺害に連れて来られたルージュの手下たち。俺が倒した魔物モンスターたちの事だ。


 考えさせられる――――俺はルージュの今の言葉を聴くまで、単に凶暴な魔物モンスターをただ倒しただけだと思っていた。


 

 けれど――――


「殺された魔狼ガルムは一族のおさだった……殺されたゴブリン達は私が鍛え上げた精鋭だった、殺されたオーク達は()()()の忠実な家臣だった――――それを皆殺しにして、あなた達に何のとがも無いのかしら?」


 ――――真実は違う。



 俺たちが倒した魔物モンスターにも仲間がいて、家族がいて、忠義を誓うあるじが居た。


 殺し殺されは敵同士の宿痾しゅくあ、どうしようもない。けれどハッキリしているのは、俺たち『人間』はルージュたち魔族から見れば“悪”であること。


 それだけは確かだ……まぁ、ルージュの部下を全滅させたのは俺なんだけど。



「敗軍の将が偉そうに……お前はラムダさんに負けた!」

「えぇ、そうね。私は御主人様ダーリンと戦って……惚れ(まけ)た」

「ノアの直感が言っています……『負けた』の当て字が違うと……」

「粛清されても文句は無いわ……! その代わり――――【死の商人】への手掛かりは無くなると思いなさい?」

「…………卑怯者!!」



 ルージュは【死の商人】から『踊り子の酒場』へと売り飛ばされた。なら、必ず【快楽園メル・モル】を経由している。


 個人的な感情を“無視”すれば、俺に忠誠を誓うルージュの存在は“切り札(ジョーカー)”足り得る――――後は、ミリアリアとオリビアが『個人的な感情』に折り合いを付けれるかどうか。



「既に私は御主人様ダーリンの所有物――――私の進退は……御主人様ダーリン御心みこころのままに」

「ルージュ……」

御主人様ダーリンが『首をねて自害せよ』と命令すれば私は喜んでこの首を落としましょう……御主人様ダーリンが『娼婦になって娼館で永遠に男たちの慰み者になれ』と命令すれば私は喜んでこの身を捧げましょう……私の命は、御主人様ダーリンの物です……!」



 そして、ミリアリアたちの気持ちに、ルージュの命運を決める決定権は俺の手に。



「ラムダ様……ご決断を……!」

「…………ルージュの協力はレティシア姫の奪還、【死の商人】の討伐に必要だ…………アリア、オリビア……ルージュの命、一旦俺に預けてくれ」

御主人様ダーリン……」

「そして、全てが終わった後、それでもルージュが許せないのなら…………俺が彼女の首を刎ねる…………それで納得してくれないか? もちろん、道中でルージュが不審な動きをすれば、その時は即座に処断する!」

「…………ラムダ様」



 ルージュは必要だ――――なら、彼女の首に『首輪』を。俺はルージュを見張ることを条件に、ミリアリアとオリビアを説得する。


 彼女たちにはつらい想いをさせるが、背に腹は代えられない。



「分かった……ラムダさんがそこまで言うなら、僕はこの一件が片付くまで何も言わない…………ただし!」

「野放しは許されません…………せめて、分るように『首輪』を付けて頂かないと安心出来ません……!」

「分かりました……そこまで言うのなら、私の“誠意”――――御主人様ダーリンへと捧げましょう……!」



 誠意を捧げる――――そう言い切ったルージュはゆっくりと立ち上げると、俺の顔をまじまじと見詰める。


 男を惑わす魅惑的な身体、金色こんじきの瞳の奥に浮かぶハートマーク、僅かに鼻腔を刺激する媚臭びしゅう、正しく“性”の化身と言うべき存在が俺の前に立っている。



「うっひょー、ルージュちゃんの身体超えっちじゃーん! 羨ましい〜」

「ノア様……中身がおじさん過ぎる……」

「ふぅ……これは本来、配下にした魔物まものに使う術なのだけど……まさか自分に使う日が来るなんて…………隷属魔法【隷属紋章スレイヴ・ハート】……そして【服従の首輪(スレイヴ・リード)】……!」



 自分に使うとは思っていなかった――――そう言いながらルージュはピンクに輝く魔法陣を両手に展開すると右手を臍部さいぶ、正確には下腹部に、左手を首元にあてがって魔法を発動させる。



「下腹部に紋様もんようが……これって…………“淫紋いんもん”じゃーん! 私、初めて見たーーっ!!」

「なんでこの人、こんなに嬉しそうなんですかね……?」



 下腹部に魔法で刻まれたのは奇妙な意匠いしょうをした紋様もんよう――――いわゆる“淫紋”に近いものが浮かび上がる。


 そして、もう一方の魔法で出現したのはルージュの首に架せられた金属製の『首輪』――――その首輪に繋がったピンク色の魔力で構成された“鎖”はそのまま伸びていき、俺の左腕アインシュタイナーへと結ばれていく。



「これは……?」

「この紋を刻まれた者をあるじの忠実な下僕へと変える魔法【隷属紋章スレイヴ・ハート】と、隷属者を支配者マスターの意のままに使役させる支配の首輪【服従の首輪(スレイヴ・リード)】――――これでうちは名実ともに御主人様マスターの物です♡ 試しに普段のうちなら絶対にしなさそうな命令を下してみてください♡」



 ルージュは眼を輝かせながら俺を視る。どうやら何か命令して欲しいらしい…………困ったな、何かそれっぽい事を命じないと納まりそうにもない。


 仕方ない……もののついでに『お仕置き』も兼ねて、ルージュには一働きしてもらうしかないか。



「へ〜……そこで眼を輝かせているノアをマッサージで」

「…………え゛っ!?」

「は~い♡ 御主人様ダーリン、お任せを〜♡ 淫魔サキュバス仕込みのテク、お見せしますね~♡ ()()マッサージでよろしいでしょうか〜♡」

「せいかん……? あぁ、それでいいよ」

「え゛っ、何で!? 良くないでしょ、ラムダさん……『エロ』に対する頓着とんちゃくなさ過ぎで…………はぅ♡」

「うふふ……魅了チャーム♡ 逃げれませんよ〜、かわいいかわいい、お人形さん♡」



 〜1分後〜



「はぁ♡ はぁ♡ もう無理です♡ ラムダさん……許してください……♡」

「うわぁ……ノアさんが一瞬で……!」

「ベットの上でビクンビクンしてますね……」

「今回のは服の上から身体を撫でるだけの“入門コース”でしたが、御主人様ダーリン……如何でしたか?」

「う~ん、確かに命令には忠実みたいだな。オリビア、アリア……これで一旦、納得してくれた?」

「えぇ……まぁ、わたしはこれで問題ありませんが……」

「ふひ〜♡ ふひ〜♡ あっ、ちょっと待って、これヤバイ♡ 無理無理、まじで気持ち良くて苦しい♡ た、助けて〜♡」

「ノア様のあられもない姿……少し面白いですね……」



 ベットの上で快楽にもだえ苦しむノアを尻目に俺はルージュを見る。これでミリアリアとオリビアは一旦納得してくれた。



 あとは――――


「じゃあ本題だ! ルージュ――――【死の商人】について教えて欲しい……! 俺たちは……奴を倒す!」

「――――ッ!! 本気なのですね、御主人様ダーリン?」


 ――――ルージュから【死の商人】の情報を得るだけだ。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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