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第61話:死の演劇は幕開ける


「オーッホッホッホ! よくぞこの伯爵令嬢であるわたくし…………シャルロット=エシャロットを野蛮な傭兵団の魔の手から助け出してくれましたわね! 感謝しますわよ、冒険者の皆々様!」

「誰……この態度のでかい金髪ドリルの人は……? 僕、こう言う人は苦手だな……」

「エシャロット……王都に名高い汚職政治家のエシャロット伯爵のご令嬢みたいですね……」

「つまり〜……いわゆる“悪役令嬢”ってやつだ!」

「――――ぐぬぬ……! この銀髪の方、わたくしが一番言われたくない“言葉ワード”を的確にぃーーーーっ!!」



 時刻は夜明け頃――――謁見の間にも朝日が差し込む、目覚めの時間。


 【ケルベロス傭兵団】の頭領ボス、グレイヴ=サーベラスの撃破から暫くして、地下牢獄に囚われていた人質を解放したノア達も謁見の間に合流していた。


 しかし、解放された人質は――――目の前でノア達と口論する金髪ドリル髮と黄玉トパーズが如き黄色の瞳、いかにも高額そうな赤いドレスに身を包んだ『シャルロット=エシャロット』と名乗る貴族の少女と、その従者とおぼしきメイドの女性十数人しか居らず――――淡い金髪と緑柱石モルガナイトと見紛う程の鮮やかな薄紅色の瞳と謳われる第二王女レティシアの姿は何処にも無かった。



「まったく……せっかく、【アモーレム】に新しいメイドを買いに来たと言うのに…………そこな野蛮な傭兵に馬車ごと誘拐されたせいで、散々な目に遭いましたわ! 王都に名高いエシャロット伯爵家の令嬢に手を出した罪――――どう払わせましょうか? 裏切りの騎士…………グレイヴ=サーベラス卿?」

「くっ…………くくく…………権力だけが取り柄のエシャロット伯爵の小娘が偉そうに……! あぁ、クソ……昨日、レティシア姫に攻め込まれた時点で、拠点を移しておくべきだったぜ……」

「口答えするな……グレイヴ=サーベラス……! さぁ、レティシア姫は何処だ!?」



 ノア達がこの【ラピーナ城】を隅から隅まで調べてもレティシア姫は見つからなかった。となれば、後は彼女の行方を知っているであろうグレイヴを尋問するのみ。


 俺に倒さてたグレイヴは謁見の間の最奥にある座具に座らされて、オリビアの拘束魔法で縛り付けられている。


 他の傭兵たちも縄で縛られて抵抗出来ない状態。後は、こいつら全員を引き取りに来る冒険者ギルドの回収部隊が来るのをここで待つだけだ。


 時間はたっぷりとある――――こいつには、色々と訊きたいことがあるから、この待ち時間は正直に言ってありがたかった。



「レティシア姫って…………まさか、第二王女のレティシア=エトワール=グランティアーゼ様の事ですの……!? な……王女を拐かすなどと……王立ダモクレス騎士団の第一師団のおさ――――“聖騎士パラディン”アインス=エンシェント卿が出向く程の事案ですわ……!」

「――――アインス兄さんが出陣するほどの異常事態……!」

「…………へ? アインス“兄さん”…………??」

「くくく…………王立ダモクレス騎士団など恐るに足らず、俺の背後には――――もっと大きな“闇”が付いているからな……!」

「――――【死の商人】か……!」



 第二王女の誘拐――――明るみに出れば、王立騎士団が大挙して動くであろう緊急事態。


 それを、かつて王立騎士団に属していたグレイヴ自身が『恐るに足らず』と吐き捨てれる程の自信――――【死の商人】、アーティファクトすら手中に収める裏社会の仲立人ブローカー



「まさか……レティシア姫は既に【快楽園(メル・モル)】に……!?」

「いかにも……レティシア姫ならもう引き渡しちまったよ…………偶々、此処に居合わせた【死の商人】に直接な……!!」

「――――くそ、一歩遅かったのか……! ノア、【快楽園(メル・モル)】についての情報を洗い出してくれ」

「りょーかいです♪ この天才美少女……ノアちゃんに掛かれば王国の“暗部”なんて、すぐに白日はくじつの下に引きずり出せますよー!」

「くくく……自分が“商品”として売られると知った時のレティシア姫の顔ったら無様でしょうがなかったな…………ハッハハハハハ!!」



 時すでに遅し――――レティシア姫は【死の商人】によって既に【快楽園(メル・モル)】に攫われたらしい。


 その事実を告げ、拘束されたグレイヴは勝ち誇ったような表情かおで俺を睨み付けている。



「この外道が……! 人を物みたいに扱いやがって……!!」

「良いねぇ……その苦虫を噛み潰したような顔――――あの忌まわしき天才騎士…………“魂剣こっけん”のシータ=カミングを【快楽園(メル・モル)】に“奴隷”として売った時も、今のお前と同じ顔をしていたなぁ……」

「シータさん……! ラムダ様……この方……!」

「分かっているよ、オリビア…………その事で訊きたい事がある、グレイヴ=サーベラス……!」



 レティシア姫の救助も急がないといけないが、【ケルベロス傭兵団】の身柄の引き渡しも重要だ――――なら、俺はこの男に問いたださないといけない事がある。


 シータ=カミング――――エンシェント家の屋敷で働いていたメイド、俺の教育係、そして父さんと関係を持っていた謎多き女性。黒い髪と蒼い瞳が印象的な、母親の様に俺に接してくれた“思い出”の人。


 俺とオリビアの為に命を落とした――――我が愛しき理想の騎士。


 どうして、彼女と俺とを重ねるのか、それが俺は気になって仕方が無かった。



「シータ=カミングはエンシェント家に仕えていたメイドだ。確かに……俺の剣技はシータさんから教わったものだが、それが何故、顔や雰囲気まで俺に似ていると言う話になるんだ?」

「シータが……アハトの下でメイドとして仕えていた……? フッ、フフフ……ハァーハッハッハ!! ()()()()()()、アハトのジジイ――――エシャロットのご令嬢じゃ満足出来ずに、忌々しいシータの小娘にも粉を掛けていやがったのか!!」

「お前、何を言って…………!?」



 何かを悟ったのか大笑いを始めるグレイヴ――――彼はシータを“奴隷”として【快楽園メル・モル】に売ったと言った。


 つまり、王立ダモクレス騎士団に所属していた【騎士】シータ=カミングは、アハト=エンシェント――――父さんに“奴隷”として買われて、エンシェント家の【メイド】になった事になる。


 そして――――ふたりには、決して口外できない“秘密”の関係があった。



「ラムダさん……顔色が悪いですよ…………少し休まれた方が…………」

「シータさんは……まさか、父さんに…………?」

「察しが良いな……そうさ、アハトはシータを昔から――――ッ!?」



 父さんはシータの事を――――そこまで言って、グレイヴは顔色を変えて黙ってしまう。



「なぜ口を閉ざす!? 言え、父さんとシータさんに何が…………」

「ラ、ラムダ様…………この方、様子が変です……!」

「…………ま、待ってくれ…………俺はまだ戦える…………頼む、まだ殺さないでくれ……!!」

「…………誰かと……話している……?」



 オリビアの拘束から逃れようと必死に身体を揺らすグレイヴ。顔色はみるみる内に青ざめていき、額から大量の汗を流しながら、見えない誰かに、俺たちには感知できない誰かに、必死に言い訳を繰り返す。



「俺はあんたの言う事を聞いて、あんたの依頼を確実にこなして来た!! 四年前の【鬣犬ハイエナ盗賊団】の件だって…………俺はあんたに頼まれて、盗賊どもの手配をしただけだ!!」

「……【鬣犬ハイエナ盗賊団】……!? まさか――――エンシェント辺境伯襲撃事件を仕組んだのは……!!」

「あなた達……だったのですね……!! よくも……よくも……!!」

「ラムダさん、オリビアさん、お……落ち着いてください! なんでそんなに血相を変えて……!?」



 その中で飛び出した事実――――四年前、エンシェント辺境伯を狙い【鬣犬ハイエナ盗賊団】が起こした事件。


 シータ=カミングが死んだ――――忌まわしいあの冬の日の出来事。


 それを仕組んだのが、目の前にいるグレイヴだった。俺も、オリビアも、怒りに拳を震わせて目の前で何かに怯える男を睨み付ける。



 けれど――――


「あぁ……奪われる…………俺の魂が…………許してください…………メメント…………! あぁ……【来たれ、(エテル)汝甘き死の時よ(ヌス・アニマ)】…………!!」


 ――――俺たちがグレイヴの口から真実を聞き出せる事は無く、意味深な言葉だけを残して傭兵団の頭領とうりょうは苦痛の中で絶命していった。



 白目を剥いて息絶えた男の身体から溢れた発光体――――あの時、俺と死闘を演じた魔王アワリティアが見せた発光体、“魂”と同じ紅い光。


 その紅い光はまるで何かに手繰り寄せられるように【享楽の都(アモーレム)】へと飛んで行き、やがて見えなくなっていった。



「メメント……わたくしたちの住むグランティアーゼ王国の裏社会に暗躍する仲立人ブローカー――――付けられた二つ名は【死の商人】ですわ!」

「ラムダ様……」

「あぁ……【死の商人】の仕業だったんだ! 四年前の事も含めて――――全部……!!」



 第二王女レティシアの失踪、迷宮都市【エルロル】での戦い、エンシェント辺境伯襲撃事件、シータ=カミングの死――――俺たちが関わった事件に見え隠れする“闇”の影。


 その名は【死の商人】メメント――――グランティアーゼ王国に巣食った“がん”、死をもてあそぶ怪物、俺の大切な“騎士”を死に追いやった仇敵きゅうてき


 グレイヴの魂が消えた街――――【享楽の都(アモーレム)】。奴は間違いなく其処そこにいる。


 あの日、止まったままになった俺たちの運命の歯車、寒い冬の日に置き去りにされた苦痛、奪われた大切な命――――全ての因果は、【死の商人】の元へと集約される。



「必ず追い詰める――――覚悟しろ、【死の商人】メメント!!」



 死の演劇は幕開き、俺たち【ベルヴェルク】は舞台へと立つ。


 快楽が流転する、“死”の螺旋の舞台へと。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


ご覧いただきありがとうございます。


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