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第60話:地獄の番犬は地獄を見る


「――――【光量子自在推進フォトニック・式駆動斬撃刃セイバービット】、機動開始……! 包囲斬撃刃オールレンジ・ソード、展開!」

「あれは……アハトのジジイが大型魔獣相手に良く使っていた包囲戦術の模倣か……!? 鬱陶うっとうしい――――焼き尽くせケルベロス!!」

「――――数は俺たちが有利だ! 野郎ども、殺っちまえ!! 頭領ボスに指一歩触れさすんじゃねぇ!!」



 前門の魔剣、後門の魔犬――――かつて王国一の騎士団で名を馳せた騎士と、最上位の魔獣による挟撃。左右を塞ぐは腕利きの傭兵たち。


 先手を打ったのは【ケルベロス傭兵団】――――左右に構えた傭兵たちは雄叫びを上げながら突撃を、背後のケルベロスは三ツ首それぞれの口から炎を噴き出している。


 目的は傭兵団の殲滅だが、【死の商人】について知っているグレイヴには用がある――――まずは戦場を制圧するべきだ。



「――――【光の翼(ルミナス・ウィング)】、飛翔!」

「飛んだ!? じゃあ、マジで上空から襲撃してきやがったのかコイツ!?」

「逃がんじゃねぇ――――【地獄の業火(ヘル・フレイム)】!!」



 謁見えっけんの間は天井も高く造られている――――その構造を活かし俺は大きく飛び上がる。遠距離武器を持ち合わせていない傭兵たちはこれで手も足も出ない筈。


 後は、グレイヴとケルベロスの攻撃に備えるだけ。自身の背後、ケルベロスの三ツ首から放たれた業火を駆動斬撃刃セイバービットによる光量子フォトンのシールドで防ぎつつ、俺は眼下の座具ざぐに構えるグレイヴを見下みおろす。


 傭兵団の荒くれ者を束ねる男は、未だに腰掛けて俺をゴミを見るような眼で凝視している。



「あぁ、その眼…………やはりあの小生意気こなまいきな女騎士を思い出す――――虫酸が走る! 固有ユニークスキル発動…………【灰かぶりの熱刃(シネレス・フェルム)】」



 俺の眼に“誰か”を重ねて――――苛立ちをあらわに、重い腰を上げた堕ちた騎士は座具に立て掛けていた大剣を手にすると、その場で剣を大きく振りかぶる。



「なんだ、これ……はい? まさか!?」



 その瞬間、俺の目の前にただよい始めたのは灰の粉――――間違いない、あの男のスキルだ。右眼カレイドスコープの視界、俺の胴を寸断するように走る鋭い斬撃の様な【行動予測】の朱い幻影ヴィジョン


 グレイヴ=サーベラスと言う男が“灰燼剣”の二つ名で呼ばれる理由。



「灼熱灰燼――――焼き斬れ、“灼光しゃっこう”!!」

「――――流星剣メテオザンバー!!」



 グレイヴが剣を振ってくうを斬った瞬間、ばら撒かれた灰、朱い【行動予測ヴィジョン】に沿って一刃の輝く斬撃が炸裂する。


 これが、グレイヴ=サーベラスの有する固有ユニークスキル――――【灰かぶりの熱刃(シネレス・フェルム)】。指定した範囲に“灰”を発生させ、剣の斬撃と共にその“灰”を発火させ『灼熱の斬撃』を発生させると言う遠隔攻撃系統のスキル。


 かつて、この男が王立騎士団を裏切った際に、父さんはこのスキルによる灼熱の斬撃で重傷を負い、引退を余儀なくされたと聞く。


 だが、俺は父さんとは違う――――アーティファクトの力で攻撃を予測し、流星剣メテオザンバーで灼熱の斬撃を防いでみせる。



「馬鹿な!? 頭領ボスの必殺剣を防いだのか!?」

「面白れぇ剣だな……! この【灰かぶりの熱刃(シネレス・フェルム)】の前には――――アハトのジジイもご自慢の剣を焼き切られて、俺の前に膝を着いたと言うのに……!」

「効かなくて残念だったな! 俺みたいな若造の剣すら折れない耄碌もうろくジジイは、俺の親父おやじを見習ってとっとと引退したらどうだ?」

「ほざけ青二才あおにさいが! ケルベロス――――【地獄の業火(ヘル・フレイム)】!!」



 俺の挑発に僅かに怒りを見せ、ケルベロスに乱雑に指示を出すグレイヴ――――粗暴故に単調、腕っぷしで強引に押し切る戦法を選ぶ単細胞。


 ならば――――その“牙”を全て抜歯ばっししてやろう。



流星剣メテオザンバー――――竜の業火を斬り裂く一刀……“業火剣嵐ごうかけんらん”!!」

「――――ッ! ケルベロスの【地獄の業火(ヘル・フレイム)】を斬り裂いたのか!?」



 ケルベロスの三ツ首から放たれた業火を流星剣メテオザンバーで斬り裂いて、俺は眼前の魔犬に狙いを定める。


 ケルベロスの三つの口には既に次弾となる炎が溢れてきている――――グレイヴの追撃もある筈だ。時間は掛けられない、一瞬で決める。



駆動斬撃刃セイバービット――――斬撃包囲刃オールレンジ・ソード…………第四剣技“旋風フウァールウィンド”!!」

「――――――ッ!?」



 俺の指示でケルベロスに向けて突撃した四基の駆動斬撃刃セイバービットは、俺に向けて今まさに炎を吐かんとしている魔犬の三つ首元に花の花弁かべんの様に位置取ると――――光量子フォトンの光刃を一気に伸ばして円を描くように回転し、ケルベロスの三ツ首を纏めて斬り落とす。


 地獄の番犬は地獄に落ちて地獄を見る。三ツ首の眼を全て見開いて、番犬は俺を睨み付けたまま息絶えた。


 ケルベロスの口に蓄えていた業火は放たれることなく口から漏れて、やがて消えていく。



「ケ、ケルベロスが一瞬で……!? ば、化け物だ……!」

「ありゃあ…………昔、ドラゴン相手にアハトがやった首狩りの剣技か……!? 馬鹿な……腕利きの騎士四人じゃなきゃ出来ねぇ技を単独で……!?」



 最上位の魔物モンスターが難なく撃破されたことに衝撃を受けたのだろう。傭兵たちの動きが止まり、自分たちが敵対している相手おれに対する恐怖からか、それまで前傾姿勢になっていた連中が全員、及び腰になっていた。


 

「S級冒険者どころの話じゃねぇ……! コイツ、昨日ここに来たあの姫騎士よりも……! 頭領ボス……ヤバいですぜ……!!」

「てめぇ等、なに怖気付いてやがる!? まだ俺が残ってんだ、さっさとあの小僧を地面に引き摺り降ろせ!!」

「まだ終わりじゃないぞ! 駆動斬撃刃セイバービット射撃形態ソードライフル…………降り注げ“光の雨(レイン・レイ)”!!」



 攻撃の手が止まった傭兵たち、それを咎めるグレイヴ――――悪いが、この好機チャンスを逃す訳にもいかない。


 十基の駆動斬撃刃セイバービット花弁かべんの様に自分の周囲に配置して行うは、光量子フォトンによる一斉掃射。


 俺の周囲を回転させながら駆動斬撃刃セイバービットの光刃を射出する連続攻撃――――強敵相手には効果は薄いが、雑魚相手なら【光の羽根(ルミナス・フェザー)】並の制圧力を誇る圧倒の雨。



「なんだ、この光は!? 当たった仲間が一撃で…………ヒッ、うわぁーーーーッ!?」

「――――グッ!! クソ、なんだこのデタラメな攻撃は……!? 騎士の戦い方じゃねぇ……アイツ、本当にアハトの子供ガキか……!?」



 謁見の間に響き渡る傭兵たちの悲鳴。今の今まで、好き勝手に暴れて無関係の人たちを傷付けたんだ――――その報い、俺が報いと言う名の“災い”にして返してやる。


 掃討開始から20秒――――謁見の間に広がるは魔犬ケルベロスの亡骸と傭兵たちの無惨な姿。


 残るはあと一人――――唯一、俺の攻撃を防いでみせたグレイヴ=サーベラス、こいつを仕留めれば【ケルベロス傭兵団】は壊滅する。



「手加減はした…………二度と傭兵稼業は出来ないように念入りに痛めつけたけどね……! 残るはアンタだけだ――――グレイヴ=サーベラス! 我が父、アハト=エンシェントを痛めつけた礼もたっぷりと返してやる!!」

「…………忌々しい……その澄ました顔、その生意気な物言い、その古くせぇ正義感…………何もかも、シータ=カミングに瓜二つだ……! 今すぐ死ね、ラムダ=エンシェント!!」

「お前が……その名前を気安く口にするなッ!!」



 部下を失い、地獄の番犬を失い、“灰燼剣”と呼ばれた男は遂に苛立ちを露わにし始める――――粗暴な男の、野蛮な本性。


 荒くれ者たちを率いて悪事をなした【ケルベロス傭兵団】取りまとめる悪の手先――――この悪党に、相応しき罰を。



「――――レティシアは返してもらうぞ!」

「返さねぇさ……!! レティシア姫も、テメェも……【快楽園(メル・モル)】に売ってやるよぉ――――あの女騎士のようにな……!!」



 大きく剣を振り上げるグレイヴ、俺の周りに大量に漂い始める“灰”――――最後の一撃、俺は流星剣メテオザンバーを握りしめて、一瞬の隙を待つ。



「焼き切れて灰になっちまいな! 灰燼(かいじん)灰去(はいきょ)――――“灼閃しゃくせん”!!」

「――――【行動予測】……【光の翼(ルミナス・ウィング)】最大加速……!」



 振り下ろされた灰の騎士の大剣―――その刹那、謁見の間を光で包む程に大量に発生する灼熱の斬撃。


 あたかも“流星群”が如き灼熱の閃光が俺へと迫りくる――――当たれば身体は焼き切られ、あっという間に灰燼に帰すだろう。


 だが、俺に退路は無い――――アーティファクトの性能ちからを、自分自身の力を信じて、ただ突撃あるのみ。



《ここでノアちゃんの解説――――アーティファクト【斬光流星撃墜剣メテオザンバー】には、魔力を問答無用で切り裂く性能が確認されています! 故に――――どれだけ大規模、高火力の攻撃であっても、その剣の前には無力も同然……なのです!》

《ノアさーん! 明後日の方向に向かって喋ってないで、傭兵たちを倒すの手伝ってよ〜!》



 向こうの状況はともかく、この流星剣メテオザンバーは魔力を伴う攻撃なら問答無用で斬り裂ける。


 つまり、グレイヴが魔力を消費しスキルで放ったこの流星群が如き無数の斬撃も――――俺の敵では無い。



「流星を斬り裂け――――“残光ざんこう”!!」

「――――ッ!? 馬鹿な、俺のスキルを……!!」



 灼熱の斬撃は流星剣メテオザンバーの一刀で霧散して消え去る――――切り札を破られたグレイヴに最早、対抗手段は無い。


 俺は左腕アインシュタイナーを狼狽するグレイヴに構えて、勢いよく射出する。



「また……俺の邪魔をするのか――――シータァーーーーッ…………ガッ!!?」

「俺は…………アハト=エンシェントとツェーン=エンシェントとの子どもだ……! 二度と間違えるな……!」



 最後の最後まで、俺とは血縁にない別人の影を重ねながら――――左腕アインシュタイナーによって玉座が如き絢爛豪華な座具に押し付けられたグレイヴは血反吐ちへどを吐きながら、恨み節を吐き出しながら気絶した。


 “灰燼剣”グレイヴ=サーベラス、地獄の番犬ケルベロス、腕利きのならず者たち――――弱き人々を喰い物にした悪党集団、【ケルベロス傭兵団】の壊滅。


 ――――これが、“享楽の都”【アモーレム】の裏市場ブラックマーケットへの招待状になるのだった。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


ご覧いただきありがとうございます。


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