第52話:破邪撃滅の聖剣よ、悪しき厄災を断て
「スキル発動――――【聖属性付与】! 【駆動斬撃刃】――――
防御形態!」
「【強欲魔手】――――全てを奪い尽くせ!!」
魔王アワリティアより放たれしは、封印されし邪神の眼より撃ち出された千を超える怪光線、四方八方に現れた黒い孔から伸びる“黒い手”。
相対するは、聖剣【シャルルマーニュ】を携え、十基の駆動斬撃刃を花弁のように周囲に展開して飛行する俺。
飛来する黒き光と“黒い手”が視界を瞬く間に『黒』へと染め上げていく中で、彼方に見える魔王アワリティアだけを一点に見据える。
怒涛の連続攻撃――――回避不可能、防御困難、即死不可避。ならば、俺が選ぶ道は戦いのみ。
「駆動斬撃刃、【剣の花弁】!! 本体から放たれた怪光線を防げ!!」
「あの小剣を障壁代わりにして、【強欲魔手】の迎撃を聖剣で行うか…………ええい、なんと小賢しい男だ!」
駆動斬撃刃三基を三角形に展開し中央部部に光量子のシールドを発生させて本体からの怪光線を防御、“黒い手”の動きを見切りながら手にした【破邪の聖剣】で斬り落とす。
駆動斬撃刃で張れるバリアは三つ、斬り落とせる“黒い手”は正面のみ――――残りの攻撃は【行動予測】でいなしていく。
それでも、俺と魔王アワリティアの距離はまだ遠い。
「死ね、死ね、死ね、死ね死ね死ね死ねェーーーーッ!!」
「攻撃が激しい……! なんとか距離を一気に縮められないか……?」
魔王アワリティアの猛攻は激しく、俺は中々距離を詰めれずにいた。
『ふむ……流石は魔王アワリティア、我が因縁の宿敵――――中々にしぶといな』
「――――この声、勇者クラヴィスか!?」
『そうだよ〜♪ まっ、この【破邪の聖剣】に僅かに残った残留思念だけどね~』
「態度が軽いな!? こっちは必死なんだけど!!」
そんな折に聴こえてきたのは勇者クラヴィスの声――――聖剣開放時にも聴こえた彼女の声は幻聴では無く、どうやら聖剣に残された残留思念らしい。あと、態度が軽い。
『よく聴きなさい、ラムダ=エンシェント……。私が貴方に最後に撃った大技を覚えてる?』
「あのビームみたいな斬撃か?」
『そう……私が夜なべして考えた超☆必殺技――――【君臨せよ、偉大なる大帝よ】…………通称、格好いいビーム!!』
「『夜なべ』と『超☆必殺技』と『格好いいビーム』の下りいる?」
第七階層【試練の間】にて、勇者クラヴィスが俺に向けて放った、偉大なる大帝の名を冠した巨大な光の斬撃――――【君臨せよ、偉大なる大帝よ】。
『あの斬撃を撃て、ラムダ=エンシェント! あれは魔王アワリティアに対する【厄災特攻】を有する超必殺技だ!』
「待て待て、こんな土壇場で俺に聖剣でビームをぶっ放せって言うのか!?」
『安心しなさい、初回は私の案内付きだ! 君は魔力を聖剣に充填してくれれば良い! あっ、でも充填し過ぎたら私みたいにうっかり自分の魂まで“魂喰い”しちゃってぽっくり死んじゃうから注意してね☆』
「最後の情報が余計すぎる……」
魔王アワリティアを滅する聖なる残光――――奴を倒す切り札を、勇者クラヴィスと協力して俺は放つこととなる。
『魔力の貯蔵はあるかい? だいたい300ぐらいあればブッパ出来るよ~』
「それなら心配しなくて良い――――禁忌級遺物【第十一永久機関】、出力向上……!!」
『おぉ……素晴らしい! これなら大丈夫、さぁ――――あの魔王の度肝を抜いてやりましょうか!!』
心臓に埋め込まれたアーティファクト【第十一永久機関】の出力を上げ、左腕を通じてエナジーを聖剣へと送り込み続けていく。
『アレ……? クラヴィスの姉さん、この魔力なんか人工物感するッス!?』
『天然でも人工でもどっちでも一緒でしょ! あんたはちゃっちゃとビームブッパの準備するの!』
「…………聖剣も喋るのか…………」
鼓動が速くなる、身体に熱がこもってくる――――聖剣は輝き、僅かな燭台だけが灯っていた暗い【深淵の孔】を明るく照らし出す。
「あれは――――聖剣の輝き……!! 忌々しい……死して尚、我の邪魔をするか――――ユーステフィア!!」
「勘違いするな……今のお前の相手はこの俺――――ラムダ=エンシェントだ!!」
彼方で苦虫を噛み潰したような表情で魔王アワリティアはこちらを睨み付けている。だが、奴が観ているのは“過去”の姿。
目の前の俺に意識を注げていないのなら、魔王アワリティアに明日はない。
『これなるは破邪撃滅の聖剣…………彼岸より来る厄災を討つ神の剣……!!』
「――――廻りて来たれ、集いて廻れ、星の息吹よ高らかに…………破邪、撃滅!!」
迫りくる無数の怪光線と“黒い手”――――最後の攻防。魔王アワリティアの勝利を欲する“強欲の腕”が、俺に向けて注がれていく。
だがしかし、奴の行動は一歩遅かった。
聖剣の輝きは最高潮に達し、今こそ――――強欲の魔王を討つ時。
「――――【君臨せよ、偉大なる大帝よ】!!」
撃ち放たれるは破邪撃滅の一閃――――虹色に輝く残光が怪光線も“黒い手”も尽くを掻き消して魔王アワリティアへと向かっていく。
「――――二度も遅れは取らん! 我を……舐めるなぁーーーーッ!!」
しかし、相手はかつて世界を震撼させた魔王――――この程度で折れる玉でも無い。
鬼の形相で絶叫し、自身の周囲から悍ましい数の“黒い手”を召喚して聖剣から放たれた斬光へと掴みかかる。
『――――ッ!? 魔王アワリティアめ、抵抗するつもりか!?』
「――――ッ! それなら……!」
群がる無数の“黒い手”が徐々に虹色の斬光の勢いを殺していく。流石は、【強欲の魔王】と謳われた邪神、一筋縄では行かないらしい。
だが、こちらも聖剣の攻撃だけで終わるような玉じゃない。
チャンスは一瞬――――そこに全てを賭ける。
「グッ…………オォオオオオオッ!! 我を見くびるなぁ!!」
斬光を“黒い手”で塗り潰し、強引に引き裂いた魔王アワリティア。聖剣から放たれた虹色の輝きは【深淵の孔】中に霧散し、露となって消えていく。
「フッ……フフフッ、フハハハハハハッ!! 勇者クラヴィスの聖剣、敗れた――――なっ!?」
「――――光量子展開射出式超電磁左腕部、敵を捕らえろ!!」
聖剣の光を打ち破り、高らかに勝利を宣言する魔王アワリティア――――だが、俺が射出した左腕は霧散した虹色の光を突き破り、魔王アワリティアの目前に現れる。
そう、俺の真の武器は聖剣では無い――――このアーティファクトこそが俺の真の武器。それを理解せず、聖剣を破って勝った気になっていた魔王アワリティアの負けだ。
「――――クソっ、【強欲魔手】!! 奴を殺せ!!」
左腕が魔王アワリティアを捕らえるまであと少し。追い詰められた魔王は、二本の“黒い手”を繰り出して俺へと向けるが――――
「【行動予測】――――残念、外れ……!」
「おのれ――――たかが……【ゴミ漁り】がーーーーッ!!」
――――その“黒い手”の軌道を見切って回避して、魔王アワリティアの最後の抵抗を不発に終わらせる。
そして、俺の左腕は魔王アワリティアの胴体を掴んで吹き飛ばし、そのまま壁へと押し付けた。
完全に捕らえた――――これで、決着だ。
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