第51話:VS.【強欲の魔王】アワリティア ~Hypnotist of Greed~
「邪眼よ開け! 観る者全てを呪い殺せ――――“呪詛千眼”!!」
「【行動予測】――――“光の翼”、高速旋回!!」
最深部【深淵の孔】に吊るされ封印された怪物、邪神アワリティアの本体の無数の眼は見開かれて、そこから撃ち出された無数の怪光線が宙を舞う俺へと注がれていく。
ぐねぐねと軌道を変幻自在に変えながら迫りくる怪光線。しかし、右眼の【行動予測】で全ての攻撃を見切った俺は、上下左右に素早く動いて攻撃を回避していく。
「ほう……あの無数の光を見切るか……! ならば……下にいるお前の女を狙ってみようかな?」
「チッ! 卑怯者が……!!」
「フハハハハッ、卑怯で結構! 我は【騎士】では無いのでね。堂々と“搦手”でやらせてもらうとも――――“呪詛千眼”!!」
そして、俺の機動力を目の当たりにした魔王アワリティアは封印された本体と思しき怪物を操って、下方にある祭壇で操られた冒険者たちと戦うノア達に向けてさっきの怪光線を放ち出す。
だが――――
「固有スキル発動――――【絶対聖域】!!」
「あれは……オリビアの結界!」
「むぅ、あの【神官】の小娘か……小癪な」
――――【ベルヴェルク】の面々は魔王アワリティアが思っている程弱くはない。
魔王アワリティアの本体から放たれた怪光線を防いだのはオリビアによって展開された白亜の聖域だ。
《私たちはラムダさんの足手まといになるつもりはありません! ラムダさん、私たちに構わずに、遠慮なく戦って下さい!》
《ちょっと……結界を張ったのはわたしですよ! なに自分の手柄みたいにラムダ様にアピールしているんですか、ノアさん!?》
《みんな、僕ばっかり狙ってくる!? ノアさんとオリビアさん、助けてよ〜》
《あわわわ……! この人たち倒しても倒してもゾンビみたいに立ち上がってくるです~!?》
ノア達も懸命に戦っている。しかし、通信を聴く限り長く持ちそうにも無い、速攻で片を付けなければ。
「“光量子自在推進式駆動斬撃刃”、展開!! 見せてやる、これがエンシェント家の戦い方だ! 自在剣技――――“斬撃包囲刃”!!」
「なんだ? 小さな剣が、我の上下左右を……?」
転送した十基の駆動斬撃刃を宙に浮かぶ魔王アワリティアの上下左右に展開し、俺は奴を完全に包囲する。
「これぞ、我らエンシェントの騎士が生み出した対魔獣用自在剣技、“斬撃包囲刃”!! そして、本来であれば四人以上で行う必要がある連携剣技を、今の俺は一人で実行できる! 行くぞ――――“第十三剣技・乱気流”!!」
「クッ、小賢しい! 障壁展開!!」
俺の指示の元、球体状の包囲を敷き魔王アワリティアへと次々と射出される駆動斬撃刃。本来であれば腕利きの騎士四人以上でないと行えない剣による包囲攻撃を、アーティファクトを手にした俺は一人で行える。
その連続攻撃に耐えかねたのか、魔王アワリティアは自身の周辺に魔力による障壁を展開して防御を固め始めた。それが、俺の狙いだと気付かずに。
「動きが止まったな! 来い、“超電磁回転式多銃身機関銃”!!」
「な、なんだその物騒な得物は? まさか……貴様!?」
「駆動斬撃刃、そのまま魔王アワリティアを足止めしろ! 行くぞ…………一斉射撃!!」
駆動する機関銃、唸りを上げながら回転する四門の銃身、狙うは魔力アワリティアの本体――――封印された巨大な怪物に向けて、俺は一斉射撃を開始する。
ズドドドドドドッと爆音と共に発射される数千発もの弾丸が次々と魔王アワリティアの本体へと着弾していく。
「グッ、ガァアアアッ!? やめろ、この卑怯者がぁあああああ!!」
「卑怯で結構! これは騎士同士の“決闘”じゃ無いからな……堂々と“搦手”で行かせてもらう!! さらに、“光の羽根”、発射!!」
無数の弾丸の雨が本来に着弾し、悶え苦しむのはリティアの身体に潜む魔王アワリティアの方。予想通り、本体と精神はまだ繋がったままだ。
リティアの身体に憑依しながら、封印されている本体から攻撃を行った。これは精神と肉体がいまだに繋がっている証拠。
そうと分かれば遠慮なく潰せる魔王アワリティアの本体を叩けばいい。機関銃を撃ち続けながら、俺はさらに“光の翼”から光弾を撃ち出して魔王アワリティアの本体に攻撃を加えていく。
「グッ!? おのれ……たかが小僧風情がァ……!!」
撃ち出された弾丸は魔王アワリティアの身体を容赦無く抉っていき、撃ち出された光の羽根は魔王アワリティアの外皮を慈悲なく削いでいく。
俺の攻撃に連動して魔王アワリティアはもがき苦しんでいる。周囲を囲む【駆動斬撃刃】の猛攻を防いでいる魔力障壁の出力も落ちてきており、徐々にその表情にも焦りの色が浮かび始める。
しかし、油断は出来ない。『窮鼠猫を噛む』――――以前、ノアが口走った諺。追い詰められた鼠は時として猫を噛む、と言う追い詰められた者の逆襲を表す教訓。
このまま攻撃を続ければ押し切れるが、相手はかつて【魔王】とまで言われた存在。必ず反撃に転じるだろう。
「おのれぇ……!! 図に乗るなよ、ラムダ=エンシェントォ!! 固有スキル発動――――【強欲魔手】!!」
その予想通り、激高して俺の名を叫ぶ魔王アワリティア。その刹那、戦いの舞台である【深淵の孔】の至る所に発生した黒い孔から飛び出た“黒い手”。
この迷宮内で確認できたあの“黒い手”と同一の存在。
「それがお前の固有スキルか、アワリティア!!」
「そうだ……我が女神アーカーシャに押し付けられた“呪い”の力……! 全てを奪い取る“強欲”の腕――――とくと味わえ、そして我が手のうちに堕ちるがいい!!」
魔王アワリティアが女神アーカーシャから押し付けられた呪い――――【強欲魔手】。
その黒い手が四方八方から俺に向かって伸びてくる。右眼に映るは蜘蛛の巣様に敷き詰められた朱い幻影――――【行動予測】によって弾き出された“黒い手”の軌道は【光の翼】の機動力をもってしても躱し切る事は難しく、恐らくは触れれば“一巻の終わり”だろう。
なら、俺が取るべき戦法はただ一つ、全てたたっ斬る。
『さぁ、いよいよ抜刀の時だ! 剣を輝かせ、魂を煌めかせ、悪しき影を照らし出せ! 私の名はクラヴィス=ユーステフィア! 我が聖剣を受け継ぎし者よ――――私に代わり、彼岸より来る厄災を討て!!』
頭の中に響いたのは、死闘を演じた古の勇者の凛々しき声――――彼女の声と共に背中に携えた聖剣を引き抜いて、群がる“黒い手”を一気に消し飛ばす。
「聖剣、抜刀――――破邪の聖剣【シャルルマーニュ】!!」
「我の前に、その目障りな剣を晒すか……ラムダ=エンシェント!!」
破邪の聖剣【シャルルマーニュ】――――かつて、【勇者】クラヴィス=ユーステフィアによって振るわれ、魔王アワリティアに致命傷を与えた神の剣。
その聖剣を手に、俺は魔王アワリティアへと突撃する。
「フフフ……フハハハハハッ!! 良いだろう、その聖剣ごと、貴様の希望を奪ってやるぞ――――この薄汚いゴミ漁りがッ!!」
「それはこっちの台詞だ! 今度こそ、二度と復活できないように切り刻んで粗大ゴミにしてやる――――この、負け犬魔王!!」
死闘は佳境へ――――三千年の想いを込めて、俺はいま、強欲の化身へと挑む。
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