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第49話:深淵の牢獄


 ――――深淵牢獄迷宮【インフェリス】下層域。いにしえの女勇者【クラヴィス=ユーステフィア】が封印していた門を潜り、俺たちは朽ちた神殿の様な遺跡の中を地下へ地下へと歩いていた。


 人の気配は無く、魔物モンスターの気配も無い、青い炎が灯る燭台トーチだけがあやしく迷宮ダンジョンを照らすだけの、完全なる“無”の領域。


 ただただ空虚くうきょで、まるでそこだけが時間から取り残された様な忘れ去られた場所。それが、深淵牢獄迷宮インフェリスの下層に抱いた俺の感想だった。



「あの【深淵の番人】が姿を見せ始めたのは冒険者ギルドが立ち上げられ、この迷宮ダンジョンに冒険者が多く立ち入るようになってからだと聞いている」


「多くの冒険者がこの下層域に足を踏み入れて、封印された邪神に襲われないようにする為でしょうか?」


「あぁ……多分な」



 魔人種の中には【魂喰い(ソウル・イーター)】と呼ばれる『相手の生命力を吸収する』スキルを有している者が存在する。キュバスの搾精、吸血鬼ヴァンパイアの吸血などがそれに該当する。


 この深淵牢獄迷宮インフェリスに封印された邪神も最下層まで到達した腕利きの冒険者の魂を【魂喰い(ソウル・イーター)】で喰らっているのだろう。



「最下層の邪神は迷い込んだ冒険者を【魂喰い(ソウル・イーター)】で喰らい、力を蓄えている……?」


「それを止める為にあの勇者が死して尚、番人としてあり続けた考えるのが妥当だろうな」


「ですが、それも完璧では無いはずですー! ギルドの記録では、最下層に挑んだ冒険者は何人も居るんですよー!」


「私の予想では……あの勇者の目を盗んで、冒険者たちを最下層へと通した()()()が居ると考えていますが……まぁ、それでは蒐集しゅうしゅうできる“魂”が足りないから、今回の騒動に発展したのでは無いでしょうかね~?」



 何も無い空間に聴こえるのは俺たちの考察の声だけ。俺を先頭に【ベルヴェルク】のメンバー達とアンジュは神妙な面持おももちで歩き続ける。既に下層域へと突入して数時間は経過している。深淵牢獄迷宮インフェリスに突入してからここまで、ほぼ止まらずの連戦続き。


 ノア達をはじめとした女性陣の顔には疲労の色が浮かび上がっており、幾度となく死線を潜って来たであろうアンジュにもやや疲弊ひへいの色が見え始めていた。


 最下層へと急ぐ必要はあるが体力をすり減らした状態で行っても、それこそ邪神の“餌”にしかならない。



 そう思い、休息を取るように促そうとしたが――――


「仕方が無い。みんな、ここで少し休憩……ッ!!」

「僕たちを囲むように黒い手が生えてきた?」


 ――――それを待ってくれる程、相手も悠長では無かったらしい。



 俺たちを囲むように黒い手が床から地面から無数に現れる。あの時、この迷宮ダンジョンの入口でリティアを連れ去ったのと同じ手で間違いない。



「ラムダさん、これって……!」


「あぁ……どうやら、邪神様からの熱い歓迎が来たみたいだな。光量子自在推進フォトニック・式駆動斬撃刃セイバービット、展開!」


「狙いはアリアさんですね……! 固有ユニークスキル発動――――【絶対聖域サンクチュアリウム・サンクトゥス】!!」


「勇者ミリアリア、私の傍へ!」


 

 孤立無援こりつむえんの地下迷宮、孤軍奮闘こぐんぐんとうの冒険者たち、さぞかし絶好の“獲物”なのだろう。黒い手の出現と共に俺たち【ベルヴェルク】はすぐさま円陣えんじんを組む。


 オリビアの固有ユニークスキルによる結界で外敵の侵攻を妨げ、俺が出した駆動斬撃刃セイバービットを結界外に配置して全方位の敵に睨みを利かせ、ミリアリアの護衛にアンジュを付けて、残ったメンバーも戦闘準備を整えて待機する。



「オリビア、俺の合図で結界を解除! その後、全員で敵を一気に叩くぞ! アンジュさん、アリアの護衛をお願いします!」


「任された、勇者ミリアリアは私に任せろ!」



 黒い手を殲滅せんめつして、ここを突破しなければ最下層には辿り着けない。それは最下層へと向かっている俺たち【ベルヴェルク】にとって至極当然の話。


 そして、邪神アワリティアが『俺たちが黒い手を殲滅して、最下層への道を拓く』と考えているのも、()()()()()()()


 故に、俺たちは――――“俺たちの裏”をかこうとしている、“敵の裏”をかく。



「ラムダさん――――()()()()()()()()()()()

「――――オリビア、頼む!」

「分かりました…………3……2……1……!」



 ノアの『合言葉』と共に全員が攻撃の準備を整える。狙う敵はただ一人、何くわぬ顔で俺たちに同行していた()()()



「「「動くな、アンジュ=バーンライト!!」」」



 俺たちが組んだ円陣の死角に隠れ、今まさに側にいたミリアリアに背後から剣を突き立てようとした冒険者――――アンジュ=バーンライトだ。



「ア、アンジュさん……僕に何を……?」

「な、何を………? わ……私は味方だぞ!」


「気付かれていないと思いました、アンジュさん? いいえ、こう呼ぶべきでしょうか……“七つの大罪”が一つ、【強欲】の名を冠する邪神……魔王アワリティアさん?」



 俺の閃光剣ライトニング・セイバーを首元に、コレットの焔を胴体に、オリビアの杖を足下に突き付けられ、アンジュは動きを封じられ狼狽ろうばいする。


 そんなアンジュの背後に立ち、手首にはめた量子転送装置ガジェット・ツールから取りだした拳銃を彼女の背中に押し付けながら、ノアはアンジュが隠していた秘密をあばいていく。



禁忌級遺物カラミティ・アーティファクト強制催眠装置エクスギアス】――――あのアーティファクトによる催眠の解除方法はたったの二つ。『端末デバイスの完全破壊による催眠効果の失効』か『端末デバイスに設定された【催眠解除】の機能を有効にする』だけです」


「何を言って……私は正気だぞ!」


「つまり……『所有権が移った』や『殴られて正気に戻った』なんて事は()()()()()んだよ。アンジュさん、あなたは嘘をついている」



 【強制催眠装置エクスギアス】による催眠の解除方法。これは、古代文明で実際にこのアーティファクトの仕様を知っていたノアだけが把握していた方法。


 アンジュはノアが【強制催眠装置エクスギアス】の催眠の催眠方法を知っているとは知らずに、俺たちに『所有権が移ったから、ラムダに殴られたから正気に戻った』と適当な事を言って騙そうとしていたのだ。


 そして、彼女の芝居に勘付いた俺たちは罠を仕掛けたのだ。彼女の身体を乗っ取って、ミリアリアをかどわかそうと画策する邪神アワリティアの『罠』を踏み抜く取っておきの仕掛けを。



「使用方法を完全に把握できていない貴方では、あの【遺物アーティファクト】を扱いきる事は絶対に出来ない。アーティファクトを扱えるのは、知識を持つこの私と、スキルによる効果でアーティファクトの使用方法や知識を修得ラーニングできるラムダさんだけ……!」


「つまり、使用方法を把握できていないのが仇になった訳だよ。ようやく尻尾を出したな、邪神アワリティア!」


「なるほど、私は――――いや、()はいっぱい喰わされた訳か。まさか……あの“玩具おもちゃ”の仕様を把握している者が居たとは……」



 “疑惑”では無く“確信”をもってアンジュ=バーンライトの正体を暴いた事で、彼女を催眠化に置いて意識を乗っ取っていた邪神はその邪悪な本性を晒し始める。



「我がリティア=ヒュプノスを通じてこの女に命じたのは『勇者ミリアリアに同行し、隙を見計らって拐かす』こと。やれやれ……あの忌々しい勇者ユーステフィアをたおして貰おうと“欲”をかかずに上層域か中層域で仕掛けるべきだったかな?」


「いいや、どこで仕掛けても結果は一緒だ! 俺たちは、アンタがいつ裏切るかずっと監視していたからな! なに『上層や中層なら上手く行った』なんて負け惜しみ言ってるんだ、この強欲野郎!」



 俺たちに包囲され、企みを暴かれた邪神アワリティア。しかし、追い詰められた奴の表情かおにはまだ余裕の色がある。


 アンジュを使った策は未遂に終わったが、邪神アワリティアにはまだ策が残っているのだろう。無論、それを許す程、俺たちは甘くない。



「クククッ……それで、この状況をどう打破するつもりだ? ラムダ=エンシェント以外がこの女に敵わないことは明白めいはく、周囲には無数の我が“手”。如何に突破する? 隙を見せれば、我は容赦無くこの勇者を…………ぅ、な……なんだ……身体が……?」


「…………固有ユニークスキル【衰弱死針イニエクチオ・インフィニミタス】」



 俺たちが二重三重と仕掛けた蜘蛛糸の如き『罠』に邪神アワリティアは絡め取られていく。アンジュの身体を乗っ取って邪悪な笑みと余裕を浮かべていた邪神だったが不意に違和感が奴を襲い、邪神は苦悶の表情かおをしながら膝をついた。


 俺が【ゴミ拾い】のスキルで修得ラーニングしたゼクス兄さんの固有ユニークスキル【衰弱死針イニエクチオ・インフィニミタス】――――った相手を弱体化させる衰弱の針を、俺はアンジュへ剣を向けた瞬間に彼女の首筋に放っていた。


 そして、弱体化デバフの毒が周り、手にしていた剣を地面に突き刺してかろうじて意識を保っている邪神だったが、身体は激しく痙攣けいれんを起こし、過呼吸かこきゅう気味に息をしなければならない状態に陥っていた。



「グゥ!? な、何故……身体が言うことを?」


「残念……弱体化の毒だ。そして、駆動斬撃刃セイバービット、攻撃開始――――“斬撃包囲刃(オールレンジ・ソード)五月雨さみだれ”!!」



 弱体化デバフの毒でアンジュを無力化し、俺は間髪入れずに結界の外で待機させていた十基の駆動斬撃刃セイバービットを一斉起動、高速斬撃の猛襲もうしゅうで俺たちを取り囲んでいた黒い手を瞬く間に殲滅する。



「我が手が一瞬で……!? くっ……おのれ、おのれ、我をコケに……ラムダ=エンシェントぉ!!」


「寝首を掻こうとした奴が偉そうに言うな……! ノア、仕上げだ!!」


「はぁ~い♡ 麻酔針、発射ぁ♡」


「グッ、しま……ッ!? やむを得ん……この『器』は……放棄……するしか…………」



 そして、最後の一手――――ノアの持つ拳銃から撃たれた麻酔針がアンジュの背中に直撃し、彼女の身体を蝕んでいた邪神アワリティアは撤退を余儀なくされた。


 黒い手は俺の攻撃で消え去り、静寂の地下神殿に残されたのは意識を失ったアンジュ=バーンライトと俺たち【ベルヴェルク】だけ。



「ごめん、アンジュさん……二度も手荒に扱って……! オリビア、アンジュさんの周りに結界を!」


「承知しました、ラムダ様!」


「あのいけ好かない邪神をぶっ飛ばしたら迎えに行くから、ここで少しだけ休んでいて……!」



 気を失ったアンジュが襲われないように、オリビアの結界で彼女を保護した俺たちは急いで最下層に向けて走り出す。


 アンジュの身体を使ってまで動き出したのだ。邪神アワリティアが封印された最下層まではあと少し。



「あのー、僕……アンジュさんが操られてるって教えられて無かったんだけど…………なんで?」


「だって……ミリアちゃん、絶対に口を滑らせると思ったから」


「ひどい!? 僕をなんだと思っているの!?」

「う〜ん……天然ボケ?」


「もっと酷い!? みんなして僕を騙した〜!」

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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[一言] ウププのプ …………天然ボケメンバー全員、、、?
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