第48話:光を斬り裂く剣
「くぅ……ッ!? まさか、私以外にも剣を僚機として扱う者が居るとは……!? き、君は本当にただの【ゴミ漁り】なのか!?」
「その通り――――俺は、女神アーカーシャからくそったれな【ゴミ漁り】の職業を押し付けられた騎士の“なり損ない”さ! ただ、めちゃくちゃヤバイ性能をした『遺物』を拾っただけのなッ!!」
戦い始めてから早数分、七本の聖剣と十一本のアーティファクトによる激しい斬撃戦にも次第に戦局の偏り生じ始める。
優勢は俺の方、十基の駆動斬撃刃を【自動操縦】のスキルで手放しで扱えるようにした俺は、残った自分自身の余力全てを目の前にいる勇者クラヴィスへと注いでいく。
一方の勇者クラヴィスは聖剣の影の“全て”を自らの意思で操作しているが故に、目の前の敵である俺への意識が疎かになり攻撃に対処しきれずに防戦一方へと陥っていた。
「我が固有スキル【聖剣投影】と同等の能力を有しながら……私の自慢の聖剣を、軽々と捌くなんて……!」
剣の数でもこちらが優っているが、優劣の理由はそこではない。飛ばした聖剣の影に意識を割きすぎた結果、勇者クラヴィスの地力が低下してしまっているのだ。
それなら、俺にも十分に勝機はある。
勇者クラヴィスは選択を間違えた。あのまま剣と剣との果たし合いに俺を付き合わせていた方が、素の実力の分だけ有利があった。
だがしかし、本気を出したのなら話は別だ。厄災を倒した勇者クラヴィスの聖剣ですら、古代文明のアーティファクトは凌駕する。
「駆動斬撃刃――――“光量子斬撃波”発射ッ!!」
俺と勇者クラヴィスの間で剣撃を繰り返す駆動斬撃刃に指示を出した瞬間、ビットから放たれる光量子で構成された斬撃。
その攻撃、光量子斬撃波が聖剣の影を真っ二つに切断しながら、勇者クラヴィスへと勢い良く向かっていく。
「クッ! 私を舐めるなよ、少年!! 聖剣完全開放――――大いなる悪を討て【破邪の聖剣】!!」
「今だ! “光の翼”展開――――最大加速!!」
その斬撃を掻き消さんと聖剣を大きく振りかぶり、刀身に眩いばかりの光を集束させる勇者クラヴィス――――間違いない、大技が来る。
それを、認識した俺は光の翼を展開して勇者クラヴィスへ向けて一気に加速する。
右手には流星剣――――光を斬り裂く星屑の剣。それを俺は強く握りしめて、勇者クラヴィスの最大必殺技に備える。
「破邪撃滅――――“君臨せよ、偉大なる大帝よ”!!」
そして、勇者クラヴィスの聖剣より放たれるは巨大な虹色の斬撃――――最早、『壁』とでも言うべき圧倒的な規模の魔力の斬光が駆動斬撃刃から放たれた斬撃を掻き消して、轟音を鳴らして俺へと迫りくる。
だが、今さらそんなものにびびってなんかいられない。
《かつて、この惑星を襲った【光の化身】を斬り裂いた人類の叡智――――“残光流星撃墜剣”。その剣は、あらゆる“光”を斬り裂いて、人類に光の“向こう側”を指し示す……!!》
《ノアさんが急にドヤ顔で解説し始めた!?》
「斬光の隕鉄、光を断て!!」
虹色の斬撃へと振り下ろされる流星剣の一閃。その剣撃は勇者クラヴィスの必殺技を物ともせずに斬り裂いいた。かつて厄災を討ち倒したであろう破邪の聖剣が、俺の振るったアーティファクトの前に完全に敗北した瞬間だった。
「なっ、私の聖剣の一撃がいともたやすく!?」
「これで終わりだ、勇者クラヴィス!!」
互いの距離はごく僅か、互いの剣は振り抜かれた、勇者クラヴィスに抵抗の手段は無い。そして、俺にはまだ武器が残っている。
「閃光剣……!!」
左腕に転送したアーティファクト【閃光剣】――――振り抜いて地面を抉った流星剣から手を放し、左手で掴んだプラズマの光刃が勇者クラヴィスの身体を激しい放電と共に斬り裂いた。
「くっ、くあぁぁぁ!?」
決闘の決着――――閃光剣の一刀に伏され、聖剣の力で現世に留まり続けた勇者クラヴィスの身体は傷口から光の粒子となって霧散していく。
「クラヴィス……」
「ふっ……見事だ、ラムダ=エンシェント。私の負けだよ。褒美だ……我が聖剣【シャルルマーニュ】
を……貴殿に贈ろう。我が呪われた使命に終止符を打った礼だ……」
しかし、彼女の表情はどこか誇らしだった。そして、消え逝くかつての勇者は自らを打ち破った者である俺を褒め称えて、手にした聖剣を託さんと笑い掛ける。
「俺に……復活した邪神を討てと……?」
「出来るさ……。何せ……邪神を討ち倒した神の一撃を……破ったの……だから……な…………」
月を模した光に照らされた彼岸の花園、深淵ヘと挑む冒険者を待ち受ける試練の間、そこで待ち受けていた古の勇者クラヴィス=ユーステフィア。
永きに渡りこの場所で次の聖剣の担い手を待ち続けた骸の番人は嬉しそうな笑みを残して、光の粒子となって消え去った。最期に、己を倒した者に破邪の聖剣【シャルルマーニュ】を託して。
彼女が消えた場所に残ったのは咲き誇る彼岸花と、地面に突き刺さった聖剣だけ。
『破邪の聖剣【シャルルマーニュ】――――認識。【勇者】クラヴィス=ユーステフィア消滅による保有権限の放棄――――認識。スキル【ゴミ拾い】の効果発動――――放棄された聖剣の所有権を術者:ラムダ=エンシェントに設定――――完了。スキル効果による拾得物と術者の同調率の最適化――――完了。拾得物に記憶された技量熟練度の継承――――完了。技量スキル【聖剣使い:Lv.10】【聖属性付与:Lv.10】【不屈の意志:Lv.10】、固有スキル【聖剣投影】修得――――完了』
「これが…………聖剣!!」
彼女が遺した聖剣を手にした瞬間に頭の中で響くいつもの自動音声――――それを聴いて、俺はこの聖剣の所有者が『勇者クラヴィス』から『ラムダ=エンシェント』に移った事を理解した。
運命に選ばれ、女神に愛された者だけが手にする事を許された大いなる力の象徴である【聖剣】――――それを、騎士にすら成れなかった俺が手にしている。
自身の成長を感じる。アーティファクトと言う、この世界には過ぎた代物の恩恵であったとしても、俺は自らの力で【聖剣】を勝ち取ったのだ。
《破邪の聖剣【シャルルマーニュ】……偉大なる大帝の勇名を冠せし剣……! いやー、流石ですね、ラムダさん♪ 後で解析させて下さいねー♡》
「まさか、俺が聖剣を持てる日が来るなんて……!」
軽い――――それが【破邪の聖剣】を握った時の最初の感想。
俺の固有スキルである【ゴミ拾い】の副次効果によるものだが、勇者クラヴィスから譲り受けた聖剣はまるで長年、愛用したものの様に俺の手に馴染んでいた。
「ラムダさーん、お疲れ様でした~! 流石は私の騎士様♡」
「すごいや、ラムダさん! あの強そうな騎士さんを無傷でやっつけるなんて! 僕、尊敬しちゃうな」
「流石はラムダ様♡ これで下層域に行けますね」
「ラムダ様〜お疲れではありませんか~? コレット特製のハーブティーをどうぞ~!」
「素晴らしい……! まさか、私がついぞ勝てなかった【深淵の番人】を撃ち破るとは!」
戦いの結末を見届けて、俺の元へと集まってくるミリアリア達。【ベルヴェルク】の面々やアンジュさんまでもが、俺の健闘を称えて勝利を祝ってくれている。
「ありがとう、みんな! でも、まだ終わりじゃない……! 急いで下層域に行かないと!」
「見ろ! 門の封印が解かれて、下層域への道が開かれていくぞ!」
彼岸花の花園の奥にそびえ立つ門は、勇者クラヴィスの封印の効力を失ってゆっくりと開いていく。
門の奥から溢れてくるはドス黒い瘴気――――扉の向こう側、深淵牢獄迷宮【インフェリス】の最深部に封印された厄災の化身、強欲の魔王が放つ邪悪な魔力。
「もうすぐこの迷宮の最深部だ……! みんな、行こう!!」
暴風の様に吹き荒ぶ邪悪な瘴気をものともせずに俺たちは門をくぐり抜けて下層へと駆け下りていく。
この先は【深淵の牢獄】――――かつて、【勇者】クラヴィス=ユーステフィアと降臨した【女神】アーカーシャに敗北し、封印された邪神【強欲の魔王・アワリティア】がいる迷宮の最深部。
そこが、この戦いの決着の場。
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