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第46話:深淵の番人


「よく此処ここまで辿り着いた、冒険者たちよ」

「何だ……あの骸骨騎士は……?」

「【深淵の番人】、下層域へ続く門を守る者……!」



 ――――深淵牢獄迷宮インフェリス、第七階層【試練の間】。階層突入から既に二日程が経過していながらも、俺たち【ベルヴェルク】はアンジュも舌を巻く程の驚異的なスピードでダンジョンを駆け下りていた。



「う~……幽霊ゴーストまみれの第四層【死霊の踊り場】……人喰い植物だらけの第五層【人喰い植物わくわく触れ合い(死)広場】……黒魔導士の遺産を守る魔導人形オート・マタが徘徊する第六層【黒魔導士の工房】……ここまで来ると流石のノアちゃんもヘトヘトです〜……」


「わたしも少し休憩したいですね……ノアさん……どこかでティータイムにしませんか?」



 第五層、第六層を幾度化のピンチを招きつつも突発。中層域の終着点に当たるここ第七階層へと到達した。


 そして、俺たちは、下へと続く巨大な門の前に立つ一人の騎士甲冑姿のむくろと対峙していた。



「やぁ、暫くぶりだね、アンジュ=バーンライト。今回はパーティを組んで来たのかな?」


「そうだ……この先に潜む邪神に用があってな」


「ふむ……その様子だと、この迷宮ダンジョンの真の姿に気付いたようだね」


「まぁな……随分と酷い目に遭わされたよ……」



 第七層は魔物モンスターの姿が一切見えない穏やかな庭園。月の光を模した魔力の光に包まれ、真っ赤に染まった彼岸花が一面に植えられた、“死の領域”と呼ばれる中層域の終点に相応しい幻想的で、静かで、どこか寂しげな雰囲気を漂わせた場所だ。



「さて……新顔も居るし丁寧に説明しようか。私の名前はクラヴィス……この深淵迷宮の下層域へと続く“門”を護る守護者。冒険者よ、この先へと進みたくば、私を倒して行くがいい!」


「あんたを倒さないと門は開かないのか?」


「如何にも、この門は私の術で封印してある。通りたくば私を倒し、その力を此処に示せ!」



 静寂の階層にただひとり立つ骸骨騎士・クラヴィスは背負しょっていた大剣を両手に構え、俺たちに『力を示せ』と発破はっぱを掛ける。



「ラムダ=エンシェント……あのクラヴィスと言う騎士は強い。私は今まで一度も奴に勝てた事は無かった」


「そんな……S級冒険者であるアンジュ様ですら敵わない相手なんですかー!?」


「この先は邪神の領域。私を打ち負かせる程の強者で無ければ、この先には行かせれないからね」


「分かった! なら、俺が相手だ!」



 相手はアンジュでも敵わなかった相手らしい。だが、俺たちはあの門の先に用がある。ここで足踏みはしてられない。俺はクラヴィスの相手を買って出て、前へと踏み出していく。



「フレー、フレー、ラ・ム・ダ! がんばれ♡がんばれ♡ラムダ!! イェーイ♪」


「うるさいですね。もう一度、ノアさんには気絶して貰いましょうか?」


「ひぃ~! やめて、オリビアさん!? 杖で殴り掛かろうとしないでー!?」



 あの骸骨騎士がひとりで育てたのであろう彼岸花が咲き誇る小さな庭園に俺は足を踏み入れて、中央で待つクラヴィスの元へと近付いていく。



「名を、深淵に挑みし者よ」

「…………ラムダ=エンシェント」


「ラムダ……良き名だ。“死ぬ覚悟”は出来ているか?」


「覚悟は――――とっくの昔に出来ている!」

「よろしい。では覚悟、私に示すが良い!」



 血をこぼした様な彼岸花の花園で対峙するは、門を護る【深淵の番人】と呼ばれる騎士と、アーティファクトの少女を護る騎士。


 俺たちは互いに睨み合い、全身に意識を張り巡らせ、火蓋が落とされるのを静かに待つ。



「ここで一服、ティータイム! アンジュさんも一杯、如何ですか?」


「コレットがご用意しました“特製”ハーブティーで御座います〜。アンジュ様もぜひどうぞ〜」


「呑気か、貴様ら!? まぁ、一つ貰おうか……むぅ、少し苦いな。ミルクか砂糖はあるか?」


「アンジュ様〜、だいぶ()()()()きていますね~。ちょっと親近感湧いてきたです〜」



 俺の後方でまったりくつろぐ【ベルヴェルク】の面々にアンジュが困惑した表情で巻き込まれる。ホント、ゴメンね。



「だって、ラムダさんが勝つって信じてますから♪」


「そうそう、ですので~コレット達はここでラムダ様の勇姿を拝むだけ良いのですよ~♪」


「ラムダ様、頑張ってくださいね〜♡」



 ただ、まぁ、それも俺に対する絶大な信頼から来るものなのでだろう。ならばこそ、ここで負ける訳にはいかない。俺は緩んだ気持ちにかつを入れて、目の前の強敵に視線を合わせる。


 額から汗が流れる。そして、その汗がしたたり落ち、足下の彼岸花に落ちた瞬間――――それが戦いの合図。



「「――――――ッ!」」



 一瞬の静寂、刹那の一閃、一滴の汗が彼岸花の花びらに触れた瞬間、クラヴィスは俺の前に瞬間移動の様に現れて剣を振りかぶる。


 迅速果断じんそくかだん――――クラヴィスの振るう大剣は骸骨が扱っているとは思えない程に疾く、鋭く、俺の身体を一刀両断に伏せんと迫りくる。


 そんな鬼気迫る斬撃を左腕アインシュタイナーで受け止めて、反撃に転じる為に俺も剣を転送する。



「むぅ……!? 何と面妖な左腕なのだ……!?」

「来い――――“流星剣メテオザンバー”!」


遺物アーティファクト――――認識。対光量子斬撃兵装・斬光流星撃墜剣(メテオザンバー):――――認識。スキル【ゴミ拾い】効果発動―――所有者をラムダ=エンシェントに設定――――完了。スキル効果による拾得物と術者の同調シンクロ率最適化――――完了。拾得物に記憶された技量熟練度及び技能の継承ラーニング――――完了。技量スキル【見切り:Lv.10】【障壁貫通:Lv.10】取得――――完了』



 右手にしたのは実体剣【残光流星撃墜剣メテオザンバー】――――未知のエネルギーである“光量子フォトン”が恒常化した古代文明に於いて『光を斬る剣』と呼ばれたアーティファクト。


 騎士と呼ばれる者を相手取るために俺が選んだ剣で、『私の時代では“骨董品アンティーク”扱いの実体剣を持っていくんですか?』と、驚くノアも気にせずにあの方舟から持ち出したお気に入りのアーティファクト。


 今までの魔物モンスターや他の職業クラスの冒険者との戦いとは訳が違う。これは騎士と騎士との“決闘”だ。


 だからこそ、俺は対峙する騎士に敬意を込めてこの流星剣メテオザンバーを手にする。例え本物の【騎士】で無くとも、そのこころざしだけでも騎士として有りたいから。



「喰らえ!」


「――――ッ! ほう……腰の入った良い太刀筋だ。相当、腕に覚えのある【騎士】の職業クラスと見た」


「生憎と……騎士の家系に生まれた【ゴミ漁り(スカベンジャー)】でね……! ガッカリしたか?」


「ふむ……アーカーシャ様も勿体ない事をするのだな。これほどの気迫のある騎士はそうそう居ないと言うに」


「なら後で女神様に文句を言っておいてくれ!」


「承知した。だが、先ずは目の前の敵に集中するのだな! 油断すれば、あの世で女神に直談判する羽目になるぞ?」



 繰り返される斬撃の応酬――――クラヴィスの太刀筋を右眼カレイドスコープで見切り、的確に相手の攻撃をさばき防ぐ。


 対するクラヴィスも俺の太刀筋をつちかった技量だけで難なく()()()()()()


 アーティファクトによる底上げで実力こそ拮抗きっこうしているが、騎士としての技量、磨き上げられた剣術はクラヴィスの方がまさっている。


 まだまだ俺はアーティファクトの性能に頼りっぱなしの未熟者だ。そう思う反面、半端者の俺でもアーティファクトのお陰で強者たちと渡り合えている。


 だが、それのなんて“楽しい”事だろうか。


 一度は諦めかけた騎士としてのせいが輝いている。その高揚が俺を奮わせ、太刀筋をより鋭く、より疾くしていく。



「このような戦い、女神アーカーシャ様の代行として、大いなる厄災と戦った時以来だな。心が躍る!」


「女神アーカーシャの代行……大いなる厄災と戦った……? あんたまさか……!?」



 だが、それは向こうも同じくだった。戦いの中で漏れたクラヴィスの喜び、そして語られる真実。


 女神アーカーシャの代行。それは代々、ある職業クラスにしか与えられない名誉だ。それを自負したという事は、クラヴィスの正体は一つに絞られる。



「察しの通り……私の名はクラヴィス=ユーステフィア! 三千年前にこの地で厄災の化身――――強欲の魔王アワリティアを討ち倒した【勇者】である!!」


「なっ……!? 三千年前の……勇者だって!?」



 むくろの真名はクラヴィス=ユーステフィア――――三千年前に生きた【勇者】であり、封印された邪神を監視し続けるむくろの騎士。


 おとぎ話に語られる“厄災の引き金(カラミティ・トリガー)”のひとり。



「復活した邪神を討ち倒さんとする者よ。新たなる伝説を刻みたくば、古き英雄を超えて行け!!」


「上等! 通して貰うぞ、勇者クラヴィス!!」

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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