表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

50/1164

第45話:数多の死を踏み越えて


「あわわわわ……! 僕の剣がすり抜けて当たらない!?」


「勇者ミリアリア! 幽霊ゴースト系統の魔物モンスターに物理攻撃は効かん! 魔力を絡めた技を使いなさい!」


「魔力絡みの技なんて僕、覚えてないよ! って言うことは僕……もしかして役立たず!?」


「なら、この泡吹いて失神したノアを担いでいてくれ! 露払いは俺たちに任せて!」



 深淵牢獄迷宮インフェリス、第四階層【死霊の踊り場】――――突如として大量出現した幽霊ゴースト達を薙ぎ倒しながら走る俺たちは、階層の中間地点にある墓地の中を走り抜けていた。


 行く手を阻む大量の死霊、退路をふさぐ無数の亡霊、死角を突いて襲いかかる数多の幽霊。俺たちを道連れにしようと、無数の霊体が出現してくる。


 この窮地を脱すべく、気絶したノアを今回は役に立てなさそうな“物理特化型”のミリアリアに預け、俺たちは霊たちに攻撃を繰り返して道を切り開いていく。



「“光量子拡散砲フォトン・シャワー”――――発射!」

「浄化の光よ降り注げ――――“無垢なる極光(イノセント・レイ)”!!」


「魔を焼く“白”のほむら――――“狐火・白(アルブム・イグニス)”!!」

桜千爆殺おうせんばくさつ――――“爆散桜吹雪バーンブロッサム”!!」



 俺の攻撃で悪霊は消し飛び、オリビアの光で死霊は浄化し、コレットの焔で怨霊は燃え尽き、アンジュの爆撃で亡霊は爆ぜ消える。しかし、幽霊ゴーストたちは尽きることなく湧き出続ける。



「チッ! どんだけ幽霊ゴーストがいるんだ!?」


「それだけこの迷宮ダンジョンで命を落とした冒険者たちが多いと言う事だ! 油断するな、ラムダ!」


「死ね、死ね、死ね!! 生きてるお前たちがうらめしい……生きているお前たちがねたましい……生きているお前たちが羨ましい……!!」



 俺の持つアーティファクトの圧倒的高火力や、オリビアたちの魔法や術技で焼き払っても、幽霊ゴーストたちは次々と湧いて出てくる。


 これを一気に殲滅せんめつする手段があれば良いのだが、『ベルヴェルク』の頭脳ブレインであるノアが気絶中では話にならない。



「…………主人格オペレーティング・システム:ノア、失神による機能停止を認識。緊急用自動操縦人格、起動――――感情回路メインサーキット初期開発設定オリジナル・コードにて再現――――完了」


「ノアさん!? 気が付いたの?」



 そう思っていた矢先やさきだった、ミリアリアの肩に担がれていたノアが無機質な声で喋り始めたのは。



「ノア……?」


否定ノー、わたしはノアであってノアにあらず。わたしは、この身体を運用する主人格オペレーティング・システムである『ノア』が何らかの異常で機能不全におちいった際に、この身体を運用する自動操縦オート・パイロット人格・システムです」



 ノアの身体を操る『ノア』以外の誰かが喋っていた。自走操縦用人格を名乗った少女はミリアリアの背中から降りて俺に並走すると、虚ろな瞳で俺を見つめだす。



「我が所有者マスター、ラムダ=エンシェント……我が主人格オペレーティング・システムが世話になっております」


「ノアじゃないのか……?」


しかり……わたしは【自動操縦オート・パイロット】スキルの応用でこの身体を護る仮の人格に過ぎません。故に、名はなく、我が所有者マスターにつきましては気軽に――――“人形マキナ”と呼び捨てて下さいませ」



 人形マキナと名乗ったノアの影は周りを取り囲む幽霊ゴーストに怯える素振りも無く、淡々と機械の様に喋り続ける。



「事態は“眼”を通じて把握しております。この階層の霊体を完全排除するなら、一体の“巨大霊ヒュージ・ゴースト”にして纏めて倒してしまうのが最も効率的かと……」


「おいおい、このわんさかいる幽霊ゴーストを一箇所に集めろって言うのか、ノア!?」


肯定イエス――――パルフェグラッセ様、貴女あなたの魔法で巨大な“檻”を造る事は可能ですか?」


「そ、それぐらいなら……で、出来ます……けど?」


「結構です。それなら、最高効率でこの階層フロア適正個体エネミーの殲滅が可能です」



 ノアの豹変ぶりに呆気に取られしどろもどろになるオリビアに淡々と受け答えをしながら、人形マキナは着々とこの階層の攻略に着手していく。



「パルフェグラッセ様、この無数の霊魂を“彼等の意思”で一纏めにさせるすべは存在しますか?」


「敵対者がいちじるしく強敵の場合、もしくはより強い意思で敵対者をあやめようとした時……」


「より強い敵と、より強い意思――――明確な“敵意”と“殺意”ですね。それなら我が所有者マスター得手えてかと」


「なるほど、だいたい分かった……!」



 無数に湧いて出てくるのなら、一つに纏めて一網打尽いちもうだじんにしてしまえば良い。そうノアの身体を操る“人形マキナ”は淡々と、粛々(しゅくしゅく)と解を導いていく。


 幽霊ゴーストたちが強敵と対峙した時、もしくは敵対者により強い“敵意”と“殺意”を抱いた時、その姿をより強大に変化させる。それを聞いた人形マキナは俺を『適任』だと指名する。


 なら、俺がやるべき事は一つ。俺は周囲を浮遊する幽霊ゴーストたちを睨み付けて、大きく息を吸い始める。



「ふぅ……いい加減諦めたらどうだ、雑魚幽霊(ゴースト)ども!! 雑魚がわらわら湧いてきた所で何時いつまで経っても俺たちは倒せないぞ!!」


「ラムダ=エンシェント……いったい何を?」

「あぁ、素敵♡ わたしもラムダ様にののしられたい♡」


「オリビア様は何を恍惚こうこつな表情をしているのでしょうか? 理解に苦しみます〜……」



 眼前に群がる幽霊ゴーストの大群を一気に薙ぎ払い、俺は残った幽霊ゴースト達を言葉で刺激する。



「何時まで未練たらしく彷徨っているんだ!? お前たちは弱かったから死んだんだ! いい加減、生きている人間の足を引っ張るのは止めろ!」


「……黙れ」



 死者を愚弄する気は無い。戦った果てに“死んだ”のなら俺は命を懸けた者達に敬意を払おう。だが、死してなお現世うつしよに留まり、生者を妬むと言うのなら容赦はしない。



「冒険者だったんだろ!? なら、死は元より覚悟していた筈だ! さっさと成仏してしまえ――――負け犬ども!!」


「黙れ、黙れ、黙れぇ!! あたし達はまだ消えれない、あたし達をたばかって殺したあの邪神に一矢報いるまでは、絶対に消えれない!!」



 俺の挑発に怒りを露わにする幽霊ゴーストたち。

 無念、後悔、執念――――深淵牢獄迷宮インフェリスへと足を踏み入れ、命を落とした者たちの慟哭どうこくが響き渡る。



「あたし達は亡霊となってあの邪神を呪い殺す! お前たちも先に進めばどうせ死ぬ。なら、一緒に彷徨える死者となって、あの邪神を呪い続けましょう!!」



 本心をさらけ出し、復讐に燃える幽霊ゴーストたち。彼等は俺たちの眼前でみるみる一つに融合していき、やがて巨大な一体の霊となる。


 むくろ姿の巨大霊【ヒュージ・ゴースト】――――無念を抱いて死した冒険者たちのなれの果て。この迷宮ダンジョンに積もりに積もった怨念の集合体が目の前に現れた。



「なんだ……この化け物は……!? 今までこの階層でこんな怪物は見たことも無い……!?」


「ウォオオオオオオオ……!! 貴様たちに死を! 死して我らが一部となりて、共にあの邪神に報復をォオオオオ!!」


「残念だけど……俺たちは死ぬ気はさらさらない! オリビア、今だ! 巨大霊を拘束してくれ!」


「悪しき者を裁く聖なる光よ、我がめいに従い降り注げ――――“聖なる極光(ホーリー・レイ)“!!」



 この階層に巣食う幽霊ゴーストが一手に集まった事で準備は整った。俺の合図とともに、オリビアは杖を構えて魔法を詠唱し、聖なる光が眼前で唸りをあげる巨大霊ヒュージ・ゴーストへと注がれる。



「グォオオオ……小癪なァ!! だが、今の我々にはその様な矮小わいしょうな光など、効かぬわァアアアア!!」


「……その様ですね。しかし、この光はあなた達を囚える“檻”。本命は別にありますのでご安心を……」


「何ぃ!?」



 巨大霊ヒュージ・ゴーストをすっぽりと包むように降り注ぐ光はあたかも“檻”の様に彼等を囚え、こちらの真意に気付いた巨大霊ヒュージ・ゴーストは光の壁を壊そうと必死の抵抗をし始める。



「――ぐぅ!? ラ、ラムダ様……あまり保ちそうにありません……急いで下さい……」


「分かっている――――来い、“太陽砲プロミネンス・キャノン”!!」


遺物アーティファクト――――認識。対星外侵略生物用殲滅武装・太陽熱集束砲プロミネンス・キャノン:アポロン――――認識。スキル【ゴミ拾い】効果発動―――所有者をラムダ=エンシェントに設定――――完了。スキル効果による拾得物と術者の同調シンクロ率最適化――――完了。拾得物に記憶された技量熟練度及び技能の継承ラーニング――――完了。技量スキル【反生命特効(エターナル・キラー):Lv.10】取得――――完了』



 砲撃系重兵装アーティファクト【太陽熱集束砲プロミネンス・キャノン】――――古代文明に於いて飛来したと云われる侵略者インベーダーとの戦いで用いられたと言う決戦兵器で、ノアが眠っていた“方舟”に搭載されていた主砲を俺が扱えるように調整したもの。


 内部に備え付けられた『太陽を擬似的に精製する』動力炉、【擬似太陽炉ソル・ドライヴ】から生成される超高温のエネルギー波を射出する兵器であり、本来は戦艦級の機動兵器に搭載しなければならないものを無理やり扱った超弩級のアーティファクト。


 超合金製の光量子展開アイン射出式超電磁左腕部シュタイナーで無ければ反動を制御出来ず、俺の心臓に組み込まれた第十一永久機関(λドライヴ)からの大量のエナジーの供給が無ければ起動すら不可能な大型兵器。


 背の丈を有に超え、いつか戦ったあの魔狼ガルムの図体を遥かに凌駕する巨砲を左腕アインシュタイナーで制御し、俺は目の前で光に囚われた巨大霊ヒュージ・ゴーストに狙いを定める。



「放熱防御用冷却領域(フィールド)、展開! 第十一永久機関(λドライヴ)、最大出力! 擬似太陽炉ソル・ドライヴ臨界駆動――――擬似太陽、再現精製! 発射準備…………完了」



 撃ち出すは太陽の光、暗い地下迷宮で永劫に彷徨う死者の魂を天へと還す恵みの光――――


「“太陽熱集束砲プロミネンス・キャノン”――――発射ッ!!」


 ――――引き金は躊躇われることなく引かれ、砲身から摂氏数万度まで高められた超高熱の白光が放たれた。



「馬鹿な……!? 我々はまだ……まだ……復讐をぉおおおお――――」



 暗く閉ざされた第四階層を白く照らしながら進む光は、苦しみにもがく幽霊ゴーストたちを瞬く間に包み込んでいく。



「俺たちはお前達を殺した邪神を討つ。そして、お前たちの無念は必ず果たす! だから……後は俺たちに任せて、ゆっくり眠ってくれ」


「…………そっか、そうなんだ。なら、あなた達に託すね……あたし達の復讐……」



 形を失い、消え逝く死者たちに送る鎮魂ちんこんの約束――――彼等の死を踏み越えて、俺たちは進む。



「あぁ……やっと眠れる……。最期に……もう一度だけ…………会いたかったなぁ…………リ……ティ…………」



 迷宮ダンジョンに挑み死んでいった者たちの最期――――光と共に幽霊ゴースト達は消え去り、静寂が第四階層を包む。


 放熱と砲撃による熱放射を防ぐために冷却用のバリアを張っていた俺たちの周辺以外は高熱で融解が発生しており、あちこちで溶けた石材が崩れ落ちていた。



「ぐっ……左腕が痺れる……! 分かっていたけど……流石にエナジーを殆ど持っていかれるな、このアーティファクト……! 充填チャージまで時間も掛かるし、そう簡単に連発はできそうに無いか……」


「敵性個体の完全消滅を確認………お疲れ様です、我が所有者マスター


「す、すごい……! S級なんてレベルじゃない……これが、ラムダ=エンシェントの実力か……!?」


「……っと、ちょっと派手にやり過ぎた! 多分、黒幕も今のに気付いただろう……!!」



 しばらくの休息の後、砲撃による階層内の急激な温度上昇が収まったのを確認して、俺たちは再び出発する。


 そして、そのまま敵の居なくなった第四階層を走り抜け、俺たちは次の階層へと走り抜ける。目指すべき最深部までは、まだ遠い。



「……ふぇ!? ラムダさん、ラムダさん、幽霊が……幽霊が……私の美しい身体から……って、アレ?」


「あっ、やっと元に戻った」


「何、何!? 何があったの!? 幽霊は、あの非科学的存在はどこに……!?」


「ノアさんはこちらの方がしっくりきますね」

「………………?」

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


ご覧いただきありがとうございます。


この話を「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、↓の☆☆☆☆☆を★★★★★にしたりブックマーク登録をして頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ