第43話:悪魔の庭
「我が主の供物、勇者。囚えよ、囚えよ、囚えよ」
「ラムダさん、前方に悪魔種デーモン! 距離50メートルに数1、距離200メートルに数3、合計四体!」
深淵牢獄迷宮【インフェリス】――――第三階層【悪魔の庭】。
悪魔種の魔物が多く徘徊するこの階層は駆け出し冒険者にとっての第一の関門。この階層の番人たる悪魔種の象徴たる魔物である『デーモン』を突破してこそ、次の冒険者ランクである“D”への扉が開かれる。
第一階層【迷いの通路】と第二階層【忘れ去られた都】を走り抜けた俺たちは、魑魅魍魎が跋扈するこの【悪魔の庭】の終点に辿り着こうとしていた。
枯れ果てた庭園を模した【悪魔の庭】は先史文明時代は貴族たちの居住区画だったのだろう。所狭しと敷き詰められた住宅や公園といった施設が地下空間とは思えない荘厳さで存在していた。
しかし、それも今はむかし――――いつの頃からか地下より溢れ出した魔物によって人々は地上へと追いやられ、いつしか美しい貴族たちの庭園は悪魔蔓延る死の庭園へと変化していった。
共に突入した他の冒険者たちは早々に魔物の襲撃に遭い足止めされ、【悪魔の庭】を走るは俺たちのみ。
「私が殺ろうか? あの程度のデーモンなら幾度となく倒した経験があるぞ」
「いいやアンジュさん、ここは僕にやらせて! 少しは勇者らしい所を見せないとね!」
辺りを徘徊する低級悪魔を薙ぎ倒しつつ目前にまで迫った終着点――――枯れた噴水のある広場の奥に鎮座する巨大な赤い扉。
その扉を護る様に配置された青い肌の魔人である悪魔種『デーモン』はこちらに気付くやいなや、手のひらから魔力による光弾を撃ち出して攻撃を仕掛けてくる。
「固有スキル【絶対聖域】発動!! 聖なる護りよ、我ら神の信徒を護りたまえ!!」
その攻撃に対処するのは俺たち『ベルヴェルク』の後衛であり『回復術師』の役割を担う【神官】オリビア=パルフェグラッセ。
彼女が女神アーカーシャより授かった固有スキル【絶対聖域】――――あらゆる攻撃を防ぐ絶対防御の加護。消費魔力こそ通常の防御魔法に比べて高いが、魔力が尽きなければ燦然と輝き続ける事が出来る白亜の聖域。
俺たちの前に“壁”となって出現した白亜の聖域はデーモンの攻撃を尽く防いでみせる。
「アリアさん、あなたの合図で結界を開きます! 準備を……!」
「任せてよ、オリビアさん! 固有スキル【強化充装填】発動! 瞬間強化――――充填開始!!」
そして、オリビアと連携を取り、デーモンへの切り込みを行うは俺と双璧を成す『ベルヴェルク』のもう一人の『攻撃役』である【勇者】ミリアリア=リリーレッド。
彼女が女神アーカーシャより授かった固有スキル【強化充装填】――――力を充填することで自身の身体能力に上昇補正を掛け、開放と同時に自身のレベルを瞬間的に引き上げる強化系統のスキル。
「充填……充填……充填……今だ!!」
オリビアの結界に護られつつ、安全な状況で力を充填するミリアリア。溜め込んだ力は彼女の中で噴火寸前の火山の如く煮え滾り、地面が振動を始める程に凝縮されていく。
そして――――
「結界、部分開放!」
「装填――――剣技、“紅筋山慈姑”!!」
――――合図と共に結界が開いた瞬間、力を溜めていたミリアリアは忽然と姿を消して――――
「消えた……!? どこに……ッ!?」
「…………斬り捨て、ごめんね!」
――――気付いた時には、遥か先にいたデーモンを真っ二つに斬り裂いていた。
「計測推定瞬間レベル……80! いい数値出てますね~ミリアちゃん!」
「油断するな、アリア! まだ奥に三匹残っているぞ!!」
だが、敵の猛攻は終わらない。ミリアリアが敵を斬り倒した更に奥、目的地である赤い扉の前に陣取っていたデーモン達が攻撃を終えて一息ついた彼女に襲い掛かる。
「ふぅ……ラムダさん、あっちはお願い!」
「美味しい所はくれるってか? じゃあ遠慮なく――――“光の翼”!!」
三体のデーモンの腕から大砲が如き魔弾が放たれる。しかし、【直感】のスキルによって『攻撃の当たらない場所』を瞬時に感じ取ったミリアリアにはデーモンの攻撃は当たることなく、どこかやりきった表情の彼女は振り向いて俺に止めを任せてきた。
ミリアリアなりの『リーダーである俺の引き立て』なのだろう。それを理解した俺は“光の翼”を展開して結界から第三階層の天井ギリギリまで飛翔する。
「対式連装衝撃波干渉砲:高火力砲形態――――スキル発動【精密射撃】」
両手には“可変銃”――――狙うは遥か下方のデーモン。俺の存在に気付いた二体のデーモンは俺めがけて魔力弾を放ってくるが、二丁の可変銃の銃身より放たれた真紅の弾丸は魔力弾を全て掻き消した上でデーモンの上半身を吹き飛ばしていく。
「――――ッ!?」
「悪いけど、通してもらう! 対艦砲撃形態――――発射!!」
そして、両脇のデーモンが倒された事に気付いた中央の一体がこちらに視線を向けるよりも疾く、俺はそのデーモンに接近して零距離からの高火力砲撃をお見舞いしてデーモンを撃破して、そのまま後方の赤い扉をぶち抜いていく。
「馬鹿な!? あの扉を開くのには、広場に建つ監視塔の内部にあるレバーを作動させる必要があるのに……ち、力づくでこじ開けただと!?」
「ぬっふっふ……! これぞ我らがパーティ『災いを引き起こす者』の“切り札”であるリーダー……ラムダ=エンシェントさんの真の実力なのです!」
唖然とするアンジュと、その彼女に自慢気な表情をするノア。彼女たちの黄色い声を背中に受けながら、俺は開かれた扉の奥を観る。
下へと続く石造りの階段の奥から聴こえる怪物どもの叫び声、吹き上がる生臭く湿った風。
「気を付けろ……! ここから先は中層域――――油断すれば私でも呆気なく死ぬ“死の領域”だ……!」
アンジュの声色が変わる。ここから先が“異質”なのは俺でも容易に想像出来る。恐らく、ここから先は『あの黒い手の主』の境域なのだろう――――ここからが本番だ。
俺たち『ベルヴェルク』は全員揃って扉をくぐり、階段を下へ下へと降りていく。この先は中層域、邪悪なる者の巣食う死の領域。
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