第39話:VS.アンジュ=バーンライト
「お前たち、いつまで寝ているんだ!! さっさと起き上がって僕を守れ!!」
「はい、リティア様……」
「はい、リティア様……」
「ラムダさん、後ろ! さっきの人達が……!!」
アンジュの先制攻撃の余波で吹き飛ばされて壁に叩きつけられていたリティアは、激昂しながら俺の背後で倒れていたふたりの冒険者へと罵るように命令を下す。
その心無い命令にも関わらず、エルフの少女と魔女の女性はリティアへの服従を表して立ち上がり、再び俺へと狙いを定める。
「せっかくアンジュの攻撃に巻き込まれないようにシールドを廊下いっぱいに展開したってのに、恩を仇で返しやがって!」
「くっくっく……流石は騎士の名家エンシェントの血筋。お優しいことで……」
リティアの指摘通り俺はふたりの女性にも、目の前のアンジュ=バーンライトにも『明確な殺意』は抱いていない。理由は単純、彼女たちはリティアに操られ『自らの意思とは無関係に俺と戦うこと』を強いられているからだ。
ゼクス兄さんやリリエット=ルージュの様に自らの意思で俺と敵対したならば容赦はしないが、こと今回に至っては状況が違う。
「騎士とは、護る者……!!」
俺はアンジュ達を殺さない。何としてでも、リティアの呪縛から解き放つ。その上で、リティア=ヒュプノスを叩きのめす。
「さぁ、邪魔者を殺せ!!」
「【爆ぜる閃光】――――発動」
「火炎魔法――――“爆炎球:Lv.5”」
「疾風弓――――“風の破魔矢”」
挟撃――――俺の背後にいるふたりの冒険者はそれぞれに炎の魔法と風の属性を帯びた矢を放ち、俺の目の前にいるアンジュは大剣を床へと叩きつけ生じさせた爆炎で俺を攻撃する。
「光の翼、最大加速!!」
“光の翼”による加速で急速離脱し破壊された壁から屋外へと俺は飛び出して三名の一斉攻撃を回避する。同時に俺がさっきまで居た場所は激しい爆発で吹き飛んだ。
はさみ撃ちにされていては流石の俺も戦局を把握することは難しい。まずは距離を取って全体状況を把握しなければならない。
「ノアとアリアは戦線離脱、リティアは宿屋からアンジュ達を見捨てて逃走か……」
確認事項は三つ――――ノアとミリアリアは隙を突いて離脱して部屋にいたコレットとオリビアと合流、アンジュ達は廊下から外へと飛び出して俺への追撃の準備を、そしてリティア=ヒュプノスはどさくさに紛れて逃走を図り迷宮都市の路地裏へと逃げ込もうとしている。
「ご主人様の命令だ――――死ね」
「アンジュさん、リティアの催眠に惑わされないで!!」
リティアの追走を優先したいが、洗脳されたアンジュは外へと飛び出した俺へと向けて剣を振りかぶって勢いよく突撃して来る。
リティアへの追撃を試みる俺へと、大剣を振りかぶって飛び掛かってくるアンジュ。戦闘の回避は困難だ。
俺は【行動予測】で彼女の剣筋を予測し、攻撃を左腕で受け止めて、直後に“光量子輻射砲”を照射してアンジュの【爆ぜる閃光】による爆発を相殺する。
「――――“爆裂鉄拳”!」
「量子変換装置起動――――【徹甲錘撃右腕部】!!
『遺物――――認識。体装甲迫撃武装・徹甲錘撃右腕部:書文――――認識。スキル【ゴミ拾い】効果発動―――所有者をラムダ=エンシェントに設定――――完了。スキル効果による拾得物と術者の同調率最適化――――完了。拾得物に記憶された技量熟練度及び技能の継承――――完了。技量スキル【格闘術:Lv.10】取得――――完了』
対装甲迫撃武装・徹甲錘撃右腕部――――右腕に装着する籠手型のアーティファクト。手の甲に備え付けられた二本の筒状の鉄鎚が着弾と同時に炸裂、分厚い装甲を貫通し内部から破壊する『鎧通し』にて敵を打ち倒す白兵戦用武装。
「――――ッ!?」
「残念……お見通しだよ、そんな攻撃!!」
アンジュの爆ぜる鉄拳をこの右腕で打ち返し、彼女の攻撃を相殺する。
俺の拳とアンジュの拳の間で炸裂する爆発。その衝撃で吹き飛んだ俺たちに再び距離が生まれる。
「こっちが手加減しているとは言え、流石はS級冒険者……攻撃に容赦が無いな」
「…………」
正直に言えばアンジュや取り巻き達を『殺す』だけなら容易に出来る。しかし、催眠にかけられた彼女たちを殺める事は出来ないし、既に騒ぎを聞き付けた野次馬達はアンジュ達が催眠下にあることを知らない。
私闘での殺傷はご法度、このままアンジュ達を殺してしまえば、最悪、俺たちはギルドの許可証を失いかねない。
「仕方が無い……いったん気絶させるか! “徹甲錘撃右腕部”――――非殺傷形態移行!」
リリエット=ルージュの【魅了】に掛けられたゼクス兄さんを気絶させて強制的に動きを封じたのと同じ戦法。俺は右腕の威力を最大限“下げた”非殺傷状態を作動させる。
「固有スキル【爆ぜる閃光】――――発動」
それと同時に再び大剣を構え攻撃の準備を整えるアンジュ。魔力を籠められた刀身は紅く煌々と輝き、太陽の如く夜の迷宮都市を照らし出す。
剣を高く掲げ、ひたすらに魔力を剣へと注いでいくアンジュ。間違いない、大技が来る。俺はそれを最大のチャンスだと判断して、左腕を彼女へと向ける。
「光量子展開射出式超電磁左腕部――――射出!」
「最大奥義――――“流星爆撃”」
アンジュが振り下ろした大剣は地面を刳り、そこから噴き上がった津波の様な爆発の波が俺に襲い掛かる。その迫りくる爆発に向けて俺は左腕を射出、振り下ろされたアンジュの大剣を伸ばされた左手で掴んで一気に破壊した。
そして、そのまま俺は光の翼で自分の身体を覆い防御姿勢を取りながら左腕の回収機構を利用してアンジュに向けて突貫。彼女の起こした爆発の波を突き抜けて、一気に距離を詰める。
「――ッ!? 爆裂鉄――――」
「遅い!! 衝撃鉄鎚!!」
爆発の中から無傷で現れた俺にアンジュは一瞬だけ動揺し、それでも尚、迎撃を試みたが既に手遅れだ。
翼を広げて風圧でアンジュの姿勢を崩した俺は、彼女の腹部に右腕を叩きつけ、手の甲に備え付けた鉄鎚から放たれた衝撃波で内部へと攻撃を貫通させる。
「――拳……ッッ!?」
非殺傷状態にしてるとは言え、並の大人なら一瞬で意識を失う威力の攻撃。しかし、アンジュは催眠下にありながらも脅威の精神力で意識を保ち、俺への攻撃を続行しようとした。
「ごめんなさい、手荒な真似をして。必ず開放してあげるから、少しだけ休んでて」
「ぁ……ぅ…………!」
けれど、そこが彼女の限界だった。振り抜いた拳は俺に届くことなく、アンジュは小さな呻き声をあげて倒れる。
S級冒険者アンジュ=バーンライトの敗北。
これが、冒険者ギルドでの『ラムダ=エンシェント』の名を大きく上げる事件となるのだが、事態はまだ終わっていない。いや、まだ始まってすらいなかった。
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