第36話:新しい仲間
「まったく、酷い目に遭いました! う~……お尻がまだ痛いです……」
「ノアの尻を痛めつけるなんて……まったく、あのアンジュって人にも困ったもんだな!」
「私のお尻を痛めつけたのはラムダさんなんですが!?」
迷宮都市エルロル第0階層、街の一画に在る大食堂。時刻は夕方。
窓から夕日が差し込む食堂で、深淵迷宮から帰還した俺たちは少し早めの夕食を摂っていた。
「……で、結局、今回の探索の収穫はラムダ様が発見された武器100ティア、モンスターハウスで採取できた【インプの魔石30個】【よく分からない骨】600ティア――――占めて700ティア。はっきり言いまして、今の食事代にも届いていません!」
「うーん……やっぱ拾った武器の買い取り価格が低いんだよなぁ。そりゃ【ゴミ漁り】なんて職業、馬鹿にされるよなぁ……」
「オリビア様……ラムダ様がいじけてらっしゃります〜」
「まぁまぁ、ラムダ様♡ ラムダ様の売りは圧倒的な戦闘能力なんですから、そんなに気を落とさないでください……ね♡」
途中で邪魔が入ったとは言え、結果としては非常に微妙。とてもじゃないが、俺たち五人パーティを養うにはほど遠い稼ぎしか無かった。
「となると、やっぱり冒険者ランクを上げてより下層の迷宮へ探索に出たほうが良いのかな?」
「まぁ、ミリアリアの言う通りだな。明日はギルドランクを上げる依頼込みで深淵迷宮に潜ってみるか……」
Eランクで行ける範囲の迷宮は既に多くの冒険者によって探索され尽くしている。ともなれば、より多くの報酬を獲得するためには冒険者ランクの向上は不可避だろう。
幸いなことに、コレットの事前調査で深淵迷宮向けの依頼の中に冒険者ランクDへ昇格する為の討伐依頼があるのを確認している。
明日はその依頼を受注しつつ、深淵迷宮に挑む。それが俺たちの明日以降の行動指針だった。
「あんまりぐずぐずすると、ツヴァイ様から頂戴したお小遣い5万ティアもあっという間になくなってしまいます〜」
「……だな。っと、ミリアリアはどうするんだ? 無理に俺たちに付き合わなくても良いんだぞ?」
「そうだね……ランク上げは僕もしたいし、出来れば明日も一緒しても良いかな?」
「そう言う事なら喜んで」
人数が増えたせいか会話が弾む。ミリアリアも元気を取り戻した様子で楽しそうにオリビア達と談笑していた。
「そうそう……僕の名前、長いでしょ? よかったら『アリア』って呼んで欲しいな」
「あだ名か……?」
「うん! 僕ってちょっとがさつなんだけど………でも、『アリア』って女の子っぽい響きが好きなんだ! だからね……?」
「え〜っ! ノアは『ミリア』の方が言いやすいです~!」
そんな中、ミリアリアからの突然の提案をされた。打ち解けた証だろうか、彼女は自分の事を『アリア』と呼んで欲しいと俺たちにお願いしてきたのだ。
しかし、珍しくノアが反対。『ミリア』の方が良いと言い出してきた。
「おいおい……本人が『アリア』が良いって言ってるんだから、『アリア』で良いだろ?」
「嫌です〜……むかしの私の友だちに『アリア』って名前の子がいたから被っちゃいます~!」
「ふ~ん、そうなんだ」
「…………!」
昔、『アリア』と言う友人が居た。それがノアの理由。今は亡き友人を思い出してしまうのだろう。
けれど、ノアは友人の死には触れない。彼女なりに気を遣っているのだろう。ノアはわざと我儘を装ってミリアリアに本心を気取られない様にしていた。
「複雑な事情があるみたいだね、ノアさんは。良いよ、僕は『ミリア』でも大歓迎さ!」
「ホント! じゃあ、よろしくね『リアリア』ちゃん!」
「次に『リアリア』って言ったら、お尻を四つに割るよ?」
「はぅ!? ふ……複雑な事情があるみたいだね……ミリアちゃんは……! もう言わないから許して……」
ミリアリア――――『アリア』の寛大さについつい調子に乗ったノアに繰り出された強烈なカウンター。アリアの鬼の形相に気圧されたノアは顔面蒼白になって彼女に許しを乞うている。
「ぷっ、あははは! 冗談だよ、冗談! さて……じゃあ、改めまして――――」
そのノアの慌てふためいた様子に大笑いし、満足したアリアは勢いよく立ち上がると、徐に自身のステータス画面を表示し始める。
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名前:ミリアリア=リリーレッド
年齢:15 総合能力ランク:Lv.13
体力:140/140 魔力:70/70
攻撃力:150 防御力:80
筋力:100 耐久:70
知力:40 技量:90
敏捷:130 運:50
冒険者ランク:E 所属ギルド:なし
職業:【勇者:Lv.1】(全能力に成長ボーナス)
固有スキル:【強化充装填:Lv.2】
保有技能:【厄災の引き金:Lv.2】【聖剣覚醒:Lv.1】【不屈の意志:Lv.1】【直感:Lv.2】【状態異常耐性:Lv.1】
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「【勇者】ミリアリア=リリーレッド――――これからもよろしくお願いします!」
改めての自己紹介――――偶然出会い、成り行きで迷宮を探索した『その場限りの関係』だったアリアと、正式に“縁”が結ばれた瞬間。
ロクウルスの森での戦い、ラジアータ村の悲劇、オトゥールでの【吸血淫魔】との決戦。その因果の行き着く先、【勇者】ミリアリアとの邂逅。
俺たちのパーティに、賑やかな仲間が増えた瞬間であった。
「ねぇねぇ、ラムダ様。できれば……わたしもあだ名で呼んで欲しいな♡」
「? オリビアさん、急にどうしたの……?」
「オリビア“さん”じゃあ、なんだか他人行儀みたいで……」
「うんうん……! じゃあなんて呼べば良いの?」
「そう……できれば……『雌犬』で♡」
「うん……却下」
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