第324話:再び交わる道
「おい、ストルマリア、トリニティ、アタシの足を引っ張んなよ! 漸くホープから暴れても良いってお達しが来たんだ! こいつ等はアタシがぶっ潰す!!」
「フン、単細胞生物の駄犬がキャンキャン吠えないの! 獲物ならいっぱい、早い者勝ちよ!」
「魔王軍の元幹部たちは血気盛んで嫌になるわ……! ですが、暴れたくてウズウズしていたのは私も同じ……全員、我が愛刀の錆にして差し上げます……!!」
――――追い詰められた俺たちの前に現れた三人の女性たち。トリニティ、ストルマリア、ルリ、かつて俺たちと関わりを持ち、強大な敵との戦いの中で消息を断った者たちだ。そんな彼女たちが再び姿を見せた。しかも装いも新しくなっている。
トリニティ卿とルリは真っ白なボディースーツに全身を包み、ストルマリアは漆黒のボディースーツを身に纏い、全員が通信機器のような物を耳に装備している。いずれも機械天使たちが身に纏っている戦闘服と酷似している。
それだけではない。トリニティ卿は目元を機械式のバイザーで覆い、刀身を青く発光させた大太刀を装備。ストルマリアは朱く輝く双頭の槍を、ルリは機械式の篭手とブーツを装備している。いずれも、以前俺たちと関わっていた時とは全く違う格好だ。
「ぐっ……テメェ等、その戦闘服と武装、何処で調達しやがった……!? この時代の代物じゃ無ぇな!」
「おう、そのとおりだ! てめぇ等が着ているのと同じ戦闘服だぜ! 羨ましいだろ?」
「機械天使用の戦闘服か……! 誰から貰ったんだ、言えッ!!」
「教える筈がないでしょう? これから倒されるあなたには不必要な情報です! さぁ、お覚悟を……!!」
ルリに頭部を殴打されて吹き飛んだウリエルは怒りに満ちた表情で彼女たちを問い詰めている。やはり、ルリ達が纏った衣装や武器はこの時代の物ではないらしい。
だとすれば考えられる可能性は一つ。
彼女たちが纏った物はアーティファクトだ。
ルリがウリエルを殴る時、彼女は『光量子充填弾』を消費する様子が視えた。あれは王都に忍び込んだ“狼王”やベルゼビュート姉妹が用いた武器と同じ機構だ。なら、ルリ達にあの装備を渡したのは『エンゲージ』になる。
「たった三人で主機たちを相手取る気か? 舐められたもんだなァ!!」
「いや、三人では無いぞ? レイチェル、射線は通っている、友軍の姿は無し! “木馬”の主砲で上空の機械天使を一気に消し飛ばせ!!」
『了解しましたー! 主砲、光量子充填100パーセント! 撃てーーっ!!』
「――――ッ!? 北西の方角から高濃度の光量子反応だと!? 量産型、すぐに高度を下げろ! 遠距離砲撃が来る――――ッ!!」
そんな俺の推理を裏付けるように、ストルマリアが通信で『レイチェル』と呼ばれた人物に攻撃を指示。
その瞬間、遥か遠方より飛来した朱く輝く光量子の砲撃が教会上空を取り囲んでいた機械天使の大軍を一撃で消し飛ばした。
夜の大地を朱く照らす光。その前に量産型の機械天使はなす術も無く消滅し、その様を目撃していたウリエルの表情が一気に青ざめていく。
「なんだ……何が起こった……!? あり得ない、アーティファクトを扱うのは其処に居るラムダ=エンシェントだけじゃ無かったのか!? 今のは……ノア=ラストアークが設計した強襲要塞【トロイメライ】の主砲……!」
今しがた上空の機械天使を薙ぎ払った攻撃にウリエルは覚えがあるようだった。
強襲要塞【トロイメライ】――――それが砲撃を放った何かの正体らしい。そして、ノア=ラストアークが設計したという事は、その“木馬”は古代文明で造られたアーティファクトということになる。
「よぉーし、残りはザッと百五十機ぐらいか! ルル兄、楽しい狩りの時間だぜ!! ウォォーーーーンッッ!!」
「ガルルル……!! 煩いぞ、黙っていろ、ルリ! ライラプス、テウメッサ、ルドルフ、貴様たちは負傷者を守れ! ベルゼビュート姉妹は俺に続いて機械天使を殲滅! キルマリアは適当に暴れて的にでもなっていろ!!」
「増援……!? 馬鹿な……獣国の“狼王”だと……!?」
形勢が一気に傾いていく。
気を良くしたルリの遠吠えと共に、上から降ってくるように現れたのは王都で俺を襲った“狼王”ルル=フェンリル。彼も漆黒の戦闘服を纏い、手脚に機械仕掛けの装備を装着している。
「固有スキル【外れじの牙】――――発動! “光量子充填弾”――――装填!! 穿て――――“飛来牙”!!」
「なっ……ライラプス……!? どうして此処に……?」
「ご無事ですか、コレット様! ガル=ライラプス、皆様の救援に参りました! さぁ、覚悟しなさい、機械天使どもよ! ガルルル……!!」
そして、光量子を纏った矢を放ち機械天使を撃ち落とし、コレット側に現れたのは“狼王”の側近である犬系重人種の勇士、ガル=ライラプス。
合金で造られたであろう槍と弓を装備し、黒い戦闘服を纏い、獣国の勇士が姿を現した。
「うふふっ……“光量子充填弾”……装填……! 目標……複数捕捉……!! 墜ちなさい――――“飯綱落とし”!!」
「エスカフローネ=テウメッサ……! わたくし達を助けてくれたのですか……!?」
「お元気にしていましたか、第二王女様? エスカフローネ=テウメッサ、義理によって助太刀致します♡ ええ、お代は結構、すでにエンゲージさんより頂いていますので♡」
同じく、光量子を集束させた拡散弾で機械天使を撃ち落としながら、レティシアの前に現れたのはエスカフローネ=テウメッサ。ライラプスと同じく“狼王”の側近を務める狐系重人種の賢者だ。
純白の戦闘服を纏い、その上から白いローブを纏ったテウメッサ。その手に握られたのは“光量子充填弾”を内蔵したと思われる弾倉を取り付けた純白の杖だ。
「アケディアス=ルージュ! グラトニス様は無事!? サジタリウスからグラトニス様が負傷したと聴いているわ!」
「バアルにゼブルか……!? ルクスリアなら教会の中だ! だが、先ずは機械天使どもを殲滅するぞ! 手を貸せ!」
「あたし等に命令すんな、怠け者! お姉様、今度こそグラトニス様を助けなきゃ!!」
「分かっています! 女神アーカーシャ……よくもグラトニス様をぉ! 許すまじ……叩き潰して差し上げます!!」
教会の屋根の上で戦っていたアケディアスの元に現れたのはベルゼビュート姉妹。彼女たちもルリたちの決起に合わせて行動を起こしたのだろう。
服装は今までに見たメイド服で変わっていない。だが、よく見るとメイド服の下に黒い戦闘服を着込んでいるのが見えた。やはり、彼女たちも『エンゲージ』の援助を受けて強化を施している。
「血の薔薇よ、爆ぜなさい! “血ノ開花”!!」
「なっ……キルマリア伯母様……!?」
「はぁーい、元気にしていたかしら、リリエット♡ このわたしが来てあげたわ、感謝しなさい! アケディアスも無事なようね、安心したわ」
「馬鹿な……おれ並みに怠惰な伯母様が……城から出てきたのか……!? なんの冗談だこれは?」
地上に展開した機械天使の目の前に出現した血の塊。それを爆破して“血の薔薇”を咲かせながら天使たちを一撃で破壊して、リリィの前に現れたのは純白の戦闘服に身を包んだ吸血鬼。
レディ・キルマリア――――数百年前に名を馳せたと言われる伝説の吸血鬼。“吸血姫”の二つ名で今なお怖れられるリリィとアケディアスの伯母だ。
そんな彼女までもが救援に駆け付けた。俺は面識が無いから分からないが、リリィとアケディアスの反応を見る限り、レディ・キルマリアが此処に姿を見せたは異例中の異例なようだ。
「まだ動けるか、ラムダ=エンシェント? 今すぐにでも貴様を殺してやりたいが、今は一時休戦だ。先ずはこの包囲網を破る……!!」
「ルドルフ……ヴォルクワーゲン……!」
そして、俺の目の前に現れたのは白い戦闘服を纏い、合金で出来た棒状の武器を装備した獅子の獣人。
ルドルフ=ヴォルクワーゲン――――魔王軍の幹部で、“若獅子”と呼ばれた戦士。俺とは浅からぬ因縁にある相手だ。そんな人物が俺を守る為に現れた。
「何を呆けている? オレは『まだ動けるか』と訊いたんだ! 動けるなら手を貸せ、動けないなら地面を舐めながら寝ていろ……!!」
「愚問だな、俺は死ぬまで戦うと決めている! お前こそ俺に付いてこれるか、ルドルフ?」
「フッ、片腕も片目も無い貴様に凄まれても迫力に欠けるな! さっさと此処を切り抜けて身体を治せ。それまで決着はお預けだ!」
「その誘い、乗った! じゃあ、先ずは行く手を阻むウリエルを下す!! ルドルフ、合わせるぞ!!」
「あの真っ赤な機械天使の事だな? 確かに一番強そうだ、倒しがいがあるな! 行くぞ……ガォォーーーーン!!」
ルドルフは俺を憎んでいる。だが、そんな燃え盛る復讐心を押し殺して、彼は窮地を抜ける為に共闘の道を選んだのだ。
ならば、その心意気に応えるのが俺の役目だろう。
すでにみんなの協力で機械天使の軍勢は半壊している。さっきまでは見えもしなかった勝利への“希望”が観えてきた。これならば、きっとみんなを助けられる。
そんな歓喜に満ちた感情が俺の身体を動かしていく。
「てめぇ等、何者だ!? アーティファクトを手にして、女神アーカーシャに反旗を翻す貴様たちは一体何なんだ!!」
「アタシ等は世界への反逆者! 古代文明の死者たちの無念を胸に灯して立ち上がった復讐者!! 心して聴け、我らの名は『ラストアーク騎士団』!! 女神アーカーシャを倒す為に立ち上がった――――“最後の希望”だァァ!!」
「ラストアーク……騎士団……!」
そして、俺たちに希望を運んだ者たちの名はルリによって明かされた。
その名は『ラストアーク騎士団』――――ノアの名前を冠した騎士団。それが、エンゲージなる人物が水面下で準備した組織の名だった。女神アーカーシャを討つための組織。ならば彼女たちは俺たちの心強い味方なのだろ。
遂に動き出した“最後の希望”。無惨な敗北に打ちのめされ、絶望の淵に立たされた俺たちの前に現れた希望。
きっと、ここから俺たちの反撃が始まるのだろう。




