第33話:【勇者】ミリアリア=リリーレッドの憂鬱
「ラジアータが……壊滅した……?」
「えぇ……村を襲撃した魔王軍最高幹部がひとり、リリエット=ルージュの手で。生き残ったのは子供たちだけ……あとは全員……あなたのご両親も……」
「そんな……どうして……」
迷宮都市エルロル――――冒険者ギルド支部・大食堂。深淵迷宮へと挑む冒険者たちが集い、料理を食べて英気を養う為の憩いの場。
その一画のテーブルで食事を摂った俺たちは、ひょんなことから合流する事になった【勇者】ミリアリアに彼女の故郷であるラジアータの末路を伝えた。
「そっか、お父さんもお母さんも……死んじゃったんだ。だめだなぁ……長生きするって言ってた癖に……」
「ミリアリア……」
「アーカーシャ様から【勇者】の職業を与えられて、冒険者になるって浮かれて村を飛び出して……まさか、こんな事になるなんて……」
ミリアリアの眼には涙が浮かび、その場に流れる沈痛な空気。ラジアータ襲撃の後、村人たちの遺体を埋葬したオリビアによってミリアリアの両親であるリリーレッド性の夫婦の死亡が確認されている。
故郷の滅亡と言う逃れようの無い事実。それを、俺たちはミリアリアに伝えなければならなかった。
唯一、オリビアがついた嘘――――ラジアータ襲撃の本当の目的、【勇者】ミリアリアの暗殺。彼女がそれを言わなかったのは、ミリアリアに『村が襲われたのは自分のせい』だと言う罪悪感を背負わせない為だ。
もし、本当の事を言えば、彼女は自己嫌悪すら感じていただろう。仮にいつか『真実』を伝えなければならないとしても、それは時間が経ってミリアリアの気持ちが落ち着いてからで良い。
「ありがとう……教えてくれて。皆さん、良い人なんですね」
「たまたま乗り掛かった舟だったってだけさ。それよりミリアリアさん……無理、してない?」
「ちょっとね……。う~ん……せっかく深淵迷宮に潜ってみようと思ったのに……なんだか萎えちゃったな〜」
俺が掛けた気遣いの言葉に天井を仰ぎながら答えるミリアリアは心ここにあらずといった感じだ。故郷や亡き両親に想いを馳せているのだろう。
「気分が優れないようでしたら〜、宿屋で一休みされては如何ですか~?」
「いいや! 思い出したらなんだかむしゃくしゃして来た! 僕はこのまま迷宮に行く! 君たちも付き合ってよ?」
「えっ!? おいおい、何を言ってるんだ!?」
「僕は冒険者になるって決めたんだ! こんな所でくよくよしてられないよ!」
傷心気味のミリアリアを案じてか宿屋に行くように促したコレットだったが、彼女の気配りに反発するようにミリアリアは語気を荒げると『迷宮へ行く』と意気込み始める。
それも、俺たちを誘いに掛けてまでだ。
「え〜、私は食後のデザートを食べてまったりしたいのですけど……」
「ノアさんは食べてばかりですね……太りますよ?」
「ざんね~ん♡ 私は生まれる前から『太る』なんて設計は除外されているので、どんなに食べても太りません♡」
「なるほど……だから体付きが慎ましいのですね?」
「むむっ、調律が取れているだけです、オリビアさんみたいな駄肉と一緒にしないで下さい!」
「むむむっ、ス……スタイルが良いだけです! サートゥスで一番の可憐さで、『ラムダ様の婚約者に相応しい』って評判だったんですから」
例のごとく食事を続行しようとするノアと、彼女に謎の牽制球を投げるオリビア。やれやれ、仲が良いのか、悪いのか。
「まったく……あのふたりは喧嘩が絶えないな。なぁ、コレット?」
「あぁ……ラムダ様、あのおふたりが『何を巡って争ってるか』気付いてないのですね」
「……?」
「プッ、アハハハハ! 楽しそうだね、君たち!」
そんな俺たちの他愛もない日常風景に感化されたのか高笑いするミリアリア。何故かは分からないが、どうやら気分が少し晴れたみたいだ。
「うん……気に入った! やっぱり、一緒に迷宮探索に行こう! 僕は先に道具屋で物資を買ってくるから、また後でねーッ!」
「おい、勝手に決めるなって――――」
「あぁ、そうそう……ご飯美味しかったよ、ごちそうさまでした……じゃ!」
後で合流して迷宮探索をしよう。そう元気よく言って、ミリアリアは俺の言葉を聞き届けないままに颯爽と人混みに紛れて行った。
「いや、飯奢るとは言って無いんですけど!?」
「あーっ、ラムダ様ーっ! あの人、ノアさんの次にご飯を食べいてますー!?」
「ま、待てやお前ーーーーッ!!」
迷宮都市での新たな出合い――――【勇者】ミリアリア=リリーレッド。天真爛漫な駆け出し勇者様はどうやら、とんだ【トラブルメーカー】だった様だ。
喧嘩し続けるノアとオリビアの引率をコレットに任せ、俺は急いでミリアリアを追い掛ける。彼女が飲み食いした飲食代を回収するために。
【この作品を読んでいただいた読者様へ】
ご覧いただきありがとうございます。
この話を「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、↓の☆☆☆☆☆を★★★★★にしたりブックマーク登録をして頂けると幸いです。




