第31話:禁忌の遺物《カラミティ・アーティファクト》
「“禁忌級遺物”? ノア、なんだよそれ?」
――――オトゥールを発ってから三日程が経過した昼下り。俺、ノア、コレット、オリビアの四人は次の目的地である“迷宮都市”エルロルまであと少しと言う所まで差し掛かっていた。
そんな中で、俺の隣に居たノアがぽそりと漏らした意味深な言葉――――“禁忌級遺物”。俺は思わずそのアーティファクトの詳細をノアに問い詰めてしまっていた。
幸い、俺たちの前を歩くコレットとオリビアは通りすがりの怪しい商人から安く買った迷宮都市の観光案内を眺めるのに夢中になっており、俺たちが内緒話をしていても気にしそうな様子は微塵にもなかった。
だからだろうか、ノアは観念したようにため息を少し付くと、真剣な眼差しで俺に言葉を紡ぎ始める。
「“禁忌級遺物”……十万年前の古代文明に於いて、当時の天才科学者『ラストアーク博士』によって造られた最悪最凶の装置の名称……って、私が昨日名付けたんですけど……」
「最悪最凶? 俺が使っているアーティファクトとは訳が違うのか?」
「もちろん……! “禁忌級遺物”は当時においても文明を崩壊させかねない危険な力を持っていたのです」
ノア曰く、俺がこれまでに使ったアーティファクトの大半は当時の時代では『一般兵装』扱いの物ばかりであり、それ故に当時を知るノアは俺が有するアーティファクトの使用の制限は特には考えていなかったらしい。
そんな彼女が俺に対しても『絶対に使わないで』と念押しするような危険なアーティファクト、それが禁忌級遺物なのだそうだ。
「“禁忌級遺物”は全部で七つ――――」
ノアの口から語られたのは、七つの禁忌。
あらゆる生命体を意のままに操る催眠装置【エクスギアス】。
時間を自在に捻じ曲げ過去・現在・未来を支配する時間制御装置【クロノギア】。
一つの大陸を瞬時に壊滅させる衛星軌道兵器【月の瞳】。
戦略兵器と呼ばれた兵器の火力を有に超える人型最終兵器【アルマゲドン】。
並行世界の壁を破りそこから無尽蔵のエナジーを集積させる永久機関【λドライヴ】。
設計者・ラストアーク博士の名を冠した世界最大の戦艦【ラストアーク】。
「――――そして、世界を意のままに書き換える究極のアーティファクト――――虚空情報記憶帯干渉同期システム【アーカーシャ】」
「アーカーシャ……!!」
「どれもこれもが世界を簡単に潰せる最悪のアーティファクトです」
ノアの口から語られた最悪のアーティファクト。
世界を容易く壊滅させる禁忌の存在――――実際にノアの時代を崩壊させた女神アーカーシャが存在する以上、ノアの言葉には高い信憑性しかない。
「待て……? 【第十一永久機関】ってのは俺の心臓にノアが組み込んだアーティファクトだよな?」
「はい……黙っていてごめんなさい。ラムダさんの命を救うためには、どうしてもそれに頼るしか無くて……」
七つの禁忌――――しかも、その内の一つが自分の心臓に入っている。驚いて開いた口が塞がらなかった。
「そのアーティファクト……ノアの時代ではどうなったんだ?」
「殆どが日の目を見る事はありませんでした。しかし、【強制催眠装置】と【時間制御装置】と【第十一永久機関】は実際に使用者がおり……その尽くが禄な死に方をしませんでした」
禄な死に方をしない――――ノアの口から語られた過去の事例は、おおよそ禄でも無いことが容易に想像出来る。
「ある人は催眠術を行使し過ぎて、一つの居住区を酒池肉林の宮殿へと変えた罪を問われて死罪に」
「……」
「ある人は時間制御装置を使い永遠の若さを保とうと時間逆行を多用しすぎた結果、精子と卵子にまで逆行してしまい死亡」
「……」
「そして、ラムダさんの心臓にある永久機関を扱った人は、戦いに明け暮れて戦場の中で消息を絶ちました」
身の毛もよだつ様な悲惨な話がノアの口から語られる。過去に使われた“禁忌級遺物”は所有者に尽く破滅をもたらしていた。
「なるほど……随分と怖い代物なんだな」
「はい……だから、ラムダさんも注意して下さい! 絶対に力に溺れないで下さい。強大な力は……使い方を誤ると悲惨な末路しか生みませんから……」
だからこそ、ノアは俺の身を案じているのだろう。胸に秘めたアーティファクトの力に、決して溺れないようにと。
「分かっているよ。でも、もしもの時は、ノアが俺を正気に戻してくれよな?」
「…………ッ! はい、勿論です、ラムダさん! もしもの時は〜このノアちゃんにお任せください♪」
ノアの気遣いに俺は『大丈夫だ』と明るく返した。そんな俺の返事に安心したのか、ノアもいつもの調子に戻って声を張り上げている。
「ラムダ様〜、ノアさーん、エルロルが見えて来ましたよ~!」
そして、丁度いいタイミングで聴こえてきたオリビアの呼び声。どうやら目的地が見えてきたらしい。
「さっ、行こう……ノア! 新しい冒険が俺たちを待っているぞー!」
「あぁ、ラムダさん! その前にご飯です! 私、もうお腹がぺこぺこです〜」
近付く目的地、“迷宮都市”エルロル――――そこで禁忌級遺物の恐ろしさを嫌と言う程に味わうことになるとは、今まだ、誰も知る由はなかった。
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