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第29話:俺の進むべき道


「ラムダさーん! 迎えに来ましたよ~♪」

「ノア、コレット……それに、オリビアさん?」



 “吸血淫魔ヴァンパイア・サキュバス”リリエット=ルージュを撃破して三時間後。


 ようやく気力が戻り、地面に顔をうずめて呑気のんきに眠っていたゼクス兄さんをかついでオトゥールの広場に戻ってきた俺の視界に映ったのは、こちらに手を振るノア、コレット、オリビアの姿だった。



「俺が迎えに行くって言ったのに……」


「いや~、私たちもラジアータで待っていようと思っていたんですけど~、()()()がここまで送ってくれるって聞かなくて……」


「あの人……?」



 ノアがおもむろに指し示した方向に、彼女たちを此処まで送り届けた人物はいた。


 白い騎士甲冑を身に纏い、両手で振るうのも困難な程に巨大な両手剣ツーハンデッドソードを携え、立派な装飾が施された栗毛の馬に乗馬する人物。



「父さん……!」


「あぁ? なんだよ、クソ親父おやじじゃねぇか」



 【白騎士】アハト=エンシェント――――俺を家から追放した実の父親が俺を見つめていた。



「コレットからの報せは確かに受け取った。ラジアータの生き残りの子供たちは私の屋敷で面倒を観よう」



 怪訝けげんそうな表情かおで俺を見つめながら、父さんは乗っていた馬から降りながら俺にラジアータの生き残りたちの処遇を伝える。



「ありがとうございます、エンシェント辺境伯様」


「それと……オトゥールの民から聞いた。魔王軍最高幹部のひとり、リリエット=ルージュを打ち破ったそうだな。良くやった、ラムダよ」



 そして、父さんの口から出たのは思わない一言。


 ルージュを倒した事をねぎらい、『神授の儀』以降、俺のことを“ゴミ”としか呼ばなかった父さんが口にした俺の名前だった。



「どう言う風の吹き回しでしょうか……父さん?」


「家に戻って来なさい、我が息子よ。お前にサートゥス騎士団の団長を任せたい。どうやら私は酷い思い違いをしていたようだ」



 家に戻って来い――――あの時、父さんがした俺への“追放宣言”の撤回と、街の自警団であるサートゥス騎士団の団長への抜擢ばってき宣言。


 魔王軍最高幹部を打ち破った俺の『価値』を見直した父さんは、今まで以上の待遇で俺をエンシェント家に戻そうとしていた。



「ハァ!? サートゥス騎士団の団長はこの俺だろうが! なんで、騎士の職業クラスでも無いラムダが団長になるんだよ!?」



 当然、サートゥス騎士団の現団長であるゼクス兄さんは突然の決定を不服として、父さんに異議いぎを申し立てる。



 しかし――――


「黙っていろ、この恥晒しがッ!! 騎士団の部下たちをみすみす死なせ、無様な敗北を晒すなど騎士の名折れ!! 貴様はもうサートゥス騎士団の団長では無い! 一介の騎士からやり直して頭を冷やすがいい……!」


「そ、そんな……!?」


 ――――父さんはゼクス兄さんを厳しく叱責しっせきし、騎士団の団長からの解任をはっきりと宣言してしまった。



 父さんからの解任宣言を受け、膝から崩れ落ちるゼクス兄さん。しかし、父さんはショックほうけるゼクス兄さんの方など少しも見ようとせず、俺の方に顔を向け続けている。



「さぁ、ラムダよ、戻ってきなさい。職業クラスとスキルに関しては箝口令かんこうれいを敷いておこう。それに、ツヴァイですら仕留めきれなかったあの吸血淫魔を打倒したのだ。皆、お前の強さを認めてくれるだろう……!」


「良かったですね〜ラムダ様〜♪ これでコレットもお屋敷に戻れます〜♪」



 『神授の儀』の前まで、父さんが俺によく向けていた期待に満ちた表情かお。あの時、女神の気紛れで奪われた俺の『未来』が目の前にある。



「ラムダさん……」

「ノア、俺は……」



 分かっている、屋敷に戻れば良い。今まで思い描いていた未来を進めば良い、アーティファクトの事も女神システムアーカーシャの事も忘れて()()()()()に成ればいい。


 それだけでラムダ=エンシェントの人生は全うされる。



「ラムダよ、この剣をお前に授けよう。サートゥス騎士団を継ぐお前への、私からの選別だ」



 そんな俺の背中を後押しする様に、父さんから差し出された一振りのつるぎ。真新しく光る剣、家を追い出された時に燃やされた()()()の代わりだ。



「…………ッ!!」

「さぁ、受け取りなさい」



 その剣を差し出された瞬間、俺の『覚悟』は決まった。



「ふざけるな、このぉ……くそ親父ぃーーッッ!!」

「どうしたんだ? ラム――――ごばぁ!?」



 だから、俺は剣を受け取らず、左腕で父さんの顔面をぶん殴った。



「わぁ~腰の入った見事なコークスクリューパンチですね~ラムダさん♪」


「えぇーーッ!? ラムダ様、一体何をしているんですかーーっ!? お、お父様を殴るなんてぇぇ!?」



 コレットの絶叫と共にくるくると父さんは回転しながら吹っ飛んで、そのまま地面へと転がり落ちる。



「ぐぉ……い、いった~! な、何をするラムダ!? 実の父親に手を出すなど正気か貴様は!?」


「それは俺の台詞だ! 俺の事を『ゴミ』呼ばわりして、今さら戻って来いだと? ふざけるな、俺はもうエンシェントの屋敷には戻らない!!」


「えぇ!? コレットはお屋敷に戻りたいのですが~」


「えっ、そうなの? ばいばい、コレットちゃん、今までありがとね……ぐすん」


「えっ? ノア様、見限るの早すぎます〜(泣)」



 自分の言う事に素直に従って戻ると思っていた息子の思いもよらない反撃に父さんは激昂している。


 けれど、俺の進むべき道はもう決まっていた。



「俺は、父さんの為の騎士にはならない! 俺は――――ノアの騎士になるって決めたんだ! だから、俺は彼女の旅に付いて行く!!」


「えっ、愛の告白!? ラムダさん、大胆過ぎます~///」


「今のはビジネスパートナーとしての契約宣言では? そもそも……ラムダ様の『婚約者』はわたしですし……」


「はぁ!? オリビアさん、よく聴こえなかったわ〜。もう一回言ってみ?」


「……………………(無視)」



 外野で騒ぐノア達はともかく、俺はあの日の夜に『ノアを護る騎士』になると決めた。それだけは絶対に譲らない。



「ラムダ……私が悪かった。どうか許してくれ……」



 その俺の覚悟に気圧けおされたのか、父さんは高圧的な態度をやめて必死に俺に懇願している。戻ってきて欲しいと。


 それが、エンシェントの名誉の為、父さん自身の面子プライドの為だと、今ならよく分かる。


 だからこそ、今度は俺が父さんに絶縁を叩きつける番だ。今さら手のひらを返したって、俺の決意はもう変わらない。



「今さらラムダさんに謝ったって――――もう遅い!!」

「なんでノア様が言うんですか〜?」



 もたもたしていたら、ノアに決め台詞盗られた。



「コホンッ、とにかく俺は冒険者としてノアと旅をするって決めたんだ。じゃあね、父さん。俺を認めてくれたのだけは……感謝します」



 これ以上、この場にいても意味は無い。地べたに倒れる父さんに背中を向けて、オトゥールを後にするために俺は歩き出す。


 冒険者としての独立――――こうして俺は『エンシェント』の名前から解き放たれて、いま『ノアの騎士』としての一歩を踏み出したのだ。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


ご覧いただきありがとうございます。


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