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第257話:VS.【暴食の魔王】ルクスリア=グラトニス⑤/ 〜Effimero Aria〜


「フフフ……フハハハハハ!! 力が溢れる、魔力がみなぎる、身体が熱い!! これがアーティファクトの性能、古代文明の人間共の“悪意”の結晶か!!」

「ルクスリア=グラトニス、身体能力ステータス向上……!? 駄目ですご主人様……どんどん戦闘能力が向上している……!?」



 空中要塞『メサイア』動力炉、其処に納められていたアーティファクト【第六永久機関ゼータ・ドライヴ】。それを喰らってグラトニスは『ケモノ』へと覚醒した。


 俺が心臓に【第十一永久機関ラムダ・ドライヴ】を組み込んだように、グラトニスも心臓にアーティファクトを組み込んだ。それは、彼女がさらなる力を手にした事を意味していた。



「では……先ずは一撃! 決戦兵装“十三使徒カオス・サーティーン”起動!! 吹き飛べ――――“逆十字粛清撃クォ・ヴァディス”!!」

「速い……!? くっ――――“破 邪(カオス・)征服(コンクエスター)”!!」



 その未知なる力を試したくてたまらないのだろう。グラトニスは獣の咆哮と共に左腕を巨人のかいなのように変化させ、そのまま俺に殴り掛かるように飛びかかってきた。


 その速度は初速から音速を越え、動力炉にはグラトニスが発した衝撃波ソニックブームが吹き荒れる。当然、俺に『躱す』なんて悠長な行動を選択する余裕は無く、咄嗟に聖剣と魔剣を目の前で交差させてグラトニスの強襲を受け止める他に無かった。


 聖剣と魔剣がグラトニスの拳を受けた瞬間、隕石の落下にも似た衝撃が俺に襲い掛かり、そのまま俺は動力炉の壁をぶち抜いて吹き飛ばされてしまう。



「ぐあッ……意識が……途切れる……!」

「ご主人様、しっかりして!! ご主人様ッ!!」



 どれだけ飛ばされて、どれだけ壁に身体を打ち付けたのか分からない。辛うじて展開した障壁バリアが無ければ俺の身体はバラバラに砕けていただろう。


 そう思える程の衝撃を何度も味わいながら俺は空中要塞『メサイア』から再び放り出されて、そのまま地面へと落下していった。



「ラ、ラムダ様……!? どうして空からラムダ様が振って来たのですか!?」

「うっ……オリビア……? 此処は……??」


「死都シーティエンの少し手前の地点だよ……もう死都は消えて無くなっているけど……!」

「アリア……」



 辛うじて体勢を整えて地面に叩きつけられるのを防いだ俺が見たのは、心配そうに此方こちらを見つめるオリビア達の姿だった。


 どうやら俺は空中要塞『メサイア』から消し飛んだ死都の手前まで吹き飛ばされたらしい。上空を見上げると其処には少しずつ降下していく空中要塞『メサイア』の姿があった。



「アインス兄さん達は……?」

「もう少し手前の地点で魔王軍と交戦中だよ! 僕たちは一足先に抜けてラムダさんを迎えに行く途中だったんだ!」


「ノアさんは無事に保護しました! 今はアウラ様とレティシアさんが手当てをしています! ラムダ様も早く傷の手当てを……!!」

「駄目だ! オリビア、アリア……下がっていろ! グラトニスが来る……!!」



 オリビアは俺の酷い有様を見て慌てて駆け寄ろうとしたが、いま彼女が近付くのは危険だ。何故なら、俺を吹き飛ばしたグラトニスが此処にやって来るのは確実だからだ。


 その証拠に一帯に獣の咆哮が鳴り響き、空中要塞『メサイア』から小さな影が此方に向かって飛んでくるのが見えた。



「ラムダ=エンシェント……私から逃げる気? 駄目ね、駄目、駄目、全くもって女心が理解わかっていない……! 淑女レディーとのデート中に消えるなんて紳士失格よ?」

「グラトニス……!! 悪いが俺には伴侶パートナーが居るんだ! お前の横恋慕よこれんぼには付き合わないよ……!!」


「コイツがグラトニスか……!! 僕を殺そうとして、僕の故郷を焼き払った元凶……!!」

「よくもわたしのラムダ様に傷を……!! 此処で殺します……!!」



 その数秒後、大地を砕きながらグラトニスは姿を顕し、俺を見つめて舌舐めずりをしながら笑みを見せた。


 グラトニスの容姿は騎士団全員が把握している。突然降って湧いた“暴食の魔王”にミリアリアとオリビアも戸惑うこと無く武器を手に正対した。



 だが――――


「勇者ミリアリアに聖女()()()か……! 儂の食事の邪魔をするな――――『眠っていろ』!!」

「うっ……!? なんだ……急に意識が遠く…………」

「これ……“魅了チャーム”……!? ラムダ……様…………」


 ――――流石は“暴食の魔王”にして“色欲の魔王”、グラトニスは即座に“魅了チャーム”でミリアリアとオリビアを無力化してしまった。



 俺の真後ろで聴こえる二人の女性が地面に倒れ込む音。それを耳にした瞬間、俺は無意識の内に剣を握ってグラトニスへと駆け出していた。


 オリビアとミリアリアを『護らなくちゃ』と本能的に動いてしまっていた。騎士として感情を律して動かないといけないのに、どうしてもそれが出来ない。それでも、身体は勝手に動いて、疲弊した肉体に鞭を打って、摩耗した精神ココロに活を入れて奮い立つ。



「大切な婚約者フィアンセとカキタレを傷付けられて怒ったの? クフフ……青い奴め! “十三使徒カオス・サーティーン”――――“絶爪剣サンティアゴ”!!」

「俺の大切な人たちに手を出すな、グラトニスゥゥーーーーッ!!」



 俺が全力で振るった二振りの剣をグラトニスは左腕を変形させた剣で受け止める。肥大化した腕、つるぎのように長く伸びた刃物のような五本の爪、俺の“巨人の腕(セファール)”に酷似した巨人族の腕がそこにはあった。


 聖剣と魔剣、グラトニスの絶爪ぜっそう、鋭く研ぎ澄まされた刃はかち合った瞬間に俺たちの間にある地面を横一線に寸断していく。



「もうお前には何も渡さない! たとえ俺の全てが燃え尽きてもお前を倒す!!」

「いいえ、私は何もかも奪うわ! 己の無力さを嘆くがいい!! クフフ……クハーッハッハッハ!!」



 振り下ろされた絶爪は大地を割り、くうを薙いだ絶爪はソラを切り裂く。まともに喰らえば俺の身体は装甲アーマーごと一瞬で切断されるだろう。


 そんな凶刃をグラトニスは乱舞するように繰り出し、それを俺は懸命に聖剣と魔剣で弾いていた。



「そらそらそら! ちゃんと受け止めないと、あなたの大事なお仲間に流れ弾が当たるわよ!!」

「グラトニス……貴様、俺の仲間を……!!」



 グラトニスは勝つ為なら手段は選ばない。彼女はさっきから執拗に倒れたオリビアとミリアリアを標的にして攻撃を繰り出している。


 俺がかばいに入ると知っての行動だ。だからグラトニスは二人への“魅了チャーム”を『寝ていろ』として()()()()()()んだ。生きていれば俺が固執するから。


 その狙いは正しい。俺はオリビア達を庇うようにグラトニスの射線に入らざるをえない。いつかは疲弊して被弾すると分かっていても、大切な人を失いたくないと本能的に動いてしまう。



「ゼェ……ゼェ……ゼェ……! もう……保たない……!」

「あなたが死ねば二人は見逃してあげるわ! 私からの慈悲よ、感涙にむせびながら味わいなさい!!」

「くそ……くっそォォーーーーッ!!」



 そして、疲弊しきった俺の腕は遂に力を失って、グラトニスの絶爪に弾かれてしまった。両手は左右に弾かれて身体は無防備、目の前には勝利を確信して大きく左腕を振り上げたグラトニスの姿。


 万事休す、もう剣を再び身体の前に構えるのは間に合わない。グラトニスの絶爪の方が疾く俺の胴体を引き裂いてしまうだろう。死期を明確にされてしまった俺にできるのは『負け犬の遠吠え』と苦し紛れの『イタチの最後っ屁』ぐらい。


 せめて、一太刀でも喰らわせてやろうと、相打ち覚悟で聖剣と魔剣をグラトニスの胴体へと向けてハサミのように振りかぶる。


 あぁ、間に合わない、速さが足りない、届かない。

 

 俺の両手が胴体より前に出る頃には、グラトニスの絶爪は目前まで迫ってきている。間に合わない。


 未来を操る【時の歯車“来”(クロノギア・カミング)】による『時間加速』なら間に合うだろうか。いいや、それを発動する為の魔力エナジーが確保できない。既に【オーバードライヴ】に足りない出力を自分の“魂”で補っている。それ以上のアーティファクトの追加発動は出来ない、発動した瞬間に俺が死ぬだけだ。


 あぁ、だけど、それならグラトニスに一矢報いる事が出来る。それならば……良いか。せめてオリビア達を護れるのなら。



「アーティファクト【時の歯車“来”(クロノギア・カミング)】……時間加速……」

「ご主人様、駄目ーーッッ!!」



 そう思って左腕に意識を注いだ瞬間だった――――


「その穢らしい手で私のラムダ様に触らないで貰えるかしら、ルクスリア? 狩れ――――【再世の聖剣(リーヴスラシル)】!!」

「なっ――――なんじゃ!?」


 ――――俺の背後でくすりと笑う少女の声が響き、俺の首元を掠めるように飛び出した朱き剣がグラトニスの絶爪を受け止めたのは。



「あぁ、きたない……! 魔族の血が混ざりまくった“雑種ミックス”め……!!」

「ミリアリア=リリーレッド……!? 馬鹿な……儂の“魅了チャーム”からもう目覚めたのか……!?」


「アリア、無事だったのか!」

「はぁい、もちろんですよ! 私は【勇者】……あの程度のつたない“魅了チャーム”でぎょせるような女ではありませんので♡」



 俺の背後に立っていたのはグラトニスの“魅了チャーム”に掛かって気絶したと思われていたミリアリア。


 朱い刀身の聖剣【リーヴスラシル】を握り、真っ白な肌と朱い瞳と髪に姿を変えた彼女が俺の窮地を救ってくれていた。



「儂の邪魔をするか……勇者よ! やはり……手勢を割いてでも『神授の儀』の日に始末するべきだったか!!」

「その通りよ、憐れな子羊! さぁ、私のラムダ様を穢した罪……その安い首であがなって貰うわ……!!」



 それは泡沫うたかた小歌曲アリア――――“彼岸の厄災”を討つと預言された勇者が魔王と遂に対峙した瞬間であった。


 

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