第27話:ラムダ=エンシェント VS.リリエット=ルージュ ~Charming Wings~
「量子変換装置起動――――【光量子飛翔翼】!!」
『遺物――――認識。反重力飛翔ユニット・光量子飛翔翼:イカロス――――認識。スキル【ゴミ拾い】効果発動―――所有者をラムダ=■■■■■■に設定――――完了。スキル効果による拾得物と術者の同調率最適化――――完了。拾得物に記憶された技量熟練度及び技能の継承――――完了』
俺の掛け声と共に展開されるは光量子で構成された光の翼。
宙を舞う翼のアーティファクト【光量子飛翔翼】――――光量子で構成された翼を纏い自在に空中を舞う装備。
本来であれば、超高度な【浮遊魔法】の使用や、竜種・ワイバーンを使役できる【魔物使い】や【竜騎士】の職業でなければ行えない空中浮遊を俺はアーティファクトの力を駆使して実現していた。
「へぇ、まさか空中浮遊まで出来るなんて……楽しくなってきたわ……!」
「悪いけど手加減はなしだ! ”光の羽根”――――発射!!」
宙を舞うルージュと同じ高さに舞い上がった俺は、余裕の表情をしているルージュに向けて攻撃を行う。
大きく広げられた【光の翼】から無数に撃ち出される羽根を模した光弾。低レベルのゴブリン程度なら一撃で粉砕できる威力を持つ羽根が雨のようにルージュへと向かう。
しかし、光の弾幕にルージュは一切臆せず――――
「あっはっはっはっ、面白いわ、面白いわ!! こんな戦い、半年前にあの【竜騎士】ツヴァイ=エンシェントと殺りあった以来だわ!!」
――――身体の前に展開した魔法陣から放たれた赤黒い魔力弾にて俺の攻撃を確実に撃ち落としていく。
「手強い……! ツヴァイ姉さんと殺りあったと自負するだけの事はあるな!」
「ツヴァイ姉さん……? さっきのイキリチンピラの時も“兄さん”って言っていたけど……そう、あなたあのツヴァイの弟……エンシェントの血筋なのね?」
「だったらなんだ?」
「くすくす……あの忌々しい竜騎士には何度も邪魔されてね。せっかくだわ、あなたを私の虜にして、あの女の脳を破壊してやる……!!」
俺がツヴァイ=エンシェントの弟と知るや否や、目の色を変えるルージュ。その妖しく輝く金色の眼が俺の瞳を凝視する。
「【魅了】――――さぁ、私を好きになりなさい、私を愛しなさい、私の下僕になりなさい……!」
「これは……淫魔の“魅了”!? だけど……俺には効かないぞ!」
観たものを虜にする魔性の瞳――――だが、アーティファクトの効果で【精神異常耐性】のスキルを獲得した俺には【魅了】は通じない。
「射撃武装アーティファクト――――対艦砲撃光学兵装展開ッ!」
「――――っ!? そんな……私の“魅了”が通じない!? あり得ないわ……」
魅了を掛ける事に集中し動きが止まったルージュに向けて、俺は構えたビームライフルを発射する。
「――――くっ!」
だが、撃ち出した光量子の弾丸が直撃する間一髪の所でルージュは五重に展開した防御用の魔法陣で攻撃を防ぎ、光弾が魔法陣を全て砕いて貫通するよりも疾く攻撃範囲から逃れていた。
「私の五重結界を……!? ありえない……あいつ、魔王様並みの攻撃力をしている……! 一旦、距離を離して体勢を立て直さないと……!」
「遠距離じゃ埒が明かないな。一気に距離を詰める!!」
お互いにまだ攻撃は受けていない。
しかし、俺の扱うアーティファクトの威力を驚異と感じたルージュは、魔法陣から大量の魔力弾を放ちつつオトゥールの街並みへと姿を暗まそうとする。
それを追う為に【光の翼】の出力を上げて加速した俺は、ビームライフルでルージュの攻撃を掻き消しながら逃げる彼女を追い掛けた。
「くそ……っ! なんてしつこいの……!」
建物の隙間を縫う様に飛行するルージュと俺。
だが、アーティファクトの出力の方が高いのか、徐々にルージュとの距離は近付いてくる。
「斬撃武装アーティファクト――――【閃光剣:両刃形態】起動!!」
俺を撒くために路地裏とでも言うべき狭い通路へと逃げ込んだルージュだったが、右眼の【行動予測】で進路を予測していた俺も迷うことなく路地裏へと突入する。
弾幕を撒きつつ逃げるルージュ、光弾を連射しながら追う俺――――ふたりの間で弾幕と弾幕の爆発が次々と起こり、その度に建物や地面が壊れていく。
その追走劇がしばらく続き、ようやくルージュの姿を射程距離にまで縮めた俺は、セイバーを両刃で展開して剣撃の姿勢へと移行した。
ふたりの距離はあと少し、俺は右手に掴んだセイバーを振りかぶり接敵の瞬間を狙い澄ます。
しかし、攻撃を仕掛けようとした刹那――――
「今だ……って、なに!?」
「うふふふっ、猪突猛進が仇になったわね!! さぁ、瓦礫の下敷きになりなさい!」
――――振り向いて不敵に笑ったルージュは両脇の建物に全力の魔力弾を撃ち込み、その凄まじい爆発で建物を勢いよく吹き飛ばしてきた。
ルージュの攻撃で吹き飛んだ瓦礫の雪崩で真っ赤に染まる朱い【行動予測】の幻影――――崩れた建物の瓦礫が到底躱しようが無い程の岩石の雨となって俺に降り注いでくる。
「チッ! “光の羽根”――――発射!!」
それを【光の翼】からの光弾攻撃で弾き飛ばした俺は上空へと飛翔して近くの建物の屋根へと着地した。
さっきの建物の瓦礫で俺はルージュの姿を見失ってしまい、右眼の【行動予測】で消えた彼女の姿を追うことになってしまった。
「何処に行った……? まさか逃亡したのか?」
先程までけたたましく響いていた戦闘音はすっかり消え失せて、住民たちの悲鳴と燃え盛る炎の音だけが聴こえる建物の屋上。
俺はルージュが敵前逃亡を図る事も視野に入れて広域に眼を光らせるが、ルージュの姿は見えない。右眼の【行動予測】にも反応は無く、俺は周囲を用心深く見回す他は無かった。
「どこだ! 出て来い、この臆病者!!」
「――――では、お望み通りに!!」
故に、ルージュが翼を持つ魔族であり、飛行能力を持つことに思考が囚われていた俺は、足元の床をぶち抜いて現れたルージュに一瞬だけ反応が遅れてしまった。
「くっ……下から!?」
「後ろとーった♡ あなたの“血”、頂くわ!」
背後に現れたルージュ、途端に朱く染まる視界――――彼女は口を大きく開け、吸血鬼特有の鋭く尖った犬歯をギラリと光らせていた。
吸血――――上級魔人種である【吸血鬼】のみに許された攻撃。相手の血液を吸い、自らの身体能力の向上や体力の回復、欠損した肉体の蘇生すら行える“魂喰い”の一種。
「くッ……!!」
ルージュが仕掛けようとした攻撃を判断した俺は、彼女が噛み付こうとした瞬間、咄嗟に左腕を差し出して彼女の牙を受け止めた。
「あがッ!? なにこれ、かったーっい!? どうなってるの、あなたの腕は!?」
それが功を奏したのか、左腕の硬度に文字通り“歯が立たなかった”ルージュは、苦しそうな表情をしながら俺の腕から口を放してくれた。
「残念……!! こっちの腕は特別製なのさ!!」
「――――ッ!? しまっ……!?」
そして、ルージュが仰け反った一瞬の隙を突いて、俺は右手に構えたセイバーを振り抜き――――
「キ、キャアーーーーッ!?」
――――ルージュの左側の翼を二枚、斬り落とす事に成功したのだった。
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