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第253話:VS.【暴食の魔王】ルクスリア=グラトニス①/ 〜Gluttony Eater〜


「ラムダさん、ラムダさん、死なないで!!」

「早く行け、ノア!! リリィ、ノアを頼む!!」


御主人様ダーリン……絶対に勝って、グラトニス様を止めて!! 帰ってくるの……待っているから!!」

「やだ、放してよ!! ラムダさん、ラムダさん!!」


「アケディアス=ルージュ、あなたにも来て貰うわ! リリィの兄を死なせるなんて真似、私は許さない!」

「ツヴァイ=エンシェント……おれに情けをかける気か!? ぐっ……女に担がれるなぞ、なんと無様な……」


「不味そうな雰囲気です……! ゼブル=ベルゼビュート、此処は見逃してやるからさっさと逃げるのですよ!!」

「フッ……フフフッ……アッハハハハハ!! もうあたしが手を下すまでも無い! グラトニス様が顕れた時点で貴様たちの負けだ!! グラトニス様に栄光あれ、その覇道に勝利あれ!! アーッハッハッハッハ!!」



 ――――空中要塞『メサイア』管制室は“暴食の魔王”ルクスリア=グラトニスの登場と共に慌ただしい緊迫とした様相を呈していた。


 コレットは尻尾から繰り出した焔で周辺の機器を焼きつつ、リリィはノアを抱きかかえて、ツヴァイ姉さんは負傷したアケディアスを連れて割れた窓から脱出を開始。


 管制室に残ったのは魔王軍の勝利を確信して高笑いをするゼブル、そして炎上していく部屋の中で睨み合う俺とグラトニスの三名だけとなった。



「その気味の悪い左腕がお前の固有ユニークスキルか、グラトニス!」

「如何にも……あらゆるものを喰らい、内に溜め込む“暴食”のスキル【暴食晩餐グラトニー・イーター】……! お主の義手と同じ忌まわしい“呪い”じゃ……! さぁ、お主も儂に喰われて果てるが良い!」



 俺の目の前でわらうグラトニスの左腕は奇妙な怪物の口に変化している。真っ白な怪物の頭部のような何か、開いた口部こうぶには喰らった獲物をぐちゃぐちゃに噛み千切る為に鋭い牙が無数に生え、獲物を求めて冥府の底から聴こえるような不気味な金切り声を上げている。


 ルクスリア=グラトニスと言う見る者に様々な情愛をいだかかせる愛玩の人形、その内面に隠された恐ろしき獰猛な本性。それが彼女の左腕に顕れた怪物なのだろう。



「ゼブルよ、空中要塞『メサイア』の軌道を逸らせ。決して味方の上には落とすな……!」

「承知致しました、グラトニス様! このゼブル=ベルゼビュート、我が身命に代えても御命令を遂行致します!」


「さぁて……では『食事』を始めようかのぅ……! 魔力集束――――“竜の咆哮(ディア・ブレス)”!!」

「この技はリンドヴルムの!? くっ……障壁展開!!」



 その怪物の左腕は唸り声と共に大きく口を開けて魔力を集束させ、グラトニスはその魔力の塊を俺に向けて一気に放ってきた。


 竜の咆哮のような風切り音と共に撃ち出されたのは【大罪】が一人、ネビュラ=リンドヴルムが使用していた技。それをグラトニスは挨拶代わりに撃ち込んでいた。


 咄嗟に聖剣と魔剣を交差させて、さらに装甲アーマーから障壁バリアを展開してグラトニスの攻撃を受け止める。だが、リンドヴルムの時とは比較にもならないほど強力になっていた砲撃に俺の身体はあっという間に管制室の外まで吹き飛ばされてしまった。



「ラムダ……!? 大丈夫なの!?」

「ツヴァイ姉さん……危ないから離れていて……! ぐぅぅ……ウォォオオオオオオオ!!」



 空中要塞『メサイア』の外に追い出されても尚、消える事の無い魔力の弾丸。それを俺は歯を食いしばりながら耐えつつ、交差させた聖剣と魔剣を一気に斬り上げてグラトニスの攻撃を弾いてみせた。


 弾かれた魔力の塊は竜の咆哮を奏でながら、放物線を描いて打ち上げられて飛んでいった。


 そして、見えなくなるまで遠くに飛んでいった光は地上に落ちて弾け、其処から【星間十字砲グランドクロス】にも似た超広範囲を巻き込んだ光の柱は巻き上がる。



「なっ……何なの、あの火柱みたいな光……!? まるで空中要塞『メサイア』の主砲みたいな威力じゃない……!?」

「クククッ……それは当然だろうな。あの色ガキは【星間十字砲グランドクロス】を真っ向から相殺できる程の魔力量を有する正真正銘の“怪物”だからな……!!」



 俺の側で飛竜ワイバーンに跨って成り行きを見守っていたツヴァイ姉さんは顔色を真っ青にして、姉さんの後ろで縛られて荷物のように乗せられていたアケディアスは愉快そうに笑う。


 リンドヴルムの技を模倣しただけでは無く、その威力を何百倍にも跳ね上げた。それが魔王グラトニスの実力の一端、アケディアス=ルージュすら退けて魔界マカイの支配者になった少女の力だ。



「これでは心は折れんか、ラムダ=エンシェントよ? 今のはほんの挨拶代わりじゃ……!」

「ハァ……ハァ……ハァ……! 挨拶にしては随分と仰々しいな……まるで言葉を覚えたばかりの子どもじゃないか?」



 窓から外へと飛び出して自分の力を誇示するように尊大な態度を見せるグラトニス。彼女に対して俺が出来るのはせいぜい皮肉を返すことぐらい。


 あわよくば動揺の一つでもすればと思うが、彼女の精神性は完成されている、きっと煽るだけ無駄だろう。



「その通り……儂は永遠の『子ども』……女神に大人になる権利すら剥奪された憐れな子羊じゃ! 故に……我儘は許せ……!!」

「我儘な子どもには“しつけ”が必要だな……! じゃなきゃ、礼儀も知らない不良チンピラに育ってしまうからな!!」


「くっふっふ……『大人』と『子ども』の“狭間ハザマ”で彷徨うお主に儂を躾ける事が出来るかの? 試してみるが良い――――“竜の咆哮(ディア・ブレス)”!!」

「【行動予測】……!! 魔王グラトニス……覚悟しろ!!」



 自らの“欠点”を受け入れて否定もしない。そして、自らの“欠点”を受け入れつつも、より良い方向に変えようと抗い続ける。それがルクスリアと呼ばれた魔族の少女の偶像。


 グラトニスは俺の皮肉に不敵に笑みを浮かべて、再び左腕に集束した砲撃を撃ち出して攻撃を仕掛けてきた。それを右眼の【行動予測】で見切り、大きく上に飛翔して躱して、俺は一気にグラトニスへと剣を構えて突っ込んでいく。



「アーティファクト【時の歯車“古”クロノギア・エンシェント】【時の歯車“来”(クロノギア・カミング)】……駆動開始!! 『運命の(The_Wheel)歯 車 よ、(_of_Fate_)廻り(is_)続けろ(Turning)』――――【事象切断コンフュルム・フェノメノン】発動ッッ!!」

「【GSアーマー】……緊急生命維持装置セーフティ・システム……停止!! ご主人様、死を受け入れる覚悟を……!!」


「“喰魔ベルゼブブ”……起動! 模倣再現――――“血ノ剣撃(ブラッド・セイバー)”!! クフフ……クハーッハッハッハ!!」

「聖魔征伐――――“殺戮墜翼(グラシャラボラス)”!!」



 左腕に組み込んだ二つの【時の歯車(クロノギア)】を最大まで廻して対グラトニス用決戦術式【事象切断コンフュルム・フェノメノン】を発動させながら、俺はグラトニスへと斬り掛かった。


 それに対してグラトニスは左腕の『喰魔ベルゼブブ』と呼ばれた怪物を揺り起こして迎撃の姿勢を取る。怪物の口から湧き出るように現れたのは“血”で出来た一振りの剣、アケディアス=ルージュが用いたものと同一の物だ。


 その剣をソラを撫でるように振り、グラトニスは俺の剣撃を難なくと受け止める。



「どうした、ラムダ=エンシェントよ……腕に力が入っておらんぞ?」

「その為に疲弊をさせたんだろ……この卑怯者が……!!」



 剣と剣の衝突で起こる激しい衝撃波ソニックブームが俺の体力をさらに奪っていく。その俺の様子を見ながら小馬鹿にするように笑うグラトニス。


 幼く華奢な身体から考えられない怪力、魔族故に人間種よりも身体能力に優れている事を考慮してもなお考えられない程の力でグラトニスは俺が振り下ろした聖剣と魔剣を涼しげな表情で受け止めている。


 俺の消耗が激しすぎる。ルシファーとアケディアスとの戦闘で【オーバードライヴ】すら使い果たした俺にはもう余力は殆ど残っていない。それをわかった上で、グラトニスは決戦を仕掛けてきたからだ。



「先ずはその不格好な頭部装甲ヘルメットを剥いで、鬱陶しい右眼のアーティファクトを砕くとするかの。さぁ、お主の凛々しい顔を儂に拝ませるが良い――――“血ノ目撃(ブラッド・ゲイザー)”!!」

「【行動予――――しまった!? ぐっ……あぁああ!?」



 故に、俺の動きは鈍かった。


 グラトニスが唐突に目から放った怪光線ビームに俺は反応しきれずに被弾。頭部装甲ヘルメットの右眼部分は撃ち抜かれて、そのまま俺の右眼に熱い光が喰い込んでしまった。



「右眼が……視えない……!?」

「これで厄介な予知スキルは使えまい? 後は“技量”と“勘”で避けるのじゃな……!」



 ノアによって組み込まれた義眼【七式観測眼ルミナス・カレイドスコープ】の破損。それは俺の『武器』が一つ奪われた事を意味している。


 相手の攻撃や動きを予測する演算装置が無ければグラトニスの攻撃に対処するのが難しくなる。元々、体力面で大きな負荷を背負わされていた俺はさらなる窮地を背負わされてしまったのだ。



「虫の羽や脚を一つ、また一つといで遊ぶ……子どもとは無邪気、故に残酷じゃ……! さて……ラムダ=エンシェント、お主の手脚……次はどこをいでやろうかの?」



 無邪気に甘えるように笑顔を振りまくグラトニス。だがその本性はかくも残酷で、そして恐ろしい。


 そんな悪鬼が、俺の目の前で笑っていた。

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