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第252話:VS.【怠惰】アケディアス=ルージュ⑦/ 〜The Easter of Gluttonis〜


「ラムダー、無事なのラムダーーッ!!」

御主人様ダーリン、返事して御主人様ダーリン!!」

「ラムダ様ー、ラムダ様ご無事ですかーーッ!」


「姉さん……コレット……リリィ……」

「居たわ、リリィ、コレット! 彼処あそこに倒れているわ!」



 ――――空中要塞『メサイア』管制室。


 魔王軍最高幹部【大罪】のおさである【怠惰】アケディアス=ルージュを倒し、そのまま床にうつ伏せに倒れていた俺に駆け寄ってきたのは割れた窓から侵入してきたツヴァイ姉さん、コレット、リリィの三人だった。



「くそッ、ダモクレス騎士団の侵入を許したのか……! こうなったらあたしが……!!」

「【亡獣ホロウ・ビースト】召喚! 動くなです、ゼブル=ベルゼビュート! 無駄な抵抗をすれば素っ首、噛み千切ります!!」


「黄金の狐……! 貴様が“憤怒の魔王”イラか……きゃあああ!?」

「ツヴァイ様、リリィ様、ゼブル=ベルゼビュートはわたくしが抑えます! お二人はラムダ様とノア様の救出を!」



 管制室で唯一動けた魔王軍のゼブルはコレットが尻尾から撃ち出した黄金の焔から召喚された『亡獣ホロウ・ビースト』によって押し倒されて無力化され、管制室はあっという間に制圧された。


 リリィはそのままノアを囚えていた鳥籠ケージを破壊、ツヴァイ姉さんは此方に駆け寄って俺を抱きかかえて介抱を始めてくれた。



「ツヴァイ姉さん……俺……アケディアス=ルージュを倒したよ……」

「ラムダ、魔王軍の最高幹部を殆ど一人で倒しきったのね……! あぁ、なんて無茶を……力になれなくてごめんね……!」


「うっ……ゲホッゲホッ……お~い……ツヴァイ=エンシェント……捕虜になるからおれも助けて〜……心臓に魔剣が刺さって死にそう〜……」

「あんたは後回しよ、アケディアス! ほら、ラムダ、オリビアちゃんから回復薬ポーションを預かってきたわ、急いで飲みなさい!」



 姉さんの膝の上に寝かされて、姉さんが差し出した回復薬ポーションを受け入れるように飲んでいく。もう両手が碌に動かない、それぐらい俺は死力を尽くしてしまっていた。


 姉さんの顎を掴まれて無理やり飲まされた回復薬ポーションの薬液が胃に流れ込んでいくのが分かるが、多少楽になる程度。重くなった身体が快調する兆しは無かった。



「心音が弱まっている、急いでオリビアちゃんの所に連れて行かないと! リリィ、コレット、私がラムダとノアちゃんを連れて離脱するわ! 二人は空中要塞『メサイア』の制圧をお願い!」

「了解しました、ツヴァイ様! このコレットにお任せ下さいです!」


「ハ……ハハハ……もう行くのか、ツヴァイ=エンシェント? もう少しゆっくりしていっても良いんだぞ?」

「ディアスにぃ、残念だけどあんたはそのままうち等の捕虜になってもらうわ! お願い、うちに肉親を殺させないで……!」



 どうやら俺は死にかけの満身創痍らしい。緊急性を感じ取ったツヴァイ姉さんは俺を抱きかかえて立ち上がると乗ってきた飛竜ワイバーンへと足早に向かい始めた。


 そして、リリィは倒れていたアケディアスから魔剣を乱暴に引き抜いて、誰かの血液の入った薬瓶を手渡しながら実兄を『捕虜』にするために拘束魔法を展開し始める。



「フフフッ……実に愉しい『食事バトル』だった……感謝するぞ、ラムダ=エンシェントよ……!」

「アケディアス……兄さんとノアにも謝ってもらうぞ……」



 リリィに介抱されているアケディアスは血反吐を吐きながら俺に笑い掛ける。戦闘に負けて囚えられた敗者とは思えないような清々しいまでの晴れ渡った笑顔で。


 単純に考えれば彼の“闘い”への欲求を満たした俺への賛辞を贈っているのだろうが、その感情とは違う『思惑』が彼の中にあるような気がして、俺の中で妙な胸騒ぎがしてきた。



「そして、これから起こる事態を招いた非礼を詫びよう……!」

「ディアスにぃ、何を企んで……!? あっ……この魔力は……!?」


「おれはただの“前菜オードブル”だ……! さぁ……貴殿を真の『晩餐ディナー』にご招待しよう……!」

「足音……何か来る……!? コレット、リリィ、すぐに脱出を!!」



 アケディアスの不敵な笑みと意味深な言葉と共に、管制室の扉の奥から発生したのは“怠惰の魔王”を軽く凌駕する程の重圧プレッシャー


 それが誰のものかは青褪めた表情をするリリィを見れば想像にかたくない。俺はこのタイミングで現れる人物に心当たりがある。



 そして――――


「良くやった、アケディアスよ。後は儂の出番じゃ……!」


 ――――管制室に()()の声が響き渡った。



 禍々しい紫色の焔と共に管制室の隔壁は焼け落ちて、そこからゆっくりと歩きながら姿を見せたのは一人の幼き魔帝。



「ノア……俺に【時の歯車(クロノギア)】を!! アーティファクト【念動力波発生装置(ギア・テレキネシス)】発動、戻って来い魔剣よ!」

「駄目……ラムダさん、今の貴方は満身創痍です! この【時の歯車(クロノギア)】の発動に掛かる莫大な魔力エナジーの消費をもう賄いきれません!!」


「いま戦わないと……! 早く!!」

「ディアスにぃ……始めっから()()()()()だったのね! 御主人様ダーリンをどこまで追い詰めたら気が済むの、あんた達はッ!!」



 燃え盛る焔などものともせずに現れる少女。


 額から生えた“角”は黒曜石オブシディアンが如く、妖しく輝く金色こんじきの瞳は妖艶な魔女が如く、焔に煽られてなびく漆黒の髪は美しい夜の如く、もう何者にも染めることあたわぬ漆黒の王衣を纏う姿は暴君が如く、穢れを知らぬ無垢なる白き躯体くたいは愛玩人形が如く、見る者を魅了する。



「なんでお前が此処に居る!? 魔王城に居る筈では……」

「儂の側近であるバアルとゼブルが此処に居るのじゃ、二人の“あるじ”たる儂が居るのは自明の理だと思うが?」


「くっ……」

「それに……貴様を確実に始末するのなら、ルシファーとアケディアスと戦って()()()()()()()()()()()が最適じゃからな!!」



 彼女はわらう、自らの思惑に俺がまんまと嵌まった事に優越感を感じて。


 その表情を見て俺はようやく理解した。ルシファーとの死闘もアケディアスとの死闘も、全ては俺を弱らせる為の『調理』に過ぎなかったと。



「手強い“獅子”をどう狩るか? 簡単じゃ、痛めつけて弱らせればいい……! その為にルシファーとアケディアスは尽力してくれた、感謝するぞ……!」

「クククッ……このおれを顎で使ったのだ、無様な敗北は許されんぞ……ルクスリア……!!」


「応とも……では、お主がこしらえた“主食メインディッシュ”を頂くとするかの……!!」

「ルクスリア……グラトニス……!!」



 姿を顕した悪鬼の名はルクスリア=グラトニス――――魔王軍を統べる“暴食の魔王”。


 女神システムアーカーシャに反旗をひるがえした少女にして、この『メサイアのソラ』に顕れた最後の脅威。



「姉さん……俺はいい……! ノアを連れて脱出を!」

「駄目、駄目よラムダ!! これ以上戦ったらあなたが死んじゃう!! アインス兄様の所まで戻りましょう!!」


「無駄さ……どうせ其処まで逃げ切れやしない……! e.l.f(エルフ).……もう一戦、俺の無茶に付き合ってくれ……!」

「喜んで、マイマスター! あなたの覚悟に、私も最後まで殉じます……!!」



 ツヴァイ姉さんを振りほどき、ノアから二つの【時の歯車(クロノギア)】を受け取って、俺は管制室の床に立って目の前の魔王と相対する。


 もう身体は碌に動かない、意識も途切れ途切れだ、それでも逃げる事は許されない。これが『アーティファクト戦争』の“最後の一戦”だと覚悟を決めて、弱りきった心臓に活を入れる。



「最後に一つ……ラムダ=エンシェントよ、其処そこな“人形マキナ”と共に我が軍門に下れ……! さすれば、儂手ずからお主に極上の快楽を振る舞ってやろう……!!」

「断る! お前は……俺の『夢』の障害だ!」


「そうか……では死ぬしかない! お主の死体を彫像スタチューにして我が私室に飾り、この無聊ぶりょうを慰めるとしようか! 固有ユニークスキル発動――――【暴食晩餐グラトニー・イーター】!!」

「来い……“暴食の魔王”グラトニス!!」



 左腕を奇っ怪な怪物の口へと変化させて、暴風雨のような魔力を放出ほうしゅつさせながら魔王の『宴』は始まる。


 立ちはだかるは魔王軍を統べる悪鬼グラトニス、旅立ちの日から続いた因縁の根源に居る少女。


 失われた俺の左腕と右眼、失われたミリアリアの故郷、逆行時間神殿での戦い、幻影未来都市での陰謀、獣国ベスティアでの邂逅、その因果の行き着く先。


 グランティアーゼ王国と魔界マルム・カイルムとの間で勃発した『アーティファクト戦争』。その最終決戦が――――いま幕を上げる。

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