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第251話:VS.【怠惰】アケディアス=ルージュ⑥/ 〜Last Dinner〜


瞬間移動ワープ瞬間移動ワープ瞬間移動ワープ……!! 何としてでもアケディアスを捉える!!」

瞬間移動ワープ瞬間移動ワープ瞬間移動ワープ!! さぁ、おれは此処だぞ? 鬼さんこちら、手の鳴る方へ……!!」



 空中要塞『メサイア』外周部、徐々に高度を下げ地上へと墜落しつつある要塞を飛び回りながら、俺とアケディアスの戦いは続いていた。


 瞬間移動ワープによる奇襲に次ぐ奇襲。お互いが常人では追いきれない速度でぶつかっては距離を離し、再び衝突しては攻撃しあって体力を削り合っていた。


 永遠に感じるような手に汗握る一戦。だが、そんなアケディアスとの死闘も終焉へと向かいつつあった。


 正確に言えば俺の命が終焉に向かいつつある。【オーバードライヴ】による負荷を装甲アーマーが賄い切れなくなっているんだ。堅牢さが売りの装甲アーマーの防御性能も今やそこいらのおんぼろ鎧ぐらいにまで落ちている。


 これ以上、アケディアスの攻撃に被弾すれば俺は一巻の終わりだろう。だから、その前に決着を付ける。



「ハァ……ハァ……ハァ……!!」

「随分と息が上がってきたな……! ハァ……ハァ……そろそろ愉しい宴も終わりが近いな……!!」


「あぁ、その通りだ、アケディアス……! 最後に特上の“敗北の味”を味あわせてやるよ!」

「それは……おれの趣味に合わんな! おれの好物は“勝利”と“処女の生き血”なんでな!! 受けろ――――“血ノ雷撃(ブラッド・サンダー)”!!」



 アケディアスが繰り出した攻撃はてのひらからの赤い電撃攻撃、地上で遭遇した時に見せた広範囲攻撃だ。


 あの時は単純に障壁バリアを張ってやり過ごしたが、今そんな事をしてもアケディアスに付け入る隙を晒すだけだ。



「“神殺しの魔剣”【ラグナロク】、“破邪の聖剣”【シャルルマーニュ】、俺に力を貸してくれ!! 聖魔一体……“破邪(カオス・)征服(コンクエスター)”!!」

「なっ……!? おれの“血ノ雷撃(ブラッド・サンダー)”を吸収しているのか!? ええい、小癪な!!」



 守りに徹しても待っているのは“時間切れ”だけだ。ならば、危険な賭けを承知で攻めに転じるしかない。


 俺が取った行動は“反撃カウンター”。聖剣を縦にと魔剣を真横に構えて目の前で交差させ“十字架クロス”を作り上げて、それでアケディアスの電撃を防いでいく。


 ただ電撃を防ぐだけでは無い、俺が取った構えは聖剣と魔剣で受けた攻撃を吸収して相手に弾き返す技だ。聖剣と魔剣はアケディアスの電撃を吸収して熱と電気を帯びていく。



「ぐっ……身体が……痺れる……!」

「刀身から漏れた電撃が柄を通じて装甲アーマーに伝わっている……!? ご主人様、これ以上は駄目です!!」


「フッ、フハハハ!! 防戦一方じゃないか、ラムダ=エンシェント! そら、反撃はどうした? 逃げてばかりでは欲しい物は手に入らない、守ってばかりでは殴られっぱなしだぞ? 欲しい物があるなら戦え、殴られるのが嫌なら殴れ、それが世界の『現実』だ!!」

「あぁ……その通りだな、アケディアス=ルージュ……! 俺が欲しい物は……魔王軍おまえたちを倒さないと手に入らない! だから……押し通らせて貰うぞ!!」



 聖剣と魔剣で電撃を吸収するにしても限界はある、或いは『吸収速度』をアケディアスの『攻撃量』が超過しているか。いずれにせよ、聖剣と魔剣から漏れた電撃は柄を流れ、篭手ガントレットと義手を通じて、装甲アーマーに流れ込んで俺の身体を蝕み始めた。


 皮膚と筋肉、そして臓腑が電熱で焼かれていく感覚、それが酷く不快で苦痛だ。常人ならとっくに“感電死”しているような電撃、けれど俺の意識は失われる事も許されずに激痛が気付け代わりに身体を走っている。


 何度も痛みに耐えかねかけて剣から手を放しそうになる。それを唇を血が滲むほどに噛んで堪えて、反撃の機会をジッと待つ。焦ってはいけない、強大な敵であるアケディアスが“隙”を晒すその一瞬を狩らなければならない。



「ゼェ……ゼェ……ゼェ……! まだまだぁ……!!」

「よく耐える、“血ノ雷撃(ブラッド・サンダー)”では埒が明かんな! ならば……!」


「今だ! 聖剣、魔剣、起動開始! 魔力解放、反射――――“血ノ雷撃(ブラッド・サンダー)”」

「なっ、何だと!? おれの技を反射した――――くっ、くぉぉぉ!!」



 その攻めの切っ掛けはアケディアスの『勝利への渇望』が晒した隙と共に。電撃攻撃では俺を仕留めきれないと判断したアケディアスはさらなる大技を打つために攻撃を一瞬だけ中断した。


 一秒にも満たない僅かな隙間、底を狙い俺は反撃に転じた。聖剣と魔剣に帯びさせたアケディアスの電撃。それを一気に解放して剣で思いっ切りソラを薙いだ瞬間に刀身から放たれたのは赤い電撃。


 予想だにしなかった攻撃は自身の優勢を疑わなかった“怠惰の魔王”の意表を突き、咄嗟に彼は血をしたたらせた右手を前にかざして盾にして跳ね返された電撃を防いでみせた。


 血塗られた魔手ましゅは赤き稲妻を喰らうように受け止めて、お互いの視界が赤く染まる程の激しい放電スパークを発して炸裂する。



「ハッ、馬鹿馬鹿しい! この“怠惰の魔王”であるアケディアス=ルージュが自分の雷撃なんぞでダメージを負うわけがないだろう……!!」

「だろうな! だけど、防戦一方じゃ勝利は手に入らないぜ、アケディアス=ルージュ!!」


瞬間移動ワープ……! おれの背後を取ったか、小賢しい!!」

「聖剣解放、破邪撃滅――――――――【君臨せよ、(カルロス)偉大なる大帝よ(・マグヌス)】!!」

「破邪の聖剣! 三千年前の勇者クラヴィス=ユーステフィアの聖剣か……!?」



 その激しい雷撃に合わせて俺はアケディアスの背後を取り、右手で握り締めた聖剣を左脇まで腕を回してから振り抜き、虹色に輝く剣閃を至近距離から見舞った。


 魔性への高い攻撃性能を有した聖剣からの一撃。さしもの“怠惰の魔王”も危険だと判断したのか、アケディアスは左手を背後に構えて聖剣の光を素手で受け止めにかかってきた。



「【破邪の聖剣(シャルルマーニュ)】の一撃を素手で受け止めた!?」

「くぉぉぉ……!! おれを甘く見るなよ、ラムダ=エンシェント!! 聖剣の“光”なぞ、一息で平らげてくれる……ッ!!」



 聖剣の斬光を鷲掴みにして捕らえた魔手から走る赤い稲妻、吸血鬼の鋭利な爪が喰い込んでひび割れる虹色の光、空にいななく金切り声のような雷鳴。


 その不浄を断つ光に怯むこと無く、アケディアスは左手を握りしめてようとしていた。



 だが――――


「聖剣なぞ恐るるに足らず!! おれは“銀の弾丸(シルバーブレット)”如きでは死なんぞ!!」

「残念……お前を喰うのは“神殺しの魔剣”だ! 超電磁聖剣砲・改――――“超電磁魔剣砲カラミティ・キャリバー”!!」

「何っ――――ぐっ……あッ……!?」


 ――――俺が用意した“銀の弾丸(シルバーブレット)”は聖剣の光では無い。



 右手で反射された血の雷撃を防ぎ、左手で聖剣の光を掴んだアケディアスには俺の魔剣を止める術は無かった。


 左手に添えた魔剣はアケディアスの心臓を貫くように撃ち出され、魔剣に炉心を穿うがたれた吸血鬼は大量の吐血とともに空中要塞『メサイア』へと飛ばされて、窓ガラスを打ち割っていった。



「アケディアス=ルージュ!? まさか……魔王軍最高幹部のおさであるあんたが追い詰められてんの!?」

「ラムダさん、ご無事ですか!?」


「ぐっ……おれの炉心が……!? この魔剣……おれたち女神アーカーシャの子ども達の血液に流れる“ナノマシン”に反応しているのか……!!」

「アケディアス……!! もう逃さないぞ……鬼ごっこは終わりだ……!!」



 アケディアスが落下した先は管制室。鳥籠ケージに囚われたノアと機器に向かう合うゼブルが呆然と見つめる中で、床に“大”の字で倒れるアケディアスと着地と同時に倒れ込んだ俺が最後の死闘を演じようとしていた。



「グッ……ゲハッ……! ふぅ……ふぅ……見事だ……ラムダよ……よくぞおれの心臓を射抜いたな……! 随分と気の利いた“珈琲(カフェ)”だ……!!」

「ぐっ……ツぅぅ……!! ハァ……ハァ……景気付けだ……俺特製の小洒落た“小菓子プティフール”も喰っていけ……!! 顔面に直に叩き込んでやるよ……!!」


「生憎と……野郎の手作り菓子なんぞに興味は無くてな……! 最後の“小菓子プティフール”はおれの『勝利』で飾る事にするよ……“血ノ剣撃(ブラッド・セイバー)”……!!」

「遠慮するな……死ぬほど旨いぞ? 来い……“破邪の聖剣”【シャルルマーニュ】……!!」



 俺もアケディアスも満身創痍だ。それでもお互い意地を張り合って下らない軽口を叩き合っている。


 心臓を【神殺しの魔剣(ラグナロク)】に貫かれたアケディアスは胸に魔剣をぶっ刺したまま、フラフラと立ち上がり胸からしたたった血を凝縮して血の“剣”を作り出して俺へと構える。


 対する俺は感覚の無くなった右腕を【自動操縦オート・パイロット】で無理やり動かして聖剣を握って、今にも途切れそうな意識をなんとか繋ぎ止めながら立ち上がる。



「舐めていたよ……おれをここまで追い詰めたのは……貴様が初めてだ……! 誇るが良い……そして死ね……!」

「伝説の“吸血王キング・オブ・ドラキュリア”……貴方を追い詰めれた名誉、ありがたく頂戴する……! その上で……奪った者は返して貰うぞ……!!」



 ゆっくりと、ゆっくりと、身体を引き摺りながら駆け出す俺とアケディアス。


 アケディアスは純粋な闘争に至福を味わいながら、俺は目の前の鳥籠ケージの中で『何か』に祈りを捧げ続けるノアを想いながら、ただ『勝利』が欲しくて無我夢中で走り合う。


 あと数秒、お互いに持つ剣の切っ先が相手に届く間合いに入った瞬間、決着は付く。



「終わりだ――――“血ノ惨撃ブラッド・トラジティー”!!」

「終わりだ――――“反逆の騎士(オジェ・ル・ダノワ)”!!」



 剣の間合い、決着の瞬間――――アケディアスと俺はお互いに持てる力を振り絞って剣を振るう。


 アケディアスは俺の首を刎ねようと剣を水平に薙ぐように、俺もアケディアスの首を刎ねようと下から斬り上げるように、思いっ切り剣を振った。


 振り始めるのは俺の方が速かった。だが、体力に余力のあるアケディアスの方が剣速は速かった。間に合わない、俺の剣が相手の首を斬るよりも先に俺に首は刎ねられる。



 そう確信していた――――


「ラムダさん……負けないで!!」


 ――――その声が耳に届くまでは。



 ノアの絞り出すような声にほんの僅かに勇気を貰って、細やかな強化バフと共に俺のつるぎは恐れを掻き消してくうを斬り裂きながら加速する。



「これで……俺の勝ちだぁぁああああ!!」

「ぐっ……馬鹿な……!? このおれが……たかが人間に……遅れを取った……だと…………!?」



 その剣閃は血に染まった剣を弾き飛ばしながら進み、“怠惰の魔王”の胸元を大きく斬り裂いて決着を告げた。


 驚愕の表情で地面へと崩れ落ちていくアケディアス。流石にもう抵抗する余力が残っていないのだろう。


 剣を弾かれた右手をそのまま俺にかざして攻撃を試みたアケディアスだったが、てのひらからは赤い魔力の微粒子だけが漏れるだけで何も起こる事は無かった。



「すまない……ルクスリア……おれの負けだ…………」



 そして、ソラを仰ぐように“怠惰の魔王”は倒れて、そのまま遂にその動きを止めるのであった。

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