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第249話:VS.【怠惰】アケディアス=ルージュ④/ 〜wings of Destroy〜


「さぁ、おれは“全力”を披露したぞ? 早く貴様の全力で見せてみろ……!」

「くっ……!」



 ――――空中要塞『メサイア』、左ウィング内部。


 管制室から始まったアケディアスとの戦いはエレベーターホールを経由して此処へと至り、“怠惰の魔王”アケディアス=ルージュの覚醒を以って第二ラウンドへと移行した。


 アケディアスは足場に立つ俺を見下すように宙を舞い、俺に全力を出すように催促をしてきた。知っているのだろう、俺が【オーバードライヴ】を使える事を。



「ご主人様……あなたはルシファーとの戦いで既に【オーバードライヴ】を行使しています……! ここでさらに行使すればお身体に負担が……!」

「分かっているさ。けど……四の五の言っていても仕方がないよ……!」



 俺に許された【オーバードライヴ】の猶予は三分間。


 そして、その猶予を俺は既にルシファー戦で殆ど消費してしまっている。纏っている装甲アーマーの耐久性が下がっているのはそれが原因だ。


 これ以上の“心臓(λドライヴ)”の酷使は俺の死を早めるだけ。けれど、ここで全力を出し尽くさなければアケディアスを打倒する事も、ノアを奪還する事も叶わない。


 だから……俺は深く深呼吸をしてから、“覚悟”を決める事にした。



「ご主人様……無茶です……」

「無謀だな、分かっている。けど、ここでやらなきゃ、俺は『ノアの騎士』失格だ! だから……俺の無茶に付き合ってくれ、e.l.f(エルフ).……!!」



 e.l.f(エルフ).の忠告が聴こえる。


 人間では無い、元聖剣の疑似人格であるが故の合理的な判断。いつだって彼女は俺が無茶をしようとすれば警告を発してくれていた。


 俺が止まらない事は百も承知だろう。彼女はただ俺に報せているのだ、『あなたが今からすることは、傍から見れば無謀な行為である』と。


 そして、その警告を承知して、限界の先の“死”に看取られるのを覚悟して、俺は限界まで張り詰めていた心臓の“かせ”を外していく。



刮目かつもくせよ、“怠惰の魔王”よ! これが……貴様を倒す騎士の全身全霊、全力全開だ!! 我が“魂”、喰らいて輝け――――【オーバードライヴ】発動ッッ!!」

「ふふふっ……素晴らしい!! これが“アーティファクトの騎士”の全力か!! ここからは豪勢にいくぞ、貴様の魔剣が彩る“肉料理アントレ”、おれに味あわせてみろ!!」



 装甲アーマーから溢れ出た白い光量子フォトンの粒子、軋む心臓の痛み、途切れそうになる自我。


 身体を蝕む全てを『ノアを護る』と言う決意で押し殺して、左手に魔剣【ラグナロク】を握り、折れた右腕を篭手ガントレットに掛けた【自動操縦オート・パイロット】で無理やり操って聖剣【シャルルマーニュ】を握らせて、俺は宙に浮かぶアケディアスに向けて突撃していく。


 対するアケディアスは逃げる素振りもなく、ただただ愉快そうな表情で、両腕を魔力を帯びた血で塗装コーティングしながら笑うだけ。


 今まで、俺はアーティファクトの性能を武器に並み居る強者達を喰らっていた。だが、今回は違う。今の俺は喰らわれる側、アケディアスの飢えを満たす為の『食事』でしか無い。


 その強大な敵に挑まなくてはならない感覚は、故郷を追放された日のゼクス兄さんとの喧嘩、そしてあの魔狼ガルムとの死闘以来だ。


 怖くて怖くてたまらない。



「アケディアス=ルージュ、覚悟ッ!!」

「来い、ラムダ=エンシェント!!」



 大きく振りかぶって振り下ろした聖剣と魔剣、それをアケディアスは両手でガッチリと受け止める。その瞬間、つるぎの刃と吸血鬼の手の間で弾ける魔力のいかずち


 その吹き溢れたエネルギーの放電スパークは左ウィング内部に伝播でんぱして彼方此方あちこちで激しい爆発を巻き起こしていく。



《左ウィング出力低下! アケディアス=ルージュ、何をやっているの!? グラトニス様秘蔵の空中要塞『メサイア』を墜落させる気!?》

「フハハハ! そう硬いことを言うな、ゼブル! せっかくの全力を出せる機会だ、おれの好きにさせてくれ!!」


《ええい、このぐうたら吸血鬼がぁ……!! グラトニス様に怒られろバーカ!!》

「――――だ、そうだ? 強すぎるのも考えものだな、ラムダ=エンシェントよ?」

「同感、俺もよく怒られるよ!!」



 あちらこちらで爆発が起こり、業を煮やしたゼブルからの怒りの通信が轟いても余裕の笑みを見せるアケディアス。


 俺が振り下ろした二本の剣を受け止めて尚、愉快そうに此方に喋りかける彼の姿には呆れを通り越して感心しかない。アケディアスは俺との戦いが心底愉しくて仕方がないのだろう。


 無邪気そうに笑い、吸血種特有の鋭く尖った犬歯を見せつけるアケディアスの姿につい俺も羨望の念を抱いてしまう。彼は何者にも縛られない“自由”な者なのだと。



「縛られているな、ラムダ=エンシェント? 義務、使命、矜持、責任、あぁ実に下らない! 貴様は何を成したい、何に成りたい? なぜ、己を捨ててまで組織に尽くす? 貴様の果たしたい『夢』は其処に在るのか?」

「俺に説教か? 俺はダモクレス騎士団の【王の剣】だ、祖国の為に戦わなくてはならないんだ!!」


「『戦わなくては()()()()』か……まるで組織の“歯車”だな? そうやって思考を停止して、感情を押し殺せば、アインス=エンシェントのような“人形”に成り下がるぞ?」

「――――ッ!! 我が敬愛する兄を侮辱するな、アケディアス!! 胸部装甲展開、相転移砲【アイン・ソフ・アウル】発射ッッ!!」

「むっ――――“血ノ目撃(ブラッド・ゲイザー)”!!」



 魔王グラトニスの配下でありながら、の“暴食の魔王”にすら隷属しない自由奔放な人物。そうであるが故に、彼にとって『義務感』や『責任感』で()()()()()()()()人間はつまらなく見えるのだろう。


 その『つまらない人間』としてもアケディアスはアインス兄さんの名を口にした。俺がずっと背中を追いかけて来た兄を彼は『人形』だと蔑んだのだ。


 実の兄を侮辱された事は俺の激情を呼ぶには充分な理由だった。怒りに身を任せ、至近距離砲撃での“巻き添え被害(コラテラル・ダメージ)”も気にせずに俺は胸部装甲に備えた相転移砲を撃ち出してしまった。


 だが、アケディアスは冷静に俺に行動に対処、金色こんじきの瞳からの赤い怪光線ビームを発射して俺の攻撃を相殺してきた。



「良い“魂”の輝きだ、その情熱こそが人間の最大の武器! ラムダ=エンシェント、やはり貴様は素晴らしい! ルクスリアが執着する訳だ……!!」

「メメントみたいな戯言を……! お前等なんかに褒められても嬉しくなんか無いっての!!」



 爆発の衝撃で吹き飛ばされた俺とアケディアスは体勢を立て直して再び睨み合う。


 アケディアスは余裕そうに服に付着したすすを払っているが、俺の方はもう余裕なんて無い。装甲アーマーの内側で身体が悲鳴を上げ始めている。内出血しているのか、右腕の感覚も無くなってきている。


 時間をかければかけるほど、俺は自壊で勝手に死んでいく。



「どうした、随分と苦しそうだな? おれに肉薄するのに無理をしているのか?」

「…………同情か? 余計なお世話だ……!!」


「減らず口が叩けるのなら問題は無いな……! では、お次は“生野菜サラダ”と洒落込もうか――――“血ノ拳撃ブラッド・ガントレット”!!」

「“巨人の腕(セファール)”装着……!! ブースト全開!!」



 そんな俺の“制限時間タイムリミット”にようやく感付いたのか、アケディアスは憐憫れんびんの表情を俺に向けて来た。そして、その憐れみの視線を俺が拒絶したことでアケディアスは再び攻撃の体勢へと移行し始める。


 アケディアスの右腕を包み込むように溢れた鮮血、現れる獰猛な爪、獲物の首を掻き切らんとする禍々しい血の拳が女性の悲鳴のような幻聴と共に現れた。


 それに対抗するために俺は聖剣と魔剣を背中に預けて、再び大型の追加兵装である【巨人の腕(セファール)】を左腕に装着してアケディアスの次撃に備える。


 一瞬の静寂、騎士と吸血鬼がぶつかり合う“瞬間”を待ち構える凪の時間。アケディアスは常に笑みを浮かべながら俺を見据え、俺は険しい表情でアケディアスを睨みつける。素の身体能力ステータスはアケディアスの方が遥かに上だ、その雲泥うんでいの差を俺の【オーバードライヴ】はどこまで埋めてくれているだろうか……気になるのはその一点のみ。


 アケディアスの【吸血晩餐オーバードライヴ】が俺の本気をさらに上回るのなら、その時は俺の負けだ。こんな所で負けたくない、こんな所で死にたくない、こんな所で『夢』を諦めたくない。ただそれだけを無心に考えて、管制室で待つノアの顔を思い描きながら、俺は左腕に力を込める。



 そして――――


「包み込め――――“至天の鉄槌(ヘブンズ・ナックル)”!!」

「血肉爆ぜろ――――“血ノ衝撃(ブラッド・インパクト)”!!」


 ――――偶然発生した小さな火花の炸裂音を合図に俺とアケディアスは音を置き去りにして加速して、拳と拳を打ち付けあって衝突した。



 両者のぶつかり合った拳の間から溢れる衝撃波が足場を砕き、浮遊機関フロート・ユニットを粉砕し、左ウィングの外壁を粉々に砕いていく。


 次第に空間にまで亀裂が生じ、大気は硝子ガラスのようにひび割れて、そして俺とアケディアスの雄叫びとダメ押しの一撃で空は寸断。巨大なステンドグラスが豪快に割れるような轟音と共に空中要塞『メサイア』の左ウィングは根本から切断されたのだった。



《左ウィング……損壊……!? アケディアス、何をやっているの、アケディアス=ルージュ!!》



 翼を片方失った事で傾き始めた空中要塞。本体から切り離されて落下を始める左ウィングの残骸。その落ちゆく翼の中で、俺とアケディアスの死闘は続く。

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