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第247話:VS.【怠惰】アケディアス=ルージュ②/ 〜King of Draculea〜


「フフフッ、では“前菜オードブル”といこうか! 固有ユニークスキル【吸血命喰ヴァンピーレ・アマンティス】発動――――“血ノ斬撃(ブラッド・カッター)”!!」

「くっ……【行動予測】……!! 喰い斬れ、魔剣ラグナロク!!」



 ――――空中要塞『メサイア』上層区画、其処にある大きく開けた空間で俺は魔王軍のナンバー2であるアケディアス=ルージュとの死闘へと突入した。


 吸血鬼ヴァンパイアが空気を撫でるように軽く右腕を振った瞬間に発生したのは三日月みかづき状の赤い斬撃波、地上で姿を現した時にジブリールの首を切断した攻撃だ。


 その斬撃波がアケディアスの前に複数発生して俺へと勢いよく迫りくる。それを右眼の【行動予測】で見切り、魔剣を振って着実に切り払っていく。



「ん〜〜、よく見切ったな、予知系統のスキルでも持っているのか?」

「さぁな、単に俺が強いだけかも知れないぜ?」


「ふふっ、()()()()()()()()……! 獲物は強ければ強いほど、活きが良ければ良いほど、征服しがいがあるからな!」

「戦闘狂が……!!」



 迫りくる斬撃波は撃ち落とせたが、その光景にアケディアスは嬉しそうに口角を上げて笑っているだけ。よほど戦闘を愉しみたいらしい。


 敵対者を組み敷き、打ち倒し、屈服させる。絶対的な強者にのみ許された暴力による快楽、それをアケディアスは愉しんでいる。この戦いは彼にとっては楽しい愉しい“狩り(ハンティング)”にして、強者との戦いに舌鼓を打つ“食事”なのだろう。



「続いて“スープ”! 魔力充填……!!」

「うっ……アケディアスの右手に尋常じゃない量の魔力が集束している……!?」


「貴様がおれを愉しませる『強者』ならば受けるが良い、貴様が暴力に屈服するだけの『弱者』なら死に物狂いで逃げるが良い! 散れ――――“血ノ砲撃(ブラッド・キャノン)”!!」

「胸部装甲展開、相転移砲【アイン・ソフ・アウル】発射!!」



 アケディアスの次の攻撃は右手に集束させた禍々しい血のような魔力を俺に向けて撃ち出す砲撃。リリィが尻尾から撃ち出す砲撃によく似ているが、威力は明らかに桁違いだ。


 撃ち出された瞬間に辺りに吹き荒んだ暴風が、撃ち出した瞬間に展開された赤い魔法陣から漏れた周囲の隔壁を砕く魔力の稲妻が、反撃で撃った相転移砲アイン・ソフ・アウルとの衝突で生まれた極小の超重力球ブラックホールが、アケディアスの底しれない実力の一端を物語る。



「愉しくなってきたな、おれを相手に“三手”生き延びたか! クククッ……アインス=エンシェントめ、よくぞおれに極上の獲物を紹介してくれた!!」

「このぉ……余裕ぶっこきやがって……!! 来い――――アーティファクト【明けの明星(ルキフェル)】!!」



 相手のペースに飲まれれば俺が良いように玩具おもちゃにされるだけだ。アケディアスが俺を舐めて侮っている間に少しでもダメージを与えないと。


 左手に転送したのはルシファーから奪った荷電粒子砲【明けの明星(ルキフェル)】。アケディアスも見たことはあるだろう武器だが、貫通力には秀でている。このアーティファクトに俺の心臓からありったけの魔力エナジーを注ぎ込んでアケディアスの意表を突くしかない。



「ほぅ……それはルシファー愛用の得物えものか! あの堕天使の残骸から漁ってきたのか? 随分と手癖が悪いようだな……」

「元々、ゴミ漁りが生業の【ゴミ漁り(スカベンジャー)】でね! アケディアス=ルージュ、貴殿が俺を恐れないのであれば、この一撃を受けるが良い!!」


「さっきの意趣返しのつもりか? 良いだろう、貴様が振る舞う“魚料理ポワソン”……馳走ちそうになろうか!!」

「行くぞ! 『これなるは掲げられた明星の光 人間の欲望によって堕落させられた天使の矢 恐怖せよ 祈りを捧げて死を受け入れよ 天から墜ちし希望は絶望へと流転した 欲深き人理の悪に相応しき断罪を』――――荷電粒子砲【明けの明星(ルキフェル)】……発射ッッ!!」

「ルシファー独自オリジナルの無意気な詠唱しっかり言うんだ……まぁいい、来い!!」



 荷電粒子砲から撃ち出された黄金の閃光、それをアケディアスは避ける素振りもなく迎え撃つ姿勢を見せた。迫りくる攻撃に対して“怠惰の魔王”が取った選択は『ただ右手を差し出す』だけ。


 日に焼けていない透き通るようなスラリと伸びた白い腕が禍々しく輝く“凶星まがつぼし”をまっすぐ捉える。



「――――フッ、フハハハッ! フハハハハハハ!!」



 そして、俺が撃った荷電粒子砲の光はアケディアスの右手のてのひらで数秒ほど大きな閃光を放ち、そのまま何事も無く消えていった。


 唖然あぜんとするしかなかった。


 オクタビアス卿や第八師団の騎士達が防御も虚しく命を落としていったルシファーの荷電粒子砲からの一撃を、アケディアスは高笑いをしながら右手で受け止めたのだ。しかも、出力は俺の方が遥かに上回っている状態で。



「むぅ……少し痛いな、手がほんのり焦げてしまった……」



 挙げ句、アケディアスから出てきた感想は『少し痛い』だ。俺は完全にもてあそばれてしまっている。


 今まで戦った魔王達とは完全に“格”が違う。魔王グラトニスに匹敵する程の強大さ、超性能の『アーティファクト』を軽く凌駕する能力、それが“怠惰の魔王”と恐れられた男の実力。


 その事を嫌というほど痛感させられてしまった。それこそ、今すぐにでもこの場から逃げ出したいと無意識の内に畏怖を抱くほどには。



「そう驚くな、ルシファーがおれとの決闘で使った時よりも威力は上がっているぞ? 流石は“アーティファクトの騎士”、この手の『玩具おもちゃ』の扱いはお手のもののようだな?」

「くっ……流石は“怠惰の魔王”……俺の想像よりも遥かに強い……! 武者震いがしてきたよ……今までのどの強敵よりも心が躍る……!!」



 少しだけすすけた右手を服に手を当てて、アケディアスは俺を皮肉って褒めている。その余裕そうな吸血鬼の表情に負けたくないと虚勢を張って強がってみせるが、そんな事をしてもアケディアスを喜ばすだけなのだろう。


 彼は俺の感情の機微きびには特に関心を示していない。俺が内心、恐怖を感じていたとしても、折れた右腕から走る痛みに顔を歪めていたとしても、そんなことどこ吹く風と流して戦闘を続行するだろう。


 もう俺はアケディアスからは逃げれない。どちらかが戦闘不能になるまで戦いは続くだろう。



「さて……そろそろ怠惰な“炉心”も暖まってきた頃だ、少し“口直し(ソルベ)”が必要だな……!」

「何を言って……って、魔力数値が上昇した!?」



 そして、“怠惰の魔王”の『晩餐ディナー』はさらに続いていく。


 意味深な言葉と共にアケディアスが胸に手をかざした瞬間、彼の身体からは嵐のように荒ぶる赤い魔力がほとばしり始める。


 アケディアスは直立不動で何もしていない、ただ“やる気”の歯車ギアを少し上げただけ。それだけで俺は空中で静止するのも精一杯な嵐の中に放り込まれたような状況に陥ってしまった。



 そして――――


瞬間移動ワープ…………“血ノ墜撃(ブラッド・メテオ)”!!」

「ご主人様! 避けてッ!!」

「速――――ッ!? ぐっ、あぁぁあああああ!!」


 ――――ほんの一瞬だけ姿勢を崩した瞬間、アケディアスは俺の目の前に音もなく現れて、赤い衝撃波を俺の腹部に叩き込んできた。



 落雷のような鋭い爆音と共に目の前で弾けた赤い魔力と共に俺の身体は空中要塞『メサイア』のさらに下層へと吹き飛ばされてしまった。


 右眼の【行動予測】でも追えない速度での攻撃、正確には……未来を予測した朱い幻影ヴィジョンが表示された次の瞬間には、アケディアスは既に予測地点に姿を見せていた。


 右眼の高度演算装置【七式観測眼ルミナス・カレイドスコープ】の演算能力を凌駕する身体能力ステータスをアケディアスが見せた証拠だ。今の今まで【行動予測】と言う予知の力に頼っていた報いを受ける時が来てしまったのだ。


 間一髪、攻撃を受ける直前に装甲アーマー魔力エナジーを回して防御性能を向上させて致命傷こそ避けれたが、落下の勢いを殺すことはまったく出来ずに俺はそのまま隔壁を突き抜けてさらに下層へと落ちていく。


 まるで、アケディアスと同じソラに俺が舞い上がるのは相応しくないと分からせるように。



「まだ死ぬなよ? まだまだ愉しませろ! もっともっと“やる気”を起こさせろ!! “アーティファクトの騎士”よ……おれの血肉を燃え上がるように沸きたてろ!!」



 微かに聴こえるのはアケディアスの歓喜に満ちた声。長年、待ちわびた瞬間が来たる事に愉悦を抱いた吸血鬼のはち切れんばかりの笑い声だった。

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うやぁ勝ち筋見当たらんけど
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