第244話:突入、空中要塞メサイア
「侵入者ヲ排除セヨ! 侵入者ヲ排除セヨ!! 待テヨ……私タチハ侵入者ノ顔ヲ教エテモラッテイナイ?」
「何だ、あの魔導人形みたいな機械兵は!? しかも無駄にうじゃうじゃいやがる……!」
《聴こえますか、ラムダさん? その出来損ないの機兵は『機械兵』、機械天使が普及する以前まで古代文明で重用されていた量産型の“GK−01”です! 痛い、もう喋らないからほっぺたをぶたないで……!》
「待ってろ、すぐに迎えに行くからな!!」
―――――空中要塞『メサイア』内部、発着場。
主砲【星間十字砲】を使用不可能にして、グラトニスの側近であるバアル=ベルゼビュートを撃破した俺はそのまま搭乗口を守る障壁を破壊しつつ無人機の発着場から要塞の内部へと侵入していた。
空中要塞『メサイア』の内部はまさに“機械文明”の総意を結集したような鉄とコンピューターだらけの城。航空機が離着陸する発着場ですら無数の電子機器が光り、尋常ではない量の電力が消費されている事が容易に想像できる。
発着場には十万年の歳月に耐えきれずに朽ちて置き去りにされた無人機が無数に転がって、それを天井にぶら下がったアームが逐一運搬してはレールを通じて何処かの部屋に運搬して行っていた。
「金髪蒼眼ノ騎士、間違イナイ、奴ガ“アーティファクトノ騎士”ラムダ=エンシェント! 多分、敵ダ! 撃テ、撃テ、撃テーーッ!」
「俺のことをご存知ってか? 誰から聞いたか知らないが、向かってくるなら遠慮なくブッ壊してやる……って言うか『多分』で撃つな!!」
発着場から推察できる『メサイア』の全貌に思考を巡らす余裕も無く、俺を迎え撃つ者達が居た。簡素な機械の部品で構築された人型兵器、通称『機械兵』と呼ばれる存在だ。
古代文明最後の戦闘兵器『機械天使』に取って代わられた旧世代の遺物。そんな反響のかかったぐぐもった合成音声を発しながら、自動小銃っぽいビームライフルを乱射しながら俺を牽制してきていた。
発着場に現れたのは数十機にも及ぶ機械兵の軍団。その全機が一斉に俺に向けて光線を撃ち出してきた。
「何だこいつ等? 全然見当違いな方向に攻撃をしている? 棒立ちしてても当たらないじゃないか……」
「オワーッ、暫ク休眠シテイタカラ感知器ガ狂ッテイル! 当タラナイ……!?」
だが、どうやら長い期間休止していたせいで感知器に異常をきたしていたらしく、機械兵の攻撃はあらぬ方向に飛びまくっていた。
ごく稀に俺に向かって飛んでくる光線があるが恐らくは偶然だろう。そう思えるぐらいには目の前の機械兵達はポンコツっぷりを発揮していた。
「…………e.l.f.、駆動斬撃刃で殲滅を……」
「は~い! 駆動斬撃刃……殲滅開始!!」
「ギャーーッ!? 敵ガ反撃ニ出タゾーーッ! 今スグ後退ダ……オワーッ、首ガ取レターーッ!?」
「妙にポンコツだな……そりゃ機械天使に取って代わられる訳だ……」
とは言え、偶に飛んでくる攻撃を防ぎつつ、敵をちまちまと倒していても埒が明かない。そう思ってe.l.f.に指示を出して、群がる機械兵を一気に殲滅させたら発着場の制圧はあっという間に完了してしまった。
あまり手応えが無いが、ノアが通信越しに“量産型”と言っていたしまぁあまり強くはないのだろう。生命体じゃなくて機械だからなんの呵責もなく壊せるのはありがたい配慮だが。
《このクソ人形が、さっきからこそこそと通信しやがって! 口を塞いで、逆さまにして吊るしてやるわ!!》
《うえ~ん……もうこっそり通信しないから拷問するのは止めて〜(泣) 寿命が削れちゃう〜〜……》
「ノアはもう手助け出来なさそうだな……! だけど事前に『メサイア』の地図は送って貰っている! e.l.f.、ノアが居る管制室までの案内を頼む!」
「承知しました、ご主人様! 先ずは空中要塞『メサイア』の移動に使われている昇降機をの元に向かいましょう!!」
通信越しに手助けをしていたノアは悪魔姉妹の片割れであるゼブルによって制裁を受けてしまい、もう俺に声を伝えることは出来そうにない。耳元で通信越しに微かに聴こえるのはノアの啜り泣く声だけだ。
殺されはしないだろうが、ノアを好き勝手に痛めつけられるのは彼女の騎士である俺からすれば不愉快極まりない。
彼女を素早く救出するためにも迅速に行動を。e.l.f.にノアから送られていた空中要塞『メサイア』の地図を組み込んで、目的地の案内を任させた俺は発着場からゲートをくぐり抜けていよいよ空中要塞の内部へと深く足を踏み込み始めるのだった。
「撃テーッ、撃テーッ、ラムダ=エンシェントヲ倒セバオ昼御飯ノ時間ダ!」
「早ク美味シイ電力ヲ食ベタイ……!」
「此処にも機械兵達が……!? くっそ呑気な会話をしやがって! 片っ端から倒して行くぞ!!」
「ご主人様が若干キレ気味だ……」
狭い通路には機械兵がわんさか待ち構えていて、戦闘にはまったく関係なさそうな戯言を言い合いながら此方に向けて自動光線銃を連射してきている。
開けていた場所である発着場とは違い、通路内は閉所空間。流石に機械兵の出鱈目な攻撃も俺に当たりやすくなっていた。
「あぁ、ウザったい! なぁ、e.l.f.、どうせ装甲で防御しているんだし、被弾覚悟で突っ込んであいつ等を壊せば良いんじゃないか?」
「駄目です! その装甲は防御性能を著しくしく上昇させていますが、無敵になっている訳ではありません! こんな所で装甲の耐久値を減らしていてはアケディアス=ルージュとの戦闘に耐えれないですよ?」
「はぁ〜、分かったよe.l.f.、大人しく遮蔽物に身を隠しながら進むよ……」
「まったく、クラヴィスの姐さんと言い、どうしてあなた達は『攻撃は最大の防御』みたいな脳筋戦法を好むのでしょうか? 防御と回避はしっかりと行いなさい! 脳筋で英雄になれるのは、最後まで被弾しなかった幸運野郎なだけなんですからね!」
通路に幾つか存在している扉の一つを蹴破って部屋の中に飛び込み、隙間なく飛んでくる光線から身を隠しながらため息ひとつ。
機関銃のような光弾の嵐を剣で切り払いながら進むのは俺にはまだ出来ない芸当だ。卓越した剣技を持つアインス兄さんなら可能だとは思うが、俺はまだその域には達していない。
機械兵たちの迎撃に使うのは腰に備え付けていた射撃武器である【対式連装衝撃波干渉砲】だ。それを扉から身を乗り出して撃ち、一体ずつ丁寧に機械兵を撃ち抜いていく。
「相手ハ一人ダ、怯ムナ、撃テ撃テ撃テーーッ!」
「くそッ、無駄に数だけいやがるな……! 無限に湧いてくるみたいだ……」
機械兵は一体一体は突けば壊れるような雑魚だが多勢に無勢、次から次へと現れる敵と銃撃の嵐に俺の足は完全に止まってしまっていた。
「流血で人名が損なわれないからマシと考えるべきか、痛みが伴わないから戦いに歯止めがかからないと考えるべきか、何れにせよこのままでは先に進めませんね、ご主人様?」
「まったくだ……っと、この部屋は武器保管庫か? 何か使えるものは無いか?」
何か行き詰まった状況を一気に打開できる秘策があれば良いのだが、そう思って視線を避難した部屋の中に向けた時だった、其処が武器保管庫らしき場所だと気付いたのは。
城下町の食堂のような奥に長い部屋にはガラス張りのショーケースがずらりと並び、そこには機械兵が使用している銃器や見たこともない武装が綺麗に並べられていた。
古代文明の武器なら大方は『アーティファクト』に分類される。なら俺の固有スキルで拾得が可能だ。
役に立つ物があれば良いのだが、そう思って機械兵に悟られないように威嚇射撃を続けながら、e.l.f.に部屋中の捜索を依頼して結果を待つことにした。
「良いもの見つけましたよ、ご主人様〜♪ 左腕の篭手用に装備できると思いますー!」
「どれどれ……固有スキル【ゴミ拾い】発動……! え~っと……なになに……物体を遠隔で動かす念動力ユニット【念動力波発生装置】か……よし、早速組み込むぞ!」
それから数十秒後、結果はすぐに出た。
e.l.f.が嬉しそうに持ってきたのは小さな光る腕輪のような機械。俺の固有スキルによって判明したそのアーティファクトの名は【念動力波発生装置】、遠隔で物体を動かすことの出来る装備品であった。
効果自体に派手さは無いが、応用次第では役に立ちそうだ。そう判断した俺はe.l.f.と協力して左腕にアーティファクトを応急で組み込むことにした。
「どうですか……ご主人様?」
「適合率77パーセント……まぁ、ノア抜きでやったにしては上出来だな! ありがとう、e.l.f.!」
「どういたしまして♪ ところで……大量に感知式爆弾も確保しましたが……使います?」
「感知式爆弾……よし使おう! 早速、“念動力”の出番だな!」
装着は難なく成功、ノアに処置して貰うよりはやや接続に不安定さはあるが【念動力波発生装置】は俺の左腕にうまく馴染んでくれたようだった。
そして、早速と言わんばかりにe.l.f.が用意してくれた手乗りサイズの球体型爆弾を左腕の指先から出た誘導電波で捕捉して浮かせ、それを通路の先にいる機械兵に向かって投げ付けるように放り投げた。
「ナンダ、何カ飛ンデ来ルゾ……? アレハ……感知式爆弾ダァァ……!?」
「総員、退避ーーッ! アァ……間ニ合ワナイ……ンギャーーーーッッ!!」
「うわッ!? すごい爆発だ! 小さい爆発の癖に威力が高すぎる!?」
「でも機械兵達は一気に吹っ飛びましたね!」
投擲から数秒後、通路を包んだ白い閃光と機械兵達の断末魔、そして遅れてやって来た爆発音と衝撃波と共に通路を陣取っていた敵は一気に木っ端微塵に吹き飛んでいった。
恐る恐る通路に顔を出せば、其処に広がっていたのは大爆発の痕跡。粉々になった機械兵の残骸の山、真っ黒に焦げた上でへこんでしまった通路の壁面と天井、手乗りサイズの爆弾一個で出した規模とは思えないような光景だった。
「下手に使えないな、この爆弾……」
「ですね……っと、それよりも今のうちに昇降機まで急ぎましょう! 爆発を聞きつけた機械兵がやってきたら苦労が台無しですよ!」
「だな……急ぐぞ!!」
爆発の跡に少し呆然としていたが、今は緊急事態中、あまり感傷に浸る時間はない。
足下に置かれた爆弾を回収しつつ部屋を飛び出した俺はe.l.f.に導かれながら、ノアの居る管制室へと続く昇降機の元へと走り出すのだった。




