表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
281/1168

第238話:VS.【堕天使】ルシファー③/ 〜Cocytus〜


「くそ……くそ、くそ、くそ!! 当機わたしの右腕が……! 彷徨える子羊を導く為の救済の右腕がぁぁ……!!」

「まだ下らない戯言ざれごとをべらべらと!! 死んでいったオクタビアス卿の仇だ、神妙にお縄につけ!!」



 ゴルディオ=オクタビアス卿の死と引き換えに得た好機チャンス、“機械天使ティタノマキナ”ルシファーの荷電粒子砲【明けの明星(ルキフェル)】を彼女の右腕ごと破壊する事に成功した。


 ご自慢の腕が大破した事でルシファーの感情回路に乱れが生じたのだろうか、彼女は切断された右腕の断面を庇いながら身悶えていた。



「このままじゃ彷徨える子羊を抱きしめれない……世界の解放を夢観たルクスリアを支えてあげれない……!!」

「彷徨える子羊……グラトニスのことなのか……!?」


「くっ……くくく……ふはははは!! お前は……自分だけが壮大な物語の主人公だと思っているのか? 違う……違う、違う、違う!! ルクスリアもまた、世界に抗う反逆者なのだ!! お前の“女神ヒロイン”がノア=ラストアークなように、当機わたしの“魔王ヒロイン”こそがルクスリアなのだ!!」



 荒々しく吠える機械天使はあいも変わらず意味不明な戯言をのたまっている。


 ただ唯一、彼女の言葉で理解できた事があった。それはルシファーが心の底からグラトニスを信奉していること。俺がノアを求めるように、堕天使もグラトニスを求めているのだと。



当機わたしは……ルクスリアの為の『物語』を紡ぐ! 邪魔を……するな!! 『流れ堕ちよ嘆きの川よ 愛情を裏切った叛逆者カイーナを許せ 忠誠を裏切った叛逆者アンテノーラを許せ 信頼を裏切った叛逆者トロメアを許せ 偉大なるしゅを裏切った叛逆者ジュデッカを許せ 堕天使わたしは地の底で叛逆者ユダを噛み締めて 罪深き罪人たちを氷の棺に閉じ込めん』――――【叛逆地獄(コキュートス)】……転送!!」


「黒い……大剣……!? それがお前のもう一つの切り札か!」



 堕天使は冷たく凍てついた声で詠唱を呟き、残された左腕に一本の大剣を握る。


 自分の身長をゆうに越えた大剣、黒い氷の結晶のような物で構築された刀身、その刀身の中を血管のようなパイプを通じて広がる朱いエネルギー、周囲の空気が凍てつくような不気味な感触。


 先ほどの【明けの明星(ルキフェル)】とは真逆の凍りついたアーティファクト。



「あらゆる物質から生命力エナジーを喰らう捕食イーターつるぎ……【叛逆地獄(コキュートス)】!! これで……貴方を喰らうわ!!」

「やってみろ……この堕天使が!!」



 大剣のアーティファクト【叛逆地獄(コキュートス)】を手に、ルシファーは加速して一気に距離を詰めて来た。


 振り下ろされた黒い大剣の一閃を魔剣で受け止めれば、魔剣を通じて身体から生命力エナジーが奪われる感触が確かにある。



「くっ……!? これは、吸われる速度が尋常じゃない!?」

「えぇ、そうよ。この刃が少しでも触れれば並の人間なら一秒とかからずにミイラになるわ! その心臓に埋め込まれたアーティファクトに感謝しなさい?」



 常人では触れることすら許されない吸血の刃、それが堕天使の切り札。思わず後ろに翔んで距離を取ってしまったが、それが彼女の“本気”を引き出してしまう事になってしまう。


 ルシファーの身体から溢れる黒いオーラのような光量子フォトンの粒子、過剰生成オーバードライヴの影響で炉心ドライヴから溢れたルシファーのエネルギーだ。


 間違いない、ルシファーは全力をここで出す気だ。



「全拘束機関……開放! 炉心ドライヴ……全力全開フルスロットル!! 当機わたしは……ルクスリアを“救世主メシア”へと至らせる!!」

「ルシファー……悪いが世界に“救世主”は二人も要らない! この世界を救うのは……我があるじ、ノアだ!!」


「ならば決闘を! より優れた“つるぎ”を握ったしゅが世界の救いとなるのよ!!」

「俺とお前が“つるぎ”か? 良いだろう、ならグラトニスのご自慢の剣……ここでへし折ってやる!!」


「さぁ……さぁ、さぁ、さぁ! 行くわ……行くわ、行くわ、行くわッ!! 我が名はルシファー、魔王軍最高幹部【大罪】の一角、【堕天】の罪を冠せし機械天使ティタノマキナなり――――【オーバードライヴ】……発動ッッ!!」

「我が名はラムダ=エンシェント、グランティアーゼ王国ダモクレス騎士団第十一師団【ベルヴェルク】のおさなり! いざ尋常に――――勝負ッッ!!」



 お互いに発動させた臨界突破オーバードライヴ、音を超えて加速しての激突、周囲に爆風を起こすような衝撃と始まった開戦。


 ルシファーは恐らく俺を仕留めきるまで逃げはしない、グラトニスに『勝利』を捧げると言う目的を遂行する覚悟は決めたに違いない。だから、これはもう意地の張り合いだ。


 自分が信じる相手を次の領域ステージに連れて行きたいと言う願望を叶える為に、敵対した相手の願望を純粋な暴力でじ伏せるだけの野蛮な行為だ。それでも俺は止まれない、ただがむしゃらに剣を振るしかない。


 俺もルシファーも音速状態で戦場の空を縦横無尽に駆け回り、飛び交うダモクレス騎士団の攻撃や無人機ファイターを躱しながら何度も激突を繰り返す。



「喰らえ――――“死獣爪デッドリィ・スラッシャー”!!」

「【行動予測】――――回避行動に移ります」


「反撃開始……『罪人を裁け 結審の刃』――――“煉獄断頭台エクセキュート・ジャッジメント”!!」

「【行動予測】――――くっ!?」



 一瞬の隙を突いて魔剣から放った黒い斬撃波ざんげきははルシファーの内蔵する高度演算能力【行動予測】によって難なく躱され、彼女が俺に向けて反撃で放った斬撃波を右眼の【行動予測】で回避して躱していく。


 剣と剣は激しく克ち合い、斬撃はお互いの脇を掠め、銃撃はすぐ横をすり抜けていき、俺たちの攻撃に巻き込まれて被弾した無人機ファイターが次々と空中で大爆発と共に四散していく。



「ラムダ、ラムダーーッ! 駄目……ワサビくんの速度スピードでも追いつけない……! サンクチュアリ卿、エトセトラ卿、私にお力添えを……!!」

「うちに任せとき、うってつけの装備があるで! ちょいと飛竜ワイバーンには酷な目にうて貰うけど構わんな?」


「ワサビくん、弟を守るために力を貸して!」

「では儂が少し知恵を貸してやろう……! オクタビアスの坊主の仇じゃ、少し本気でいかせて貰うとするかの……!!」



 高速で移りゆく景色の中で微かに見える地上では、ツヴァイ姉さんがエトセトラ卿とサンクチュアリ卿と共に何かをしようとしている光景が見える。


 きっと俺を手助けしようとしてくれているのだろう。オクタビアス卿の死を引き金に【王の剣】たちもルシファーの打倒を最優先事項と定めている。ツヴァイ姉さん達ならきっと俺とルシファーの戦いに一矢報いる事が出来る筈だ。


 その時を今は信じるしかない。



「ツヴァイ、ラムダを任せる! 私は地上ここから聖剣で無人機ファイターを片っ端から叩き落とす!」

「ありがとうございます、アインス兄様! オクタビアス卿……貴方が託した“つるぎ”、必ずラムダに届けます!!」



 くるくると回る視界の中で映った騎士たちの姿、散っていった仲間たちをとむら葬送曲レクイエムの準備。


 どうやら俺はそれを待ちわびる事も許されないらしい。



「貴方の手足、此処で削ぎ落とす! 二度とルクスリアに逆らえないように達磨ダルマにしてやるわ!!」

「それは俺の台詞だ! 二度と俺の大切な人たちに手出し出来ないように生首だけにしてやる!!」



 瞬間移動ワープに次ぐ瞬間移動ワープ、攻撃に次ぐ攻撃。俺が斬撃を撃てば素早く回避したルシファーは斬撃を返し、ルシファーが斬撃を放てばそれを既のところで受け止めて魔剣を振るって俺が反撃をする。


 一瞬でも気を抜けばあっという間に倒されて終わる。そんな極限状態が俺の神経を鋭利な刃物のように研ぎ澄まさせる。



「隙を生まないと倒せない……! バアル、ゼブル、【堕天】ルシファーより支援要請! 南部【フォラメン洞窟】に向けて主砲【星間十字砲グランドクロス】を発射しなさい!!」

「なっ……貴っ様ぁぁ……!!」



 そんな中でルシファーは次なる一手を打った。


 空中要塞『メサイア』の主砲による第二射を要請したのだ。場所は不毛地帯【テラ・ステリリス】南部の洞窟帯【フォラメン洞窟】――――第九師団、第十師団が進軍している死都への進行ルートの一つだ。


 つまり……ルシファーはメインクーン卿とデスサイズ卿を『メサイア』の主砲で亡き者にして、俺の動揺を誘おうとしている。そして、今の俺には『メサイア』から放たれる無慈悲な浄化の光を止める術は無い。



「くっくっく……次は誰の残留思念を観るのかしらねぇ? 主砲【星間十字砲グランドクロス】――――放て!」



 かくして、『メサイア』の中心に掲げられた聖杯グレイルは再び白き光を集束して放ち、メインクーン卿達が向かっていた洞窟のある一帯に再び十字架の光が立ち昇った。


 不毛地帯全域を真っ白に染める滅亡の光が俺の視界を染め上げて、不覚にもルシファーの姿を一瞬だけ見失ってしまった。



 そして――――


瞬間移動ワープ……獲った!! 先ずはその左腕から頂くわ!!」

「ルシファー……!」


 ――――ホワイトアウトした視界が正常に戻った時、俺の目の前には黒い大剣を大きく振り上げていたルシファーの姿があった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ