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第237話:VS.【堕天使】ルシファー②/黄金郷の終わり


「『これなるは掲げられた明星の光 人間の欲望によって堕落させられた天使の矢 恐怖せよ 祈りを捧げて死を受け入れよ 天から墜ちし希望は絶望へと流転した 欲深き人理の悪に相応しき断罪を』――――荷電粒子砲【明けの明星(ルキフェル)】……エネルギー充填……120%!!」



 切り札であるアーティファクト【明けの明星(ルキフェル)】を取り出したルシファーの攻撃が始まる。


 奇妙きみょう奇天烈(きてれつ)な詠唱と共に『荷電粒子砲ルキフェル』はその形状を変化させる。三本の爪は大きく開き、ルシファーの動力炉ドライヴから供給されたエナジーが砲身へと注がれていく。


 銃身バレルから激しく散る放電スパーク、振動する大気がルシファーが持つ武器の威力を物語っている。恐らくはまともに受ければ死ぬだろう。



「マスター、ルシファーの持つ【明けの明星(ルキフェル)】は“障壁破壊シールド・ブレイカー”の特性を有しています! 回避行動を優先してください!!」

「アッハッハッハッハ!! ジブリールの言う通り、これは強力な障壁バリアを張った戦艦を火力でぶち抜く為にラストアーク博士が開発した武装よ!! 巨大戦艦を撃ち落とす為の兵装……生身の人間に使えばどうなるか理解できるわよね?」



 防御に対する強力な貫通性能を有した攻撃、またしてもノアの開発品か。俺と出逢う前のノアはどうやらやたらめったら殺傷力の高い兵器を開発していたらしい。


 それが自分を開発した人間達に言われるがまま造った物だとしても、少しだけノアが不憫に思えてくる。



「真正面から受け止める勇気があるならお好きにどうぞ? 荷電粒子砲【明けの明星(ルキフェル)】――――発射ッッ!!」

「【行動予測】――――なっ、貴様、まさか!?」



 そして、ルシファーが右腕で抱えた荷電粒子砲から金色に輝く閃光は撃ち出された。射出された瞬間に『音の壁』を超えて加速した砲撃は禍々しい金切り声を上げて迫りくる。


 だが、金色に輝く凶星きょうせいは俺に直撃する事は無かった。いや、そもそもルシファーは()()()()()()()()()()()()



「――――ッ!? 第八師団、上空から攻撃が来る、盾を構えろ!!」

「駄目だ、オクタビアス卿!! 逃げるんだ!!」



 狙われたのは地上で戦っていたダモクレス騎士団、オクタビアス卿率いる第八師団が標的だった。


 攻撃が自分たちを狙っているとすぐに悟ったオクタビアス卿は部下に指示して盾を展開させるが、()()()()は無意味なものだった。



「だ、駄目です、オクタビアス卿……! この攻撃は防げ……う、うわァァああああああ!?」

「なっ……我を黄金の盾が……ぐぉぉおおお!?」



 銃身バレルから撃ち出され、拡散しながら降り注いだ黄金の光は第八師団の盾をあっという間に砕き、地面に着弾したルシファーの攻撃は遥か彼方まで届いて大きな光の壁となって爆ぜた…………大勢の第八師団の騎士達の命を奪いながら。


 攻撃範囲、登った光の壁の大きさは目算で幅数百メートル、距離は数キロメートル、走ってはまず回避できない規模だ。


 最初からルシファーは俺を狙わずに仲間たちを狙った。理由はだいたい察しがつく、次の攻撃を俺に確実に防がせる為だ。




『オクタビアス卿、最近機嫌が良いですね? あの“アーティファクトの騎士”にコテンパンにされたというのに……?』

『だからだよ、一切怖じけずに自分に立ち向かって、そして打ち勝ったラムダ卿に期待をしているのさ! 彼はいずれグランティアーゼ王国を背負える騎士になると……ね』

『まったく、オクタビアス卿の部下である我々を差し置いて生意気な話だ……! ここは、我々もグランティアーゼ王国を背負う騎士だと言うことをオクタビアス卿に示さないといけないな!』



 いま死んだ騎士たちにも誇りがあった。


 その騎士たちの想いをルシファーは踏み躙ったのだ。俺を苦しめる為だけに。



「ぐぅ……クソッ!! 左腕が……これでは戦闘が……」



 幸い、オクタビアス卿は攻撃の直撃を免れて生き延びていた。だが、彼は攻撃の余波で左腕を引き千切られてしまっていた。


 自慢の黄金の甲冑を赤く染める鮮血がオクタビアス卿の命運を告げている。彼はもうこの戦場では活躍できない、片腕を失った今、すぐさまにでも退避をするべきだ。



「ルシファー……貴様ァ!!」

「お次は誰を狙おうかしら? 貴方の婚約者のオリビアちゃん、それとも裏切り者のリリエット、それか敬愛するご兄弟が良い? ふふふっ……お好きな相手を選びなさい……!」


「姉さん、ルシファーから離れて!! あいつ、騎士団のみんなを狙っている!!」

「駄目よ! 隙を見せたらルシファーは瞬間移動ワープで逃げるんでしょ!? だったら逃げれないわ!!」



 堕天使は薄ら笑いを浮かべながら次の獲物を物色している。第八師団の壊滅とオクタビアス卿の負傷を見て、それに激昂した俺を見て加虐心をそそられたのだろう。


 舌舐めずりをしながら地上で無人機ファイターと交戦する騎士たちを観察し、誰を殺せば俺が傷付くかをつぶさに分析している。



「決ーめた!! 次は貴方の婚約者フィアンセに死んで貰いましょう♪」

「なっ……! オリビア、今すぐ逃げろオリビアァーーーーッ!!」


「ラ、ラムダ様……!? わたし……狙われて……?」

「逃げても無駄、当機わたしには【行動予測】がある! 防御しても無駄、この【明けの明星(ルキフェル)】には盾なぞ通用しない! さぁ、さぁさぁさぁ、堕天使ルシファーがふしだらな聖女を殺すわ!! 殺すわ、殺すわ、殺すわ、アッハハハハハ!!」



 次の標的ターゲットはオリビア。ルシファーは俺の婚約者を、“急所”を確実に狙ってきた。


 無論、『オリビアを殺したいから狙う』のではない、『オリビアを庇う為に射線に出てくるであろうラムダ』を狙っての行為だ。そして、オリビアを狙われた以上、俺にルシファーの攻撃を見逃すなんて道は無くなった。


 戦場に出てきた以上、オリビアは『自身の死』をきっと覚悟している。けど、俺は彼女を死なせたくない。その感情は俺の本能を突き動かし、身体は勝手にルシファーとオリビアの間、【明けの明星(ルキフェル)】の射線上に動こうとしていた。



 だが――――


「オリビア、いま行――――グアッ!?」

「ラムダ様が被弾した……!?」

「チッ、無人機ファイターからの流れ弾が当たったのか……! 運のない男だ……!」


 ――――無情なる女神は俺には微笑まなかった。



 翼を広げて加速しようとした刹那、俺の背中で起きた爆発。空中要塞『メサイア』から出撃した無人機ファイターの一機が撃った光線ビームが不運にも直撃してしまったのだ。


 装甲アーマー越しに背中に走った激痛、爆風に巻き込まれて崩れた姿勢、既にルシファーの荷電粒子砲は発射間際、駄目だ……間に合わない。



「オリビア……逃げろ……!」

「貴方を落とせなかったのは残念。けど、恋人との悲劇的な離別、それも『運命デスティニー』と思いなさい!! 荷電粒子砲【明けの明星(ルキフェル)】――――発射ァ!!」

「駄目……逃げ切れない……!」



 目の前で堕天使の絶叫と共に撃ち出された金色の光。それが逃げ惑うオリビアへと拡散して肥大化しながら無情にも向かっていく。


 オリビアの身体能力では走って回避は出来ない、かと言って祝福ギフトで結界を張っても、多少は耐えれてもすぐに破壊されてしまうだろう。


 このままではオリビアは死ぬ。迫りくる脅威に彼女は決死の覚悟で障壁を展開しているがきっと意味をなさない。それが分かってしまって、俺の精神ココロに深い絶望がチラつこうとしていた。



 その時だった――――


固有ユニークスキル【終わりなき黄金郷イデアリス・アウレアテラ】――――“黄金の理想郷ゴルディオン・エルドラド”!!」

「オ、オクタビアス卿!?」


 ――――オリビアを庇うようにオクタビアス卿が盾を構えつつ現れたのは。



 オクタビアス卿は左腕を失っている。それでも、残った右腕で盾を構えた黄金の騎士は身を挺し、文字通りオリビアの『盾』となって迫る黄金の光を受け止めたのだ。


 オクタビアス卿に魔力を注がれて巨大化した盾は拡散した【明けの明星(ルキフェル)】を余すところなく受け止めている。



「オ、オクタビアス卿……! どうして……」

「ぐぅ、ぐぅぅ……!! 私も長くは保たない……ツヴァイ卿、パルフェグラッセ嬢を回収してくれ!!」



 だが、手負いである以上、オクタビアス卿とて長くは保たない、既に黄金の盾にはヒビが生じている。あと数秒もすれば盾は砕けてしまうだろう。



「既に向かっています! オリビアちゃん、少し乱暴に運ぶわよ!!」

「ま、待って下さい、ツヴァイさん! オクタビアス卿が――――きゃあっ!?」


「ツヴァイ卿、私の自慢のつるぎを預ける! ラムダ卿に届けてくれ!」

「…………必ず!」



 俺が間に合わないこと、オクタビアスが長く保たないことを察したのだろう。


 既にオリビアの救出に動いていたツヴァイ姉さんは危険をかえりみずに地面スレスレを飛竜ワイバーンに乗って滑空し、オリビアを飛竜ワイバーンの脚で強引に掴んでその場から離脱をした。



「オクタビアス卿があのままじゃ……!!」

「彼はあなたを救う為に命を賭けたの!! その覚悟を無駄にしないで!!」

「あぁ……そんな……」



 ツヴァイ姉さんはオクタビアス卿を見捨てた、見捨てなければならなかった。


 あのまま欲張ってオクタビアス卿を救出しても、持ち手を失った黄金の盾は即座に崩壊してツヴァイ姉さんを含めた全員が巻き込まれていた。


 あの攻撃を盾で受け止めた時点で彼の命運は決まってしまっていたのだ。



「ラムダ卿……後は託すぞ! 貴殿が……グランティアーゼ王国を、私の愛する家族の未来を護ってくれ!!」



 激しい光に阻害されてオクタビアス卿の表情は分からない。けど、きっと彼は俺に笑い掛けているのだろう……俺に『後は託す』と期待を込めてくれているのだろう。


 俺は……その晴れ晴れとした『覚悟』を見せたオクタビアス卿の最期を見届けなければいけないのが堪らなく悔しかった。



「妻よ……娘たちよ……許せ……!」



 そして、黄金の盾は砕け、オクタビアス卿は光に呑まれて消えていった。ルシファーが放った黄金の光は地面へと着弾し、そこから壁のような爆発を立ち昇らせる。


 けれど、その爆発で討ち取った人間はただ一人、消費したエネルギーに見合わない徒労をルシファーをする事になったのだ。



『ゴルディオさーん、アハトさんと一緒にご飯食べに行きましょー!』

『シータ! アハト卿は今日はツェーン婦人とデートだ、邪魔をするな!』

『えー、じゃあゴルディオさんとふたりでご飯〜? じゃあ、わたし帰りますね〜』



 脳裏に焼き付いた走馬灯、オクタビアス卿の記憶が再生されていく。現役だった頃の父さん達との思い出だ。



『オクタビアス、貴殿を第八師団の新しい団長に任じる。裏切り者のサーベラスに傷を負わされて、私はもうまともに戦えん……』

『そんな……カミング卿を失って、私は貴方まで失うのですか、エンシェント卿……!!』

『私の後を継げるのはお前だけだ! オクタビアス……後は託した!』



 彼が父さんを敬愛していた事は知っていた。


 第八師団を率いた“白騎士”アハト=エンシェントに憧れて騎士団の門を叩いた政界の異端児。それが彼の生涯だった。



『聞いてくれ、おまえ。新しく騎士団に入ったラムダ卿がな、若い頃のアハト卿とカミング卿にそっくりなんだ! まるで……二人の生き写しのようでな……』

『あらあら……まるで自分の息子のように嬉しく語っちゃって。あの娘達が聴いたら嫉妬されますよ?』

『そうだな……今のは内緒にしてくれ……/// アハト卿に代わって彼を訓練したいなどと、少し欲張りだったな……』



 あぁ……貴方は、俺を捨てた父さんの代わりに、俺の父親を努めようとしてくれたんですね。


 ありがとうございます……オクタビアス卿、オリビアを護ってくれて、俺を信じてくれて……感謝します。



「【オーバードライヴ】……瞬間移動ワープ……!! ルシ……ファーーーーッッッ!!」

「何……いつの間に!? きゃあ、当機わたしの荷電粒子砲が……!?」



 ダモクレス騎士団第八師団【黄金の盾】団長、“黄金卿”ゴルディオ=オクタビアス――――戦死。


 彼の死は騎士団に衝撃をもたらして、それと引き換えに堕天使から武器を奪い去った。


 荷電粒子砲の発射の僅かな隙を突いて瞬間移動ワープ距離を詰めた俺は魔剣を勢いよく振り下ろし、ルシファーの右腕ごと荷電粒子砲を斬り落とすことに成功した。



「この……当機わたしの腕がぁぁ……!!」

「ルシファー……お前は絶対に逃さない!! 此処で必ず撃ち落とす!!」



 堕天使を討ち、吸血鬼を倒し、魔王の企みを阻止する。


 オクタビアス卿から託された『未来』を護るためにも必ず。それが、俺を突き動かした激情だった。

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自覚有る弱点を戦場に連れ込み、挙げくの果て大事な先達を犠牲にしてどれ程の後悔するだろうか?
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