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第25話:再会


「う、ううん……はっ!? こ、ここは……?」

「教会の談話室だよ、オリビアさん」



 ラジアータ教会、談話室だんわしつ


 疲弊したオリビアをこの部屋のベットに寝かせ、ノアから貰った回復薬ポーションを彼女に飲ませながら俺は看護を続けていた。


 教会の修道女シスター曰く、昨夜、突然オーク達を引き連れたローブ姿の魔族がラジアータを襲撃。村人達と協力し子供たちを教会へと避難させたオリビアは俺は到着するまでの実に半日以上、教会を覆う結界を維持して耐え続けていたと言う。


 尋常ではない程の魔力量と精神力。俺ですら恐らくは成し得ない程の“奇跡”を、オリビアは自らの犠牲もいとわずに成し遂げたのである。



「ラムダ様……やっぱり、ラムダ様なのですね! あぁ……こうして再会するのは何年振りでしょうか……!」


「うん、二日振りだね。話を盛らないで」



 目が覚めたオリビアはまだ衰弱した様子が見受けられたが、会話ができる状態にはなんとか回復していた。


 俺の顔を見て安堵したのか、強張こわばっていたオリビアの表情はようやく落ち着きを見せながらゆっくりと息を吐き出している。



「それで……どうしてラムダ様が此処に?」


「オトゥールで受けた依頼クエストでたまたまこの近くまで足を運んで、それでこの村の異常事態に気が付けたんだ」


「そうでしたか。それで……この村の人たちは……」


「オリビアさんが護り抜いた子供たち以外は……全員殺されていた。今、俺の連れが修道女シスターと一緒にみんなを埋葬している途中なんだ……」


「そっ、そんな!? あぁ、なんてこと……」



 傷付いても尚、村人たちの安否を気遣うオリビア。しかし、結果は『残酷』だった。


 オリビアに教会の護りを任せ、迫りくるオーク達の前に立ちはだかった大人達は全員が無惨な殺され方をしていた。その事実を俺は正直に伝えることしか出来ず、オリビアは突然の悲劇に悲観するしかなかった。



「俺たちがここに来た時にはもう手遅れで…………」


「みんな、子供たちを護る為に……!」


「――――ッ! まだ動いちゃ駄目だ、オリビアさん!」


「はいはい〜、重症患者は絶対安静! 無理に動いたら死んでしまいますよ~?」



 村人たちの末路を知り、オリビアは取り乱してベットから無理やり身体を起こそうとする。


 しかし、タイミング良く現れたノアがオリビアの額を人差し指で押して、彼女を強制的にベットへと寝かし付けた。



「ノア……様子は?」


「私とコレットちゃんと修道女シスターさんで協力して、村の人たちの亡骸は教会のそばにある墓地に埋葬しておきました。ここに来たのは死にかけの神官さんの様子を診るためです」



 一仕事終えたであろうノアは水筒に入れた水を飲みながらベットの側にあった椅子に腰を掛け、目の前に立体映像ホログラム画面ウィンドウを眺めながら横たわるオリビアの身体を入念に調べ始める。



「あの……あなたは……?」


「始めまして、オリビア=パルフェグラッセさん。私の名前はノア――――ここにいるラムダさんの相棒パートナーです」


「ノアさん……あの、わたし、村の人たちをちゃんととむらってあげないと……」


「それは後でも出来るでしょ? 脱水、虚脱きょだつ、心拍低下、内蔵損傷……何をしたのかは知らないけど、もう少しで死ぬところだったんだよ、オリビアさん。今は自分の身体をいたわってじっとする」


「それは……そうですが……」



 いつになく真面目な雰囲気でオリビアを診察するノアは、村人たちを死なせてしまった自分を責め無茶をしようとする彼女をきつくいましめる。


 献身的な性格のオリビアをしっかりと休ませる為にわざとキツい物言いをしたのだろう。



「大丈夫! 子供たちは安心して眠っていますし、修道女シスターさんも少し疲弊しているだけで命に別条はありません。あなたが護り抜いたんですよ。だから、そんなに自分を責めないで……ねっ?」


「はい、ありがとうございます……ノアさん」



 ノアの言葉は正しい――――ラジアータへの襲撃の中で、オリビアは懸命に子供たちの命を護り抜いたのだ。犠牲になった人も沢山いたが、それはオリビアのとがでは無い。


 だからこそ、俺はこの悲劇を起こした真犯人への憤りを強く抱いてしまう。



「ラムダさん、子供たちや修道女シスターの証言した『ローブ姿の魔族』はこの村の周囲には居ませんでした」



 オリビアの診察を終えたノアは、この村を襲撃した犯人の捜索結果を俺に伝え始める。


 俺たちが村を制圧していたオークを倒した際、『ローブ姿の魔族』は影も形も無かった。恐らくは既に村を後にし、残ったオーク達に教会への攻撃を指示していたのだろう。


 だが、それなら疑問が一つ浮かぶ。オーク達を残して村から去ったとなると、その魔族には『教会への攻撃よりも優先される対処事項』が存在することになる。



「【勇者】ミリアリア=リリーレッド。この村を襲ったオーク達は……【勇者】を探していると言っていました……」


「オリビアさん、それ本当なの?」


「勇者……? それがどうかしたんですか……?」



 その疑問に答えたのはオリビア。


 曰く、村人を襲っていたオーク達が『勇者は何処にいる?』と彼等に言い寄っているのを子供たちが聞いていたらしい。



「『勇者現れし時、彼岸ひがんより厄災やくさいきたる』――――古くから伝わる言い伝え」


「【勇者】の職業クラスを与えられた者が現れることはすなわち、()()()()()()()()ことを意味します」


「故に、【勇者】はこう呼ばれ、人々から畏怖されるのさ――――【厄災の引き金(カラミティ・トリガー)】と」



 それが、この世界に伝わる【勇者】の言い伝え。


 災いが起こる“兆し”、来たる破滅への抑止力。しかし、いつしか伝承は曲解されて伝わり、勇者の存在そのものが『不吉な存在』とされていく事になっていった。



「その話が本当なら、村を襲撃した敵の目的は……」


「十中八九、勇者を殺すことだろうな。今までの歴代の勇者はほぼ全員が『魔王の討伐』をもって英雄となっているんだから」


「今の時代も邪悪な魔王が活動していると聞き及んでいます」


「なるほど……『魔王の脅威となる勇者を先んじて始末する』。それが敵の目的なんですね、ラムダさん」



 魔王の配下による勇者誕生の地の襲撃。それならこの過剰なまでの殺戮にも納得がいく。だが、それなら肝心の勇者はどこに行ったのだろうか。



「勇者……ミリアリアさんの事はわたしにも分かりませ。昨日、わたしがここに配属された時には、彼女は村から姿を消していたので……」


「なら、『ローブ姿の魔族』はそのミリアリアって子を追っていったことになるな。一体どこに?」


「近くの街といえば……サートゥスって街と、オトゥールだけですね。その魔族の方はどちらに……あっ!」



 勇者の行方とローブ姿の魔族の行き先を推測している最中さなか、とつぜん大声を上げるノア。



「何か心当たりがあるのか?」

「オトゥール郊外のゴブリンの洞窟……」


「………………!」


「もしかしたら……手駒の補充の為にそこに向かったのかも知れません。あそこを私達が壊滅させた事を知らないままで……」



 ノアの気付いた心当たり、ゴブリンの洞窟。


 昨日、俺たちが壊滅させたゴブリン達の拠点だ。ロクウルスの森で対峙したオークの証言から、ゴブリン達とオーク達の部隊が繋がっていたことは裏が取れている。


 なら、オーク達を率いていたと言う『ローブ姿の魔族』こそが、ゴブリン達の主だったに違いない。



「じゃあ……今ごろそいつは……」


「ゴブリンと合流出来ず、オトゥールの近くにいる可能性が極めて高い事になります!」



 オトゥールの近くに高レベルの魔物モンスターを従える程の魔族がいる。これは由々しき事態だ。



「このことを知っているのは俺たちだけだ……! 急いでオトゥールに戻らないと!」



 オトゥールに忍び寄る危機を悟り、俺は慌てて身支度を始める。戦うにせよ、街の住人に避難を促すにせよ、急がなければ何が起こるか分からないからだ。



「ノア、オリビアさんの看病を頼む! 後でこっちに迎えに来るから! それと、子供たちはサートゥスにいるエンシェント辺境伯に保護を頼むよう、コレットに伝書鳩でんしょばとを飛ばすように言っておいて!」


「分かりました。ラムダさん、気をつけて……」


「オリビアさん……俺、もう行くよ。会えて良かった!」



 ノアにオリビアと子供たちの面倒を頼み、俺は部屋を後にしようとする。本当は、オリビアとはもう少し一緒に居たいが、今の俺にはするべきことがある。


 ロクウルスの森のガルム、オトゥール郊外のゴブリン、ラジアータを襲ったオーク――――その全ての背後にいた黒幕、『ローブ姿の魔族』と対峙するために。



「ラムダ様、お願いします。この村の人たちの無念むねんを……どうか、晴らしてあげてください」


「言われなくても、そのつもりさ!」



 今まで胸の内に抑えつけていた悔しさを露わにし、涙ながらに訴えるオリビア。彼女の想いに応えて、俺は教会を後にしてオトゥールへと走り出す。



 その頃――――


「ねぇ、オリビアさん? 『知り合いの知り合い』って、共通の知り合い……つまり、この場合はラムダさんになるのですが……ラムダさんがいなくなると急に喋ること無くなりますよね?」


「確かに……ノアさんと何を話せば良いか思い付きません」


「「………………気まずい」」


 ――――教会の談話室は、ふたりの少女の沈黙が続いていたという。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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