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第223話:ベルヴェルク、参戦


「外の光が見えてきた! ラムダさん、もうすぐ出口に着きますよ!」

「カイル=レディテル卿の血痕を辿って戦場に赴くか……」



 ――――【エフュージュム洞穴】に突入してから半日が経過した頃、俺たちはようやく長い迷宮ダンジョンの出口、目的地である不毛地帯【テラ・ステリリス】へと出ようとしてした。


 長い通路の先から見えるのは夕焼けの淡い光、暗い迷宮ダンジョンを抜けた証の光が見える。


 洞穴内部で息絶えたダモクレス騎士団の騎士カイル=レディテル卿が流した血痕を辿った事で俺たちは迷うことなく出口を発見できた。妻子を残して逝った彼の死は無念だが、彼が帰りたいと必死に思って洞穴内を這いつくばったことで俺たちは素早く戦場へと至ることが出来た。


 彼の死は無駄ではなかった、俺たちが彼の死に報いなければ故郷の妻子がいたたまれない。



「カイル=レディテル卿、あなたの無念は俺が拾っていきます……! だから、どうかゆっくり休んでください……」

「ラムダさん、あまり他人の人生を背負いすぎちゃ駄目ですよ。辛いだけですよ、きっと貴方の精神ココロが耐えれなくなる……」



 暗い洞穴の中に埋葬された騎士を偲んだ時にノアから掛けられた忠告が俺の心に茨のように突き刺さる。


 魔王権能ネガ・ギフト【アンチ・ヒュムリティ】による『死者の思念の読み取り』――――そのスキルで『カイル=レディテル』の人生、或いはその無念を背負い込んでしまった俺を案じてのことなのだろう。


 この先は戦場、一秒ごとに誰かが死んでいく地獄のような場所だ。きっとこの魔王権能ネガ・ギフトが俺に生きたまま地獄を見させるだろう。知った人間も、見ず知らずの味方も、敵対した魔王軍の誰かも、きっと彼等の死を俺は看取らねばならないのだろう。



「ノア、君を護る為なら俺は行くよ……! 大丈夫、みんなが居れば俺は挫けたりなんかしないから!」

「強がり……」



 それでも、魔王グラトニスがノアを狙う以上、俺に逃げる選択肢は許されない。


 たとえ誰の人生を踏みにじったとしても、彼の幸福を奪ったとしても、帰りを待つ人たちを絶望の淵に叩き落したとしても、俺はノアを護り抜かないとならない。


 その決意だけを心の支えにして、薄暗い表情をした顔に“仮面”を被せて、ノアに笑いかけてみせた。ノアは俺の顔を見て眉をひそめて『強がり』と小さく罵倒の言葉を漏らしたが、それ以上何を言うことも無かった。


 ただ、可憐な白い手で俺の右手を包み込んで、『支える』と手の圧力だけで訴えかけて、俺の意思を汲んでくれて。



「ここが正念場だ! 行こう、ノア!」

「はい! 行きましょう、ラムダさん!」



 募る不安を押し殺して、喉まで出かかった弱音を飲み込んで、光に向かって手を伸ばして、大きく一歩を踏み出す。


 その光の先が地獄であっても、地獄の先にさらなる地獄しか続いていないとしても、その地獄を征く君を……俺は最後まで護り抜こう。


 たとえ、この身が闇に染まってでも。



「此処が……不毛地帯【テラ・ステリリス】……!」

「かつて……土地から魔素マナを吸い上げて栄華を極め、土地を枯らして絶えた国の残骸。今なお、雑草一つ生えない不毛の大地、それが【テラ・ステリリス】だ……!」



 目の前に広がっていたのはひび割れた荒野だけが続く殺風景な大地。セブンスコード卿曰く、此処に栄えた国家の強欲さ故に滅びた死したる土地。


 その名は【テラ・ステリリス】――――グランティアーゼ王国と魔界マルム・カイルムの境界に位置する、いにしえの国家があった広大な死地。


 ノアを巡った『アーティファクト戦争』の戦場。



「うぅ……吐き気がしますわ……」

「シャルロット、大丈夫か?」


何処どこ彼処かしこも死体、死体、死体……! うっ……おぇぇ……!」

「お嬢様、千里眼を使うのは控えてください! お嬢様には刺激が強すぎます!」



 最初に凄惨な光景に拒否反応を示したのはシャルロット。


 千里眼のスキルで戦場を観渡してしまったのだろう、その場にうずくまった彼女は瞳に映った光景に耐えれなくなってそのまま嘔吐してしまった。


 無論、俺も自身の『魔王権能ネガ・ギフト』の影響を色濃く受けてしまっている。



『ラムダ=エンシェント卿のように武功を挙げて俺も騎士団長に任命されて、故郷に錦を飾るぞーー!!』


 俺に憧れて勇ましく戦場を駆けて、敵の仕掛けた罠で呆気なく命を落とした騎士の無念。



『オデの同胞を殺した“アーティファクトの騎士”、許すまじ……! オデがみんなの仇、討つ……!!』


 俺に殺された同胞の仇討ちを誓い、名も分からぬ賞金稼ぎに殺されたゴブリンの無念。



『シータさん……わたし……あなたみたいに勇敢な騎士になれたかな……?』


 かつて憧れた騎士を想いながら、魔族の戦士に頭部を踏み潰されて息絶えた女騎士の無念。



『魔王グラトニス様の理想を邪魔するなァーーッ!!』


 ボロボロになりながらも戦い続けて、グラトニスの理想に殉じて息絶えた獣人の無念。



 戦場で息絶えた者たちの無念が洪水のように俺の脳内に流れ込んで来て、走馬灯のように脳内で再生されていく。


 グランティアーゼ王国の騎士達にも信じる“矜持”があり、護りたい人がいて、魔王軍にもグラトニスへの“忠義”があり、仇を討ちたいと思えるような友がいる。


 胸に抱いた想いは同じ筈なのに、お互いに理解わかり合えず、お互いの信念を懸けて命を奪い合う。


 ここが『戦争』の只中なのだと俺に訴え掛けるように。



「ラムダ様……右眼から血の涙が……!?」

「アーティファクトの不調だよ、心配しなくていい、オリビア……」


「私の造った【七式観測眼ルミナス・カレイドスコープ】に不調なんてある訳……毎日、時間を掛けてメンテナンスもしてるのに……」

「とにかく、此処から先は死と隣り合わせの死地だ。全員、覚悟を決めろ……!」



 脳裏にこびり付いた無念に神経が短絡ショートして右眼から溢れた血の涙を隠すように風除けの仮面バイザーを装着して、脳内に流れる死者たちの残留思念を無理やりにでも遮断して意識を研ぎ澄ましていく。


 広大な大地の彼方此方あちこちで立ち昇る硝煙しょうえん、雨あられと飛び交う魔法の光、戦場の端っこである此処にまで聞こえてくる人々の雄叫び、今から其処に俺たちも飛び込んでいく。


 戦いの中で死ぬ覚悟を、相手の命を奪い尊厳を踏みにじる覚悟を、大切な仲間を失う覚悟を、それでも生き抜く覚悟を、それでも大切な君を護り抜く覚悟を心に宿して。



「ラムダ卿! 不毛地帯テラ・ステリリスのグランティアーゼ側にダモクレス騎士団が陣を敷いている【廃都アレーシェット】と呼ばれる場所がある。先ずは其処に向かおう!」

「分かりました、セブンスコード卿! 第十一師団、これより我らは不毛地帯【テラ・ステリリス】へと突入、魔王軍との全面戦闘に突入する! 全騎戦闘準備ッ!!」



 向かう先はダモクレス騎士団の拠点【廃都アレーシェット】――――先ずは其処でダモクレス騎士団本隊と合流する。


 最初の作戦を確認し、背負っていた聖剣を右手に、魔剣を左手に握り、第十一師団【ベルヴェルク】に戦闘準備を促していく。



「広域観測開始……! ノア、戦闘準備完了しました!」

「再世の聖剣【リーヴスラシル】……抜刀! ミリアリア=リリーレッド、戦闘準備完了!」


「【輪廻の花弁リインカーネーション・ブルーム】発動……! オリビア=パルフェグラッセ、戦闘準備完了です!」

魔王権能ネガ・ギフト【アンチ・パティエンティア】……発動! コレット=エピファネイア、戦闘準備完了……ガルルル……!!」


「限定解除……“復讐アベンジ”!! リリエット=ルージュ、戦闘準備完了よ!!」

「『七天聖装イリス・ベスティス』……装着!! レティシア=エトワール=グランティアーゼ、戦闘準備完了!!」


固有ユニークスキル【時紡ぎの楔(テンプルム・テンプス)】……発動! アウラ=アウリオン、戦闘準備万端なのだ!」

「全機関、最大出力フルスロットル……!! “機械天使ティタノマキナ“ジブリール、これよりノア様護衛の任務を開始します!!」


「抜刀! アンジュ=バーンライト、戦闘準備完了だ!!」

「エリス=コートネル、戦闘準備完了!」


「シエラ=プルガトリウム……戦闘準備バッチリよ……!」

「行くよ、雷蹄らいていニコラス! キャレット=テスラノーツ、戦闘準備バッチリだし!」


「シスター=ラナ……戦闘準備完了しました……!!」

「リヴ=ネザーランド、戦闘準備完了……! 指揮系統の補助はお任せください!」


「起きなさい、機動装甲『プロスタシア』!! ネオン=エトセトラ、戦闘準備完了!!」

固有ユニークスキル【万象見透す虹の瞳ヴィジラーテ・テレスコピア】……発動!! シャルロット=エシャロット、戦闘準備できましてよ!!」


「シャルロット親衛隊、総員戦闘準備!!」

「自立支援型光量子妖精『e.l.f(エルフ).』……起動開始! 戦闘支援はお任せください、ご主人様!」



 俺に続き、次々と武器を手に覚悟を決めていく第十一師団の騎士たち。


 みな、この戦争を勝ち抜いて護り通したいものがある。そして、彼女たちの命を預かった以上、俺に弱音は許されない。


 第十一師団のおさとして、王国最高の騎士である【王の剣】として、ノアの騎士として、必ずやこの戦争を終結させてみせる。



「僕たちもラムダ卿に続くぞ、第七師団【白銀歌劇団】……戦闘準備!!」

「第九師団【暗夜夜光】、戦闘準備!!」

「第六師団……は居なかったわ。しゃーない、さっさと拠点に行って部下と合流しなきゃ……!」



 俺たちに合わせてセブンスコード卿、メインクーン卿、ルチアも戦闘準備を進めていく。


 この戦場にはトリニティ卿を除く【王の剣】十名が揃い踏みしている。最高幹部の大半を失った魔王軍には決して遅れは取らない。


 頼れる仲間達に背中を押されて、俺は戦場を見下ろす切り立った崖に脚をかける。



「これより我らは戦場へと突入する! だが、誰ひとり欠ける事は許さない、必ず生きてグランティアーゼ王国へと帰還するぞ!!」



 暗い絶望から始まった俺の旅――――身体を失い、苦痛に涙を飲み、愛する人たちと愛をはぐくみ、栄光をはいし、“傲慢の魔王”とそしられて、それでも諦めずに戦い抜いた、そして此処が俺の大舞台。


 母さん……貴女が果たせなかった『夢』に、俺は手を伸ばします。



「目標はダモクレス騎士団の拠点【廃都アレーシェット】……!! 全騎……突撃ィィーーーーッッ!!」

「「「ウォォーーーーッッ!!」」」



 左手に握った魔剣を戦場に向けて号令を放った瞬間、大きな雄叫びを上げて騎士たちは飛び出して、目の前の斜面を駆け降りて戦場へとなだれ込んでいく。


 それに続くように俺も斜面を滑り降りていく。



「あれは……!? 急いでルシファー様とアケディアス様に伝令を送れ!! “アーティファクトの騎士”が遂にやって来たぞォーーーーッ!!」



 眼下に見える魔王軍の兵士たちが此方に気付いて次々に武装していく。


 ここから先は小賢しいも理論も、小難しい理屈も一切存在しない。純粋な暴力のみが『勝者』を決定付ける野蛮な世界だ。


 グランティアーゼ王国が栄光を飾るか、魔王グラトニスの野望が実を結ぶか。勝者は一人、無数のしかばねを積み重ねた者だけが“英雄”になる。



「魔王軍よ、恐れおののけ! 我が名はラムダ=エンシェント、貴様たちに敗北を与える騎士なり! いざ尋常に――――推して参るッ!!」



 『アーティファクト戦争』最大の戦い、『メサイアのソラ』――――開戦。

コツコツ書き続けて遂に100万文字を突破しましたー!

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