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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第七章:獣国の公現祭《エピファネイア》

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幕間:魔王に贈る最後の晩餐


「ふぅ……少し汗をかいたね。君はどうだい……アケディアス=ルージュ?」

「…………おれは眠い。さっさと降参して死んでくれ、アインス=エンシェント……」



 ――――不毛地帯【テラ・ステリリス】、いくつもの動乱で枯れ果て草木一本も生えなくなった死の土地で、グランティアーゼ王国と魔界【マルム・カイルム】の境界域に広がる中立地帯。


 此度こたびのグランティアーゼ王国と魔界マカイによる大規模軍事衝突『アーティファクト戦争』の主戦場となった舞台だ。


 その中央区画にて、“その戦い”は続いていた。



「さて……私の部下が大勢死んでしまった。けど、君の部下はほとんど殺したよ、アケディアス……」

「掃いて捨てるほど居る魔物モンスターを幾ら殺しても無意味だぞ、“聖騎士パラディン”よ? その程度で魔族たちの進撃は止まらん……!」



 ザーザーと雨が降りしきる昼下り、戦場に立つのは二人の男。その周囲には死屍累々、死臭と腐敗臭が漂う地獄のような光景の中で“聖騎士パラディン”と“吸血鬼ヴァンパイア”は涼しげに牽制しあう。


 “聖騎士パラディン”の名はアインス=エンシェント――――騎士の名家『エンシェント』に生まれた長子ちょうしであり、エンシェント家始まって以来の“最高傑作”と名高い傑物けつぶつ


 対する“吸血鬼ヴァンパイア”の名はアケディアス=ルージュ――――【怠惰】の罪を冠する魔王軍最高幹部【大罪】のおさにして、亡き父から“吸血王キング・オブ・ドラキュリア”の称号を拝命はいめいした魔族の頂点に君臨する怪物。



「いやはや……流石は魔界の元支配者だ……! 私の【救国の聖剣(ジャンヌ・ダルク)】をもってしてもかすり傷をつけるだけで精一杯とは……」

「ふわぁ~……それは貴様がいの一番におれの部下を殲滅し始めておれに時間を与えたのが原因だろう、冷酷な殺戮兵器め……!」


「手負いの部下へ追撃を許すわけにはいかないからね、それとも無視をされて気に障ったのかな?」

「いいや、貴様が部下を皆殺しにしたせいでおれが重い腰を上げる羽目になって、これ以上お前たちを追撃する為の戦力リソースを失ってしまった。今回は貴様に“勝ち”を譲ってやろう、“聖騎士パラディン”……」



 アケディアスの周囲には彼の部下である魔族や魔物モンスターの死骸が山のように積まれている。


 みなアインスの聖剣の餌食になった犠牲者達だ。


 そして、アインスの周りに転がった亡骸は第一師団【聖処女】の騎士達、アケディアス=ルージュの寝起きの一撃に巻き込まれて即死した精鋭たちだ。


 アインスとアケディアスはさした手傷を負ってはいないが、その周囲に居た二人の部下は戦いの余波に巻き込まれて全滅してしまった。


 余人には立ち入ることさえ許されない『強者』たちの戦い。それが、グランティアーゼ最強の騎士と魔王軍最強の悪鬼あっきの激突がもたらした結果だった。


「さて……これ以上、貴様の相手をするのにも飽きた。グラトニスにも『追撃は必要以上にするな』と言い付けられているのでな……そろそろおれも陣に戻って眠るか……」

「いいのかい、私はまだ“本気”を見せてはいないよ? 怠惰な君の“やる気”を出させる良い材料だと思うけど……」


「くだらん、貴様には()()()()()()()()()……! 義務感だけで動く『機械』なんぞ相手にした所でおれのやる気は起きん……それに腹も空いたしな……」

「情熱ねぇ……生憎と私にはそのような感情は持ち合わせていなくてね。ふむ……どうやら君の願いは叶えられなさそうだね……」



 しかし、その戦いがその場で決着する事は無かった。


 戦闘続行を望むアインスに対して、アケディアスは『貴様には情熱が欠如している』と冷たく言い放ちながらきびすを返す。


 ダモクレス騎士団への追撃に必要な戦力を失ったから、魔王グラトニスに深追いを禁止されているから、アインスではアケディアスの“やる気”が出ないから。様々な事情が絡み合った結果、“吸血鬼ヴァンパイア”はこの場を去ることを選択した。


 アインスに無防備に背を向けて、血のように朱く輝くの悪魔の翼を広げてアケディアスはゆっくりと飛翔を始めた。



「アインス=エンシェント、貴様は何の為に戦う?」

「…………祖国グランティアーゼの安寧の為に戦う。私はその為の王のつるぎだ……!」


「フフフッ……組織の“歯車”だな、実に面白くない。その調子では……いずれ弟である“アーティファクトの騎士”に足元を掬われるぞ?」

「そうだね、ラムダは私には無い“情熱”がある。いつか彼は私を超えて世界に羽ばたくだろう……グランティアーゼ王国から出られない私とは違ってね……!」



 別れ際にアケディアスが投げ掛けた問いにアインスは苦笑いをしながら答えた、ラムダはいずれ自分を踏み越えて世界に羽ばたいて行くと。


 自身の“限界”を既に悟ってしまった青年の達観したような口振り、それが吸血鬼ヴァンパイアの意欲を削いでしまっていた。



「私には護りたい人は居ない……ただ『グランティアーゼ王国に忠誠を示せ』と言う父の言い付けを守り続けているだけに過ぎない。暗い絶望の中でも、護りたい人の為に懸命に足掻くラムダが羨ましいとさえ思う……」


「おれの妹のであるリリエットも貴様の弟に付いて行った。どうやら……『ゴミ』呼ばわりされて捨てられた男は、愚かな貴様の父の手には負えない、エンシェントの名には収まりきらない逸材だったようだな?」



 そして、“吸血鬼ヴァンパイア”の興味の眼差しは彼がまだ見ぬ“アーティファクトの騎士”に。


 自身の妹であるリリエット=ルージュを【死の商人】の魔の手から救い、復讐に燃えた心を射止めた()()()()少年にアケディアスは愉快そうな声をこぼす。



「ラムダ=エンシェントは何時いつこの戦場にやって来る? おれの妹を奪った男の顔……ぜひ拝みたい……!」

「ラムダならもうすぐ此処に来るだろう……! 彼は私と違って感情的だ、グランティアーゼの騎士としては()()()な程にね……!」


「素晴らしい……!! 強欲、嫉妬、憤怒、怠惰、暴食、色欲、傲慢……全ての“大罪”たる感情に自我を呑まれること無く、自らを鼓舞する武器として振るう! 貴様の弟こそ真の『人間』と呼ぶに相応しい!! あぁ、今から奴と死合しあうのが愉しみだ……!!」

「随分と愉しそうだね、アケディアス=ルージュ? 君の方こそ、弟に足元を掬われないように気をつけた方が良いようだね?」



 怠惰を極めた吸血鬼ヴァンパイア金色こんじきの瞳を輝かせて渇望するのは“アーティファクトの騎士”との一戦。まだ見ぬラムダ=エンシェントへの興味に沸くアケディアスの姿は、怠け者とはほど遠い“情熱”に溢れていたものだった。


 その姿を見上げながら、冷たく戦場に降る雨に打たれながら、アインスは心底つまらなそうに皮肉を飛ばす。しかし、そんな嫌味がアケディアスに届くことは無かった。



「じきに『救世主メサイア』が目覚める……!」

「メサイア……? 魔王グラトニスの新しい玩具かな?」


「フフフッ……いよいよ此方側が“切り札(ジョーカー)”を切る時だ! “アーティファクトの騎士”に伝えておけ、『メサイアのソラ』でお前を待つと!」

「…………」



 “吸血鬼ヴァンパイア”はそれだけをアインスに言い残して不毛地帯に魔界側にある自陣へと飛び去って行った。


 戦場に残されたのはおびただしい量の死体と感情なき“聖騎士パラディン”だけ。雨が止んで、雲の隙間から差し込んだ日差しに目を細めながら、アインスは彼方から戦場に向かいつつある弟へと想いを馳せる。



「ねぇ……【救国の聖剣(ジャンヌ・ダルク)】……私は何の為に戦っているんだろうね? ツヴァイも、ラムダも、きっと戦死しても『あぁ、死んだんだ』としか私は思わないだろう。ゼクスも……気が付いたら死んでたぐらいの感想しか持たなかったからね……」



 騎士としての最高の才能を与えられた代わりに“人間性”をいちじるしく欠如させたアインスには、弟の生き様は理解出来なかった。


 唯一、彼がラムダに感じた事は、いつか自分はラムダに超えられてしまうと言う予感だけ。



「ラムダ……僕は……君が羨ましいよ……」



 守りたい人が居る、守りたい故郷がある、果たしたい約束がある、果たしたい野望がある、様々な感情を抱いた戦士たちが無意味に死んでいく死地【テラ・ステリリス】。


 其処でラムダ=エンシェントを待ち受けるのは魔王グラトニスの大いなる野望の片鱗。“神殺し”を目論んだ悪鬼の覇道が結実するメギドの丘。


 目覚めるは『救世主』、立ち塞がるは堕天使と吸血王、その戦いの名は『メサイアのソラ』。


 “アーティファクトの騎士”に架せられた最大の試練の時。

これにて第七章『獣国の公現祭エピファネイア』が終了しましたー\(^o^)/


次回からは第八章『メサイアのソラ』が始まりますので、よろしくお願い致します。


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