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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第七章:獣国の公現祭《エピファネイア》

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第220話:手に入れたもの、失ったもの


「フッ……フヘヘ……フヘヘヘヘ……! 不眠不休で丸二日……ようやく【GSアーマー】の修復が完了しましたぁ……もう無理……お休みなさぁ…………Zzz」

「ノアが白目を剝いて、正座をして天井を見上げたまま気絶した……お疲れ様……」



 ――――“憤怒の魔王”を巡った『獣国の公現祭エピファネイア』から二日後、獣国ベスティア首都【ヴィル・フォルテス】、宿泊宿『サタン』最上階にて。


 二日に及ぶ徹夜での作業を終えて、朝日に照らされながら深い眠りに落ちたノアを見つめながら、俺はベットの上で療養を続けていた。



「ねぇ〜、聴いてよラムダ卿〜〜! 王都に居るあたしのセフレ達がさ~、あたしが『ラムダ卿とも付き合い始めたんだ〜♡』って言った瞬間にみーんな逃げていったの! 酷いと思わない!?」

「さ、さぁ……相手側にも事情があるんじゃないかな……?」


「何が『“傲慢の魔王”に殺される、逃げろ!!』だっつーの、むしろあたしの女としての“ランク”が上がったって喜ぶ所でしょ……!!」

「あ、あははは……まぁ、俺はルチアをひとり占めできるから嬉しいかな〜……」


「ホント!? ラムダ卿ったら肉食獣なんだから〜♡ またアタシの家でいっぱいパコろうね〜〜♡」

「ルチア……一応、俺は怪我人なんだから、抱きついて顔を舐め回すのは止めてぇ〜〜///」



 先の戦闘で獣国に進行した魔王軍は壊滅。ガンドルフとリンドヴルム、ルリと言う幹部を失ったことで残った部下たちも敗走して獣国から撤退していった。


 反面、ダモクレス騎士団の損害は数パーセント程。打ち所が悪く即死した者はいたものの大勢が怪我で済み、オリビアとラナが夜通し回復魔法を掛け続けたお陰でほぼ全員が完治に至っていた。


 まぁ、回復魔法を使い過ぎた反動でオリビアとラナが逆に寝込む羽目になったらしいのだが……。



「可哀想なラムダ卿……凛々しい顔も逞しい身体もこんなに傷付いて……! 魔王グラトニス……こんどあったらズタズタに引き裂いて【享楽の都(アモーレム)】の娼館に売り捌いてやる……!!」

「コレット……大丈夫かな……」


「んっ……ラムダ卿のお世話係のメイド? あぁ〜……そーいえばまだ眠ってるのかな?」

「『黙示録の獣(マスターテリオン)』に限界まで生命力を吸われた上で、俺に力を分けたんだ……随分消耗していた筈だ……」



 戦死者を除けば、ダモクレス騎士団で重傷を負ったのは俺とコレットになる。


 俺は腹部に刺し傷が増え、胸の傷痕も開き、“神殺しの剣”に生命力を吸われた事で昏睡。戦いから二日たった今朝、ようやく目覚めた所だった。


 そして、『黙示録の獣(マスターテリオン)』の使役と“憤怒の魔王”としての覚醒、“神殺しの剣”の精錬でせいこんも尽き果てたコレットも極度の衰弱状態から深い眠りに落ちてしまっていた。



「ねぇ、ラムダ卿〜、大丈夫〜? ちゃ~んと勃てる〜〜?」

「下半身をまさぐりながらその台詞を吐くと卑猥にしか聴こえないから止めて〜〜///」


「卑猥なこと言ってんのよ~♡ 直に王都か戦場に戻らないと行けないんだから、さっさと復活しなよー!」

「ルチア……あのなぁ……俺はまだ疲れてるの……!」



 リンドヴルムを倒して、口付けをして、地上に降りた瞬間に二人して倒れるように気を失った。覚えているのはそこまで。


 次に目覚めたのはつい先程、でもコレットはまだ眠っているらしい。それが心配だ。



「――――こほんっ! ヘキサグラム卿、ラムダ卿は療養中だ。過度なスキンシップは控えなさい……!」

「あぁ~ん、なによ眼鏡? 獣国との交渉は上手くいったんでしょうね?」


「セブンスコード卿、メインクーン卿!」

「目が覚めたのですね、ラムダ卿……! やれやれ……これでツヴァイ卿の『早く起きてよぉラムダぁ……お姉ちゃん寂しいよぉ……』って言う夜泣きに苦しまなくて済みそうですにゃ~(泣)」



 ルチアに絡みつかれながら心配ごとをしていたら部屋に現れたセブンスコード卿とメインクーン卿。


 どうやら二人は獣国側と何かの交渉をしていたらしい。恐らくは今回の事件の責任の所存についてだろう。


 獣国軍と一戦交えたばかりか、“狼王”たちを暴力で無理やり鎮め、“憤怒の魔王”を奪還して『黙示録の獣(マスターテリオン)』を身勝手な理由で破壊したのだ。


 グランティアーゼ王国の使者としては最も恥ずべき“侵略行為”を行ってしまった。いくら魔王軍を抑える為だと言っても、獣国に弓を引いた事には変わりない。


 最悪、獣国ベスティアとグランティアーゼ王国の間にも戦争が勃発しかねない状態だ。



「今回の我々の『獣国の公現祭エピファネイア』への侵攻、及び“狼王”と家臣への狼藉ろうぜき……これは不問となった……!」

「なっ……!? どうして……?」


「魔王軍最高幹部ルリ=ヴァナルガンド……彼女は君に“憤怒の魔王”の討伐を秘密裏に依頼していたようだね? 君とルリ=ヴァナルガンドの密会に関するデータを、其処で面白い寝方をしているノア女史じょしが提供してくれたよ」

「うっ……ノアめ、余計なお節介を……」


「その証拠を第十一師団のネザーランドさんが編纂へんさんして獣国の評議会に提出。今回の一件は『魔王軍幹部ルリ=ヴァナルガンドの兄・フェンリルへの造反』として扱われる事となった……!」



 が、どうも最悪の事態に発展しないようにノアが根回しをしていたらしい。


 獣国ベスティア入国前にルリと交わした『“憤怒の魔王”殺害』の協定。この時の出来事をノアは傍受して、セブンスコード卿たちに『魔王軍のはかりごと』として提出していた。



「ヴァナルガンドは君に“憤怒の魔王”を殺害させるように仕向け、リンドヴルムは“憤怒の魔王”の陥落後に『黙示録の獣(マスターテリオン)』の奪取に走った。結果論だが、これは魔王軍の謀略ぼうりゃくと取られても仕方ないだろう……!」

「ま、待ってください、セブンスコード卿! ルリとの協定は俺自身の意思です! どうか……彼女に全てのとがを背負わせるのだけはお許しください……!!」


「ラムダ卿……気持ちは分かる。僕だって……ルリ=ヴァナルガンドが悪意を持って君に“憤怒の魔王”の殺害を依頼したのでは無く、この獣国を想って、魔王グラトニスを想って行動したと信じている」

「なら……!」


「それでも、今回の一件は()()()()()()()()()()()()()()()()……! でなければ、獣国ベスティアの怒りは何処にもけず、彼等の不満はやがて国を崩壊に導くだろう……」

「…………そんな…………」



 どうやらセブンスコード卿は今回の一件の全ての責任を魔王軍に押し付ける気らしい。


 彼だってルリの誠意は目の当たりにしている筈なのに、それでもルリたちを一方的に『悪者』した、しなければならなかった。



「僕たちはダモクレス騎士団、祖国を護る義務がある。ルリ=ヴァナルガンドの“潔白”とグランティアーゼ王国の“安寧”……天秤てんびんに載せて比べる必要もないよ……。一応、ヴィンセント国王陛下にふみを送り、獣国ベスティアが受けた被害への復興への支援を行うようには取り付けたけどね」



 セブンスコード卿は【王の剣】で、ただ国を護る最大限の努力をした……ただそれだけのこと。


 たとえルリを悪者にして俺から反感を買おうとも、それで自国を護れるなら構わないと、セブンスコード卿は瞳で強く主張していた。



「ラムダ卿……ダモクレス騎士団には不名誉は被せれない。君には悪いけど、ここはいさぎよく従ってもらうよ……!」

「…………分かっています。元はと言えば、ルリと密約を交わした私の責任です……」


「確かに図らずとも敵幹部と密約を交わしたのは重責だが、結果として我々はツヴァイ卿の奪還と魔王軍の撃退に成功した。ラムダ卿、今回の一件は君の手柄だ、功績も責任もしっかりと噛み締めるように……!」

「セブンスコード卿……ありがとうございます……」



 ツヴァイ姉さんの誘拐を発端とした『獣国ベスティアの戦い』、グランティアーゼ王国にとってその結果は上々だったと言える。


 ツヴァイ=エンシェントの奪還には成功し、魔王軍の最高幹部二名と大幹部一名が陥落させる事に成功した。


 だが、俺は今回の一件で大きな傷を負ってしまった。頭部と胸部に傷跡を残してしまい、ルリと言う『友達』に大罪を被せ……そして失ってしまった。



「メインクーン卿……ルリは見つかりましたか?」

「…………いいえ、ルリ=ヴァナルガンドは発見できませんでした。恐らくは地殻深くに落ちたのでしょう……」


「そう……ですか……」

「運が良く地下水脈に落ちていれば、国境沿いの【スルクス渓谷林】まで流れると思いますが……あまり期待しない方が良いでしょう……」



 助かる可能性は限りなくゼロに近い……その事実を告げられて、俺の胸の傷痕がチクリと痛んだ。


 誰よりも獣国ベスティアをうれいて、敵である俺に頭を下げてまで助力をうた彼女に待っていたのは……『逆賊』の汚名と理不尽な“死”だけだった。



「ラムダ卿……泣かないで。あなたは自分にできる事を精一杯やった。だから……自分を責めないで……」

「ルチア……ありがとう……」



 ルリ=ヴァナルガンドの真意を知っている者はごく僅か。彼等は真実に口を紡ぐ限り、ルリは獣国ベスティアに災いを持ち込んだ『悪』として語られるだろう。


 けれど、そうしなければ“狼王”を害して『黙示録の獣(マスターテリオン)』を破壊した俺自身が獣国ベスティアの“敵”とされてしまう。そうなれば、ダモクレス騎士団にも、グランティアーゼ王国にも危害を及ぼしてしまうだろう。


 だから……俺にはもう何も言えなかった。

 ただ、失ったものに胸を痛める事しか出来なかった。


 ルチアが胸を貸して、俺の顔を隠してくれなければ、きっと酷い顔を見せてしまったのだろう。



「ルリ……ごめん……本当に……ごめん…………」



 いつか謝らないと。


 コレットを救うために命を落とした事も、彼女に重い十字架を背負わせた事も、全部謝らないと。


 許して欲しい……自分の地位を、自分の祖国を、自分の『夢』を護る為に君を踏み台にした事を。どうか許して欲しい。



「ラムダ卿……どうしたの……このおでこの“角”……?」

「角……? 何を言っているんだ……ルリ……?」


「その……左目の傷の真上におでこに……小さな黒い突起みたいなのが……何なのコレ……?」

「…………」



 自身に架した“十字架”は重くのしかかり、その罪禍は魔性の“角”になって俺を責め立てる。


 “神殺しの魔剣”【ラグナロク】を携えた『神殺しの騎士』の顕現。それは……世界に仇なす“厄災”が彼岸より現れた事を意味していた。


 それが……ラムダ=エンシェントと言う名の“ケモノ”の『公現祭エピファネイア』の顛末。俺を“人ならざる者”へといざなうう『罪』だった。

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