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第24:英雄は遅れてやって来る


量子変換装置ガジェット・ツール、起動――――超電磁回転式(オーバー・レール・)多銃身機関銃(ガトリング・キャノン)!!」


《連射式射撃重武装型アーティファクト【超電磁回転式(オーバー・レール・)多銃身機関銃(ガトリング・キャノン)】――――左右二門ずつ、合計四門の回転式多銃身ガトリングから撃ち出される秒間500発の実弾で敵勢力を圧殺あっさつする重武装型のアーティファクト。連射式の小型(こがた)超電磁砲(レール・ガン)とも言えるこの武装なら、たかだか十六の敵勢力なんて、三秒で殲滅せんめつ滅殺めっさつ圧殺あっさつです!》


《あの……ラムダ様、ノア様が明後日の方向を見ながら急に解説を始めたんですが……この位置からではコレットには何も視えないです~!》


「……(無視)」



 崩れた家屋かおくを乗り越え、実体化させた回転式多銃身ガトリングほうを両手に装備して、俺は教会に群がるオーク達の背後を取る。


 ノアの分析と俺の右眼カレイドスコープに映る通り、オークの数は全部で十六。なめしがわで作られた簡素な衣服と鉄製の棍棒メイスを装備した個体が十五、鉄のよろいまとい両手剣を手にした群れのおさである『将軍ジェネラル(クラス)が一体。


 オーク将軍ジェネラルの指示の元、一心不乱に結界を棍棒メイスで殴打し続けるオーク達。白く輝く白亜はくあの結界はひび割れ、いまにも崩れてしまいそうになりながら、それでも懸命に堪えている。



《ピンチに間に合ってこそ英雄ヒーロー! さぁラムダさん、遠慮なくぶっ放して下さーい!》



 両手に重武装を取り付けた今の俺の総重量そうじゅうりょうは重く、“ドスンッ!”と大きな着地音を立て、足もとの土が着地の衝撃で俺の背丈まで跳ね上がる。



「貴様ら、何時いつまでグズグズしておる! さっさと教会を攻め落とさんと騒ぎを嗅ぎ付けた――――誰だッ!?」



 唯一、レベル【70】と頭一つだけ周りのオークより高い実力を持っていたオーク将軍ジェネラルだけが、不意に現れた俺の存在を認識する。


 斥候せっこうの監視を掻い潜り現れたたったひとりの人間。徒党を組んだ高レベルのオークの集団であれば取るに足りない筈の相手だろう。だがしかし、その人間の手には物騒極まる重火器が二つ。


 俺が手にした回転式多銃身ガトリングほうを認識した瞬間、目の色を変えて警戒を強めるオーク将軍ジェネラルが仲間達にげきを飛ばす。



《残念♪ 今さら気付いても、もう遅い! やっちゃって下さい、ラムダさん!》


《ノア様が決め台詞言うんですか……》


「………(無視)」



 異変に気付いたオーク達が一斉に振り向くと同時に、クルクルと回転を始める銃身、駆動モーターおんけものの様に唸りをあげる。



 そして――――


「斥候共は何を――――ヒッ、グァァアアア!?」


 ――――銃身の回転が最高潮に達した瞬間、凄まじい爆撃音ばくげきおんと共に弾丸が一気に発射され、オークたちの悲鳴が鳴り響いた。



 絶え間なく光り続ける発火炎マズルフラッシュ、次々と排出されていく薬莢やっきょう、射撃の衝撃で舞い上がる土埃つちぼこり、その威力は測り知れず、懸命に踏ん張っていても俺の身体は少しずつ後ろへ後ろへと下がっていく。



 無数の弾幕が撃ち出され、数え切れない程の弾丸がこちらに向かってくるオークを瞬く間に殲滅していく。


 ある者は頭を吹き飛ばされて、ある者は銃創じゅうそうだけで身体が真っ二つに引き裂かれ、ある者はハチの巣を通り越してこま切れ状態になり、次々と弾丸に貫かれて絶命していく。



「馬鹿な……こいつは一体……うぐおッ!?」



 そして最後に、隊列の中央に陣取っていたオーク将軍ジェネラルは左右から寄せていった四門の砲身から放たれた百をゆうに超える弾丸の一斉掃射を浴び、断末魔すら上げる間も無く木っ端微塵に消し飛んで死亡した。



《…………全敵性個体の死亡ロストを確認。ラジアータの村、制圧完了しました、ラムダさん!》



 数秒の間を置いてノアから告げられた作戦完了報告と共に射撃は終わり、ゆっくりと回転を停止させる砲身。それと同時にため息をついて、俺は肩の力を抜く。


 掃射から敵の全滅まで――――僅か三秒。


 ノアの宣言通り、回転式多銃身ガトリングほうの威力の前に高レベルである筈のオーク達は手も足も出ずに倒された。



《因みに……そのガトリング砲の実弾、この時代では絶っっっ対に調達できないので、弾丸精製用のアーティファクト使って〜今日から一緒に夜なべして、弾丸の作成をしましょうね、ラムダさん♡》


「先に言えよ……」


《ラムダ様ー、コレット達は新手が来ないか確認しながらそちらに向かいます〜! ラムダ様はお先に教会の人たちの安否確認をお願いしますですー!》



 ノアの後付あとづけの捕捉に文句を言いつつ、コレットに哨戒を任せて俺は教会の前へと向かう。



「おーい、聞こえますかー? 救援に来た者でーす! 外に居たオークは全員倒したので、結界を解除しても大丈夫ですよー!」



 驚異が去っても、ボロボロになりながらも、なおも誇り高く輝きを保ち続ける白亜の聖域。たったひとり、オークの攻撃から子どもたちの命運を護り続けた誰か。


 その誰かを安心させるべく、俺は驚異の排除を大声で伝えた。もう大丈夫だと。


 そして、その声が届いたのか、俺の呼び掛けから数十秒の間を置いて、教会を覆っていた結界はゆっくりと解錠されていく。結界の中から現れたのは無傷の教会、惨劇の中で無傷を護り抜いた最後の砦だ。


 教会を護り抜いた高潔な精神の持ち主に敬意を払いつつ、俺は正面にある扉に手を掛ける。女神システムアーカーシャをたてまつる神聖な祭壇へと通ずる扉――――それを目一杯に開いた俺の視界に映ったのは八人の人影。


 肩を寄せあって涙を浮かべながら恐怖に怯える六人の子供たち、盾になるように子供たち達に覆い被さる妙齢みょうれい修道女シスター。そして、その七人の前で杖を構えて必死に祈りを捧げ続ける純白の祭服に身を包んだ雪色の髪の少女。



「オリビア……さん……」



 少女の名はオリビア=パルフェグラッセ。


 一昨日の『神授の儀』で【神官】の職業クラスを与えられた少女で、サートゥスにある学校一の才女、一時期は俺の『婚約者こんやくしゃ』として父さんが縁談まで進めていた程の由緒正しき乙女。


 全身から玉のような汗を流し、息も絶え絶えで、今にも倒れてしまいそうなオリビアは、こちらに気付いたのか紫水晶アメジストの様な透き通る紫色の瞳を俺へと向ける。



「ラムダ……様…? わたし……わた……し…………」

「オリビアさん!? しっかりして!」



 俺を認識し、安全を確認し、子供たちの安否を見届けた瞬間、力が抜けたのか彼女は膝から崩れ落ちて気を失ってしまう。


 これがオリビア=パルフェグラッセとの、初恋の人との再会だった。

【この作品を読んでいただいた読者様へ】


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