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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第七章:獣国の公現祭《エピファネイア》

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第217話:あなたの望む姿《SIDE:■■■■》


「…………此処はどこ? わらわは……私は誰……?」



 ――――気が付いた時、わたしは真っ暗な空間に居た。


 見渡しても、見下げても、見上げても、果てもない黒、黒、黒。


 自分の姿も認識できない、目に映る手足も胴体も真っ黒に染まって見えない。それどころか、わたしは自分が『何者』かも分からない。


 わたしは……誰なの?



「何かを忘れている……? あぁ、思い出せない……誰か、大切な人が居たはずなのに……記憶に無い……」



 頭にはもやがかかって何も思い出せない。


 何か、胸を打つような、胸をときめかせた、大切な『誰か』が居たような確信があるのに……わたしには何も思い出せなかった。



「一人ぼっちだ……なんでだろう? どうして『寂しい』なんて感情が湧くの……? わたしはただの“ケモノ”なのに……」



 分かるのは自分が『ケモノ』であることと、今の現状を“寂しい”と思えることぐらい。


 あとは何も分からない。


 暗い闇の中で一人ぼっち、誰かが声を掛けているような気がするのに、振り向いても誰も居ない。それが寂しい。



「何も見えない……わたしは何処に行けば良いの? 何処に行けば寂しく無いの? 誰か……わたしの手を握って……」



 何故か幻聴が聴こえる後ろには戻れない。そっちに行きたいのに足が進まない。見えない死神の手がわたしをより深い“黒”へと引っ張ってくる。


 その手招きに無意識に従って、わたしは暗い闇の中へと歩みだす。行きたくないのに、そっちにしか進めないから。



『コレ――――目を覚ま――――お願――――ラム――――貴女―――待って――――』

『起き―――ットさん―――ムダ様――――このままじゃ――――ヴルムに殺――――』


『シュララ――――無駄――――お前たち――――此処で――――死ぬしかな――――ララララ――――』

『俺は――――死なな――――ルリ――――コレッ――――為にも――――絶対に――――諦めな――――』



 幻聴が酷い、頭が痛い、胸が締まる、今すぐに戻りたい、精神ココロの底から怒りが湧いてくる。


 けれど、身体は後ろには戻せない。

 深い闇へと引き摺り込まれるように進んでいく。


 怖い、怖い、怖い――――聴こえてくる凄惨な幻聴がわたしの身体を蝕んでいく。声のする方に行きたい、懐かしい声がする方に行きたい、けど戻れない。


 それは……わたしが『■■』だから?

 わたしの理性が戻ることを拒んでいるから?


 これ以上、一緒に居ると迷惑を掛けてしまいそうで、だから自ら命を断って、わたしは深い闇に沈もうとしているから。


 けど、声を聴いて、わたしの本能は後悔を感じてしまった。だから……帰りたい。



『なら帰れば良いだろ? いつまでくだらねぇ意地張ってんだ……■■■■?』

「あっ……あなたは……!?」



 そんなわたしの手を掴んで強引に呼び止めた男が居た。


 顔は暗くてよく分からない。けれど、その粗暴な振る舞いを、気怠そうな声をわたしは知っている。


 わたしの歩いた旅路の中で命を落とした黒き騎士、死んだはずの『■■■様』が其処に立っていた。



『てめぇ、■■■と約束しただろ? 死にませんって……あいつとの約束を破って死ぬ気なのか、アァ?』

「それは……でも……わたしは……『ケモノ』で……」


『■■■はケモノだからって理由でてめぇを拒絶したか? 勝手にあいつの心情を決め付けてんじゃねーよ!』

「わたしは……【■■■】失格です……! あるじを傷付けて、裏切って、殺そうとした……だから、これはわたしに相応しい罰なのです……」



 彼は怒りをわたしに向ける。


 わたしが■■■様と交わした『約束』をないがしろにしたと怒りを露わにしながら。



『■■■の征くみちは険しい……だからてめえが一緒に居て支えてやれや! じゃなきゃ、あいつは俺のように惨めな死に方をすることになるぞ!!』

「わたしは……けれど……■■■様に敵対した“憤怒の魔王”で……だから……もう一緒には……」



 本当は一緒に居たい、ずっと■■■様の側に居たかった。


 けれど、そんな感情すらわたしの内に宿った“憤怒”の感情は塗り潰してしまった。魔王としての怒りが、大切な約束すら簡単に燃やしてしまったのだ。


 そんな過失を冒したわたしが、今さら■■■様のお側に居るなんて烏滸おこがましいにも程がある。


 だから……死して地獄に堕ちるのは、堕落したわたしに相応しい末路なのだ。



「わたしは……もう戻れません……! 申し訳ございません……」

『はぁ~……らちが明かねぇ……! おい、あんたからもなんか言ってやれ……教育係様!』


『■■■■ちゃん……聴こえる、■■■■ちゃん?』

「あなたは……誰……?」



 そんなわたしのウジウジした態度に痺れを切らしたのだろう。■■■様は深い闇の向こう側に居る誰かに声を掛けた。


 そして現れたのは、メイド服に身を包んだ一人の女性。相変わらず顔はよく見えない。ただ判るのは、その女性が黒髪であることぐらいだ。


 わたしが出会ったことの無い、記憶にも存在しない、けれど()()()()()()()()()()()()()――――そんな彼女が、ゆっくりとわたしに近付いて来た。



『聴いて、コ■■■ちゃん? あなたはまだ戻れる……ラ■■の居る場所にまだ帰れるの……! だから……戻ってあげて……』

「わたしは……けど“憤怒の魔王”で……きっと迷惑を掛けてしまう……」


『掛けて良いの……迷惑を掛けても良いの……! あの子はきっと笑って許してくれるわ……! それに、あの子だってコ■■■ちゃんに迷惑を掛けているでしょう? おあいこ様よ……ねっ?』

「でも……いっぱい傷付けた! 身体に一生消えない傷痕を残してしまった……!!」


『傷を理由にあの子があなたを責めた? あなたを責めているのは……他ならぬ自分自身なのよ、コレ■■ちゃん……! だから……もう自分を許してあげて……』

「わたしは……わたしは……取り返しのつかない過ちを……犯してしまった……!!」



 優しくわたしの頬に両手を添えて、優しく語り掛ける黒髪の天使のような女性ヒト


 母親の腹を喰い破って生まれた、正真正銘の『ケモノ』であるわたしに“母親”を連想させるような不思議な女性。


 彼女に諭されて、わたしが抑えていた感情は溢れてきた。涙が流れて、胸が苦しくなって、おぼろげだったラム■様の顔が鮮明に脳裏に蘇ってくる。



『あの子はコレッ■ちゃんとまだ一緒に居たがっているわ……だから一緒に居てあげて……! わたしは……もうあの子の側には居てあげられないから……わたしの代わりに……あの子を支えてあげて……!』

「わたしは……一緒に居ても良いの? また……傷付けてしまうかも……また自分を忘れてしまうかも知れないのに……?」


『そうなったら……もしあなたがまた“憤怒の魔王”になっても……ラム■はきっとあなたを助けるわ……何度でも、何度でも……! だから……安心してあの子に付いて行きなさい!』

「わたしは……わたくしは……戻らなきゃ! ラム■様がいる場所に……戻らなきゃ!!」



 あぁ……わたくしはまだラム■様にお側に居たいと願っている。なんと浅ましいのだろうか。


 けれど、彼はきっとわたくしの浅ましさも愛してくれるのだろう。だから、彼の腕に抱かれた記憶は何よりも甘美で、心地良かったのだろう。



『てめぇのみにくい本性が嫌なら、心地良い嘘で塗り固めた“仮面”を被っていろ! 最後まで仮面を被ってコレッ■=エピファネイアを演じ続けろ!!』

『大切な人の為に怒ることは何も間違っていないわ……! あなたの大切な人を護る為に……ありったけの怒りを解き放ちなさい!!』


「ゼクス様……■■■さん……わたくしは……!!」

『あなたの望む姿をあの子に見せて来なさい! さぁ、向こう側でラムダがあなたを待っているわ……! 本能のおもむくままに怒りなさい、コレット=エピファネイア!!』



 その名を呼ばれた瞬間、わたくしは死神の手を振りほどいて、来た道を引き返して走り出した。


 気が付けば、振り向いた先にはほのかに輝く小さな光が見える。其処に行きたい、其処に戻りたい、其処に帰りたい、ただそれだけを思ってわたしは獣のように駆け出した。


 顔のよく見えない二人の男女との別れを惜しみながら、けど振り返らずに、ただがむしゃらに、本能に身を委ねて、怒りに従って、内に宿る“憤怒”をたぎらせて。



『ラムダをよろしくねーーっ! コレットちゃーーん!!』

絶対ぜってーに死ぬんじゃねぇぞ、このアホ狐ェーーッ!!』



 ありがとう……ゼクス様を、シータさん。わたくしはようやく決心が付きました。


 最後の最後まで……わたくしは嘘をつき続けます。ラムダ=エンシェント様のメイドとして、最後まで職務をまっとうします。


 それが……わたくしが生きる理由なのだから。


 わたくしの名は“憤怒の魔王”『イラ』……そして『コレット=エピファネイア』――――ラムダ=エンシェント様に仕えるメイド。

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