第23話:ラジアータ救出作戦
「ひでぇ……! いったい何があったらこんな惨状になるんだよ……」
「酷い死臭……! 鼻が曲がりそうですぅ」
――――ロクウルスの森を抜けて三時間ほど経ち、ラジアータの村に到達した俺たちが見たのは“地獄”だった。
殴られ潰され原型を留めていない死体、全身の血という血を吸血されたように干からびてミイラ化した死体、焼け落ちた家々に取り残され焼死したと思われる死体の強烈な死臭。小さな農村に死体がゴミの様に転がっている。
村の外れ、恐らくは木材を保管していたのであろう焼け落ちた納屋の瓦礫に身を隠した俺たちが目撃したのは、凄惨な殺戮の跡だった。
「くそっ、間に合わなかったのか……」
「ラムダ様……気を落とさないで下さいませ。仕方のない事もあるのですよ……」
コレットの気遣いはもっともだ。間に合わなかったからと俺が気に病むことじゃない。
ここは常人の手には余る凶悪な魔物が闊歩し、腕に覚えのある騎士、傭兵、衛兵、そして冒険者がいなければ一夜にして村中の人間が喰い殺される事も珍しくは無い世界。
このような『惨劇』は往々にして“よくある話”だ。
「分かっている。大丈夫だよ、コレット」
「ラムダ様……」
下手に事件に関わった俺を案じての事だろう。俺はコレットの頭を撫でて不安がっている彼女を安心させる。
「ふぅ……今も昔も争いは無くなりませんねぇ。全く、『世界に平和を導く』のが“あの子”の役目だと言うのに……」
「何してるんだ、ノア? 双眼鏡なんて覗いて?」
「観測中……。えーっと、村の哨戒をしているオークさんが四人……。なんだろう、アレ? えっと……教会に張られた『バリア』みたいなのを殴り続けているオークさんが十六人……」
そんな俺たちを尻目に双眼鏡を覗いて村の方を観察しているノアは、村の中にいるオークの数を呟く。
「分かるのですか、ノア様?」
「生体反応感知式の戦局分析装置なので間違いありません! それと……生き残りが居ますね、あの教会に」
「ホントか!?」
俺たちのいる地点から遥か遠方、ひときわ目立つ大きな教会が建っている。ノアの分析ではその教会に生き残りが居るらしい。
「生き残りの数は!?」
「えーっと、子どもが男女合わせて六人と……女性が二人。ひとりは杖みたいなのを持って教会の扉の前で踏ん張っていますね。何してるのかな?」
「杖……って事は、教会に結界を張っている神官さんかも知れないですよ、ラムダ様ー!」
「ノア! 村にいるオークの位置を把握する方法は――――」
「ありますよ~♪ さっき分析装置で索敵した敵の位置情報を、ラムダさんの右眼に送っておきました☆」
生き残りが居るなら、救出するべきだ。
ノアの計らいでラジアータに居座るオークの位置情報を送ってもらった俺は、右手に可変銃を構えて戦闘準備につく。
右眼に蒼い影像で表示されるオークの姿――――実に二十体。
その内の四体、村を哨戒しているオーク達の進路を【行動予測】の朱い幻影で確認し、俺は左腕を前方へと構えた。
「コレット、ノア、討ち漏らしが無いか確認お願い!」
「承知致しました、ラムダ様ー!」
「教会に張られた結界にひびが入ってきている……! ラムダさん、あまり時間は無いですよ!」
「分かった! 光量子展開射出式超電磁左腕部――――射出ッ!!」
ノアとコレットに後詰めを任せた俺は、一番近くを徘徊しているオーク目掛けて左腕を射出した。
「標的迄の距離――――100メートル! ラムダさん、次の廃屋の陰です!」
「了解ッ!」
ノアの索敵通り、オークは焼け落ちた家の瓦礫の背後に居る。
勢いよく進む左腕の軌道を弧の字を描くように曲げて、見えない位置に居るオークを俺は狙った。
そして――――
「獲った! 光量子輻射砲――――照射!」
――――右眼に写ったオークの生体反応を手でがっちりと掴んだ俺はすぐさま左腕による接射攻撃を行い、オークの一体を瞬時に粉砕した。
「敵性個体の撃破を確認! ラムダさん、現在の光量子展開射出式超電磁左腕部の固定位置から哨戒中の敵性個体三体、全て狙撃可能です!」
「了解――――空間掌握!」
ノアの戦局分析によって最初のオークを仕留めた位置から残りの哨戒中のオークを狙撃できる事を伝達された俺は、そのまま左腕の機能を使用し空間を掴んで一気に跳躍。
勢いよく移動する中で観えるラジアータの村人たちの亡骸を見送りながら、冷静に標的の位置を見定めた。気付かれる前に仕留める為に。
そして――――
「量子変換装置――――展開! 対式連装衝撃波干渉砲:静音射撃形態――――【精密射撃】&【早撃ち】!!」
――――オークを仕留めた位置に到着した俺は左腕にも可変銃を装備し、相手の急所を見抜くスキル【鷹の眼】で狙い澄ました三体のオークの脳髄と心臓に向けて計六発の弾丸を発射。
パパパパパパンッ――――小さく鳴り響いた発砲音と共に撃ち出された弾丸は音もなく哨戒中のオークへと吸い込まれる様に飛んでいき、標的の脳と心臓を正確に撃ち抜いて三体のオークを一瞬で無力化させる事に成功した。
《お見事です、ラムダさん! 教会のオークはまだ異変に気が付いていませんよ!》
「おわっ!? 急にノアの声が耳に……!?」
《ラムダさんの右手首にはめた『量子変換装置』に備え付けた脳波共鳴式通信機構を利用した遠隔通話です♪ さて、現在の状況ですが……哨戒中の適性個体は完全排除、教会制圧中の敵性個体はこちらに気付かずに攻撃継続中です!》
ひと息ついた瞬間に俺の耳に響いたノアの通信では、どうやら予定通り教会を攻撃しているオーク達は俺の事をまだ認識出来ていないらしい。
「つまり……村から逃走した奴も、俺たちへの警戒を強めている奴も無しって事で良いんだな、ノア?」
《そのとーりです、ラムダさん! そして、ここからは……》
「教会に群がるオーク達を素早く処理する!」
《バレて上等! ド派手に決めて行きましょー!》
ここまでは音もなく敵を倒す隠密行動、そしてここからは群がる敵を一気に叩く強襲攻撃。教会に群がるオークの姿を右眼で捕捉し、一気に向けて走り出した。
教会の中で懸命に堪える生存者達を救出する為に。
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