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【第四部】忘れじのデウス・エクス・マキナ 〜外れ職業【ゴミ漁り】と外れスキル【ゴミ拾い】のせいで追放された名門貴族の少年、古代超文明のアーティファクト(ゴミ)を拾い最強の存在へと覚醒する〜  作者: アパッチ
第七章:獣国の公現祭《エピファネイア》

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第205話:反撃の狼煙は上がる


「うぅ……ラムダ……」

「姉さん! しっかりして、ツヴァイ姉さん!!」


「うぅぅ……此処ここ……どこ……?」

「俺たちの拠点だよ……! もう大丈夫だよ……ツヴァイ姉さん!」



 ――――獣国ベスティア首都【ヴィル・フォルテス】、高級宿『サタン』ラムダの部屋、時刻は夜。


 白い患者衣を着てベットで眠っていたツヴァイ姉さんはようやく目を覚まし、ゆっくりとまぶたを開いて側で手を握っていた俺の姿を視界に収めてくれた。



「私……どうして……まだ生きているの?」

「うん……生きているよ! 姉さんは……まだ生きているんだ……!!」


「ラムダ……心配かけたのね……! 目元と胸元に大きな傷痕が……ごめんね……私のせいで……本当にごめんね……!!」

「良いんだ……これぐらいの傷、安いもんだよ……!」



 身体を起こした姉さんと抱き合ってお互いの無事を確認し合えば、自然と涙が溢れてくる。衰弱の影響でぎこちない動きで俺を抱き締める姉の腕が、戦いで負った傷の痛みで上手く動かせない俺の腕が、お互いの激戦を雄弁に物語っていた。


 ノアの診察で判ったのは、ツヴァイ姉さんに致命傷を与えたのは腹部に加えられた焔による攻撃で、それを受けて水中に落下しても死を免れたのは引き上げられるまで姉さんの身体に纏い続けていた『空気の鎧』が影響していたことだった。


 グラトニスの規格外の『魅了チャーム』による護りなのだろう。そのお陰で姉さんは長時間、水面に顔を漬けても溺死すること無く生き永らえることが出来た。


 まるでツヴァイ姉さんが俺たちに救われるのを見越したように。



「それで姉さん……何があったんだ? 誰が姉さんをあんな目に……“狼王”の仕業?」

「そ、それは……コレットが……!」

「――――ッ!」



 〜〜〜〜



 意識を取り戻したツヴァイ姉さんの口から語られたのは、信じ難い……俺が想像した()()()()()だった。


 コレットは“憤怒の魔王”イラとして覚醒を果たしてしまい、元の『コレット=エピファネイア』としての人格は記憶と共に忘れ去られたこと。そして他ならぬコレットがツヴァイ姉さんを攻撃し、グラトニスの咄嗟の行動のお陰で姉さんは即死を免れたことだった。



「コレット……」

「たしか……リンドヴルムがコレットに『思出草おもいでぐさ』とか言うものを投与したとか言っていたわ」


「それって……まさかルリが回収していた分か……!」

「そこまでは分からないわ。けど……それが何か関係があるの?」



 他にツヴァイ姉さんから得られた情報は、コレットがリンドヴルムに『思出草おもいでぐさ』を投与されたと言うこと、こちらは俺も直に目撃している。あの『亡獣狩り』の夜、覚醒が切れたコレットに向けてリンドヴルムが投げつけた物がそうだろう。


 そして、コレットは忘却の彼方へと捨て去った筈の魔王としての『記憶』に呑み込まれて自我を失った。


 分かるのはそれだけ、元の『コレット』に戻せる保証は無い。けれど、彼女が“憤怒の魔王”に覚醒したと言う事は、ルリの危惧した『厄災』が起こる前触れだろう。


 だから、ジッとしている事は出来なかった。



「コレットを連れ戻さないと……! 何か手立てがある筈だ!」

「ラムダ……そんな傷で戦う気なの……? 心音が弱いわ、本当は動くだけでも辛いんじゃ無いの?」


「それは……」

「リンドヴルムが言っていたわ……ラムダがあのガンドルフの自爆に巻き込まれて重傷を負ったって。直に見て分かったわ……ラムダ……もう身体がボロボロじゃない……」



 そんな浮き足立った俺に突き刺さった姉さんの一言。


 俺の身体についてだ。姉さんに言われるまでもなく理解している、俺の身体はまだ充分に回復していない。


 ノアからは『これ以上、無茶をすれば一生アーティファクトの装甲アーマーを装着しないと生きられない身体になるかも知れない』と警告されている。そうなれば、俺は『人間』としては死ぬのだろう。



「今のあなたには頼れる仲間がいる、セブンスコード卿やメインクーン卿だっている、少しは休みなさい! じゃないと……本当に死ぬわ……!」

「それでも……俺には助けたい人がいる! 俺にはコレットが必要だ……だから迎えに行く……!」


「そうやって……死に掛けの身体を引き摺って、あなたの盾になって、シータさんが死んだのは理解している?」

「…………している。あの時の母さんは最高に馬鹿で……今でも俺の『憧れ』なんだ……!」


「死ぬ気は無い?」

「無い! 俺はノアの旅を終わらせるまで死なない、這いつくばってでも、身体をアーティファクトの奪われてでも止まらない……!! 必ず生きてコレットを連れ戻す!!」



 それでも俺は止まらない。


 何度(つまず)こうと、何度(くじ)けようと、決して諦めずに『夢』に向かって走り続ける。


 不屈の闘志、それこそが『最強』の証。



「俺はコレットを迎えに行くよ……! ツヴァイ姉さんは此処で休んで……」

「死に掛けの弟を放って寝とけって? ラムダ、私を馬鹿にしているの?」


「姉さん……」

「一緒に行くわ……だって、コレットは私が見出したメイドだもの!」



 そして、俺と同じく、決して諦めない『馬鹿』が此処にも一人。


 ツヴァイ姉さんは俺をたしなめるようにクスリと笑うと『私も一緒に行く』と言ってベットから起き上がると、大きく背伸びをして硬くなった身体をほぐし始めた。


 俺が言っても止まらないように、ツヴァイ姉さんも言っても聞く耳を持たないだろう。だから俺はもう何も言わなかった。


 姉弟きょうだい揃って『大馬鹿者』だとほくそ笑むだけだ。



「よぉーし、よく言ったラムダ! それでこそアタシが見込んだ『男』だ!」

「ルリ!? お前、捕虜の筈だろ!?」


「ジッとしてろこの野生児! あっ、ツヴァイ卿、目が覚めたんだね///」

「セ、セブンスコード卿……!? これは何の騒ぎ?」



 コレット奪還に向けて決意を固めた俺とツヴァイ姉さん、そしてタイミングを見計らったように部屋の扉を開けて飛び込んできたルリとセブンスコード卿。


 ルリは首輪から伸びる鎖ごとセブンスコード卿を引き摺っていた。セブンスコード卿の腕力が貧弱なのか、ルリの膂力りょりょくが凄まじいのか……どうでもいいけど。



「確かにアタシはグランティアーゼ王国の捕虜だが……ラムダが“憤怒の魔王”を討伐……いや、コレット=エピファネイアを取り戻すって言うんなら、アタシは喜んで協力してやる!」

「本当……!? でも、それじゃあルリはグラトニスに背くことになるんじゃ……?」


「グラトニス様は“憤怒の魔王”を戦力にしようと画策している……が、きっと失敗する! そうなりゃ、あの『ケモノ』は獣国を焔で包んじまうだろう!」

「でも“狼王”や家臣たちも“憤怒の魔王”の復活を望んでいたわ! 彼等は何を考えているの?」


「“狼王”……アタシの異母いぼ(けい)であるルル=フェンリルの目的は“憤怒の魔王”イラをコアにした兵器『“獣神”マスターテリオン』を復活させること!」

「獣神……マスターテリオン……?」


「あぁ……獣国ベスティアに眠る最悪のケモノ……! その獣が目覚める日、我ら獣たちは霊長の支配者となる……そう言い伝えられた伝説の魔獣だ!」

「まさか……その“獣神マスターテリオン”を復活させる儀式が……『獣国の公現祭エピファネイア』……!」



 ルリから語られたのは獣国ベスティアに隠された真実。


 “狼王”ルル=フェンリルと魔王グラトニスの真の目的は“憤怒の魔王”イラをコアとした兵器『マスターテリオン』を蘇らせる事にあった。


 そして、その“ケモノ”を復活させる儀式こそが『獣国の公現祭エピファネイア』であると。



「――――“高機動殲滅兵器”『黙示録の獣(マスターテリオン)』……古代文明にける破壊兵器の名称……!」

「ノア……それってもしかして……!」


「これでハッキリしました……魔王グラトニスの目的は『マスターテリオン』と言うアーティファクトの確保です!」

「そう言う事か……!!」



 次いで部屋に現れたノアから語られたのは『マスターテリオン』の正体。


 曰く、古代文明の人類が生み出した戦争兵器の一つが『マスターテリオン』らしい。ノア=ラストアークが造った“機械天使ティタノマキナ”が世を席巻するまで猛威を振るっていた“人類の悪性”を象徴した獣。



「“イラの幼体”を覚醒させて手中に収めた以上、ルルにぃはすぐさまにでも『獣国の公現祭エピファネイア』を始める! 急いで阻止に向かわねぇと……!」

「場所は判るのか、ルリ!?」


「当たり前だ! 場所は【アウターレ】……前回の『獣国の公現祭エピファネイア』が失敗した地!」

「私とリリエット=ルージュが半年前に死闘を繰り広げた場所ね!」


「縛ったままで良い、アタシが案内する!」

「セブンスコード卿、私が保証します! ルリを信じて上げてください!」


「…………良いだろう、他ならぬ君の頼みだ。ルリ=ヴァナルガンド……『獣国の公現祭エピファネイア』の阻止とコレット=エピファネイアの奪還に協力してもらうぞ!」

「ラムダ……恩にきる! これで……“ちから”に取り憑かれたルルにぃをようやくぶん殴れるぜ!!」



 目覚め始めようとしている『ケモノ』のアーティファクトを打ち倒すべく立ち上がった騎士たち。


 向かう先は【アウターレ】と呼ばれた街。半年前の『エピファネイア事変』で消失した悲劇の地。其処には“狼王”たち獣国ベスティアの獣たち、魔王グラトニス率いる魔王軍、そして“憤怒の魔王”と化したコレットが居る。


 状況は圧倒的に不利――――けれど、それで諦めるような『賢人』は騎士団には居ない。ここにはそれでも諦めない『馬鹿』しか居ない。



「ラムダさん、修理中の【GSアーマー】、取り敢えず動かせるまでは修理できました!」

「ありがとう、ノア!」


「ただし、徹夜でも時間が無かったので表面装甲はハリボテです! 一発でも被弾したら死ぬと心得てください!」

「分かった、肝に命じておく!」


「ツヴァイ卿、あなたには新しいつるぎを僕から贈るよ!」

「セブンスコード卿……!」


「僕が大枚を叩いて買った特注品だ! どうぞ僕の分身だと思って使って欲しいな///」

「セブンスコード卿の分身……じゃあ、この剣の名前は『アウトオブ眼中』ね!」


「姉さん……ひでぇ……!」

「あぁぁ……/// ツヴァイ卿が僕の贈り物を受け取ってくれたぁぁぁ///」

「ラムダさん……この人、興奮して気付いてないです(汗)」



 セブンスコード卿から新しい白銀に輝くつるぎ『アウトオブ眼中(※ツヴァイ命名)』を贈られて姉さんも戦線復帰し、ノアの徹夜の修理のお陰で俺も騎士甲冑を取り戻せた。


 あとは【アウターレ】へと向かうだけだ。セブンスコード卿によって待機中の騎士団の編成は行われて、事態は慌ただしく動き始める。



「待っていて、コレット……必ず迎えに行くからね……!」



 獣国ベスティアでの戦いは最終局面へ。


 それは、“憤怒の魔王”イラと『マスターテリオン』を巡ったダモクレス騎士団、魔王軍、獣国軍による三つ巴の決戦の幕開けを意味していたのだった。

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